経済なんでも研究会

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 プ レー ト

2017-12-17 07:57:30 | SF
第1章 ダ ー ス ト ン 星 (6-11回通読版) 

≪6≫ ノアの方舟 ウラノス博士の話は続いた。「実は、われわれの祖先も300年ほど前に、同じような経験をしたんじゃ。君の星、地球は海底のメタン・ハイドレードを掘り過ぎて、メタン・ガスの噴出を止められなくなったことが原因だったね」

よく知っているなあ。UFOで集めた情報なのか。それとも、ぼくの頭脳から記憶を抽出したんだろうか。もしそうなら了解も得ないで、他人の記憶を勝手に取り出すなどとは、けしからん話だ。だが命を助けられたのだから、文句も言えないか。

「われわれの祖先は、ここから70光年離れたチャイコ星からやってきた。そのチャイコ星では300年ほど前、大変なことが起こったんじゃ。原子力発電で使った放射性廃棄物を、各国は共同で海底深くに埋めて処理していたが、大地震で海底のマグマがこの廃棄物処理場を飲み込んでしまった。その結果、いくつかの活火山が放射性物質を噴き出すようになり、人間は住めなくなってしまったんじゃ。

そこで先祖たちは超大型の宇宙船を大量に建造し、国ごとにいくつかの星に分散移住した。地球人の言う“ノアの方舟”じゃね。こうして、われわれの祖先が、この星に到達したというわけだ。そこのところを、きちんと知っておいてほしい」

われわれ地球人から見れば、ウラノス博士たちは宇宙人ということになる。でも“ノアの方舟”まで知っているし、外見は地球の人間とあまり変わりはない。不思議だ。

地球人がこのプロキシマb星を発見したのは、2016年のこと。観測機器の性能がが飛躍的に向上したため、ほかにも数多くの惑星が発見された。しかし地球との距離は、近いものでも39光年。プロキシマb星だけが、4.2光年で格段に近かった。ただし、この星には致命的な欠陥があると、科学者たちは指摘していた。それは恒星であるプロキシマ・ケンタウリが暗く、プロキシマb星は人間が住むには温度が低すぎると考えられたのだった。

それでも国連が調整して、主要国は5機の宇宙船で5つの惑星を探査することになり、日本はプロキシマb星を担当することになった。そして、ぼくがいま、ここにいる。そこで、明るい太陽のような恒星ケンタウリを指さして。

――この恒星は、もっと暗いと思っていたんですが。
「あはは、地球人がやってくると困るから、宇宙空間に特殊なバリアを張って、地球から見ると暗い星に見えるようにしたんじゃよ。君の宇宙船は、それに衝突した。宇宙にバリアを張る技術は、やっと30年前に完成させたんだよ」

ウラノス博士は豪快に笑ってみせた。

≪7≫ 驚くべき寿命100歳制度 = 帰りの車のなかで、ぼくは目を閉じてウラノス博士の話を反芻していた。隣のマーヤも黙りこくっている。そっと腕をつつくと「私も初めてあんな話をお聞きしました」と言って、うなだれてしまった。ロボットなのに、人間的な感情を持っているのかしら。

博士は最後に、ダーストンの建国にまつわる話をしてくれた。声が低くなり、顔つきも悲しげになったのが印象に残っている。そして、その内容は実にショッキングなものだった。博士の長い物語を要約すると・・・。

博士たちの祖先が住んでいたチャイコ星では300年前、放射性物質が拡散する事故が発生した。そのころまでに科学技術は非常に発達していたので、人々は国ごとに大型宇宙船をいくつも建造。それぞれ遠くの星を目指して脱出し始めた。博士たちの祖先も続々とこのダーストン星に移住してきたが、100年近くかかっても運べた人数は100万人足らず。残る900万人はチャイコ星とともに滅亡した。

ダーストン星に到着できた人は、第1級の知識や技術を持った人たち。しかも若者が中心だった。彼らは力を合わせて、新しい星での国造りに励む。まず労働力を確保するため、人間と同じように考え働けるロボットを量産した。そしてロボットや機械を動かすための電源エネルギーの確保。さらに高度な医療技術の開発にも、全力をあげたのだった。

その結果、100年ぐらいの間に素晴らしい国を建設することができた。ところが、そこで起きたのが人口問題。完璧な医療技術のおかげで人が死ななくなったために、人口は1000万人に接近するほど急増してしまった。ダーストン星は地球の3分の2ほどの大きさだが、ほとんど全部が海なのだ。陸地は面積が北海道と九州を合わせたぐらいの、この島だけ。いくらロボットたちが農耕に精を出しても、1000万人以上の人間は養い切れない。

チャイコ星で暮らしていた祖先たちは、子孫を守るために自らが犠牲になった。その崇高な精神を受け継いで、われわれもなんとかしなければいけない。そう考えた200年前の賢人会は、常識では思いつかない決断に踏み切った。人々の寿命をすべて100歳にするという提案である。この提案は直ちに国民投票にかけられた。結果は51%の賛成で可決された。

「この国の憲法第1条を見てごらん。そこには『ダーストン国民は平和で満ち足りた生活を保障される。すべての国民の寿命を100歳と定める』と書いてある」

ウラノス博士はこう言って、長い物語を終えた。

≪8≫ 胸番号の秘密 快適な20階建てマンションの最上階。今夜はぼくの手術をしてくれた医師ブルトン氏の招待を受けている。ぼくがこの国のことを理解できるようにと、ウラノス科学院長が配慮してくれたのだそうだ。

テーブルの上には、肉と野菜の料理。グラスには、ワインに似た液体も注がれている。電燈のようなものはいっさいないが、天井や四方のカベそのものが発光していた。40畳ほどの部屋には、戸棚もテレビも置いていない。ただ窓際の角に小さな机があって、その上に真っ赤な大輪のダリアのような花が活けてあった。素っ気ない感じだが、光線の柔らかさが心地よく落ち着く。マーヤもぼくの隣に座っているが、彼女は飲んだり食べたりはしない。

ブルトン氏は病院で見た白衣姿とは違って、柔和な紳士。茶系のガウンに光るプレートの数字は「48」だから、いま52歳ということになる。隣に座った奥さんを紹介してくれた。ぽっちゃり系の美人で、黄色のガウン。赤いプレートの数字は「52」だ。乾杯のあと、ブルトン氏がゆっくりした口調で話し始めた。

「ウラノス院長とお会いになって、どうでしたか。立派な人物だったでしょう」
――ええ、300年前の祖先がチャイコ星から移住してきたときの話。200年前の国民投票で全国民の寿命を100歳と決めたこと。ほんとうに驚くと同時に、深い感銘を受けました。

「私たちは幼いころから家でもその話を聞かされ、学校でも歴史として習います。妻や子どもたちを宇宙船に乗せるため、チャイコ星に残った夫や親の言動など。この国の人々は、決して忘れません。その証しとして、みんなが胸にプレートを付けているのです。これも200年前に、当時の賢人会が決めました」

――でも、なんで年齢ではなく、100から年齢を引いた数字になっているのでしょうか。
「まあ、食べながらお話しましょう。やはり昔の賢人会が、そう決めたのです。理由はいろいろありますが、寿命はだれもが100歳。残りの人生を大切にするため、あと何年生きるのかを常に意識するようにしたのだと言われています。人生設計を立てるのにも、とても役立ちますね」

――100歳で死ぬのはイヤだという人は、いないのですか。

そう尋ねたとき、目を大きく開いた夫人が会話に割り込んできた。

≪9≫ 幸せな100年の人生 = 「私たちは物心がついたときから、お前の寿命は100年だと教えられてきました。そのとき子供たちは『100年しか生きられないから悲しい』なんて、誰も思いませんよ。みんな『100年も確実に生きられるんだ』と喜びます。その喜びを、大人になっても持ち続けているんです。だから昔の賢人たちが決めたことに疑問を持ったり、反対を唱える人は誰もいません。

もっと昔の人は、病気や怪我でいつ死ぬか判りませんでした。可愛い子どもを病気で亡くしたり、幼い子どもを残して事故で死んでしまう若い親たち。考えただけでも、ほんとうに可哀そうですね。そんな悲劇にいつ襲われるかしれない人生と、100年の寿命が安全に保障される人生と、どちらが幸せかは明らかでしょう。もしいま国民投票をやっても、95%以上の人が賛成すると思いますわ。ねえ、あなたも同感でしょ」

最初に顔を合わせたときは、何やら野蛮人でも見るような目付きだったブルトン夫人だったが、いまは興奮の面持ちで喋りまくる。マーヤもいつもより早口で、通訳してくれた。水を向けられたブルトン院長は、うなづいて話を引き継いだ。こんどはマーヤの口調もゆっくりになる。

「人口は1000万人ですから、毎年10万人が100歳になる計算です。そして子どもを欲しがる若い人には、年間10万人の赤ちゃんが授かるようになっている。だから人口はいつも1000万人に保たれるのです。もう1つ医学的に補足しておきますと、この国の人は満100歳に近づくと、自然に静かな休息を欲するようになる。遺伝子操作で、みな生まれたときからそうなるようにプログラムされているんです。

ですから死ぬことに対する恐怖感はありません。みんな満100歳の10日前ぐらいになると、いそいそとして特別な病院へ向かいます。そこでは宗教的な行事も何もありません。ただ100年を無事に生きたことを感謝し、子どもや孫へと世代交代する喜びを噛みしめるのです」

胸に「50」のプレートを付けた女性ロボットが、皿を運んだり片づけたりしている。マーヤと似たような感じだが、どこか違っている。それにロボットの場合は、年齢差が感知できない。マーヤとそのロボットの顔を見比べながら、聞いてみた。

――ロボットも胸に番号を付けていますね。ロボットも100歳で死ぬんですか?
「あゝ、それには別の理由があるんです。でも私が話すよりは、メンデール教授に聞いた方がいい。科学大学院の学長で、この国の科学技術を取り仕切っている人です。ご紹介しますから、会いに行ってください」と言って、ブルトン医師はロボットたちに目くばせした。

≪10≫ 天涯孤独 = 実を言うと、ブルトン夫人の「子どもを残して病気や事故で死んでしまう親の悲劇」という言葉は、ぼくの胸にぐさりと突き刺さった。忘れようとしていた25年前の記憶が、一気によみがえったからである。そんな悲劇が起こる世界よりは「100年間を確実に生きられる方がいい」という夫人の主張にも、説得力を感じてしまった。

その夜、ぼくはその日の出来事をノートにメモしながら、物思いに沈んでいた。そう、ぼくが5歳のとき、両親は事故で死んだ。高速道路で大型トラックに追突され、車が前のバスに激突したのだ。ぼくは後部座席にいて軽傷で済んだが、その瞬間から天涯孤独のみなし児に。擁護ホームに引き取られ、そこから学校に通った。

いまは病室から出て、別棟の個室に住んでいる。ベッドと机があるだけで、カベにテレビは映るけれども面白くないのであまり見ない。もっとも個室といっても、マーヤはいつもいる。隣り部屋にいることが多く、ときどき食事や飲み物を運んでくる。でも食事を作るわけではない。食べ物も飲み物も、いつもどこからか運ばれてくるようだ。

「今夜はとても悲しそうな顔をしていますね。なにか、いやなことでも」
傍にきたマーヤがそう言った。こいつロボットのくせに、ぼくの精神状態を読み取れるのか。一瞬そう思ったが、嬉しくもあった。それで25年前の出来事を聞かせてやると・・・。

「まあ、それは大変でしたね。1人で学校に行って、それからどうしたのですか」と聞いてきた。そんなことまで話したくはなかったが、だれかに聞いてもらいたい気が急に湧いてきた。

――大学まで進んだが、友達は出来ない。ぼくの気持ちのどこかに、素直になれないところがあったのだろう。好きな女性も見付けたけれど、想いを打ち明けられずに終わってしまった。これではダメだ。21歳になったとき、そう思って大学を辞めて航空自衛隊に入ったんだ。いろいろ鍛えなおそうと考えてね。

そのころ日本では、月に宇宙基地を建設する計画が進行していた。そこで、ぼくは宇宙飛行士の訓練を志願したが、特訓中に地球の冷却化が大問題になったんだ。光速宇宙船に乗れたのは、ぼくの技量が優秀だったからではない。だれも4.2光年先の未知の星なんかに行きたがらなかったためだよ。そこからの話は、君ももう知っているだろう。そしていま、ぼくはここにいる。全く夢のような話だ。

「そして、私もここにいる」と言い返して、マーヤはちょっと微笑んだ。これにはぼくもびっくり、思わずつられて笑ってしまった。

「笑顔が出たところで、おやすみなさい」と、マーヤは礼儀正しい。

≪11≫ マーヤの激励 = あくる朝、ぼくはまだ憂鬱な思いを引きずっていた。宇宙船が壊れてしまったから、もう地球には帰れないだろう。地球は、日本はどうなっているのだろう。凍り付いてしまったのかしら。ほかの4人の宇宙飛行士は、ここよりずっと遠くの星を目指したのだから、まだ飛んでいるはずだ。いろんな思いが、頭のなかで交錯する。

そのときドアが開いて、マーヤが朝食を持って現れた。「お早うございます」の挨拶も忘れない。

――お早う。この食事は、どこから来るの?
「食事を作っている工場に注文すると、車かドローンですぐに届けてくれます。なんでも冷めないうちに届きますよ」

――どうやって注文するの?
マーヤは自分の頭を指さして「ここから工場のロボットに通信を送ります。車を呼ぶときも、だれかとの面会を予約するときも、私が相手の担当ロボットと通信すれば完了してしまいます。そうそう、先日ブルトン医師から紹介されたメンデール教授との面会は、明後日の午後2時に決まりました」

――それは有難う。要するに君はスマホでもあるわけだ。だから、この国の人はロボットが傍にいるから、スマホを持っていないんだ。ロボットは人間以上に優秀だね。
「でもロボットはロボットで、いろんな問題を抱えているんです。あさって会うメンデール教授は、科学技術全般とロボット問題の最高責任者ですから、私も興味津々。ロボット仲間が、いまから話の内容を教えてほしいと言ってきていますわ」

――ロボット同士の通信網も発達しているわけだ。
マーヤの顔が急に明るくなった。「いまちょうど、ウラノス科学院長の秘書ロボットから情報が入っています。彼女が言うには、地球の冷却化は止まったそうです。賢人会が3年前に冷却化を止めるよう指示を出し、最近になってその成功が確認されたと言っています」

――えっ、本当かい。どうして冷却化が止められたんだろう。

「詳しいことは、メンデール教授に聞いてください。でも私たちが情報を流したとなると怒られますから、上手に聞いてくださいね。とにかく、よかったじゃないですか。元気を出しましょう」

とうとう、ロボットに励まされてしまった。でも明るいニュースを聞いて、ぼくの気持ちも明るくなった。心のなかで「マーヤ、ありがとう」と言う。

(第2章 は来週日曜日)
        

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