福島県の温泉の中でもお湯と雰囲気の良さではかなり定評がある新野地温泉「相模屋旅館」。週末はいつも混雑しており、しかもお湯が造成泉(噴気に水を当てて人工的に造った温泉)であるために、いままで目の前を何度も通り過ぎていながら、ひたすら敬遠し続けていたのですが、食わず嫌いは良くないと反省し、昨年(2010年)の初秋に訪れてみることにしました。「日帰り入浴」の幟が立つ駐車場には、この日も車がいっぱいです。
「日本秘湯を守る会」に所属しているこちらのお宿は、たしかに山の中に建つ一軒宿ですが、鉄筋コンクリート造に建て替えられた建物やアクセスのしやすさを考えると、正直なところ、あんまり秘湯っぽくないんですよね。でもお風呂は秘湯の雰囲気そのもの。フロントで料金を支払い、浴室へ向かう廊下・階段を歩きます。途中で窓の外を覗くと、湯気抜きが目立つ内湯の湯屋、そしてその向こうに勢いよく噴き出ている真白い蒸気が見えます。
階段を降りきったところには3枚の暖簾がかかっていました。一番右は露天への出口。左は男女それぞれの内湯です。まずは内湯から行ってみましょう。
宿泊棟の外観からは想像できない、まるで昔の湯治宿や共同浴場を想像させる木造の内湯には、乳白色のお湯が注がれています。日本人がイメージするステレオタイプの温泉をそのまま具現化したような佇まいですが、でも何だかんだ言っても。こういうお風呂って素敵ですね。日帰り入浴のお客さんは皆さん露天へ集中してしまうらしく、内湯はご覧の通りガラガラでした。まずはここでゆっくり湯浴み。
洗い場もカランじゃなく、冷水がステンレスの枡に落ちているだけの、極めてシンプルなもの。旅館だからって、妙に立派な設備にせず、こうした古風なスタイルを貫き通しているのは感心させられます。
さて内湯を出て、今度は露天へ。ススキ原の中の木道を、蒸気に向かって歩いていきます。これだけでもムード満点ですね。どうしてもっと早くここに来なかったのだろう…。今まで敬遠していた自分を恨んでしまいました。
露天も木造の浴槽。開放的ですばらしいお風呂ですね。木道の手すりやお風呂の目隠しに流木を使っているところが風流ですね。自然な雰囲気を壊さないで実用性とセンスを兼ね備えているこの流木材、とっても気に入りました。人気が集まるのも十分首肯できます。腰かけに座ってお湯で火照った体をクールダウンさせていると、時の移ろいを忘れてしまいそうになりました。
お風呂の傍では白い蒸気が音を響かせながら勢いよく噴きあげ、そこからお湯を引く筧がお風呂の方へと導かれています。上述のようにお湯は人工的な造成泉でして、箱根の大涌谷で造成されている白濁湯が有名な代表例ですが、一口に造成泉といっても、当然ながら場所によって大きく性質が異なり、こちらのお湯は濁り方がとても強く、大涌谷よりはるかに濃く美しい青みを帯びた乳白色です。一方で、他の造成泉と同様に味や匂いは比較的に薄く、硫化水素臭が漂うものの、天然モノの硫黄泉よりはるかに刺激は弱めで、味覚面でも粉っぽさやほろ苦さはあるものの分かりやすい硫黄感や酸味などはありませんでした。加水されているのも知覚面の弱さの原因かもしれません。でも、見方を変えれば、あまり強くないマイルドなお湯であるとも言え、刺激の強い温泉が苦手な方でも、ここならば刺激を気にせず白濁の温泉を楽しめるかもしれません(とはいえ皮膚・粘膜が敏感な人や光線過敏症、高齢者の皮膚乾燥症は当温泉の禁忌症ですが…)。造成泉だからといって侮ってはいけませんね。特に露天は四季によって楽しめる景色が異なるでしょうから、いつ訪れても飽きることは無さそうです。掛け値なしにすばらしい温泉でした。
単純硫黄泉 88.0℃ pH6.30 溶存物質0.1163g/kg 成分総計0.2207g/kg
福島県福島市土湯温泉町野地2 地図
0242-64-3624
ホームページ
日帰り入浴 10:00~15:00
500円
ロッカー有料(100円)、内湯にシャンプー類あり
私の好み:★★★