温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

和倉温泉 奥田屋

2016年09月12日 | 石川県・福井県
 
石川県の和倉温泉といえば「加賀屋」が象徴するように巨大且つ豪華絢爛な旅館をイメージしますが、それとは対極にある小さい家庭的なお宿も多く存在しています。半年前の今年(2016年)冬の某日に能登方面へ出かけた際、そんな小さなお宿の一つである「奥田屋」で一泊しました。なおこの時は旅程の関係で日没後に和倉温泉へ到着し、日の出の頃に出発してしまったので、残念ながら明るい時間の画像がありません。ごめんなさい。
和倉温泉のバスターミナル南側には、かつて三業地だったような裏路地風情の強い木造家屋密集地があり、こちらのお宿もそんな一角に立地しています。渋く鄙びた外観は、庶民的な街並みに溶け込んでおり、袖看板が無ければ民家と見紛うかもしれません。


 
赤い絨毯が敷かれた玄関の奥には、ソファーが置かれたロビーが用意されており、全体的に昭和から時が止まっているかのような、どこか懐かしい雰囲気が感じられます。


 
今回通された客室は6畳の和室。テレビやエアコンの他、金庫やポットなどひと通りの備品類が用意されており、古いながらも清掃が行き届いていたので、問題なく一晩を過ごすことができました。なお洗面台やトイレは共用のものを使います。今回は素泊まりでの利用でしたので、お食事の紹介はできません。あしからず。


 
さてお風呂へと参りましょう。浴室は1階にあり、女湯は玄関の左側、男湯はロビーの右奥といったように、男女の浴室はロビーを挟む形で離れて配置されていました。
脱衣室の張り紙によれば、こちらのお宿は明治時代に湯治宿として創業した老舗宿なんだそうです。脱衣室は、右手に洗面台が2つ、左手に棚が設置されており、湯気で天井がふやけてしまうのか、青い板で応急的に補修されていました。


 
総タイル貼りの浴室は実用本位なつくりで、左手に浴槽、右手に洗い場が配置され、洗い場にはシャワー付きカランが4基並んでいます。地味で温泉風情に欠けるのですが、室内には鼻腔をツーンと刺激する臭素臭やアブラ臭、磯の香のような匂いが充満しており、戸を開けた瞬間に香ってきたそれらの匂いに、思わず心が躍ってしまいました。経験則から申し上げると、地味ながらもお湯の主張が強いお風呂って、いわゆるアタリである場合が多いんですよね。お湯への期待に胸が膨らみます。


 
タイル張りの浴槽は五角形を逆さにしたような形状をしており、最大寸法で幅1.5m、奥行3m強ほど。底面に泡風呂装置が埋め込まれており、脱衣室にあるスイッチを押すと、ブクブクと騒々しく稼働し、余計にお湯の匂いが室内へ充満しました。湯面近くの壁タイルに手書きで「湯の花」と書かれていたのですが、これって何を意味するのかな?(元々は「お湯の中に浮いているのは湯の花です」という旨の注意書きだったのかな?)


 
多孔質の岩をくり抜いた穴に塩ビ管が突っ込まれ、それをカバーする竹筒の穴から、直に触れないほど熱いお湯がチョロチョロと注がれていました。この湯口は部分的にベージュ色に染まっており、また竹筒の周りは温泉成分(主に塩分か)の白い結晶で覆われていて、お湯の濃さをビジュアル的に感じることができます。
和倉温泉では各施設とも集中管理しているお湯を引いているため、基本的にはどこで入っても同じお湯なのですが、当然ながら湯使いによって客に伝わる質感が異なり、こちらのお風呂のお湯は、正直申し上げて次回記事で取り上げる予定の公衆浴場「総湯」よりもはるかに濃く新鮮で主張の強いお湯となっていました。具体的には、見た目は無色透明。上述のようにツンと鼻の粘膜を刺激するような匂いがはっきりと漂い、口に含むと非常に塩辛く、また苦汁の味も強く感じられました。あまりに濃い味であるため、水で口を濯がないと塩辛さや苦汁の味がしばらく口の中に残ってしまいます。湯中では濃い土類泉のようなギシギシとした引っかかりがあり、湯上がりにはパワフルに火照ります。私が入浴した日は冬でしたが、風呂上がりは暖房要らずで、むしろ全身が火照って汗が止まらず、冷蔵庫に入れておいた缶ビールをついつい一気飲みしちゃいました。かなり火照ってベタつく熱の湯ですので、暑い夏季は風呂から上がる前に軽く真湯か水などで温泉のお湯を濯ぎ流した方が良いかもしれません。

脱衣室の張り紙に「湯ぶねに温泉をためる時から一切加水せずに湯量による温度調整を行っております」と書かれているように、こちらでは加水なしでの湯加減を調整しており、投入量がチョロチョロと少なめであるのは、おそらくそのためかと思われます。それゆえ濃いお湯を堪能することができるわけです。不特定多数の人が利用する公衆浴場と違い、宿のお風呂は利用者が限られていますから、投入量を絞っても湯鈍りが発生しにくいのですね。浴槽のお湯は縁よりしっかり溢れ出ており、槽内での投入や吸引も見られなかったので、完全掛け流しの湯使いかと思われます。
かなり凶暴なお湯ですので、迂闊に長湯すると湯あたりしそうになりますが、でもお湯が良いため、不思議とやみつきになって、宿泊中は何度も入ってしまいました。やっぱり名湯の掛け流しは凄いですね。小さなお宿の小さなお風呂だからこそ掛け流しにできるのでしょう。このお風呂に入れて良かったとつくづく思いました。


混合泉(第5号・第8号・第10号・第13号の混合。弁天崎源泉貯湯槽流出口にて採水)
ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 82.4℃ pH7.8 湧出量測定不能(動力揚湯) 溶存物質19.32g/kg 成分総計19.34g/kg
Na+:4116mg(52.28mval%), NH4+:0.5mg, Mg++:7.8mg, Ca++:3138mg(45.74mval%), Sr++:46.4mg,
Cl-:11480mg(98.56mval%), Br-:40.8mg, I-:0.2mg, SO4--:182.1mg,
H2SiO3:92.0mg, HBO2:42.1mg, CO2:21.3mg, 
(2014年9月10日)
(館内掲示の分析書は平成22年(2010年)分析のものでしたが、他施設で同じ混合泉の2014年版がありましたので、ここでは2014年版のデータを抄出しました)

七尾駅や和倉温泉駅よりバスで和倉温泉バスターミナルへ。バスターミナルより徒歩1〜2分
石川県七尾市和倉町ヨ部5-1  地図
0767-62-2062

日帰り入浴に関しては不明
シャンプー類あり、他備品類見当たらず

私の好み:★★★
コメント
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