スピッツを大音響で聞きながら1時間ほど車を走らせたばあちゃんは、車を止めた。
「ここから見る初日の出が一番良かよ。
まだ陽が昇るまで3時間はあるねえ。
ばあちゃんは、一回寝たら8時間は起きないから、ばあちゃんを寝かせないように
二人でおもしろい話をしなさい。」
太郎が「アラビアンナイトですな。では、おれと街結のなれそめを話します。」
って、おいおい!誤解を招くような言い方はやめろよ。
オレたちのことを話すとなると、スマートやマスターは避けて通れない。
初めは、おもしろおかしく、あることないことしゃべっていた太郎が、だんだん今回の旅行のきっかけとなった核心の話を始める。
マスターのこと、千春さんのこと、荒木さんのこと、そして自分の気持ち。
「ばあちゃん!オレはまだまだガキなのかなあ。
かあちゃんのことより自分のことしか考えられないんだよなあ。
オレとマスターの関係が崩れるのがすごく怖いんだ。
オレの居場所がなくなるのも怖いんだ。
いや、マスターは『絶対そんなこと考えるな、言うな』って怒るのは目に見えてるんだ。
でもオレが嫌なんだ。もし、かあちゃんと荒木さんが結婚でもしようもんなら、おれはもう二度とマスターには会えない。
スマートには行けない。
そして、かあちゃんたちのことも許せなくて、でも、家を飛び出す勇気もない。」
ばあちゃんが言う。
「太郎はいい子だ。この数日間一緒にいただけでも十分わかる。ホントにいい子だ。
良い子過ぎるんだよ。
太郎は子どもなんだよ。いや、成人してないからっていう意味じゃなくて、
太郎は、千春さんっていったっけ?太郎のかあちゃん。
千春さんの子どもなんだ。成人しようが、30になろうが50になろうが、太郎は千春さんの子どもなんだ。
子どもが親に遠慮したり気を使う必要はないんだよ。
そりゃ親だって人間だからね、いろいろある。
でも、親は親なんだ。まずは子どものことを一番に考える義務がある。
愛には順番があるんだ。
親から子への愛が一番なんだ。
誰が何と言おうとばあちゃんはそう思ってる。
だから子どもが悲しむような恋愛なんてするべきじゃないんだよ。
太郎は、我慢する必要はないんだよ。
嫌なら嫌でいいんだよ。
オレと荒木さん、どっちをとるんだよっ!ってすごんでもいいんだ。
もしも千春さんが血迷ってて「両方とも!」とか「荒木さん!」なんてこと言ったら
そんときは太郎が千春さんを捨てて良し。
ばあちゃんが、太郎のめんどうくらいみてやる。
大学も行かせてやる。
あ、でも条件がひとつだけ。ばあちゃんは年金暮らしだからね、私立は無理だよ。九州大学か、広島大学。ここの法学部にしなさい。
街結のママの話じゃ、太郎はすごく頭いいらしいからね、大丈夫だろ?」
ばあちゃんは本気だ。
ホントに太郎を引き取る勢いだ。
そっと太郎の横顔を盗み見ると、太郎は子どもの様ににこにこしてた。
こいつはたいていいつも機嫌がいいんだが、それでも、久し振りに見る、ホントの太郎の笑顔だった。
あ!ケンちゃんの顔だ。
何でオレ、思い出せなかったんだろ、こんなにケンちゃんはケンちゃんのまま17歳の太郎になってるのに。
空がだんだん明るくなってきた。
水平線から太陽が昇ってくる。
車を降り、砂浜に新聞紙を敷いて座り、初日の出を見る。
太陽が全部顔を出した時、ばあちゃんはぱんぱんと手を打って「あたしの子どもたちが今年も良い年でありますように。」とつぶやいた。
オレも太郎も慌てて柏手を打ち頭を下げた。
家に帰って早速おせちを食べながらばあちゃんが「明日、街結は東京に帰りなさい。
夕べの話じゃ、あんた、勉強しなきゃいけないみたいじゃないか。
のんびり田舎暮らしを楽しんでられる状況じゃないんだろ?
大丈夫。航空券の変更くらい、あっという間だよ。
昨日、来てただろ?永野のじいさん。
あのじいさんの息子が旅行会社の偉いさんだからね、すぐ変更してくれるさ。
今日中になんとかしとくから、帰る準備しときなさい。」
えーーーっ!?オレだけ?大丈夫だよ、あと五日くらいいたって変わらないよ。
帰ったら、そりゃもう死にものぐるいで勉強するからさあ。
しかし、睡魔に勝てずちょっとだけ寝るつもりが、起きたら夕方で、起きだしていくと
コタツの上にはすでに変更された明日の航空券。
その先には、夕べ見たじいさんを30歳若返らせたようなおっさんが座っている。
「君のばあちゃん、無理言うんだもんなあ~。いくらなんでも正月期間はきついよって言ったんだけど
うちのじいさんが『おまえんとこの世話にならんでオレがやっていけてるのはだれのおかげだと思ってるんだ。
南のばあさんの頼みを聞けないようなら、もうオレはばあさんちの敷居を踏めなくなる。
そしたら、これからおまえがオレの世話をしなきゃならないからな。
おまえんとこの嫁が何と言おうと同居して、毎日病院にも連れて行ってもらわなきゃなんねえし
糖尿用の食事だって作ってもらわなきゃなんねえからな。』って脅すんだよ。
いやぁ~ホント久し振りに仕事したわぁ~」
そんなにたいへんな思いをして変更してもらうくらいなら、ばあちゃんの目をごまかせるくらいの勉強道具を持ってきてればよかったな。
オレたちも、なんだかちょっとテンパってて、みごとに勉強とか受験とか試験とかのことを忘れ去っていた。
ただ、いろんなもの、いろんなことから少し離れた方がいいという気持ちだけで東京を離れた。
そして、それは決して間違った行動ではなかったと思える。
ただ、こうしてオレだけ先に帰らされることは想定外だったが。
「ここから見る初日の出が一番良かよ。
まだ陽が昇るまで3時間はあるねえ。
ばあちゃんは、一回寝たら8時間は起きないから、ばあちゃんを寝かせないように
二人でおもしろい話をしなさい。」
太郎が「アラビアンナイトですな。では、おれと街結のなれそめを話します。」
って、おいおい!誤解を招くような言い方はやめろよ。
オレたちのことを話すとなると、スマートやマスターは避けて通れない。
初めは、おもしろおかしく、あることないことしゃべっていた太郎が、だんだん今回の旅行のきっかけとなった核心の話を始める。
マスターのこと、千春さんのこと、荒木さんのこと、そして自分の気持ち。
「ばあちゃん!オレはまだまだガキなのかなあ。
かあちゃんのことより自分のことしか考えられないんだよなあ。
オレとマスターの関係が崩れるのがすごく怖いんだ。
オレの居場所がなくなるのも怖いんだ。
いや、マスターは『絶対そんなこと考えるな、言うな』って怒るのは目に見えてるんだ。
でもオレが嫌なんだ。もし、かあちゃんと荒木さんが結婚でもしようもんなら、おれはもう二度とマスターには会えない。
スマートには行けない。
そして、かあちゃんたちのことも許せなくて、でも、家を飛び出す勇気もない。」
ばあちゃんが言う。
「太郎はいい子だ。この数日間一緒にいただけでも十分わかる。ホントにいい子だ。
良い子過ぎるんだよ。
太郎は子どもなんだよ。いや、成人してないからっていう意味じゃなくて、
太郎は、千春さんっていったっけ?太郎のかあちゃん。
千春さんの子どもなんだ。成人しようが、30になろうが50になろうが、太郎は千春さんの子どもなんだ。
子どもが親に遠慮したり気を使う必要はないんだよ。
そりゃ親だって人間だからね、いろいろある。
でも、親は親なんだ。まずは子どものことを一番に考える義務がある。
愛には順番があるんだ。
親から子への愛が一番なんだ。
誰が何と言おうとばあちゃんはそう思ってる。
だから子どもが悲しむような恋愛なんてするべきじゃないんだよ。
太郎は、我慢する必要はないんだよ。
嫌なら嫌でいいんだよ。
オレと荒木さん、どっちをとるんだよっ!ってすごんでもいいんだ。
もしも千春さんが血迷ってて「両方とも!」とか「荒木さん!」なんてこと言ったら
そんときは太郎が千春さんを捨てて良し。
ばあちゃんが、太郎のめんどうくらいみてやる。
大学も行かせてやる。
あ、でも条件がひとつだけ。ばあちゃんは年金暮らしだからね、私立は無理だよ。九州大学か、広島大学。ここの法学部にしなさい。
街結のママの話じゃ、太郎はすごく頭いいらしいからね、大丈夫だろ?」
ばあちゃんは本気だ。
ホントに太郎を引き取る勢いだ。
そっと太郎の横顔を盗み見ると、太郎は子どもの様ににこにこしてた。
こいつはたいていいつも機嫌がいいんだが、それでも、久し振りに見る、ホントの太郎の笑顔だった。
あ!ケンちゃんの顔だ。
何でオレ、思い出せなかったんだろ、こんなにケンちゃんはケンちゃんのまま17歳の太郎になってるのに。
空がだんだん明るくなってきた。
水平線から太陽が昇ってくる。
車を降り、砂浜に新聞紙を敷いて座り、初日の出を見る。
太陽が全部顔を出した時、ばあちゃんはぱんぱんと手を打って「あたしの子どもたちが今年も良い年でありますように。」とつぶやいた。
オレも太郎も慌てて柏手を打ち頭を下げた。
家に帰って早速おせちを食べながらばあちゃんが「明日、街結は東京に帰りなさい。
夕べの話じゃ、あんた、勉強しなきゃいけないみたいじゃないか。
のんびり田舎暮らしを楽しんでられる状況じゃないんだろ?
大丈夫。航空券の変更くらい、あっという間だよ。
昨日、来てただろ?永野のじいさん。
あのじいさんの息子が旅行会社の偉いさんだからね、すぐ変更してくれるさ。
今日中になんとかしとくから、帰る準備しときなさい。」
えーーーっ!?オレだけ?大丈夫だよ、あと五日くらいいたって変わらないよ。
帰ったら、そりゃもう死にものぐるいで勉強するからさあ。
しかし、睡魔に勝てずちょっとだけ寝るつもりが、起きたら夕方で、起きだしていくと
コタツの上にはすでに変更された明日の航空券。
その先には、夕べ見たじいさんを30歳若返らせたようなおっさんが座っている。
「君のばあちゃん、無理言うんだもんなあ~。いくらなんでも正月期間はきついよって言ったんだけど
うちのじいさんが『おまえんとこの世話にならんでオレがやっていけてるのはだれのおかげだと思ってるんだ。
南のばあさんの頼みを聞けないようなら、もうオレはばあさんちの敷居を踏めなくなる。
そしたら、これからおまえがオレの世話をしなきゃならないからな。
おまえんとこの嫁が何と言おうと同居して、毎日病院にも連れて行ってもらわなきゃなんねえし
糖尿用の食事だって作ってもらわなきゃなんねえからな。』って脅すんだよ。
いやぁ~ホント久し振りに仕事したわぁ~」
そんなにたいへんな思いをして変更してもらうくらいなら、ばあちゃんの目をごまかせるくらいの勉強道具を持ってきてればよかったな。
オレたちも、なんだかちょっとテンパってて、みごとに勉強とか受験とか試験とかのことを忘れ去っていた。
ただ、いろんなもの、いろんなことから少し離れた方がいいという気持ちだけで東京を離れた。
そして、それは決して間違った行動ではなかったと思える。
ただ、こうしてオレだけ先に帰らされることは想定外だったが。
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