温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

湯之尾温泉 鵜泊温泉

2016年02月19日 | 鹿児島県

鄙び系を好む温泉ファンから支持を受けている湯之尾温泉の公衆浴場「鵜泊温泉」へ立ち寄ることにしました。周囲には特に温泉浴場の存在を示す案内看板等はないので、事前に仕入れた情報と普段の温泉巡りで鍛えた自分の勘を頼りに探していたところ、集落を2周ほどグルグルしたところで、ようやく目標となる「南日本新聞」の看板を発見しました。とはいえ、相当古い看板なのかすっかり退色しており、遠くからですと視認が難しく、はじめからこの看板をあてにするのは厳しいような状況です。こういう所はやはり勘が一番頼りになるみたいです。


 
なぜ「南日本新聞」の看板が目標になるかといえば、こちらの本業は新聞販売店なんですね。このため新聞休刊日が浴場の休業日になるという、ちょっと変わった営業形態です。私が建物に近づくと黒い番犬がけたたましく吠え立てて、一見客の私を懸命に威嚇してきました。こちらを利用するお客さんのほとんどは地元の常連客なのでしょうから、明らかな余所者である私を見て警戒する番犬は、ちゃんと自分の仕事をしている立派な忠犬なのであります。でもオイラってそんなに怪しい人物に見えたのかな?



外見だけでは決してここにお風呂があるように見えませんが、出入口の脇にはきちんと「鵜泊温泉公衆浴場」と表示されていました。私の訪問時は無人でしたので、窓口に湯銭を置き、番犬の威嚇から逃げるかの如く足早に館内へおじゃましました。


 
フローリングの脱衣室は、棚と扇風機があるだけで至って簡素。サッシの向こう側からお湯の音が響いていました。


 
相当年季の入った浴室は、昼間なのに薄暗く、しかも全体的に黒っぽく染まっているような印象を受けます。男湯の場合は浴室の右手に洗い場があり、お湯と水のカランのペアが3組並んでいました。配管剥き出しのカランからは温泉のお湯が出てきます。かなり熱いので火傷注意。細かなことですが、一般的にお湯と水のカランが並んでいる場合、お湯が左で水が右という配置にしますが、なぜかこの浴場ではその逆、つまりお湯が右で水が左という配列になっていました。ま、どうでも良いことですけど…。


 
浴室内を独特の雰囲気になっている大きな要因は、浴室一面を覆い尽くす千枚田状態の石灰華でしょう。足元は元々石板張りだったと思われるのですが、その素材が全くわからなくなるほど、分厚くベージュ色を帯びた石灰華の凸凹で覆いつくされており、しかもその表面が全体的に黒ずんでいるため、室内が黒っぽく見えたのでした。


 
浴槽は目測でおおよそ3m×4mの四角形。4つある角のうちお湯をオーバーフローさせる切り欠けのあるコーナーとその対角は角が取れてRを描いており、そのお陰か、一般的な長方形の浴槽よりも優しい印象を受けます。石灰華は床のみならず浴槽の周りでも分厚くコーティングされており、浴槽の湯面ライン上には庇状の析出として現れ、浴槽の左側の縁はサンゴのようなトゲトゲがびっしりとこびりついていました。析出を好む温泉ファンには垂涎の光景が広がっていました。


 
温泉の供給口は2本あり、メインの湯口はタイルで囲まれている箱状のもので上を向いており、もう1本はその左側からまっすぐ横に突き出た塩ビのパイプ。いずれの湯口周りにも石灰華がビッシリ付着しています。投入量は多く、浴槽内のお湯の鮮度も良好です。


 
投入量が多ければ当然ながら溢れ出す量も多く、浴槽に3つある切り欠けから惜しげも無くオーバーフローしていました。しかもお湯の排水溝をカバーするグレーチングにも、石灰華がこんもりとこびりついています。こりゃスゲー。

さて肝心のお湯に関してですが、見た目は薄い山吹色の笹濁りで、槽内に付着する石灰華の影響で若干緑色を帯びているようにも見えます。お湯を口に含むと、ほんのりとした塩味に石膏を主とする土類味、そして清涼感を伴うほろ苦味が感じられました。匂いに関しては、土類っぽい匂いがあったはずですが、あまり印象には残っていません。基本的には塩化土類的なフィーリングですが、金気は少なかったように記憶しています。キシキシと引っかかる浴感と、全身にまとわりつくようなシットリ感が心地よく、とてもよく温まります。

ところで湯之尾温泉は長い歴史を有する温泉地ですが、伊佐市東部で現在も操業している日本最大の金鉱山「菱刈鉱山」の掘削が進むにつれ、坑道から温泉が湧き出ちゃう一方、昔からの湯之尾温泉の源泉が枯渇したり、地盤沈下が発生するなどの問題が発生するようになりました。このため、現在の湯之尾温泉は温泉地の場所をまるごと数百メートルほど移転し、お湯も鉱山採掘の際の副産物として大量湧出する温泉を引湯して使っています。今回取り上げた「鵜泊温泉」でも鉱山からのお湯です。ご近所の方にお話を伺いましたが「昔は間欠泉があって、天下一品のお湯だったのに、いまはイマイチだ」と嘆いていらっしゃいました。その一方、私の後からやってきた地元の常連さんは、「(近所にある公営の)公衆浴場は150円で狭いけど、こっちは100円で広い。しかも金山からのお湯は(以前より)熱いので良くなった」とポジティブに捉えており、人によって評価が分かれているようでした。


 

グーグルマップで「鵜泊温泉」を探そうとした私の頭脳を混乱させたのが、浴場前を横切るこの湿地です。おろらくかつては川の本流だった跡かと思われ、対岸とをつなぐ立派な橋も架かっているのですが、現在は淀んだ水が溜まる沼地のようになっており、ネット上の地図ではそうした沼や橋、そして川筋らしきものが描かれていません。しかもこの低地のすぐ南に川内川の本流が流れているため、初めて当地を訪れた者としては、地図に表示されている内水面がどちらを指し示しているのかわからなくなったのです。ちなみに帰宅後、改めて国土地理院の地図でその箇所を調べ直したら、ちゃんと水路として描かれていました。やっぱりちゃんとした地図で調べないといけませんね。この湿地の対岸にはバス通りが走り、その沿道には公営の公衆浴場や菱刈鉱山から引いてくるお湯をストックするタンクの姿が見られました。



貯湯タンクは上述の他、「鵜泊温泉」のすぐ裏手にある高台にも設置されていました。複数のタンクで貯湯や中継を行っているのでしょう。ところで「鵜泊温泉」の館内に掲示されていた温泉分析表には湧出地が2箇所記載されていたのですが、そのうちの一箇所は浴場の所在地と全く同じでした(川南1109)。これって、浴場の敷地内にも源泉があって、そのお湯をブレンドさせているという意味なのでしょうか。あるいはこのすぐ裏手にあるタンク(源泉というより分湯槽)を指しているのでしょうか。
そのあたりの事情がよくわからないまま、モヤモヤした気持ちを抱きながら、当地を後にしました。


混合泉(※1)
ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物温泉 46.5℃ pH6.8 溶存物質2076mg/kg 成分総計2257.7mg/kg(※2)
Na+:523.1mg(83.70mval%), Ca++:56.7mg(10.41mval%), Mg++:10.8mg,
Cl-:355.5mg(38.46mval%), SO4--:86.3mg(6.90mval%), HCO3-:862.3mg(54.18mval%),
H2SiO3:123.2mg, HBO2:31.4mg, CO2:181.7mg,
(平成8年12月27日)
(※1)湧出地:菱刈町前田字大山口3850-ロ、川南1109、
(※2)分析表には4334mg/kgと印字されていましたが、この数値は誤記載かと思われますので、ここでは分析表の数値をもとに私が計算したものを掲載しました。

JR肥薩線・栗野駅または吉松駅より南国交通バスの大口方面行で「湯之尾橋」バス停下車
鹿児島県伊佐市菱刈川南1109  地図

早朝~18:30(入場18:00まで) 新聞休刊日に休業
100円
備品類なし

私の好み:★★+0.5
コメント
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