のしてんてんハッピーアート

複雑な心模様も
静かに安らいで眺めてみれば
シンプルなエネルギーの流れだと分かる

居酒屋 1

2009-06-20 | 小説 忍路(おしょろ)
   ホテルに帰ると、私はロビーに設けられたカフェーでコーヒーを飲んで冷えた体を温めた。そして部屋に戻り、何度も時計を見ながら踊る心をもてあましていた。  テレビをつけても流れる映像にさしたる興味が起きるわけでもなく、思いはいつも里依子の面影に帰ってくる。するともう部屋の時計に目が向くのだ。ほんの数分動いただけの時計を恨めしく思いながら、私はベッドに座ったり寝転んだり、備え付けの机の引き出しを開け . . . 本文を読む
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忍路について

2009-06-19 | 小説 忍路(おしょろ)
忍路(その3)は居酒屋でのひと時を描きます。 千歳の凛と引き締まった夜気と居酒屋の賑わいの中で過ごした 里依子とのひと時。 どんな展開になるでしょうか、引き続きお楽しみください。 「どうしてそれが悪いのだ?」 自分を苦しめている思いに悩まされているとき 常にそう自問してみると随分苦しみは和らぐ。 悪いと思い込んでいることのほとんどが、自分で作り上げた亡霊だと  HPのしてんてん  . . . 本文を読む
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千歳 12

2009-06-18 | 小説 忍路(おしょろ)
 神仏を信じようが信じまいが、自らの力を尽くさなければたちどころになぎ倒されてしまうだろう自然の猛威。降りしきる雪の中では、神仏など何の役にも立たないとこを開拓民の気概に沁みこませていったのではあるまいか。  それは何の知識も持たない私の、随分短絡的な思考であるかも知れないが、にもかかわらずその思いは私の感傷を満足させた。私はもう一度振り返って鳥居を見、その鳥居の間から見通す神社への登り道を目で . . . 本文を読む
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千歳 11

2009-06-17 | 小説 忍路(おしょろ)
前年の秋に里依子が京都にやってきたとき、二人で古都を散策しながらしみじみ言った彼女の言葉を、私は思い出していた。  「北海道ではとてもこんな静かなお寺は出来ないんです。」  そう言った里依子の姿が謙虚であったために、意外な言葉であったにもかかわらず私にはそれがそのまま里依子の心であるかのように感じたのだった。  そのことで随分気を良くした私は、京都の社寺を案内できることにどれほど喜び . . . 本文を読む
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千歳 10

2009-06-16 | 小説 忍路(おしょろ)
 足元は黒々としたアスファルトだった。雪の上の一条の足跡は神社前でそのアスファルトの中に消えたのだ。雪解けの水がアスファルトの上を流れ細かな砂を運んでは、波紋の砂溜まりを幾重にも描いている。そしてそのまま緩やかに坂道を滑り降りているのだ。  私はサラサラと走る水と砂を踏みしめるように歩き、両手をポケットに入れたまま背を丸めて坂を下っていった。  下りきったところに鳥居がある。私はそれを見たとき、 . . . 本文を読む
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千歳 9

2009-06-15 | 小説 忍路(おしょろ)
足跡をいくらも追わないうちに、この足跡を残した先人はその先に見える神社に向ったのだと分かった。私はそれに逆らわずに進んでいった。  神社はある重量感を持ちながら、深い根雪を頂いてしんしんと静まり返っている。それは私には思いがけないことだった。  前年の夏、初めて北海道を訪れたとき、それは主に道東の海べりであったが、その旅先で偶然に行きあうこうした類の建物を見ては、形式だけを取り入れたような白 . . . 本文を読む
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千歳 8

2009-06-14 | 小説 忍路(おしょろ)
 その立体は見上げるほど大きく、千歳市の記念碑であることが知れた。そこにどのような意味がこめられているのか知る術はなかったが、目にしている立体は、簡素な大理石の前衛彫刻に違いなかった。鏡面のように磨かれたその立体の表面は明度の深い石の味わいがあり、そこにおや?と思わせる驚きが仕組まれていた。  一瞬立体が背景に溶けて透明に見えるのである。立体の表面に写った木立だと知るまでの間、私の心は完全に支配 . . . 本文を読む
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千歳 7

2009-06-13 | 小説 忍路(おしょろ)
雪の記憶は、遥かふるさとの少年時代にさかのぼる。長靴を履いて雪だるまをつくり、あるいは学校で雪合戦をした。私は堪え性がなくて、雪玉を4つも作るともう冷たさにたまらなくなってよく雪合戦に負けたものだった。  それにしてもここには雪にうずもれるというイメージがあったのだが、この三月も終わりに近い千歳の雪は、どこかふるさとの雪に似ていると思った。  そんなことを考えながら雪ばかりを見つめて歩いてい . . . 本文を読む
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千歳 6

2009-06-12 | 小説 忍路(おしょろ)
雪解けの水が道路にあって、周囲の雪は黒ずんでいた。それは雪というよりシャーベットのようなものだった。  道が自然に登り始めるとすぐにその右手から疎林が立ち上がってくる。それはいつまでも登り道と共に伸び拡がってゆくらしかった。  私は何度かその林の中に入って行こうとしたが、そのたびに奥の未踏の雪溜まりに阻まれて空しく引き返さなければならなかった。しかしやがて広い通りが林の中に続いている場所に出 . . . 本文を読む
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千歳 5

2009-06-11 | 小説 忍路(おしょろ)
 フロントで、里依子に渡された宿泊券を示し、やがてその一室に落ち着いた。 ホテルの窓からは悠長な町のたたずまいが見え、その町全体が雪にまみれてあくびをしているような雰囲気がある。にもかかわらず白黒に還元された町のコントラストの強さに惹かれ、思わず立ち上がって窓辺に歩みよった。  雪の白さが新鮮な透明感を感じさせ、その清楚な装いが里依子と重なるのを、私は抗いもせず楽しむのだった。  ホテルの裏側に . . . 本文を読む
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