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トルコ屈指の大都市であるブルサの近郊には、チェキルゲという温泉街があり、温泉入浴の専門施設が数軒営業していますので、各施設のお風呂をハシゴすることにしました。1軒目はチェキルゲ地区の中心部に位置している「エスキ・カプルジャ(Eski Kaplıca)」です。屋根に戴く大きなドームが印象的です。Eskiはトルコ語で古いという意味ですから、「エスキ・カプルジャ」を直訳すると「旧温泉」になりますが、その名の通りブルサでは最も古い温泉なんだそうでして、6世紀に東ローマ帝国皇帝ユスティニアヌス1世の皇后であるテオドラが、この地に浴場を建設したのが歴史のはじまりであり、その後14世紀に、オスマン帝国のムラト1世が跡地に浴場を建てて・・・中世史以前の知識に乏しい私の付け焼刃的な情報ではうまく説明できないのですが、とにかく数百年の歴史を有する古い浴場なんだそうです。
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「エスキ・カプルジャ」は高級リゾートホテル「ケルヴァンサライ・テルマル(Kervansaray Termal)」の付帯施設として営業しており、浴場棟はホテルの敷地内に含まれています。いずれはこんなホテルでゆっくり寛げるような身分になりたいものだ…。
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浴場は男湯・女湯・家族風呂という3種類に分かれており、1階が家族風呂、2階の東側が女湯、そして同じく2階の北側(ホテルやプール側)が男湯の入口となっていました。テラスを歩いて男湯へと向かいます。
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入口のすぐ左側に受付カウンターがあるので、そこで料金を先払いしますと、隣の中央ホールへ進むように指示されます。総大理石造りで格調高いこの中央ホールは圧巻。天井が高いドームとなっており、中央には泉が設けられ、その周囲には湯上がりの休憩用のクッション付きデッキチェアーが置かれています。
このホールの窓側には更衣要の個室が並んでおり、私がホールに足を踏み入れると、白い服を着た三助さんが個室へと案内してくれました。多客時に備えて階段をあがった2階にも更衣個室が設けられているようですが、訪問時はお客さんが少なかったためか、1階の個室に通されました。
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こちらが個室の内部。小窓から日が差し込む明るい室内は3畳ほどの広さがあり、リネン類の無いベッドが1台据えられている他、セキュリティーボックスなどが備え付けられていました。ベッドは湯上がりに寝っ転がって体を休めるためのものでしょうね。大理石の床は床暖房で暖められていました。宿泊できちゃいそうな広さなのですが、ここを着替えるためだけに一人で占用できちゃうんですから、なんとも贅沢です。
入室と同時に三助さんがベッドの上へ一枚のチェック柄の長い布を置いてくれました。これは入浴の際に使う腰巻きです。バスタオルで腰を巻くのと同じ要領で使えばOK。バスタオルよりも薄いので、キュッときつく縛りつけることができます。この腰巻きを使用した入浴方法こそトルコの伝統的スタイルですから、私は現地の文化を体感すべく、腰巻きで入浴することにしました。腰巻きの下にはなにも着けませんから、もし腰巻きが不安ならば、水着着用でも構いません。
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腰巻きを装着して、室内に備え付けのサンダルに履き替えたら、入浴の用意が完了です。個室を出ますと、三助さんが個室を施錠し、その鍵を私に渡してくれました。ホールをを突き抜けて、目立たぬ木戸を開けて浴場へ。
入浴ゾーンは3区画に分かれており、まず立ち入ることになるのが上画像の洗い場ゾーンです。ライトグレーとホワイトの2色基調となっている総大理石の室内中央には、小さな噴水が水を上げており、その周りを、これまた大理石の桶が置かれた8箇所の洗い場が囲っています。各洗い場には真鍮の水栓が設けられていて、そこから吐出されるお湯は温泉でした。2つの水栓に跨って掛けられている桶は、銅と思しき金属製です。建物から桶まで、浴場全体から小さな備品に至るまで、浴室の全てが日本の温泉では見られない光景であり、優雅で装飾性の高い温泉文化に接して我が心は踊りっぱなしです。
なお、この洗い場ゾーンの右側には台が据えられたマッサージ施術ゾーンがあるのですが、訪問時は他のお客さんが実際に施術を受けていらしゃったので、そちらについては画像を撮っていません。
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洗い場の奥が入浴ゾーン。青く澄み切った湯船が白い大理石の浴室に映えており、その美しさには息を呑まずにいられません。
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ドーム天井のてっぺんは湯気抜きと明かり採りを兼ねて穴が開いており、湯気を通して優しく円やかになった陽光が、真円の浴槽へ穏やかに降り注いでいます。槽の直径は目測で約8メートルで、1.5メートル前後の深さがあるのですが、槽内の縁には2段のステップが設けられていますから、好みの深さのステップに腰掛けて湯浴みをすることもできます。
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浴槽の温泉は獅子の湯口から勢い良く吐出されており、先客はここで打たせ湯を楽しんでいらっしゃいました。画像をご覧になればお分かりいただけるように、浴槽の容量はかなり大きいのですが、投入量はそれに十分見合っており、槽内のお湯は実にクリアで、縁からザブザブと途絶えることなくお湯が溢れ出ていました。なお湯口では体感で42℃前後なのですが、湯船は38℃ほどとややぬるめです。お湯は無色透明で、ほぼ無味無臭、特にこれといった知覚的特徴はありませんが、優しいフィーリングの中に僅かに引っかかる感触が伴っており、ほんのり石膏感が含まれているようでした。
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この入浴ゾーンにも洗い場があり、円形の壁に沿って12箇所の洗い場が浴槽を囲んでいました。真鍮の水栓を開けて石造りの桶にお湯を溜め、金属の桶でお湯を掬って掛け湯します。湯船に入る前には必ずしっかりと掛け湯しましょう。
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実に気持ち良いお風呂です。槽内からは大理石ならではの優しい肌触りが伝わってきました。お湯はとても綺麗であり、40℃をやや下回る長湯仕様ですので、いつまでも浸かっていたくなります。実に優雅な入浴タイム。束の間のセレブ気分を堪能させていただきました。
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お風呂に満足した後、腰巻きが濡れたままでホールへ戻りますと、三助さんがこちらへやってきて、腰巻きを新しいものに交換してくれると同時に、上画像のように、その場で数枚のバスタオルを私の全身に巻き付けてくれました。なかなか様になっているでしょ。なおこの画像は私を担当した三助さんが撮ってくれたもの。みなさん穏やかに微笑みながら手際よくサービスをこなしてくれます。
このタオル巻きによって湯上がりの熱放射が阻止され、いつまでも温浴効果が持続します。サウナほどではありませんが、それに準じたポカポカ感があり、この後しばらくデッキチェアーで横になっていたのですが、その間は発汗が止まりませんでした。
料金設定がかなり高いので、地元民の姿は見られず、完全に観光客か有産階級向けの施設となっているのですが、重厚感溢れる建物や大理石を多用した浴室の雰囲気は実に素晴らしいですし、そこへ掛け流されるお湯の質も良好。そして誰でも伝統的なトルコのハマムを体験できますから、ブルサを観光したならば訪問必須のポイントであると言えましょう。
GPS座標:N40.20244, E29.02333,
ブルサ市街からチェキルゲ方面行きのドルムシュ(乗り合いタクシー)に乗り、運転手に「ケルヴァンサライ・ホテル」と告げると、ホテル(浴場)前のロータリーで車を止めてくれる。もしくは地下鉄ブルサライのSirameşeler駅より徒歩15分(1.2km)
「ケルヴァンサライ・テルマル・ホテル」ホームページ
入浴のみ35リラ
(追加料金でアカスリやマッサージなど利用可能)
セーフティーボックス・ドライヤー備え付けあり。なお石鹸類やタオルなどは浴室入口の木戸脇にたくさん用意されているので、自由に手にとって良い。
私の好み:★★★