歩いてしか行けない秘湯三斗小屋温泉。那須岳登山(その1、その2、その3)の際には煙草屋旅館に一泊してお世話になりました。三斗小屋温泉にはこの煙草屋を含めて2軒の旅館がありますが、いずれも日帰り入浴できませんので、温泉に入りたければ宿泊する必要があります。
名前こそ旅館ですが、車が入って来られない山奥ですから、実質的には山小屋みたいなものです。
玄関下では熱いお湯が塩ビのパイプから捨てられていました。
玄関前には沢の水が引かれた水槽が置かれており、持参したものを自由に冷やすことができます。私はコンビニで買った缶ビールを水槽に放りこませてもらいました(缶ビールは500円で宿で購入することも可能)。後ほど、夜の露天風呂で飲むつもりです。
アコモデーションとしては、湯治場の旅館と山小屋の中間といった感じ。一応個室として各部屋は分かれていますが、襖で仕切られているだけですので、隣室の声は丸聞こえです。布団もセルフで敷きます。シーツはちゃんと綺麗なものが用意されていました。いつもは混雑してなかなか予約が取りにくいこのお宿ですが、当日は私を含めお客さんが7人しかいなかったためか、私のような一人客でも個室をあてがってくれました。山小屋だったら間違いなく相部屋ですから、プライバシーが保たれる個室は嬉しい限りです。ちなみに煙草屋という名前ですが、全館禁煙。
さっそく露天風呂へ行ってみましょう。
本棟の専用勝手口から屋外に出てスリッパに履き替え、ウッドデッキや小径を歩いた先の小高いところに設けられています。
ぼんやり灰白色に濁ったお湯が張られた露天風呂。どうですか、この開放感。右の方には流石山、そして正面左手に男鹿岳が聳え、雄大な山々の絶景を独り占めできます。女将さん曰く、クリアに晴れきっていれば会津駒ケ岳も望めるとのこと。
混浴ですが15:00~17:00は女性専用となります。この日私は14:00に宿へ到着したのですが、なぜそんなに早く着いたのかと言えば、女性専用時間の前に露天風呂に入りたかったから。のんびりと一番風呂を堪能させてもらいました。
簡素ながらもしっかりとした造りの脱衣小屋あり。丸石をモルタルで固めたような小判型の浴槽は2分割され、湯口側の小さい方が熱く、大きな方はそれよりややぬるめ。とはいえ、宿のおじさん曰く「勘で湯加減を調整している」とのことで、その日の気温や時間帯などによって温度は全く異なります。たとえば、私が到着早々に入った14:00(外気温23℃)には43℃でしたが、翌朝4:30(外気温14℃)では38℃まで下がっていました。外気温に大きく左右されるようです。
分析表を見ると成分総計が209.8mg/kgというかなり薄い温泉なのですが、ご覧のとおり明瞭な灰白色に濁っており、湯面には薄い膜が張っています。カルシウムイオン12.9mg/kg(47.06mval%)、そして硫酸イオン65.0mg/kg(95.07mval%)という成分構成から判断するに、この濁りや膜の正体は石膏でしょう。けっして硫黄の白濁ではありませんのであしからず。ツルスベに石膏泉的な引っかかりが混在する浴感で、仄かに石膏臭を漂わせ、弱い酸味+金気みたいな味+石膏味が感じられます。金気のためか浴槽内の石は赤く着色しています。とても薄い単純泉とは思えない個性的なお湯です。
この露天風呂は日が沈んで辺りが漆黒の闇に包まれてからも素晴らしい。辺りは宿以外に人工物が一切無く、宿も自家発電で夜9時以降は消灯するため、完全な暗闇のなかで湯浴みすることができるのです。真っ暗な中で露天風呂に浸かり、夜空を見上げてみると、そこには宝石箱をぶちまけたような満天の星空が山の稜線までいっぱいに広がっているのです。東京から大して離れていないこの那須の涼しい山中で、天の川がはっきり見られる夜空を楽しめるのですから、ちょっと信じられません。本当にロマンティック。露天風呂に浸かりながら、沢の水で冷やしたビール片手に、満天の星空を仰ぎ見る…これ以上の贅沢ってあるでしょうか。ちなみに私はこの晚、流れ星を見つけましたよ。
館内には内湯もあります。こちらも混浴ですが、18:00~19:00までは女性専用。この他に女性用浴室も設けられており、何かと女性に配慮されているお宿なのであります。
風情漂う伝統的な総木造の浴室の中央には3分割された浴槽が据えられています。そのうち一番右側は湯口に直結しており、湯温維持のためか、この日はシルバーのシートが被せられていました。各槽の仕切りには穴が空いていて右からお湯が流れてゆくため、右から順々に温度が下がっていき、一番左側は加水もされてじっくり長湯できる湯加減になっていました。
お湯は露天と明らかに違う泉質で、分析表を見ると成分総計490.1mg/kgと露天風呂より倍以上も成分量が多いのですが(露天は成分総計209.8mg/kg)、個性的な露天のお湯と違って、こちらはクセのない、いかにも単純泉といわんばかりの無色澄明、石膏っぽさと正苦味泉のような知覚がそれぞれ仄かに感じられ、湯中の肌が青白く見えます。見た目は薄そうですが、硫酸塩泉的な特徴がしっかり出ていおり、キリっとした爽快な浴感で、硫酸塩泉が好きな方なら露天よりこちらのお湯の方がフィーリングが合うかもしれません。
なお洗い場はスノコ状で、カランはありません。山小屋のお湯ですが持参したシャンプーや石鹸類が使えます(備え付けはありません)。無色透明でクセがなく、外気の影響を受けにくいため温度も比較的に安定しており、体を洗って温まるという実用的な内湯として露天の源泉でなくこの源泉を使うのは、とても合理的かと思います。
ついでにご飯について少々。
こちらは夕飯。夕食は16:30スタートなので、早めにチェックインしましょう。実質的な山小屋ながらも旅館を名乗るだけあって、一式はちゃんと朱塗りのお膳に載せられていました。ご飯は使い込まれた桧のお櫃から自分でよそいます。豚生姜焼き、鮎の甘露煮、蕨の煮物、茸の水煮、香物、味噌汁、といったラインナップ。山の上で食う飯は本当にうまいですね。宿の方とこれらの食材を運搬してくれた歩荷さんに感謝。
朝食は6:30から。シャケ(カラフトマス)の缶詰、のり、かまぼこ、佃煮、香物、そして温泉卵というシンプルな献立。温泉卵をご飯の上に載せて醤油を垂らすとめちゃくちゃ美味い。朝からご飯を3杯もおかわりしちゃいました。
ちなみにご飯は大広間でいただきます。室内には熊の毛皮(本物)がぶらさがっていました。
壁には塩ビのパイプが這わせてあり、その中を温泉水が流れています。どうやらこれで暖房にしているみたいです。
上述のとおり、夕食は16:30から、朝食は6:30からです。食事の合図はこの太鼓。時間になると太鼓が鳴らされます。実にいい雰囲気ですね。
登山記でも述べましたが、下界の夏は猛暑続きにもかかわらず、山はとっても涼しく快適です(朝晩は肌寒いくらい)。しかも節電が叫ばれている昨今、三斗小屋温泉の旅館は電力会社からの配電を受けていませんので(自家発電)、節電を全く気にする必要もありません。避暑地にはもってこいです。お湯佳し、景色佳し、そして感動的な星空…。三斗小屋温泉って本当に素敵!
露天風呂(4号源泉)
単純温泉 75.6℃ pH3.5 56.3L/min(自然湧出) 溶存物質122.4mg/kg 成分総計209.8mg/kg
カルシウムイオン12.9mg/kg(47.06mval%)、ナトリウムイオン9.3mg/kg(29.41mval%)、マグネシウムイオン1.6mg/kg(9.56mval%)、硫酸イオン65.0mg/kg(95.07mval%)、炭酸水素イオン不検出
内風呂(1~3号源泉混合)
単純温泉 45.6℃ pH6.4 6.7L/min(自然湧出) 溶存物質456.1mg/kg 成分総計490.1mg/kg
カルシウムイオン52.2mg/kg(47.62mval%)、ナトリウムイオン31.4mg/kg(25.09mval%)、マグネシウムイオン15.4mg/kg(23.26mval%)、硫酸イオン200.8mg/kg(73.98mval%)、炭酸水素イオン85.4mg/kg(24.78mval%)
峠の茶屋あるいは那須ロープウェイ山頂駅から徒歩約2時間。
栃木県那須塩原市三斗小屋温泉 地図
(那須岳一帯は那須町なのに、なぜか三斗小屋温泉だけは那須塩原市(旧黒磯市)の飛び地)
0287-69-0882(那須塩原案内所)
090-8589-2048(現地衛星電話)
ホームページ
日帰り(立ち寄り)入浴不可
宿泊8,500円(1人1泊2食)
備品類なし(必要なものは持参)
私の好み:★★★