熱海もバブル崩壊後は大規模旅館が次々に潰れて悲惨な状態でしたが、近年は個人客向けに業態を変化させた施設が少しずつ増えてきており、街の様子も少しずつ変わってきているようです。
そんな時代の変化をあまり感じさせず、昔ながらの姿を保ち続けているお宿のひとつが「福島屋旅館」でして、温泉ファンの間では熱海で掛け流しのお湯に入れる鄙びたお宿として有名です。かくいう私も忙しくてあまり遠出できないにもかかわらず、どうしても鄙びた温泉に入りたくなった時には、しばしばこちらを利用させていただいています。熱海駅から徒歩圏内に位置しており、急坂ばかりの熱海にありながら、駅からあまり坂を上下しなくてよい立地にあるのも嬉しいところです。
ネット上では「かつては旅館だったが、今では日帰り入浴を専門としている」なんて記述が見られますが、今でも素泊まりなら宿泊できるみたいですよ。重くて開けにくい玄関の引き戸を開けると、すぐ左手に小さな帳場があり、先日訪れた時には宿のおばちゃんがアンニュイな空気を醸し出しながらノンビリと紫煙をくゆらせていました(帰るときにはお化粧してました)。
カウンターには貸出用のシャンプー類やボディーソープ、ドライヤーが並べられています。
館内に掲げられた昔の当旅館の写真。3階建てだったんですね、昔にしては珍しい。
いかにも昭和の旅館を思わせる内部の造り。玄関正面の姿見(鏡)左手の廊下を進んだ突き当たりが男湯、その右手が女湯です。
脱衣所もレトロ感たっぷり。真ん中に裸電球がぶら下がっているだけの薄暗い室内。板の間は歩くとキュッキュと音がなります。意図的に音を鳴らしているなら鶯張りであると胸を張れますが、こちらの場合は単に古くて軋んでいるだけでしょうね。
室内には籐の籠が積んでありますから、衣類や荷物はそれに入れて棚に置きましょう。SL時代の駅のホームに設置されていそうな、重厚感のあるタイル貼りの洗面台もいい味出してます。
段を下がったところにある温泉には良泉が多い、という言葉をどこかで聞いたことがありますが、こちらも脱衣所から数段下りた位置に浴室があります。タイル貼りの浴槽は8~10人サイズ。小規模旅館のお風呂にしては意外と大きめですね。
脱衣所同様、こちらも裸電球だけの照明。日が暮れるとかなり暗くなりそうですね。総木造の建物ですが、窓サッシも昔ながらの木製。特に天井付近の小窓が風情ある草臥れ方をしていて良い雰囲気。また天井と側壁の角には細いスリットが入っているため、これにより常時換気され、湯気で室内が篭るようなことはありません。
主浴槽の隣に小浴槽があるのですが、ここはいつも空っぽ。
洗い場にはシャワーなんて上品なものは無く、先が長いお湯と水の蛇口が2組あるだけで、それぞれの下には青い盥が置かれています。
赤いバルブから注がれるお湯はやや熱く、湯船の湯加減もちょっと熱めです。加水の有無はわかりませんが、加温循環消毒は行われておらず、お湯は常時浴槽の一番奥の角からオーバーフローしており、人が湯船に入るとザバーっと勢い良く溢れ出します。澄み切ってはいませんが無色透明、かなり薄い塩味に芒硝の味と匂いが感じられます。弱いスベスベ感と引っかかる浴感が混在しており、熱さのためかあるいは芒硝のためか、お肌がちょっとピリピリします。でも食塩と芒硝のダブルパワーのおかげで、湯上りの温まりがとても強く、厳冬期でもなかなか湯冷めしません(逆に言えば、夏はかなり体力奪われます)。じっくりお湯を堪能すれば、きっと熱海のお湯のクオリティの高さを実感できるはずです。
地元の常連さん曰く、熱海で掛け流しの大きなお風呂に入れる処はなかなかないから、よくここに来ているとのこと。たしかに熱海の共同浴場はどこもかしこも小さくて狭いところばかりですから、手軽に大きなお風呂に入るとなると、どうしても選択肢が限られちゃうわけですね。そういう意味でもこの「福島屋旅館」は貴重な存在だと思います。尤も、好き嫌いははっきり分かれるでしょうけど…。なお、その常連さん情報によると、梅園の時期(早春)には香具師のアンチャンで、盛夏には海水浴帰りの客で、それぞれ混むんだそうですよ。ご参考まで。
JR熱海駅から徒歩10分(約1km)
静岡県熱海市銀座町14-24 地図
0557-81-2105
11:00~19:00
400円
貴重品は帳場預かり、シャンプー類やドライヤーは貸し出し
私の好み:★★★