信州屈指の湯処である湯田中・渋温泉郷の傍に位置していながら、まるで数十年前から時間の針がピタっと止まったかのような昔ながらの静かな佇まいを残している角間温泉。湯田中・渋を含め、この界隈の温泉地では、それぞれが共同浴場を有していますが、そのほとんどが地元民専用、あるいは地元民と宿泊客のみが利用できるもので、原則的に外来者の利用ができません。しかしながら、あまり知られていませんが角間温泉は外来者でも共同浴場を利用できるので、この界隈では貴重な存在ではないかと思います。
●共同浴場の利用方法
外来者が利用出来るとはいえ、いきなり浴場へ行っても中へ入れません。次のような手順を踏むことになります。
湯田中や渋など周辺の温泉地と同様、角間の共同浴場も常時施錠されており、利用に際しては鍵が必要になります。鍵は角間温泉の中心部、大湯や越後屋旅館の前にある黒鳥商店で借りられます。お店には屋号らしきものは掲示されていませんが、集落唯一の万屋さんなので迷うことはないはず。
商店の斜め前の駐車場(商店指定の場所)に車を止め、料金(300円)と共に車の鍵を手渡すことにより、鍵を貸してくれます。車の鍵を預けるのは、おそらくデポジットみたいな意味合いがあるんでしょう(車ではなく徒歩や路線バスで訪れた場合はどうなっちゃうんでしょうか?)。
この斜めに切られた木の板切れみたいなものがお風呂の鍵。3つある共同浴場共通です。
鍵を借りるということは、当然ながらその数には限度がありますから、もしかしたら鍵が全て貸し出されちゃっている時があるかもしれませんね。
各浴場とも入口は男女で分かれており、その扉の脇に小さな穴が開いています。これが鍵穴です。鍵(というか木の板切れ)の尖った方を左側にしてその穴に挿し込むと、鍵の先端が穴の奥の電磁スイッチに触れてジーーという音が聞こえますので、その音が鳴っている時に扉を開けます。
湯めぐりが終わったら黒鳥商店へ鍵を返却します。これにより自分の車の鍵もこちらへ返されます。
●大湯
昔ながらの木造の旅館によって三方を囲まれた温泉街の中心に建つ大湯。旅館群に負けず劣らず、こちらも風格ある立派な木造の湯屋造りです。
越後屋旅館や黒鳥商店に開けた妻面の方が入口なのかと思いきや、実際の玄関は側面の道路に面した場所でした。さっそく借りた鍵を穴に差し込んで中へ。
とっても小さい玄関を上がると、そこはいきなり脱衣所、そして浴室になっていました。古い共同浴場によくある脱衣所と浴室が一体型になっているタイプに造りで、これは角間の他の共同浴場でも共通です。地元の方の手によりとても綺麗に手入れされていました。
洗い場には水の蛇口しかないので、桶で直接湯船のお湯を汲んで使います。壁面には石鹸を置くための小さな棚のような凹みがいくつか設けられていて、実用的でありながら可愛らしくもあります。湯船は3~4人サイズで、縁は黒い御影石、他はタイル貼りです。
湯気抜きまわりは年季が感じられます。この湯気抜きが高い位置にあって幅も広いため、浴室内には湯気がこもりにくく、とても快適な湯浴みが楽しめました。
男湯と女湯の間の、ちょうど湯船の真上にあたる位置には、木板に揮毫された古い分析表が掲示されていました。
お湯は無色透明、石膏臭に加え、何かを燻したような香ばしい匂い、そして石膏味+塩気の抜けたようなダシ汁のような味が感じられます。硫酸塩の影響か、キシキシとした浴感です。白い析出が付着した湯口からは熱めの源泉が投入され、しっかりとオーバーフローしていきます。人が入るとザバーっと勢い良く溢れでていきます。湯中をよく見ると茶色い小さな浮遊物が少々舞っていました。熱めのお湯はキリリと冴え、新鮮さが実感できました。大湯という名前にふさわしい風格と、鮮度良好のお湯を有する、素晴らしい浴場です。
薬師の湯とみろくの湯の混合泉
ナトリウム-塩化物・硫酸塩温泉 73.2℃(分湯枡) その他数値は不明
(湯温調整のため加水あり、加温・循環・消毒なし)
長野県下高井郡山ノ内町佐野 地図
外来者利用可能時間8:30~16:00
300円(利用方法は上述のとおり)
備品類なし
私の好み:★★★
●源泉井
さて大湯から東へ向かって緩やかな坂を上がると、すぐ目の前に薬師堂が見えてきます。
この薬師堂の右手は小さな児童公園になっているのですが、その敷地内の奥に怪しい物を発見。近づいてみると…
案の定、源泉井でした。櫓ではシューシューと音を立てながら熱湯が汲み上げられ、その一部がパイプから外へ捨てられています。もし都会で、児童公園内に熱湯を排出する施設があったら、危険性を指摘されて大問題になりそうですが、ここではそんな野暮な発想とは無縁のようで、子供の遊び場と温泉とが仲良く共存しているのであります。
薬師堂のさらに奥の方へ上がってゆくと、段々になっている畑の奥にも櫓を発見。
この源泉も勢いが良く、注意しながら接近してみると、まるで番犬が不審者を威嚇するかのごとく、こちらへ向かって熱湯が霧状にドバっと噴出してきました。あたかも間欠泉を見学しているかのようです。小屋の上部からは溢れたお湯が滴り落ちていました。湯量が豊富で、ちょっとぐらい漏れても供給量的には全然問題ないんでしょうね。ここには本物の温泉の姿がありました。