温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

白馬塩の道温泉 倉下の湯

2009年12月05日 | 長野県


信州北部を南北に貫く千国街道、通称「塩の道」は、日本海側の塩をはじめあらゆる物資を内陸に運搬する、あるいは内陸の産物を日本海側へ送るという役割を担い、海のない信州にとっては欠かすことのできない生命線でありました。往時の面影は殆ど消えてしまいましたが、小谷村と白馬村の境界付近には牛方宿が残されており、牛をつれて旅をする歩荷の人々の姿が偲ばれます。

さて、この塩の道を名乗った温泉「白馬塩の道温泉 倉下の湯」は、千国街道の塩島新田宿と千国宿の中間付近に位置する森の中にある、アクセスしやすい温泉入浴施設です。建物の外観はいかにも白馬らしくロッジ風で、駐車場はとても広く、温泉の湧出量が豊富なのか、建物の隣には源泉をタンクローリーへ充填する施設まであります。

玄関を入ると、まず受付で料金を支払い(支払う機械が置かれているのですが、訪問時は故障していたため直接受付で支払いました)、それとひきかえにメダルを貰い、それをゲートに投入することによって回転式ゲートを押し開けて入場するという、少々面倒な手順を踏んで中に入ります。
中は中央の休憩スペースを挟んで左が男性、右が女性に分かれており、また入浴スペースは洗い場エリアと浴槽エリアがきっちり二分されています。脱衣所を出たところにある洗い場エリアは左右両側にカランが計10ヶ所並び、中央に上がり湯(掛け湯)用の湯船が据えられています。この湯船には真湯が張られていますが、入ることはできません。洗い場エリアの奥が浴槽エリアで、浴槽は木製長方形のものが一つのみ、約15人サイズでしょうか、手前半分は屋根に覆われていますが、残り半分は露天になっており、手前側も実質的には半露天です。なお浴槽の一番奥は浅めになっているので、のぼせてしまって足元だけ温めて上半身を冷ましたいときなどには、ちょうどよい塩梅になっていました。お風呂の前には視界を遮るものが無く、八方尾根や白馬連山の美しい姿がダイナミックに広がり、そんな景色を眺めながらの湯浴みはとても壮快です。

湯口からドバドバとふんだんに掛け流されるお湯は薄い黄色を帯びて濁り、靄がかかったような感じになっています。土類系の匂い、そして湯口からは焦げたような匂いと油のような匂いが漂い、口に含むと塩味に出汁味、重曹味、炭酸味、そして弱めですが金気味が感じられました。このような知覚、そして蒸発残留13970mg/kgという数値が示す通り、このお湯はかなり濃厚で、湯口はもちろんのこと、浴槽の縁も、析出物でコーティングされ、とりわけ湯口にはあらゆる色を帯びた温泉成分が析出していました。濃いだけでなく、お湯に浸かると肌に細かい気泡も付着するので、これがお湯に中でスベスベ感をもたらしてくれます。このお湯は2500万年前の古代海水が地殻変動によってフォッサマグナの地下1000mに閉じ込められたものらしく、その長い歴史の中で成分が濃縮されていったのでしょう。そんな太古のお湯に会えるなんて、とってもロマンチックです(見方を変えれば、このままお湯を汲み上げ続けているといずれは枯渇してしまう、ということにも繋がるわけですが…)。

壮大な景色のもと、熱くも無くぬるくもない絶妙な湯加減だったので、私も他のお客さんもじっくり長湯。派手さはなく、アメニティーが揃っているわけでもないのですが、お湯の質や景色、そして得られる開放感が素晴らしいので、万人におすすめできる質実剛健的なお風呂だと思います。ただし、お湯が濃厚なので、長湯して湯あたりを起こさないようご注意を。


周辺施設へ配湯するタンクローリー用補給施設が隣接しています


洗い場と上がり湯(掛け湯)専用湯船


浴槽の様子(混んでいたので、遠くから控えめに撮影しました)


ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉
48.1℃ pH7.14 蒸発残留13970mg/kg

長野県北安曇郡白馬村大字北城9549-8 地図
0261-72-7989

10:00~22:00
500円
シャンプー・ドライヤー・ロッカーあり

私の好み:★★★
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養老牛温泉 からまつの湯

2009年12月04日 | 北海道


ここ数回は冬にもかかわらず、冬季に入れない温泉を連続して紹介してきたので、ここら辺りで舵を切り直して、冬でも入れる温泉を取り上げていきます。

北海道・道東の知床半島とその南東の延長線上に位置する屈斜路湖や雌阿寒岳、そしてその周辺はあちらこちらでお湯が湧いている温泉の宝庫ですが、中標津町の養老牛温泉もそのひとつに含まれ、原生林の中に数軒の温泉宿がポツリポツリと佇むだけの秘湯感溢れる温泉地ですが、そこから更に奥へ進んで林の中に入ると、温泉ファンにはおなじみの混浴露天風呂「からまつの湯」があります。

中標津から養老牛温泉へ至る道道505号線は温泉街が終わるところで一旦舗装が途切れますが、坂道を登ってちょっと進むと再び舗装が復活し、S字にくねっと曲がって突き当たる十字路を左に曲がり、砂利道を下ると「からまつの湯」に到着です。砂利道を通るものの、道内の他の野湯と違ってアクセスが容易であり、しかも冬季も通行できるので、野湯初心者にもおすすめできる温泉です。

駐車場は広くとられていますが、木造の脱衣所は一応男女別に分かれているものの、人が二人入れば窮屈になるほどの小ささで、小屋というより物置然としています。ま、こういうのが、独特の雰囲気をつくりだしていて良いのですけどね。
浴槽はパウシベツ川の渓流の岸にひとつ設けられています。浴槽の周囲は岩で組まれ、底には玉砂利が敷かれています。浴槽の川側には丸太が組まれて渡され、ロープでつながれた桶が置かれています。お湯は無色透明で、微かに塩味が感じられるもののほぼ無味といって差し支えなく、ちょっと燻したような匂いが弱く香ります。浴槽の隣には木材で組まれたコンクリートでできた源泉の貯湯槽があり、モウモウと湯気を上げています。熱湯の源泉は一旦ここにストックされ、冷たく清らかな湧水とブレンドし湯温を調整してから浴槽へと注がれます。

 
左:源泉の貯湯槽を上から覗き込んだ様子
右:湯船のお湯は41.8℃。ちょうどよい湯加減でした


こちらには2度訪れていますが、いずれも先客や後客の姿が必ず2人(組)は見られ、いかにこの露天風呂が愛されているかがよくわかりました。今年の初夏に訪問した際にも、このお風呂によく来るというご夫婦と、網走から来たという男性一人がいらっしゃいました。温泉は温かいため蛇が寄ってくるのですが、ご夫婦の奥さんはその抜け殻を見つけては手にとって「金運が良くなる」と喜んで持ち帰っていました。一方、網走の方とは初対面にもかかわらず1時間近くも四方山話に華をさかせてしまいました。自然の中の温泉は人の心を解きほぐし、互いをフレンドリーにさせてくれるものです。
また一昨年(07年)の1月に訪問したときには、ちょうど日が暮れて真っ暗になってしまったのですが、ここには照明がないため、車のヘッドライトを川の対岸に当て、雪に光を反射させて照明代わりにしました。この時は若いカップルが入ってきて、仲睦まじく湯浴みを楽しんでいました。

この「からまつの湯」は元々営林署の職員によって作られ、その後有志の方によって現在の形になったようなのですが、登別の秘湯「Fの湯」や、撤去されてしまった夕張の「日吉の湯」のように、ここも撤去されるかどうかの瀬戸際に立たされているようです。
駐車場から見た「からまつの湯」の様子を07年1月と今年(09年)6月で比較してみてみますと、07年には鼻の穴の大きな人が指差しながら「水着禁止ダゾー!!」と言っている絵が描かれた看板が立てられていますが、今年はそれが撤去されています。この他にも07年の時点では脱衣小屋などあちらこちらに「水着禁止」と書かれた札が貼られていましたが、今は無くなっています。全体的に今年の方がひっそりとしているように思われました(なぜ水着禁止に固執するのかはわかりません)。

 
左:07年1月の様子
右:今年(09年)6月の様子
左の画像は夜なので見づらいのですが、07年にはあった絵看板などが今年は撤去されています


私が然別峡の野湯めぐりをしているときに出会った北海道の野湯の事情通に話を伺ったところ、「からまつの湯」周辺は営林署管轄の場所なのに個人が勝手に温泉や小屋などの「人工物」を設置・管理していること、この温泉に関して何らかの苦情が町に寄せられたこと、この温泉のまわりで勝手にキャンプ等をする輩が現れるなど厄介な事件(火災等)が起きそうな兆候が出てきたので営林署や中標津町が神経を尖らせたこと、といった理由でお役所が「からまつの湯」の存在を良く思っていないようなのです。このためここの管理者が町からのお達しに従う形で、とりあえず目立つようなものを取り払った、その結果、絵看板やその他の表示類が撤去されたようです。縦割り行政のお蔭なのか、脱衣小屋や浴槽の撤去までには至っていませんが、確かに国有林で勝手に「人工物」を設けることは違反になりますので、この温泉が役所で懸案事項として顕在化してしまった以上、近い将来に悉く撤去される可能性も否定できません。

原生林に囲まれた静かな環境、渓流のせせらぎと小枝にとまる鳥たちのさえずりを耳にしながら、清冽なお湯にじっくり浸かると、日々の疲れやこの世の憂さは一気に吹き飛んでしまいます。もしかしたら消えてしまうかもしれないこの温泉、早いうちに訪れてみてはいかがでしょうか。



野湯につき泉質不明

北海道標津郡中標津町養老牛温泉 地図

通年(24時間)入浴可能
無料

私の好み:★★★
コメント (2)
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広河原温泉 湯ノ沢間欠泉 湯の華

2009年12月03日 | 山形県
※残念ながら閉館しました。



温泉大国の日本には間歇泉がいくつも存在しています。代表的なものとしては鬼首の吹上間欠泉、上諏訪の諏訪間欠泉、別府の龍巻地獄間欠泉などがあり、いずれも観光名所として多くの人を集めていますが、これらは地中のお湯が沸騰することによって発生する圧力で噴き上げる間欠沸騰泉と呼ばれるもので、その性質上お湯が高温であるため温泉といえども入浴することができず、温泉ファンはお湯に入りたい欲求を抑え、指をくわえて噴き上がるお湯を眺めている他ありません。しかし、山形県飯豊町の南端、飯豊山系の山々と栂峰の間に聳える飯森山の山中には、高々とお湯を噴き上げる間欠泉のお湯の中にじっくりと浸かることができる温泉があります。日本には多くの温泉がありますが、間歇泉に直接入ることができるのは唯一ここだけではないでしょうか。

国道113号線を手ノ子付近で白川ダム方向へ折れ、県道4号線に入ります。道なりに走って白川ダムを通り過ぎ、県道8号線との重複区間に入ってしばらくすると「湯ノ沢間欠泉 湯の華」の看板が現れますので、ここから先は随所に立てられている案内看板に従って進んでください。やがて道は広河原集落に差し掛かりますが、この辺りから道は狭隘になり、集落を抜けると舗装路面が終わって、ここから目的地までの約7キロはダートが続きます。この道が結構な悪路で、私もある程度は覚悟していましたが、凸凹だらけの路面、行き違いできる箇所の少なさ、沢の洗い越し、崩壊して修繕した跡がある路肩など、ドライバーの肝を冷やすようなポイントばかりで、さすがに舌を巻いてしまいました。道の終着点が目的地です。山ばかりだった視界に建物が見えてくるので、そこが終点だとわかるとハンドルを握る手もほっとします。

 
左:広河原集落へ入るところにある案内看板。ここから現地まで15km
右:林道の始点。ここから7km

 
左:ダートの林道を進みます
右:ところどころに、残りあと何キロかを示す看板が立っています。ここはあと4km


ここがゴールです。建物の手前には温泉のカルシウム分によって形成された石灰丘が広がっています


広河原温泉の歴史は古く、明治43(1910)年には療養泉としての検査を東京衛生試験所に依頼した記録が残っているそうですが、その頃は間欠泉ではなく、一般的な温泉のように普通に自然湧出していたんだそうです。しばらく経って、高温の温泉を得るため1972年に当地を88mボーリングしましたが、湧いたお湯からは期待した温度が得られなかったこと、また山奥深く交通が不便で冬季は閉鎖せざるをえないことから、それ以上の温泉開発は進まず、放置されてしまいました。しかし最近になってその温泉が間欠泉になっていることがわかって俄然注目を浴びるようになり、当地は町によって簡易ながら無料の露天風呂として整備され、そして2005年には更に整備が進んで宿泊施設「湯の華」が開業して現在に至っています。余談ですが、当地までの林道は乗用車がやっと通れるほどの狭さ(特に橋)なのに、「湯の華」建築に際して用いたはずの重機をどうやって搬入したのかが不思議でなりません。

館内はペンションのアットホームさと旅館の奥ゆかしさを足して2で割ったような清潔感のある佇まいで、人里離れた山奥とは思えない立派な建物です。玄関を入って右手にある浴室はもちろん男女別で、3~4人サイズの内湯の浴槽には黄土色に濁ったお湯が注がれています。お湯は源泉温度が低いため加温されています。
内湯から外へ出ると、ここの目玉である露天風呂で、男女混浴、真ん中に間歇泉が位置しています。私が訪問した時はちょうど間歇泉が噴き上げている最中で、お風呂には先客が2人いらっしゃり、一人は栃木県の那須から、もう一人は神奈川県の横須賀から来たんだそうです。私を含めた3人は皆温泉好きで、どこの温泉が良いとか印象に残ったとか、間歇泉のように止め処も無く出てくる温泉談義に花が咲きました。横須賀の方のお仕事は某自動車メーカーのディーラーの営業なんだそうで、携帯の電波が全く届かないこの場所は仕事から隔絶することができ、その上間歇泉を見ながら湯浴みできるのだから天国のようだと仰っていました。なお、ここは山深いため電気が通っておらず、宿で使う電気は露天風呂脇に設置されたエンジン式の自家発電機で起こしているため、入浴中に発電機のエンジン音がちょっと気になるのが玉に瑕かもしれません。

間歇泉が噴き上がる高さは2メートル弱で、それより低くなることも多く、私は目撃していませんが、時折7メートル近くまで上がることもあるそうです。噴出時間は全く不規則です。長い時間吹き上がることもあれば、全然吹き上がらない時もあり、かと思えば小刻みに噴出と小休止を繰り返すこともあります。上述の鬼首・諏訪・別府の間歇泉はお湯の沸騰により噴き上がる仕組みでしたが、この広河原温泉・湯ノ沢間欠泉は地中の炭酸ガスの圧力によって噴き上がる間欠泡沸泉というタイプのもので、なぜ噴出の高さや時間が不規則になるのかは解明されていないようですが、少なくとも沸騰による間歇泉よりは、噴き上げに要する炭酸ガス圧力のかかり方やお湯の供給に微妙なバランスが要求されるらしく、それが不規則さをもたらしているのかもしれません。

上述のようにこの間歇泉の原動力は炭酸ガスであり、熱エネルギーが噴出に介することはないので、噴き上がるお湯の温度は低めです。実際にここの露天風呂は35℃前後のかなりぬるいお湯で、夏以外に入るのはちょっとつらいかもしれません。そのかわり長湯できるので、間歇泉の動向をじっくり観察したい人にはもってこいです。温泉談義に華を咲かせた私たちは1時間以上入浴し続けていましたが、全く湯疲れしませんでした。
赤みを帯びた黄土色に濁るお湯は、湯上りの体をタオルで拭くとタオルが黄色く着色するほど濃く、口に含むと金気味に塩味、甘み、そして炭酸味が混ざった複雑な味が感じられ、肌をさするとキシキシとした浴感が得られます。またカルシウム分が多いことも特徴の一つで、間歇泉の下流には50m四方に及ぶ石灰丘が広がっており、独特の景観を作り出しています。ついでに申し上げると、東北の山中の水辺で、噴き上がるガスやお湯に炭酸成分が含まれるということは、アブが沢山寄ってくることを意味しています(アブは動物が呼吸して出す炭酸ガスを感知するので)。私の訪問時は小雨が降っていたのでアブの被害には遭いませんでしたが、真夏で晴天でしたらアブに襲われることを覚悟せねばならないと思われます。 

さて、この広河原温泉・湯ノ沢間欠泉ですが、数年後には間歇泉が止まってしまうという研究が発表されています。噴き上がる周期を計測したところ、年を追うごとに徐々に短くなっており、これは地中の炭酸ガスの力が優勢で、温泉水の供給が不足気味になっていることが考えられるそうです。現状のペースでいけば2015年にはガス圧が強くなりすぎて間歇ではなく噴きっぱなしになり、2017年には温泉水の供給が欠乏して噴出が止まってしまうかもしれないという予測が出されています(※)

人里から遠く離れた人間生活とは無縁の地で、間歇泉という大自然の不思議と一体になりながら、温泉という地球の恵みを楽しむことができる、極めて稀有な秘湯です。本当に間歇が止まってしまうのか定かではありませんが、もし本当なら皆さん早めに訪れたほうがいいかもしれません。間歇泉に入れる温泉なんて他にないのですから。


内湯の様子


間歇泉が吹き上げている状態


間歇泉の前で湯浴みする私。このときの噴き上げ高さはちょっと低めです


①(間歇泉)ナトリウム・カルシウム-炭酸水素塩・塩化物泉 35.1℃ pH6.6 蒸発残留2325mg/kg
②(2号泉)塩化物冷鉱泉 23.3℃ pH不明 蒸発残留902.5mg/kg

山形県西置賜郡飯豊町大字広河原字湯ノ沢448-2 地図
(衛星電話・宿直通)090-2275-2104
(冬季期間)0238-78-0045
ホームページ

※残念ながら閉館しました。
9:00~18:00
11月中旬~4月末は冬季休業
600円
ドライヤー・シャンプーあり

私の好み:★★★

(※)石井栄一「間歇泉の発生と消滅のメカニズム」(大沢信二編『温泉科学の新展開』ナカニシヤ出版)
コメント (4)
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田代元湯

2009年12月01日 | 青森県
前回田代新湯を紹介したので、今回はそのご近所にある有名な田代元湯を取り上げます。温泉ファンによって語りつくされているといっても過言ではない青森県きっての野湯ですので、ここでは余計な説明は省いて、現状報告を中心にお伝えしたいと思います。

まず現地までのルートです。ご存知の方は読み飛ばしてください。なお、田代元湯までのルートは現在建設中の駒込ダム工事現場となっており、工事の進捗に伴いルートの変更(道路のつけかえ)も予想されるため、あくまで今年(2009年)11月現在のルートを箇条書きに述べていきます。

・青森市街から県道40号線を登り、銅像茶屋を通り過ぎて約1.5キロで左折して林道に入る(このポイントには特に地名を記した標識はないが、工事車両の出入り口であることを示す看板が立っているので、それが目印になる)
・しばらくダートを進むと右に工事中の舗装路が平行する。道なりに砂利道を下っていくと、やがて舗装路と合流(工事関係者以外の進入を禁止する看板が立っているが、気にせず進入)。
・更に坂道を下ると右手に「止まれ」の標識が立つ道が分かれるので、ここを鋭角に右折。駒込川の川上に向かって東進。
・今度は十字路にぶつかるので、ここを左折。道なりに進むと、下り坂の左手に「元湯↓」と書かれた小さな看板が立っている。ここからは徒歩になるので、車は坂をちょっと戻った駐車スペースにとめておく(この道は工事のダンプの往来があるので路駐すると迷惑になる)。
 
 この看板が目印。ここから獣道を歩く。

・看板のところからは法面の下へロープが繋がれているので、それを伝って法面を下り、下りきったら今度はそこから伸びる獣道を歩く。藪に隠れて見えにくいのだが、ベニヤ板に書かれた道標もあるので、それで進むべき方向をよく確認する。
  
 こんな感じでベニヤ板の道標がある

・獣道を歩いて坂を下ってゆくと、沢を渡るポイントに到達。沢に足場板が架かっているのでその上を渡るのだが、雪の影響か湾曲しており、その上滑りやすく足元が非常に不安定なので、注意を要する(私も足を滑らせ危うく沢へ落ちるところでした)。
 
 足場板で沢を渡る。足元が滑りやすいので注意

・ここから先は駒込川の岸に沿って歩く。足元が滑りやすい箇所が多いのだが、掴まりやすい位置にロープが張られているので、これに掴まって進めば問題ない。
 

・先ほどの沢を渡って数百メートルで最後の関門となるボロボロの吊り橋を渡る。渡り板が踏み抜かれた箇所があるので、念のため梁の上に歩を合わせて進むとよいかと思われる。
 
 錆びてボロボロの吊り橋。外見だけでも渡るのを躊躇させられるのに「万一のことがあっても責任は負いかねます」なんて看板を見たら、余計不安になる

・吊り橋を渡り終えると、木造建物の脇を通る。その奥にお風呂がある。車をおりて(看板のところから)ここまで約12~5分。
 
 橋を渡りきったところには「元湯吊橋完成」の石碑が転がっており、その日付は昭和35年6月8日とあった。そんな古い吊り橋なのか…。


他のサイトでも紹介されているように、かつてここは車で行くことができない秘湯の一軒宿「やまだ館」でした。明治期の悲劇である八甲田雪中行軍が途中で遭難しなければ、ここに辿り着いていたとも言われています。長らく営業が続けられてきましたが、1995年に廃業となって建物とお風呂が放置され、2003年から2007年にかけての雪で1棟を残して建物が悉く崩壊し、お風呂だけが野湯状態で生き残って今に至っているというわけです。
吊り橋を渡って脇を通った木造建物が、唯一倒壊せず残った「やまだ館」の遺構で、外壁にはちゃんと「やまだ館」と書き記されています。この建物は今では田代元湯を愛する有志の人の倉庫として用いられているようです。


「やまだ館」唯一の遺構


浴槽の跡らしきもの


倒壊した宿の建物の跡


山の奥を見ると、はっきりとした形で別の建物が残っていました。あそこには何があるのでしょうか?


岩の露天風呂。藻が繁殖して不衛生だったので入浴断念


浴槽はいくつかありますが、かつて内湯があった場所は瓦礫で埋まって手がつけられない状態で、建物と川の間にある岩造りの露天風呂は常に藻の発生がひどく不衛生であるため(排水清掃が完全にできない造りになっている)、入浴できるのは実質的には1つ、建物の右奥にある長方形の浴槽のみといっていいでしょう。
訪問時は先人が清掃してくれてからまだ日が経っていないのか、運が良いことにお湯がとてもきれいな状態でしたが、いつもきれいとは限らず、清掃してから1週間ほどするとたちまち藻に覆われドブのような悪臭を放ち、とても入浴できる状態ではなくなります。この場合は浴槽の栓を抜いてお湯を空にし、近くにあるデッキブラシでゴシゴシ浴槽を清掃してからお湯を張りなおしてください。このため清掃した場合は入浴までに相当時間を要します。

薄い黄土色を帯びたお湯は微かに濁っているように見えますがほぼ透明(いわゆる貝汁濁りというもの)。キシキシとした浴感、弱いながら土類系と重曹系の匂い、そして芒硝系の味にほんのりとした甘みが感じられます。訪問日は湯温が熱めで、いくら掻き混ぜても45.6℃より下がらず、熱めのお湯にちょっと我慢しながらの入浴となりました。でも満足。ここまで来た甲斐がありました。実に良い湯です。

田代新湯の記事でも書きましたが、政治情勢や計画自体の変更がない限り、田代元湯は現在建設中の駒込ダムが完成する2018年度にはダム湖の底に沈みゆく運命にあります。宿が廃業となり、その後建物が崩壊して廃墟になってからも、お湯はそんな移ろいに左右されず絶え間なく湧き続け、そしてわざわざ難儀してここまでくる愛好者たちの心を魅了しつづけてきました。そんな温泉の歴史にも遂に幕が下ろされてしまうのでしょうか。歴史ある秘湯が消えてしまうのは非常に残念なことです(そんな感傷に浸ってしまって、冒頭で簡単な説明にとどめると書いておきながら、思わずつらつらと駄文を綴ってしまいました)


入浴できる浴槽。有志によって手入れされています


「亀の間」という札がさげられていました


湯口から絶え間なく源泉が注がれています


浴槽の湯温は45.6℃と結構熱め


湯口の上にある源泉溜まりのようなところを覗くと、そこからプクプクと泡が立ち上っていました。ここから湧いているのでしょうか。


硫化水素芒硝泉

青森県青森市駒込 地図 

24時間可能(積雪時は到達不可)
無料
マナーを守って入浴してください
往復の道のりについては自己責任で。

私の好み:★★★

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