前回記事の「瘡の湯」に引き続き姫川温泉を取り上げます。「瘡の湯」は姫川右岸の長野県側に位置していましたが、今度は橋を渡って姫川左岸の新潟県に属する平岩駅へ戻り、駅を通り越して線路に沿って南下していきます。私が歩いていると、タイミングよく大糸線の列車が南小谷方面へ向かって走り去っていきました。
平岩駅から徒歩10分ほどで次なる目的地「ホテル國富翠泉閣」にたどり着きました。姫川温泉の旅館群からかなり離れている実質的な一軒宿ですが、周囲には何もなく、人里離れた山奥には不釣り合いな規模の大きい建物が聳えたっています。
建物の手前側には駐車場が広がっているのですが、その路面では大量の温泉が湯気を上げながら流れていました。融雪用なのでしょうか。でも昨冬は暖冬でしたから路面の雪はすっかり消えており、お湯だけが垂れ流されていました。お湯が窪みに溜まってそこそこの深さになっている箇所があったのですが、そこで衝動的に入浴したくなってしまった私は、ちょっと病気なのかもしれません。
建物の南側に誂えられた庭園を目にしながら玄関に入ってステップを上がると、そこには天井が高くて開放的なロビーが広がっており、和服姿の仲居さんがすばやく私のもとへやってきて、日帰り入浴の対応をしてくださいました。とても山奥の辺境とは思えないほど、立派な接客です。
フロントで料金を支払いますと、引き換えにタオルを手渡してくれます。仲居さんの案内に従い、雅やかな館内を歩いて浴場棟専用の下足場へと向かい、更に奥へと進みます。
浴場へ向かう廊下の足元は畳敷き。処々に小さな休憩スペースが設けられています。和のラグジュアリ感に包まれつつ浴室へ。
通路の途中で家族風呂への出入口が分かれており、屋外の離れには家族風呂が並んでいました。なお今回この家族風呂は利用していません。
廊下の突き当たりに、紅と紺の暖簾が掛かっていました。訪問時は廊下突き当たり正面の「奴奈川の湯」が女湯、そこから更に奥へ入ったところにある「八千矛の湯」が男湯となっていました。奴奈川姫も八千矛神も「古事記」などに出てくる伝説上の人物もしくは神様ですが、両方とも糸魚川にゆかりがあるんだそうですから、当地の伝説に基づいて命名されたのでしょう。
フローリングの脱衣室は大変広々としており、明るく清潔感に満ち溢れています。設置されている棚(枠)の一つ一つは小さいのですが、旅館宿泊客でしたら、浴衣や丹前を収めるには丁度良い大きさでしょうし、旅行者であっても枠を2つ使えば問題ありません。また貴重品用ロッカーが用意されていますので、旅行者でも安心して利用できます。洗面台の数も多く、アメニティーも充実していました。文句のつけようがないほど、使い勝手が良くて快適な脱衣室です。
浴室もまた素晴らしい。天井が高くて開放感のある室内中央には後述する楕円形の浴槽が据えられ、その浴槽を照らすかのように、鋭角を為す三角の大きな窓から外光が降り注いでいます。窓の形状といいホールのような空間といい、温泉浴場というよりチャペルにいるかのような感すら受けます。
天井の飾りには翡翠の勾玉を象ったレリーフが施され(姫川は翡翠の産地です)、また教会のような窓の向こうには白馬岳に連なる山々が望めました。
浴槽の手前には木枠の上がり湯槽が設置され、ぬるめに調整された温泉のお湯が張られていました。
洗い場にも広いスペースが確保されており、壁に沿ってシャワー付きカランが計15基並んでいました。各カランの前には腰掛けと桶が整然とセッティングされており、こまめにお風呂のチェックがなされていることが伝わってきます。
広々とした浴室の中央に据えられた浴槽は楕円形。湯船のお湯は41℃前後の寛ぎやすい湯温に調整されています。最大寸法で4m×8mというかなり大きなものですが、容量の大きさに十分応える大量の温泉が供給されており、浴槽の縁からは惜しげもなくお湯が溢れ出ています。溢れ出るお湯が流れる床の表面は、温泉成分の付着により、元々の素材の色がわからなくなるほど赤茶色に染まっていました。
浴槽の中央部に設けられた大きな焼き物の甕から、温泉がボコッボコッと噴き上がって浴槽へお湯を注いでおり、その噴き上がる音は脱衣室まで響いていました。湯口近くの洗い場側には直径2mの小さな円形浴槽が大きな楕円形浴槽に内包されており、ここだけ42〜3℃の熱い湯加減となっています。熱い浴槽には甕からの他、浴槽底部のグレーチングからも新鮮源泉が供給されており、源泉投入量を多くすることによって温度を高くしているようです。この熱い円形浴槽内部は温泉が真っ先に外気に触れる場所であるためか、楕円浴槽の他の部分よりも赤茶色の染まり方が濃いように見受けられます。
熱いけどフレッシュなお湯に入れる小さな円形浴槽。ぬるめのセッティングにより身体への負荷が少なくゆっくり湯浴みできる種浴槽。どちらも温泉好きのニーズを満たしてくれる極上のお風呂です。
周囲の山々を借景にした庭園に設けられている露天風呂は岩風呂で、10人以上は余裕で入れるサイズを有しており、このお風呂で使われている巨岩は姫川で採取されたものなんだとか。この巨岩は庭園風情を醸し出しているばかりでなく、周囲からの目隠しという実用的な機能も果たしており、その両目的のため巨岩や周囲の築山は絶妙な具合に配置されていました。露天風呂としてのスペースも広く、抜群の開放感が得られることは言うまでもありません。
お湯は岩の上から落とされており、湯尻からしっかりと流下していました。内湯同様に掛け流しの湯使いであろうかと思われます。湯加減は41℃前後。広い空と峻厳な山々を望みながらいつまでも浸かっていたくなる、素晴らしいお風呂です。
お湯は外気や温度の影響を受けやすいタイプで、内湯においてはほぼ無色透明ながら僅かに貝汁濁りを呈しており、湯の花はどは見られませんが、一方、露天風呂では外気に触れて温度が下がることにより、やや緑色を帯びつつ貝汁のように白濁していました。一般的な温泉ですと浴槽に注げる湯量は限られているため、大きな浴槽の場合はお湯が鈍って濁りはじめてしまう傾向にありますが、こちらの内湯の場合は投入量が多いためにお湯の鮮度が保たれ、濁るに至ることなく掛け流されてゆくのでしょう(その一方で露天はどうしても濁りやすくなってしまいます)。
お湯を口に含むと、薄い塩味と明瞭な金気味、土類系の味、そして弱いがはっきりした炭酸味が感じられ、弱いながらも金気臭や土気の匂いが嗅ぎとれます。湯中では食塩泉的なツルスベと重炭酸土類泉のような引っかかりが混在しており、よく温まるのに粗熱の抜けが良いので、湯上がりには温浴効果と爽快感が両立する実に快適な状態が続きました。
お湯やお風呂は極上ですし、施設としても綺麗で立派。そして接客も素晴らしい。大切な人に勧めたくなるような、非の打ち所がない大変ブリリアントなお宿でした。次回は是非宿泊で利用してみたいものです。
姫川温泉新1号井
ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩温泉 53.2℃(貯湯槽流入口で測定) pH6.6 溶存物質1271mg/kg 成分総計1534mg/kg
Na+:251.2mg(66.04mval%), Mg++:20.2mg(9.97mval%), Ca++:56.6mg(17.04mval%), Fe++:0.4mg,
Cl-:330.6mg(56.48mval%), Br-:1.3mg, I-:0.6mg, SO4--:32.4mg, HCO3-:394.2mg(39.10mval%),
H2SiO3:117.4mg, HBO2:27.8mg, CO2:263.2mg,
(平成25年9月30日)
加水あり(源泉温度が高いため井戸水を加水)
加温循環消毒なし
JR大糸線・平岩駅より徒歩10分
新潟県糸魚川市大所885-1 地図
025-557-2000
ホームページ
日帰り入浴時間要問い合わせ(私の訪問時は15:00からでした)
1,000円(ミニタオル付き)
ロッカー・シャンプー類・ドライヤーあり
私の好み:★★★