温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

鶴丸温泉

2016年02月25日 | 鹿児島県
 
上画像は吉都線の鶴丸駅です。単線の線路に1本のホームがあるだけの、至って質素な無人駅ですが・・・


 
この駅のすぐ目の前には、九州でも屈指の濃いモール泉として誉れ高い「鶴丸温泉」がありますので、今回の九州温泉巡りの締めとして、こちらへ立ち寄ることにしました。昭和の香りを強く放つ古く鄙びた外観の建物で、本業は旅館なのですが、老人福祉施設を併設しており、地域住民の皆さんにとっては銭湯代わりとしても愛されているようです。


 
玄関を上がってすぐ左に帳場の窓口があり、そちらで湯銭を納めてから、奥にある浴室へと向かいます。途中で左へ曲がる廊下が分岐しており、その先には座敷や客室らしき空間が広がっていたのですが、おそらくそこが旅館ゾーンなのでしょう。


 
上述で地元の方から銭湯代わりとして親しまれていると申し上げましたが、浴室のつくりは旅館というより公衆浴場そのもので、広い脱衣室と浴室との間はガラスサッシで仕切られており、浴室内部の様子がよく見通せます。幸いなことに私が脱衣室へ入ったとき、ガラス越しに見える浴室内には誰もいなかったのですが、さすが人気のお風呂らしく、わずかこの数分後に浴室は10人近い利用客で一気に賑やかになりました。

浴室は天井が高くて窓が多く、湯気篭りも少ないので、日中はとても明るく開放的です。女湯との仕切りには鳥が描かれた大きな壁絵が施されているのですが、鶴丸だからてっきり鶴なのかと思いきや、そこに描かれていたのは意外にも鷺なのでした。この鷺たちの下には洗い場のカランが8基並んでおり、うち4基はシャワー付きなのですが、いずれも吐出圧力が弱く、しかもぬるいので、常連さんはそれを知っているのかどなたもカランを使わず、桶で浴槽から直接お湯を汲んでいらっしゃいました。なおカランから出てくるお湯は温泉です。



内湯の浴槽は俵を二つズラして並べたような形状をしており、一見すると同じ寸法に見えるのですが、実際には脱衣室側の方がやや小さい6人サイズで、もう一方はそれより若干大きい7人サイズです。なお小さな方は槽内の袖板で二分割されており、一部分は浅い造りになっていました。
両浴槽とも乳鉢のような形をした湯口から熱くて美しい琥珀色の温泉が供給されており、湯口の上部には水道蛇口が設けられていて、お客さんが自由に加水できるようになっていました。実際に、私の訪問時には常連さんが水道蛇口を思いっきり開いてどんどん加水しており、おかげで小さな浴槽はかなりぬるくなっていたのですが、いつもはどんな感じなのでしょうか。ちなみに加水前の浴槽は44℃近い熱めの湯加減で、浴槽縁からしっかりオーバーフローしており、紛うことなき完全放流式の湯使いでした。


 
このお風呂は一見すると内湯だけのように思われるのですが、内湯の壁にはコンパネでできた小さな出入口が取り付けられており、コンパネの表面には意味深な矢印が記されていましたので、忍者になった気分で腰を屈めながらこの秘密の出入口を開けてみますと、外側には庭園のような空間に露天風呂が設けられていました。露天風呂には2つの浴槽があり、いずれもコンクリ造で縁には木材が用いられているのですが、一方には屋根が設置されており、ちょっとした差別化が図られています。
庭木や垣根の向こうには踏切や鶴丸駅があり、私がここで入浴していると、カンカンと踏切の鐘の音が響いて、ディーゼルの普通列車がやってきました。それらの音はかなりの至近距離から聞こえ、しかも庭木の上からは、駅に停車している列車の屋根も見えるのですが、うまい具合に目隠しされているため、列車からこちらが見られてしまうようなことはありません。


 
2つともほとんど同じような大きさですが、屋根付きの槽には温泉が張られ、屋根なしは水風呂です。今回水風呂は利用しなかったので、温泉槽に限定して言及させていただきますと、大きさとしては3~4人サイズで、一般的なお風呂より若干深く、それゆえ肩までしっかり湯に浸かれる入り応えのある造りになっていました。


 
 
内湯と異なりこちらは加水されていないため、私の体感で44~5℃近い熱めの湯加減となっており、(勝手な思い込みかもしれませんが)内湯よりも琥珀色の色合いが濃いように見えました。露天風呂では塩ビの配管からお湯が直接注がれており、その直下にはタオルが被せられた笊が置かれ、これによって湯の花などの固形物を濾しているようですが、タオルの目が粗いためか、湯中には細かな固形物がたくさん浮遊しており、桶でお湯を掬うと容易にそれらをキャッチすることができました。

前回記事ではコーヒー湯と称されている「原口温泉」を取り上げましたが、さすが九州屈指の濃さを誇るモール泉だけあって、この「鶴丸温泉」は「原口温泉」に負けず劣らずの濃い琥珀色を呈しており、芳醇なモール臭を放っています。特に露天風呂ではそのモール泉的な特徴がしっかりと感じられ、入浴中に鼻孔が湯面に近づくと、その芳香が絶え間なく香ってきて、モール臭が大好きな私にとっては興奮が止まりませんでした。湯口に鼻を近づけますと、単なるモール臭のみならず、何かを燻したかのような匂いも嗅ぎとれます。この湯口から出てくるお湯は直に触れないほど熱く、備え付けのコップで汲んでも、フーフー吹いて冷ましてからでないと飲泉できないのですが、熱さを堪えつつ口にしてみたところ、清涼感を伴う重曹的なほろ苦味が感じられました。
玄関に掲示されている昭和40年の分析表によれば、1kgの温泉に腐植質が6.40mg含まれているそうです。拙ブログで取り上げている温泉のうち、千葉県「御宿の湯 クアハイム」の腐植質は156mgと突出していますが、モール泉で名高い北海道・十勝川温泉の「富士ホテル源泉」は2.1mg、帯広駅前の「ふく井ホテル」は4.2mgですから、それらと十分に比肩できる立派なモール泉なのであります。ちなみにその手書きの分析表において、腐植質を「腐蝕」と誤記しているのはご愛嬌。けっして人体が溶けて侵されるようなことはなく、むしろ、この手の温泉に特有の非常に滑らかなツルツルスベスベ浴感がはっきりと得られました。入浴中はもちろんのこと、湯上りに非常に気持ち良く、老若男女の誰しもがウットリしてしまう、極上の美肌湯でした。


ナトリウム-炭酸水素塩温泉 65.8℃ pH8.3 成分総計1176mg/kg
Na+:184.8mg(73.66mval%),
HCO3-:63.6mg(90.70mval%), CO3--:1.465mg,
H2SiO3:232.2mg, CO2:3.736mg, 腐植質:6.40mg,
(昭和40年3月8日)

JR吉都線・鶴丸駅からすぐ
鹿児島県姶良郡湧水町鶴丸622-5  地図
0995-75-2828

6:00~21:00
200円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (2)
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