温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

林温泉 かたくりの湯 2016年1月再訪

2016年09月27日 | 群馬県
前回記事まで3つ連続で上州の草津温泉を取り上げましたが、強酸性の温泉をハシゴした後には、上がり湯の代わりに非酸性の温泉へ入りたくなったので、路線バスで長野原草津口駅まで戻り、そこから徒歩圏にある林温泉「かたくりの湯」へ向かうことにしました。この「かたくりの湯」は拙ブログで6年前の2009年に取り上げていますが(当時の記事はこちら)、2015年に従来の仮設然とした建物から新しい湯屋へ完全リニューアルしたらしいので、その新しい姿を自分の目で確認したかったことも、当地へ向かった動機のひとつです。


 
八ッ場ダムの工事に伴って新しい駅舎に生まれ変わった長野原草津口駅。まだ開発するまで及んでいない駅前は更地が広がるばかりで、観光案内所やレンタカー事務所がポツンポツンと建つばかりで閑散としています。そんな寂しい駅前を一人で旧国道を歩きはじめました。


 
車がほとんど通らなくなった旧国道は、早くも荒れはじめていました。
途中で左へ逸れる細道を上がって・・・


 
使用停止になった踏切を横切ります。この線路は八ッ場ダムの工事進捗に伴って線路の付け替えが行われた吾妻線の旧線跡。もうこの線路に列車が走ることはありません。


 
車一台がやっと走れるような狭い里道を歩いてゆき・・・


 
工事箇所を抜けると、駅から約30分ほどで林集落にたどり着きました。


 
目的地である温泉へ入る前に集落の鎮守である王城山神社を参拝。
鳥居の前の道路沿いには石柱が立っており、そこには「愛国而興家」と読み取れる文字が記されていました。


 
(上2枚の画像はいずれも2007年撮影)
まだダム工事による集落移転が済んでいなかった2007年には、上述の石柱のほか、「教神而尊皇」と読み取れる石柱も立っていましたし、神社の境内には砲弾をつかった記念碑(社殿を銅板葺きにしたことを記念するもの)も立っていたのですが、今年(2016年)はいずれも見つけることができませんでした。移設したのか撤去されたか、それとも単に私が見落としただけなのか。温泉目当てにのどかな山村を散策していたら、こんな戦争色の強いものがいまだに残っていることを知って驚いたのですが、ダム工事や時代の流れによって、とうとう過去へ葬りさられたのかもしれませんね。念のために申し上げておきますと。私個人的としては政治的な右や左は好きではなく、単に歴史を感じる物件が好きなだけですので、どうか誤解なきよう。


 
さて、前置きが長くなりましたが、神社の斜め前にある「かたくりの湯」へ。本当に新しくなったんですね。
屋外側にはトイレが設けられ、また湯屋の後ろには貯湯タンクも設置されていました。当地は完全な車社会ですから、駐車場も設けられています。



新浴場は旧浴場の隣に建てられましたが、かつての仮設然とした佇まいが持ち味のひとつだった旧施設は完全に撤去されていました。上画像でバリケードで囲まれている箇所が旧施設跡です。


 
湯屋には利用時間に関する案内が掲示されており、村外の人が利用可能な時間帯は10時から17時までですが、火曜と金曜の8時から15時までは清掃のため利用不可とのことでした。


 
建物が新しくなっても浴場は相変わらず無人施設。下足場の窓枠に料金箱が置かれていますので、そこへ100円玉を3枚投入します。
地元の方々がこまめに清掃なさっているおかげで、ウッディーな脱衣室は綺麗な状態が保たれており、しかも6畳ほどの広さがあるため、スペース的にストレスなく利用することができました。室内にはトイレも完備されています。
 

 
浴室もすっかり以前とは別物に変わっていました。外光が降り注ぐ大きな窓の下に浴槽が据えつけられ、高い天井の上には湯気抜きが設けられています。大きな窓の外側には目隠しの塀が立てられているため、景色はそんなに楽しめませんが、塀の上から吾妻川対岸にそびえる山々の稜線を眺めることができました。床・側壁・浴槽など浴室内ではワインレッド系の御影石調タイルが多用されており、暖色系のカラーコーディネートによって湯浴みにマッチしたぬくもりある雰囲気が醸し出されています。旧施設では無かった洗い場も新たに設置され、カランが2基(うち1基はシャワー付き)並んで取り付けられていました。浴槽は1.8m×3.5mほどの大きさで、5〜6人は入れるキャパを有しています。



かつての林温泉では、お湯が熱すぎるために湯口から出てきたお湯を樋で浴槽の外へ逃していましたが、新しくなった今のお風呂では、石材を加工して作られた湯口によって、浴槽へ投入する湯量をコントロールしています。この湯口は小さな湯溜まりになっており、中央の穴から直に触れないほど熱い温泉が噴き上がっています。そしてこの中に溜まったお湯は、浴槽と洗い場の2方向へ流下できるようになっており、湯船にお湯を注ぎたい時には洗い場側の出口にタオルの塊を詰めてお湯が浴槽へ落ちるようにし、逆に湯船のお湯が熱くて止めたい時には、湯船側の出口にタオルの塊を詰めて洗い場側へお湯を逃します。上画像ではお湯を全量浴槽へ注ぎ込ませています。この画像をご覧になればわかるように、旧施設時代の伝統を踏襲しているのか、洗い場側へお湯を逃す流路の直下には風呂桶が置かれていました。なお湯口には水道蛇口も設けられていますので、加水することもできます。

林温泉といえばアブラ臭が強いことで温泉ファンから知られていましたが、新しい施設になった現在では、室内空間が増加し、換気環境が向上したためか、室内に籠るアブラ臭が若干薄くなったような気がします。でもアブラ臭ファンを唸らせる芳香そのものは健在であり、特に湯口へ鼻を近づけると頭がクラクラするほど強い匂いを嗅ぐことができます。今回私もしっかりと鼻をクンクン鳴らして匂いを堪能させてもらいました。
お湯はほぼ無色透明で湯の華は特に見られません。お湯を口に含むと薄塩味とほろ苦み、そして少々の芒硝感が得られます。肩までお湯に浸かると、食塩泉的なツルスベと硫酸塩泉的な引っかかりが拮抗する複雑で奥の深い浴感が肌に伝わりました。湯上がりにはパワフルな温浴効果が得られ、真冬だというのに外套要らずで長い時間ホコホコ状態が続きました。湯屋の上物が変わってもお湯のクオリティは変わることはありません。相変わらず素晴らしいお湯です。

建て替えによりごく普通のお風呂になったので、仮設施設ならではの独特な雰囲気を楽しむことはできなくなってしまいましたが、お湯は完全掛け流しですし、そして何よりも、八ッ場ダム対策事業によって設けられた地元住民向けの湯小屋にもかかわらず、外来者が利用できる貴重な存在ですから、これからもありがたく湯浴みできる状態が続いてほしいと願っています。


 
お湯に満足した私は、湯小屋から出た後、日が暮れた八ッ場を歩いて川原湯温泉駅まで向かうことにしました。「道の駅 八ッ場ふるさと館」前の十字路を南側へ移り、不動大橋で対岸へと渡ります。この不動大橋は、民主党政権が発足した当初、その高い橋脚が八ッ場ダム建設中止の是非を問う象徴的な存在としてメディアで連日取り上げられましたが、あの騒動は一体何だったんだろう…。


 
 
温泉から歩くこと30分で、ダム工事進捗によって移転した新しい川原湯温泉駅にたどり着きました。高崎行の普通列車に乗車です。
吾妻線では長らく国鉄時代に製造された115系電車が普通列車として使われ続けてきましたが、間も無くこの電車は廃止され、ステンレス製の車両(高崎線のおさがり)に替わる予定です。温泉も地域の景色も吾妻線も、この地域ではあらゆるものが姿を変えてゆくのですね。


ナトリウム・カルシウム-塩化物温泉 75.5℃ pH未記載 成分総計4.36g/kg
Na+:954mg, Ca++:574mg,
Cl-:2140mg, SO4--:384mg, HCO3-:48.7mg, HS-:0.5mg, Br-:9.2mg,
H2SiO3:84.7mg, HBO2:135.0mg, CO2:16.5mg, H2S:0.4mg,
(平成19年6月29日)
加水加温循環消毒なし

長野原草津口駅もしくは川原湯温泉駅より徒歩30分、
群馬県吾妻郡長野原町大字林字東原1426  地図

村外者利用可能時間10:00~17:00(火曜と金曜の8:00~15:00は清掃のため利用不可)
300円
備品類なし

私の好み:★★★
コメント (11)
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