温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

三斗小屋温泉 煙草屋旅館

2011年07月11日 | 栃木県
 
歩いてしか行けない秘湯三斗小屋温泉。那須岳登山(その1その2その3)の際には煙草屋旅館に一泊してお世話になりました。三斗小屋温泉にはこの煙草屋を含めて2軒の旅館がありますが、いずれも日帰り入浴できませんので、温泉に入りたければ宿泊する必要があります。
名前こそ旅館ですが、車が入って来られない山奥ですから、実質的には山小屋みたいなものです。


玄関下では熱いお湯が塩ビのパイプから捨てられていました。

 
玄関前には沢の水が引かれた水槽が置かれており、持参したものを自由に冷やすことができます。私はコンビニで買った缶ビールを水槽に放りこませてもらいました(缶ビールは500円で宿で購入することも可能)。後ほど、夜の露天風呂で飲むつもりです。


アコモデーションとしては、湯治場の旅館と山小屋の中間といった感じ。一応個室として各部屋は分かれていますが、襖で仕切られているだけですので、隣室の声は丸聞こえです。布団もセルフで敷きます。シーツはちゃんと綺麗なものが用意されていました。いつもは混雑してなかなか予約が取りにくいこのお宿ですが、当日は私を含めお客さんが7人しかいなかったためか、私のような一人客でも個室をあてがってくれました。山小屋だったら間違いなく相部屋ですから、プライバシーが保たれる個室は嬉しい限りです。ちなみに煙草屋という名前ですが、全館禁煙。


さっそく露天風呂へ行ってみましょう。
本棟の専用勝手口から屋外に出てスリッパに履き替え、ウッドデッキや小径を歩いた先の小高いところに設けられています。

 
ぼんやり灰白色に濁ったお湯が張られた露天風呂。どうですか、この開放感。右の方には流石山、そして正面左手に男鹿岳が聳え、雄大な山々の絶景を独り占めできます。女将さん曰く、クリアに晴れきっていれば会津駒ケ岳も望めるとのこと。
混浴ですが15:00~17:00は女性専用となります。この日私は14:00に宿へ到着したのですが、なぜそんなに早く着いたのかと言えば、女性専用時間の前に露天風呂に入りたかったから。のんびりと一番風呂を堪能させてもらいました。


簡素ながらもしっかりとした造りの脱衣小屋あり。丸石をモルタルで固めたような小判型の浴槽は2分割され、湯口側の小さい方が熱く、大きな方はそれよりややぬるめ。とはいえ、宿のおじさん曰く「勘で湯加減を調整している」とのことで、その日の気温や時間帯などによって温度は全く異なります。たとえば、私が到着早々に入った14:00(外気温23℃)には43℃でしたが、翌朝4:30(外気温14℃)では38℃まで下がっていました。外気温に大きく左右されるようです。
分析表を見ると成分総計が209.8mg/kgというかなり薄い温泉なのですが、ご覧のとおり明瞭な灰白色に濁っており、湯面には薄い膜が張っています。カルシウムイオン12.9mg/kg(47.06mval%)、そして硫酸イオン65.0mg/kg(95.07mval%)という成分構成から判断するに、この濁りや膜の正体は石膏でしょう。けっして硫黄の白濁ではありませんのであしからず。ツルスベに石膏泉的な引っかかりが混在する浴感で、仄かに石膏臭を漂わせ、弱い酸味+金気みたいな味+石膏味が感じられます。金気のためか浴槽内の石は赤く着色しています。とても薄い単純泉とは思えない個性的なお湯です。

この露天風呂は日が沈んで辺りが漆黒の闇に包まれてからも素晴らしい。辺りは宿以外に人工物が一切無く、宿も自家発電で夜9時以降は消灯するため、完全な暗闇のなかで湯浴みすることができるのです。真っ暗な中で露天風呂に浸かり、夜空を見上げてみると、そこには宝石箱をぶちまけたような満天の星空が山の稜線までいっぱいに広がっているのです。東京から大して離れていないこの那須の涼しい山中で、天の川がはっきり見られる夜空を楽しめるのですから、ちょっと信じられません。本当にロマンティック。露天風呂に浸かりながら、沢の水で冷やしたビール片手に、満天の星空を仰ぎ見る…これ以上の贅沢ってあるでしょうか。ちなみに私はこの晚、流れ星を見つけましたよ。

 
館内には内湯もあります。こちらも混浴ですが、18:00~19:00までは女性専用。この他に女性用浴室も設けられており、何かと女性に配慮されているお宿なのであります。
風情漂う伝統的な総木造の浴室の中央には3分割された浴槽が据えられています。そのうち一番右側は湯口に直結しており、湯温維持のためか、この日はシルバーのシートが被せられていました。各槽の仕切りには穴が空いていて右からお湯が流れてゆくため、右から順々に温度が下がっていき、一番左側は加水もされてじっくり長湯できる湯加減になっていました。


お湯は露天と明らかに違う泉質で、分析表を見ると成分総計490.1mg/kgと露天風呂より倍以上も成分量が多いのですが(露天は成分総計209.8mg/kg)、個性的な露天のお湯と違って、こちらはクセのない、いかにも単純泉といわんばかりの無色澄明、石膏っぽさと正苦味泉のような知覚がそれぞれ仄かに感じられ、湯中の肌が青白く見えます。見た目は薄そうですが、硫酸塩泉的な特徴がしっかり出ていおり、キリっとした爽快な浴感で、硫酸塩泉が好きな方なら露天よりこちらのお湯の方がフィーリングが合うかもしれません。

なお洗い場はスノコ状で、カランはありません。山小屋のお湯ですが持参したシャンプーや石鹸類が使えます(備え付けはありません)。無色透明でクセがなく、外気の影響を受けにくいため温度も比較的に安定しており、体を洗って温まるという実用的な内湯として露天の源泉でなくこの源泉を使うのは、とても合理的かと思います。


ついでにご飯について少々。
こちらは夕飯。夕食は16:30スタートなので、早めにチェックインしましょう。実質的な山小屋ながらも旅館を名乗るだけあって、一式はちゃんと朱塗りのお膳に載せられていました。ご飯は使い込まれた桧のお櫃から自分でよそいます。豚生姜焼き、鮎の甘露煮、蕨の煮物、茸の水煮、香物、味噌汁、といったラインナップ。山の上で食う飯は本当にうまいですね。宿の方とこれらの食材を運搬してくれた歩荷さんに感謝。


朝食は6:30から。シャケ(カラフトマス)の缶詰、のり、かまぼこ、佃煮、香物、そして温泉卵というシンプルな献立。温泉卵をご飯の上に載せて醤油を垂らすとめちゃくちゃ美味い。朝からご飯を3杯もおかわりしちゃいました。

 
ちなみにご飯は大広間でいただきます。室内には熊の毛皮(本物)がぶらさがっていました。
壁には塩ビのパイプが這わせてあり、その中を温泉水が流れています。どうやらこれで暖房にしているみたいです。


上述のとおり、夕食は16:30から、朝食は6:30からです。食事の合図はこの太鼓。時間になると太鼓が鳴らされます。実にいい雰囲気ですね。

登山記でも述べましたが、下界の夏は猛暑続きにもかかわらず、山はとっても涼しく快適です(朝晩は肌寒いくらい)。しかも節電が叫ばれている昨今、三斗小屋温泉の旅館は電力会社からの配電を受けていませんので(自家発電)、節電を全く気にする必要もありません。避暑地にはもってこいです。お湯佳し、景色佳し、そして感動的な星空…。三斗小屋温泉って本当に素敵!


露天風呂(4号源泉)
単純温泉 75.6℃ pH3.5 56.3L/min(自然湧出) 溶存物質122.4mg/kg 成分総計209.8mg/kg 
カルシウムイオン12.9mg/kg(47.06mval%)、ナトリウムイオン9.3mg/kg(29.41mval%)、マグネシウムイオン1.6mg/kg(9.56mval%)、硫酸イオン65.0mg/kg(95.07mval%)、炭酸水素イオン不検出

内風呂(1~3号源泉混合)
単純温泉 45.6℃ pH6.4 6.7L/min(自然湧出) 溶存物質456.1mg/kg 成分総計490.1mg/kg
カルシウムイオン52.2mg/kg(47.62mval%)、ナトリウムイオン31.4mg/kg(25.09mval%)、マグネシウムイオン15.4mg/kg(23.26mval%)、硫酸イオン200.8mg/kg(73.98mval%)、炭酸水素イオン85.4mg/kg(24.78mval%)

峠の茶屋あるいは那須ロープウェイ山頂駅から徒歩約2時間。
栃木県那須塩原市三斗小屋温泉  地図
(那須岳一帯は那須町なのに、なぜか三斗小屋温泉だけは那須塩原市(旧黒磯市)の飛び地)
0287-69-0882(那須塩原案内所)
090-8589-2048(現地衛星電話)
ホームページ

日帰り(立ち寄り)入浴不可
宿泊8,500円(1人1泊2食)
備品類なし(必要なものは持参)

私の好み:★★★
コメント (4)
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2011年夏登山 那須岳(その3 牛ヶ首→飯盛温泉跡→弁天温泉バス停)

2011年07月11日 | 栃木県
字数制限のために書ききれなかった、那須岳登山2日目のつづき、牛ヶ首からです。

前回(三斗小屋温泉→朝日岳→牛ヶ首)はこちら、1日目(茶臼岳→三斗小屋温泉)はこちらを。


2日目:2011年7月7日 晴れのち曇り 単独行 
 三斗小屋温泉(1460m) 7:20
 三斗小屋温泉源泉 7:35
 隠居倉(1819m) 8:10 / 8:20
 熊見曽根東端 8:45 / 8:55
 朝日岳山頂(1896m) 9:05 / 9:45
 峰の茶屋跡(1720m) 10:15

 牛ヶ首(1730m) 10:35  (← 今回はここから)
 飯盛温泉跡 11:00
 膳棚噴気帯(膳棚の湯) 11:10 / 11:45
 休暇村分岐 12:15
 那須温泉ファミリースキー場 12:40
 弁天温泉バス停 12:43



牛ヶ首から茶臼岳の鉢巻き道を辿ればロープウェイ駅へと戻れますが、まだまだ歩き足りない私は、ちょっとした目的の達成を兼ねて、敢えて駅には戻らず、高雄口登山道へと遠回りするルートを選びました。


 
分岐点付近はマルバシモツケの群生が広がっており、可憐な白い花がそこここで一斉に咲いていました。

 
岩に「←高雄」とペンキ書きされているので、それに従って山をどんどん下っていきます。この登山道を利用する人は少ないらしく、今までとは明らかに違い、道が痩せちゃっています。

 
まもなく樹林帯に突入。蠅や蛾がやたらと多く、とくに蛾の多さに辟易。この森林帯ではずーーっと蛾にまとわりつかれました。途中フラットな場所ではちょっとしたベンチがありましたが、とても休憩する気になれず…。ただひたすら坂道を下るだけ。

 
【飯盛温泉跡 11:00】
木道が崩れて思いっきり斜めになっている場所に出くわしました。どうやらここが、かつて温泉旅館があった飯盛温泉跡のようです。大正9年に創業したものの、昭和15年に雪の重みで建物が倒壊し、それ以後は再興されることなく今日に至っているのだとか。それにしても、なんで木道はこんなに傾いているの? 土砂崩れ? あるいは雪崩? 


温泉跡とはいえ、温泉が今でも湧いているかは不明。木道の下には真っ赤な泥が溜まり、無色透明でほのかにぬるい水が流れていました。ぬるいんだから、お湯なのかもしれませんね(夏だから日光等でぬるくなっているだけかも)。湯溜まりらしきものは無く、赤い泥も足を踏み入れたらズブズブに潜っちゃいそう。探検すると面倒なことになりそうなので、ここは見学するだけにとどめておきました。

 
温泉跡からすぐのところで、岩や木が根こそぎ崩落している箇所を通過。やはり土砂崩れか。ちょっと怖いなぁ。しかも藪が茂って道が消えかかっています。この道を使う人はあまりいないんだろうなぁ。実際、牛ヶ首から弁天温泉バス停まで、誰一人として擦れ違った人はいませんでした。


【膳棚噴気帯(膳棚の湯) 11:10 / 11:45】
いま下っている高雄口登山道は、牛ヶ首周辺を除けばひたすら樹林帯を歩くため、眺望の面ではあまり面白くない道ですが、そんな中でも見晴らしが開けるほとんど唯一と言って良い場所がこの膳棚噴気帯。付近まで来ると硫黄の匂いが漂っています。日の出平から南月山までの稜線が眺められるこの膳棚ですが、わざわざこの眺望を見たくてここに来たわけではありません。私がわざわざ人気の少ない高雄口登山道を選んだ理由は、この噴気帯にあるものが存在しているからです。


まずは大きな荷物を登山道にデポ。そして、足を滑らせたら谷底へ真っ逆さまに落ちていきそうな急斜面のガレ場を慎重に這い下りていきます。急な階段状に傾斜したこの地形が食器類を載せておく棚に似ていることから、膳棚と名付けられたんだとか。その斜面には黒いネットが被せられており、県によって斜面崩落の防止措置がとられていることがわかります。


お目当てはこれ。真白に濁った野湯があるんです。登山道からはよく見えないので、ガレ場を下らないと確認できません。温泉ファンの間では「膳棚の湯」と呼ばれているこの野湯。詳細については後日改めてレポートします。湯上がりはガレ場の急斜面をよじ登って登山道へと戻りました。

 
再び登山道を下ります。途中、上水道設備と思しきものが道に沿って点在しており、道にも塩ビのパイプが埋め込まれていました。
しばらく進むと、九十九折れの急坂に突入。この坂の登りはかなり辛そうです。下りでよかった…。


ジグザグの坂を下り来ると、木造の橋を渡ります。何という名前の橋なのかしら。

 
橋を渡ってすぐのところに水場がありました。ちょうど喉が渇いていたところなので、ありがたく飲ませていただくことに。往路(1日目)の延命水みたいにキンキンに冷えているわけではなく、13.6℃という中途半端な温度でしたが、それでも体をクールダウンさせるには十分です。


【休暇村分岐 12:15】
水場から2~3分で休暇村分岐に到達。ここを真っ直ぐ進んで更に山を下りると高雄温泉、そして湯本方面と行くことができますが、私は自分の車をロープウェイ駅の駐車場に置きっぱなしなので、この分岐点で大丸・弁天温泉方面へと逸れました。

 
分岐点から2~3分のところに「晴清水」と名付けられた湧水ポイントがありました。が、その湧水にはいろんなものが浮いているので、さすがの私も水を飲む気にはなれず、見るだけにとどめておきました。


その「晴清水」からは階段の登りです。利用者はそんなに多くない道かと思われますが、ちゃんと整備されているのが嬉しいですね。

 
登りきったところにはベンチが設置されていました。傍らには看板が立てられており、地主さんの名前入りで「アジア遊歩道」「この遊歩道は、アジアへ続く!」と記されています。アジアへ続くって、この山道にどんな願いを込めているのかしら? そもそも日本だってアジアの一員なんですが…。


地主さんのアジアに対する熱情が込められたベンチからは下り階段へと転じます。下っていると、いきなり視界が開け、スキー場のリフト(索道)の下を潜ります。ゴールはもうすぐ。

 
【那須温泉ファミリースキー場 12:40】
スキー場のゲレンデに出ました。目の前には那須温泉ファミリースキー場の建物が見えます。


ゲレンデに出たのはいいんですが、ここから先には道らしきものが全くない。自由にゲレンデを横切ればいいのでしょうが、他人様の敷地に勝手に入り込んでいるような気がして、ちょっと気後れしてしまいました。建物の前を通って舗装路を下ります。もうここまで来れば単独行でも遭難の心配はありませんね。とっても安心。


【弁天温泉バス停 12:43】
ちょうど「休暇村那須」そして弁天温泉バス停の真ん前に出ました。ここから路線バスでロープウェイ駅へと戻るつもりでした。バスも12:55に来るので、ちょうど良いタイミング。
縁石に腰かけてバスを待っていたら、目の前で一台の車が止まりました。それは朝日岳でお会いしたご夫婦(その2を参照)の車でした。親切にも、私を駐車場まで送ってくださるとのこと。「おんぶにだっこ」状態ですので、はじめは固辞したのですが、最終的には御厚意に甘えて乗せていただくことにしました。山でこの日たまたま遭遇した一人の男に対し、ここまで親切にしてくださるなんて、本当にありがたい限りです。この場を借りて厚く御礼申し上げます。

美しい景色と温かい人の情に出会えた、今年初めての山登りでした。
コメント (2)
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