数カ月前の某日、ふと海を眺めながら温泉に入りたくなり、以前から気になっていた網代の旅館「平鶴」へ行ってみることにしました。網代駅から徒歩圏内にあり、しかも国道沿いという好立地。ご覧のとおり相模湾の海っ縁に位置しており、露天風呂は海に浮かぶようにせり出ているというのです。一体どんなお風呂なのでしょう。
こちらのお宿では日帰り入浴を積極的に受け入れており、フロントの方も実に手慣れた感じで案内してくださいました。ロビーの右手へ向かうと上下二手に分かれ、上へ行くと食堂、下が浴室となっています。訪問時は手前が女湯で奥が男湯でしたが、どうやら男女入れ替え制のようです。なお両浴室の入り口の間に有料ロッカーが設置されています。
訪問した日には多くの宿泊客がお風呂を利用していましたが、さすが人気のあるお宿だけあり、脱衣所はお手入れがキッチリなされていました。アメニティもひと通り揃っています。
(上画像クリックで拡大)
脱衣所内に温泉分析表が掲示されているのはごく普通ですが、このお宿では、このお風呂がどのような利用形態なのか、どんな湯使いをし、いかにして衛生状態を維持してゆくか、という内容が記された衛生管理計画書までもが掲示されていました。一般的にこの手の資料はオモテに出さないものですが、わざわざお客さんに明示している姿勢からは、宿側の誠実さが伝わってきます。
内湯は大小の長方形を角でドッキングさせたような形状をした大きな浴槽がひとつ。洗い場にはシャワー付き混合栓が7基とシャワーのみの混合栓が2基用意されています。洗い場の各区画に貼りつけられた鏡は鏡面仕上げをした金属板で、すぐ曇っちゃって使いにくいかも。
小さな四角の浴槽は入口側が浅くなっており、底には石造の亀が沈められていました。
模造の竹を被せられたパイプから結構熱い源泉が投入されています。浴槽の広さの割には投入量は少ないように思われますが、投入量を絞って湯温を調整しているのかもしれません。先ほど紹介した脱衣室内の「計画書」によれば循環消毒はなされていないとのこと。つまり掛け流しで、浴槽の浴槽の縁からオーバーフローしています。先客が多くて既に溢れ出ていたためか、あるいは投入量自体を絞っているためか、この時のオーバーフロー量は少なめでした。
浴室の壁面には伊豆の大きな観光地図が掲示されていました。北が左側、東が上になっているこの地図は、お風呂から海を眺めた時に、景色の正面が地図の上になるように描かれています。ぱっと見る限りでは主要なポイントは大体おさえられていますね。そんなに古くもなさそうです。これから紹介する露天風呂から海を望んで、どこがどの方向なのかさっぱり把握できない方もいらっしゃるでしょうから、そんなお客さんにこの地図は役立つのかもしれませんね(いや、それには大きすぎるか…)。
露天風呂。本当に海に浮かんでいるみたいだ。
浴槽は6~7人サイズで屋根付き。設置位置の関係で北側に視界が開けており、相模湾はもちろんのこと、多賀や熱海の街並み、錦ヶ浦、そして熱海峠から連なる伊豆半島の脊梁の稜線を一望できます。
なお初島は建物の影に隠れてしまうため望めないようです。海上を見ると、沖のテトラポットの向こう側に漁網のブイが浮かんでいます。ということは、網を仕掛けた漁師さんからこのお風呂は丸見えなんだな…。
浴槽に突き出た2本のパイプからは、我慢してやっと触れる程度の熱さの源泉が注がれています。源泉投入量は内湯より明らかに多く、やはりお湯の鮮度は露天の方が良いみたいです(おそらくこの時は外気に冷やされないよう露天の投入量を増やしていたのかもしれません)。
内湯同様お湯は掛け流されているのですが、面白いのが、オーバーフローするお湯は海に直接垂れ流されているところ。一旦排水管に集められるでもなく、浴槽の縁からそのまんま溢れ出て海へと落ちているのです。後から入ってきた子供たちも「お湯が海に落ちてるよ」と興味津津の様子でした。何かと規制が五月蠅い今のご時世で、このオーバーフローは保健所から文句こないのでしょうか。露天のお湯ならシャンプーや石鹸が流れ込むわけじゃなく、汚れていない天然の温泉のままなのですから、今後もこのままの状態をキープしていただくと嬉しいです。
さてお湯の特徴ですが、無色透明ながら澄み切ってはおらず、よく観察すると微細で半透明な茶色い浮遊物が湯中を舞っています(でも目をよく凝らさないとわからないほど小さいものです)。海辺の温泉なので塩辛いと思いきや、意外にも塩味はマイルドで、むしろニガリの味の強さが印象的でした。海水を薄めた上で苦汁を濃くしたような感じで、知覚の方向性としては(熱海の)伊豆山温泉の走り湯源泉に近いものがあるかと思います。なお匂いはあまり感じられませんでした。食塩泉的なスベスベ感も多少ありますが、どちらかといえば引っかかり浴感の方が強く、湯上りの温まり方がとても強力です(ということは夏はベタベタして体力を奪われそう…)。
日帰り入浴で1050円という、いかにも観光地伊豆らしい料金設定ではありますが、お湯は掛け流しで良質ですし、海にせり出した露天風呂からの眺望や開放感は掛け値なしに素晴らしいので、泉質重視派にも、お湯のことはよくわかんないけど景色のいい温泉に入りたいという方にも、おすすめできるお風呂かと思います。
お湯に満足して外へ出た帰り際、宿の山側斜め前の国道沿いに何やら怪しい小屋を発見。どうやら温泉の源泉小屋らしく、トタンで囲まれたその小屋は錆びて草臥れており、歩道橋の影に隠れて雑草に覆われ全く目立たず、よほど関心のある人以外はこれが源泉小屋だと気づかないでしょう。
つい気になったので、階段を上がって良く見ると、そこには「網代1号源泉」と記されているではありませんか。脱衣所に張られていた温泉の説明プレートにも源泉名として「網代1号」と書かれていたので、もしかしたらこの小屋で汲み上げられたお湯が宿で使用されているのかしら。
でも、同じく脱衣所に掲示されていた分析表には源泉名として「下多賀1号泉」という名称の他、わざわざ源泉所在地(下多賀字大縄480-2)まで記入されており、その住所をたどるとこの小屋とは違った場所に行きついてしまうのです。網代1号と下多賀1号、それぞれの源泉の関係は? そして実際に「平鶴」で使われている源泉はどちら?
下多賀1号泉
カルシウム・ナトリウム-塩化物泉 62.2℃ pH7.8 成分総計7.862g/kg
JR伊東線・網代駅より徒歩6~7分(約550m)、または熱海駅から東海バスの網代旭町行で小山バス停下車し徒歩2分(熱海から約25分・540円)
静岡県熱海市下多賀493 地図
0557-67-2221
ホームページ
日帰り入浴時間 11:00~16:00及び18:00~20:00
1050円
ロッカー(100円有料)、シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★