温泉逍遥

思いつきで巡った各地の温泉(主に日帰り温泉)を写真と共に紹介します。取り上げるのは原則的に源泉掛け流しの温泉です。

華まき温泉

2009年12月10日 | 熊本県


人吉盆地の西北端に位置している日帰り入浴専門の浴場です。西人吉駅から田んぼの中を北上すること約2km、辺りは蛙の声があちこちから聞こえる長閑な田園風景が広がる一方で、背景には傾斜地の林が広がっており、この付近が盆地と山地の境界にあたることがわかります。ここまで来る道は狭いのですが、駐車場は広めにとられています。建物は正面向かって左から食事処兼休憩所・受付・男女別浴場・家族風呂の順に配されていて、家族風呂が設けられているのが九州らしいところです。

受付のおじさんに料金を支払ってお風呂へ。入口には人吉の温泉共通の暖簾がかかっています。浴室にはカランが3つ、そして黒光りする石板貼りの浴槽がひとつ。縁から絶え間なくお湯が溢れ出ており、そのオーバーフローする流路は温泉成分の析出で茶色く変色しています。

浴槽に注がれるお湯は無色透明で、湯口でタマゴの匂いと微かに金気の匂いが香り、口に含むと僅かに金気と重曹の味が感じられます。ここのお湯の特徴はその泡付きの凄さにあります。お湯に入ると忽ち全身気泡に包まれ、肌が泡で白く見えるほどです。何度拭っても付着してくる泡に、私は興奮してしまいました。有り余る泡は体に付着するだけでなく、湯面でパチパチ弾けています。これだけの泡は、このお湯がいかに新鮮であるかを証明しているに他ありません。

分析表を見ると遊離炭酸ガスが計測されていないので、このガスはおそらく窒素か何かかと思われますが、激しい泡つきの効果、そして重曹泉というお湯自体が持つ泉質により、肌触りがツルツルスベスベしてとても気持ちよく、お湯も加温されているもののぬるめに設定されているのでつい長湯してしまい、湯船に浸かっていると心地よさを通り越して意識がまどろみ、眠くなって夢の世界へと導かれてしまいそうでした。重曹泉らしく湯上りさっぱり、爽快です。ここのお湯の泡付きは是非多くの方に体験していただきたいものです。


気泡にまみれるお湯が注がれる浴槽。窓の外には田んぼと山が広がる長閑な景色


見にくいかと思いますが、腕に気泡がついている様子です


ナトリウム-炭酸水素塩泉
34.1℃(加温) pH8.36 動力揚湯(湧出量測定不可・掘削深度419m) 総成分量1558mg/kg

JR肥薩線・西人吉駅 徒歩25分(約2km)
熊本県人吉市下原田町嵯峨里1518 地図
0966-22-6981

10:00~22:30 無休
300円

私の好み:★★★
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人吉温泉 堤温泉

2009年12月09日 | 熊本県


人吉市街には鄙びた温泉浴場がいくつかありますが、ここもその1軒。球磨焼酎「繊月」の蔵元に隣接し、表通りに面しているので、どなたでも見つけられる好立地です。
破風のある三角屋根の建物は壁の黒ずみから想像するに相当の年代物でしょう。中に入るとすぐに番台がありますが、私の訪問時だけなのか、あるいは常時なのか、無人でした。脱衣所もおそらく建築当時そのままの雰囲気が保たれているのでしょう、とっても昭和チックです。室内を見回すと、鶴亀温泉で見かけた昭和24年の「入浴者の皆様え」という心得書きが、ここにも掲示されているではありませんか。ということは少なくとも戦後まもなくから今に至るまで同じスタイルを維持しているものと思われます。


鶴亀温泉と同じ心得書きが掲示されていました。鶴亀では第1項の混浴年齢制限が7歳に訂正されていましたが、ここでは訂正されておらず、12歳となっています。12歳といえば小学6年生。随分高めの設定ですね。


浴室はガラス窓で囲まれているので、日の光がたっぷり降り注いでいます。浴室の中央に横長の浴槽がひとつ据えられ、中で左右に二分されており、男湯の場合は左側に湯口が設けられていました。左側の槽は一般的な深さで丁度良い湯加減、右側は浅めで湯温もぬるめ。面白いのが浴槽のデザインで、一見するとただのタイル貼りなのですが、底を見てみると、左側の底には青い色のモミジ形、右側の底には赤い色のモミジ形の意匠のタイルが埋め込まれており、底というちょっと隠れたところに趣向を凝らす当時の人のセンスの良さが窺えます。服で言えば裏地にこだわるお洒落みたいなものですね。

湯口からは泡を立ててお湯が勢いよく注がれており、薄い紅茶色を帯びて透明、微かな金気の味、そしてモールに匂いと微かな金気の匂いが感じられます。ツルツルスベスベのとても気持ちよい浴感で、特に湯口のある左側は気泡が多くてちょっと白濁しているかのようにも見え、この泡が全身を包んでくれるので、何ともいえない心地よさです。ところがこの泡が実は曲者で、私が泡にまみれて夢見心地でお湯につかっていると、常連のお爺さんがやってきて、塩ビパイプの湯口の向きをグイっと変えて、今まで湯面に対して斜めに注がれていたものを垂直にして湯口を湯面下に潜らせると、泡の発生はピタっと止んで、私を包んでいた泡もやがて消えてゆきました。つまり泡は源泉由来ではなく、湯口での注ぎ方や勢いによって発生していたんですね。それでもお湯自体が持つ良さに変わりは無く、いつまでもこのお湯に浸かっていたい気分が手伝って、そのお爺さんと初対面にもかかわらず1時間近くにわたって、湯船に入りながら人生論についてお話しました(というか講釈を受けました)。お爺さん曰く、年をとった今の楽しみは焼酎と温泉しかないとのこと。どうか、このお爺さんがいつまでもこのお湯を楽しむことができますよう、心から願っています。


浴室内に掲示されている昭和33年製作の適応症と含有成分のリスト


浴槽。中央の仕切りを境に、右側は浅くなっています。掛け湯用でしょうね。


湯口。この向きだと泡がたくさん発生するのですが、垂直に向きを変えてしまうと泡が途端に止んでしまいます


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
49.9℃ pH7.52 180L/min 成分総計2420mg/kg
源泉温度が高いため、夏約30%、冬20%程度地下水を加水

JR肥薩線・人吉駅 徒歩15分(1.3km)
熊本県人吉市土手町40 地図

5:00~8:00、10:00~23:00(8:00~10:00は清掃のため入浴不可)
200円

私の好み:★★
コメント (3)
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人吉温泉 元湯

2009年12月08日 | 熊本県


人吉に数多く存在する温泉浴場のうち、今回取り上げる「元湯」は、市街地からはちょっと離れているものの、市役所の(道路を挟んだ)向かいにあって、人吉城の至近に位置しており、内部も綺麗に管理されているので、最も観光客向きであると言えるでしょう。

この浴場は開業が昭和9年となかなかの歴史を有しており、さすがに建て替えられていて当時の建物ではないかと思いますが、それでもどっしりとしたファサードの玄関周りといい、シンプルさを貫き通している内部構成といい、古き良き日本建築の赴きある佇まいが随所から見て取れます(そういう点でも観光客向きです)。

玄関を入るとすぐに番台があり、おばちゃんに料金を支払います。脱衣所は公衆浴場の標準的な広さですが、天井が高く明るいので、実際の面積以上の広さが感じられます。壁には東西共同浴場の温泉番付が貼られており、そこには「人吉温泉・元湯」の文字が。先客のおじさんがこれを番台のおばちゃんに指摘すると、おばちゃんは「人吉には温泉が沢山あるけれども、特にここは質が良いらしいんですよ」と自慢げに答えていました。

人吉の他の公衆浴場と同様、浴室は脱衣所から数段下りたところにあります。重厚な外観や明るい脱衣所から想像するに、さぞ広いお風呂かと思いきや、浴槽は浴室の真ん中にポツンと、黒光りする4人サイズの小さめのものがあるのみ。これを単に小さいと受け止めるか、奥ゆかしさと捉えるかは、入浴者の感覚次第でしょう。でもそのお蔭で浴槽のお湯は常に新鮮さが保たれ、1時間から1時間20分で全てのお湯が入れ替わるそうです。湯口からは勢いよくお湯が注がれ、浴槽の縁からふんだんにオーバーフローしています。小さくまとまっているからこその味わいや風格、メリットと言えそうです。

お湯は無色透明、湯口には飲泉に関する適応症の表も掲示されているので、手で掬って飲んでみると、ほぼ無味で飲みやすいのですが、よくよく味わうと僅かに舌の奥に苦味のようなものが残るようにも感じられました。お湯が喉を通った後は、モールの匂いと微かな硫化水素のような匂いが鼻へ突きぬけます。つるつるすべすべの心地よい浴感で、小さな湯華もちらほら浮遊しています。またお湯に浸かってじっとしていると、全身のうぶ毛に気泡がびっしり付着します。こんな良い湯に200円で入れる人吉の人が羨ましく思いました。
(なお、最近まで12時から15時までは清掃タイムでしたが、今ではそれが無くなり、通しで営業しているようです)




ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
48.1℃ pH8.0 121L/min 成分総計1085mg/kg

熊本県人吉市麓町9 地図

6:00~22:00 元旦のみ休業
200円
ドライヤー20円

私の好み:★★
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人吉温泉 鶴亀温泉

2009年12月07日 | 熊本県


熊本県球磨地方の人吉盆地は、至るところに風情ある温泉の共同浴場が存在している、温泉ファンにとって垂涎の聖地です。当ブログではこれまで熊本県の温泉を取り上げてこなかったので、今日を皮切りに次々と紹介させていただく所存です。まずは人吉盆地の中でも私が特に気に入っている鶴亀温泉から参ります。

数ある人吉の温泉浴場の中でも、ここ鶴亀温泉は最も鄙びた雰囲気を漂わしている浴場ではないでしょうか。戦前に建てられ、一部は手が入れられているものの、ほぼ当時のままの姿を残している年季の入った湯屋は、表通りから奥に入った路地に面しており、あまりに地味で民家と変わり映えしないため、気をつけて探さないと見過ごしてしまうこと必至です。
玄関入ってすぐのところに番台があり、お婆ちゃんが愛想よく対応してくれます。民家の広間のような脱衣所を見回すと、昭和の香りがプンプン。まるでここだけ時計の針が止まってしまったかのようです。棚は無いので、荷物や衣類は籠に入れます。浴室入口の上には旧かな遣いで書かれた「入浴者の皆様え」と題する心得書きが掲示されており、その日付を見ると昭和24年となっていました。

 
左:脱衣所から浴室を眺める
右:浴室入口上に掲げられた心得書き。8項には「痰壷」という語句がでてきますが、結核の恐怖が薄らいだ今となっては完全に死語ですね。また1項では混浴させてはいけない年齢が「七才」からと訂正されていますが、訂正以前は何歳がリミットだったのでしょうか。

 
いずれもかなりレトロです
左:症状にある「カタール(カタル)」とは、中東の国のことではなく、炎症を起こして粘膜の分泌が盛んになる症状一般をさす医学用語(ドイツ語)です。風邪をひいたときの鼻水や咳、喉の痛みなどはその典型ですね。
右:今でもこの映画館は存在しているのでしょうか


浴室は脱衣所から数段下りたところにあり、その中央にコンクリート打ちっぱなしの浴槽が据えられ、その底はこの浴場の歴史を物語るかのように、温泉成分によって黒光りしています。浴槽の手前は浅めで、湯口のある奥が一般的な深さになっています。また湯口は恵比寿様の顔をした意匠で、その口からお湯が吐き出されるような形になっています。湯口が奥にあって、その下流(つまり手前側)が浅くなっており、カランが殆ど無いことを考えると、手前の浅い部分は掛け湯するために桶で汲み上げるためのスペースなのでしょう。浅い部分の両角からお湯がオーバーフローしています。

人吉の温泉はモール泉的な特徴を顕すことが多いのですが、ここもその典型で、烏龍茶のような色を帯びて透明、モール泉の匂いに硫化水素っぽい匂い(アンモニアにも似た匂い)が混ざり合って香ります。味はほぼ無味ですが、喉をすぅっと通って飲みやすいお湯です。ツルツルスベスベとした浴感がとても気持ちよく、お湯の中には綿埃状の湯の華が舞っています。

私の訪問時には、他にお客さんがおらず、独り占めしてこのお湯を堪能しました。浴室内はとても静かで、湯口から浴槽へ注がれるお湯の音だけが木霊しており、その音に耳を澄まして、当たりの優しいモールのお湯に浸かっていると、この浴場が歩んできた歴史と一体になれるかのような心地をおぼえました。
この温泉は数年前に一度源泉涸れを起こしたそうですが、ボーリングし直して復活を成し遂げ、現在に至っています。これからも昔ながらの姿を留めていってほしいものです。(一部ネット上の情報では、もう鶴亀温泉は廃業したという話が出ていますが、少なくとも09年10月時点ではちゃんと営業していました)

 
左:浴槽全景
右:恵比寿様の湯口です


ナトリウム-炭酸水素塩・塩化物泉
53.9℃ pH7.7 160L/min 成分総計2.18g/kg

JR肥薩線・人吉駅 徒歩10分(800m)
熊本県人吉市瓦屋町1120-6 地図

14:00~21:00 第2・第4月曜休業
300円

私の好み:★★★
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姫川温泉 ホテル朝日荘

2009年12月06日 | 長野県


フォッサマグナの西端、糸魚川静岡構造線に沿って北上して日本海に注ぐ姫川は、古から翡翠を産することで有名ですが、1995年7月11日に発生した水害によって流域は大きな被害を蒙り、界隈の温泉もその例外ではなく、なかでも新潟県側にあった蒲原温泉は建物の一部を残して壊滅してしまいました(源泉は残っており、今では野湯になっているようです)。
川を挟んで新潟・長野両県に跨る姫川温泉もやはり被害を受け、温泉街で軒を並べていた民家が全半壊となってしまいました。温泉街を形成する宿は長野県側の旅館2軒と新潟県側の旅館1軒の計3軒のみ。今回取り上げる「ホテル朝日荘」は長野県側にある2軒のうち平岩駅側に位置する宿です。

宿の軒数は少ないものの湯量は豊富のようで、宿の前の崖上に設置された源泉貯湯槽からは、来客者に見せ付けるかのように源泉から引いたお湯を滝のように流下させており、その量も結構多くて、いますぐにでもそのお湯を浴びてみたくなるほどです。


源泉のお湯を滝のように垂れ流しています。余剰分でしょうか。


河岸に這うように建てられたこの宿の内部通路は入りくんでおり、案内板に従ってくねくね曲がったり階段を下りたりするうちに大浴場へ到着。脱衣所は広く、河岸に建設したことを証明するかのように、岩盤が剥き出しになって壁の一部となっていました。でも天井が狭いからか建物の老朽化のためか、広さの割にちょっと窮屈さを感じたことは否めません。
浴室へ出ると、その途端、やさしいタマゴのような硫黄臭が香り、おのずとお湯への期待が高まります。2フロア分ある高い天井は透光性の材質を用いているため、浴室内はとても明るく、また元々ここが川の崖だったころから存在していると思われる大きな岩がせり出していて、独特の景観をつくりだしています。大きな岩に目を奪われていると、その向こう側にある扉へ、体をタオルで巻いた人が入っていくのが視界に入りました。それを見てようやく気づいたのですが、あの人は女性、つまりここは混浴で、浴室を中央にして男女の脱衣所がシンメトリに設けられており、大きな岩が実質的な男女の領域の境界になっているようです。
崖の上からはパイプを通ってきたお湯が打たせ湯のようにドボドボと勢いよく注がれ、それに押し出されて、曲線を描く浴槽からは止まることなくオーバーフローしています。

 
左:大きな岩がせり出した大浴場は混浴
右:打たせ湯のようにお湯が上から落とされています


かつて源泉が通っていたと思われるパイプの切断面。析出物がスケールとなって内部に詰まってしまっています。これでは流れが悪くなるのも当然


お湯は無色透明、微かな塩味と微かな甘み、そして弱い炭酸味と弱いタマゴ味が感じられ、上述のようにタマゴの匂いが香ります。お湯の中では明るい灰色で羽根のような形状の湯の華がたくさん舞っています。分析表を見ると重曹が含まれているようですが、その割には少々引っ掛かる浴感がありました。カランは男側と女側それぞれ3ヶ所あり、硫黄分の影響で金具が真っ黒に変色していました。

お風呂はこの他に露天風呂もあります。露天風呂に入るには一旦着衣してからロビーの方へ戻り、専用のドアから表に出て、サンダルを履き替えて階段で屋上へ上がる必要があります。こちらはちゃんと男女別になっており、木製で5~6人サイズの浴槽が据えられています。こちらのお湯ももちろん掛け流し。屋上だけあって見晴らしがよく、姫川の流れや大糸線の線路が一望できます。

 


含硫黄-ナトリウム-塩化物・炭酸水素塩泉(硫化水素型)
64.5℃ pH6.3 掘削自噴(量不明) 成分総計1958mg/kg

JR大糸線・平岩駅 徒歩5分(490m)
長野県北安曇郡小谷村姫川温泉 地図
0255-57-2301
ホームページ

立ち寄り可能時間はお問い合わせ下さい
600円
シャンプー類あり

私の好み:★★


コメント (4)
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