経済なんでも研究会

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新次元・SF経済小説 【 プ レ ー ト 】

2018-10-14 08:10:30 | SF
第5章 ニッポン : 2060年代

≪54≫ 神の粉 = ある日、JRリニア新幹線会社のお偉方がやってきた。革命的な新素材の話はあっという間に海外にも広まり、共同生産したいという申し込みが相次いでいるのだと言う。そこで海外にも、あのダーストニウムを供給してもらえないかと頼みに来たのである。

その辺のことになると、ぼくには何とも言えない。同席したマーヤの方を見ると、彼女は「結構です」ときっぱり返事した。ただ「海外の会社と共同で建設する工場の場所と生産規模を教えてください。ダーストニウムは、こちらから必要な分を直接送ります」と付け加えていた。もう立派な女性経営者である。

2068年のうちに、海外企業との合弁工場はアメリカ、フランス、中国、タイ、そしてサウジアラビアにも建設された。このころになると世界的に原油の埋蔵量が乏しくなり、産油国も太陽光発電には大きな関心を持っていたからだ。

マーヤは国内の工場だけでなく、海外にもダーストニウムを発送する仕事に追われるようになった。ダーストニウムはドラム缶に入れて、海外には航空便で送る。ドラム缶に入れる量はそれぞれの工場の生産量に合わせて、正確に計量される。だから工場で、この粉を使い残すことはない。

ダーストニウムは、見たところ何の変哲もない黄色い粉である。手のひらで掬うと、指の間から砂のように零れ落ちる。だが、その魔法の力は想像外だ。鉄やプラチナなど数種類の金属を一定の比率で混ぜ合わせた合金に、この粉を入れる。すると合金の強度と磁性が極端に高くなる。また、この合金で造った細い繊維を特殊な強化ガラスに織り込むと、きわめて発電効率がよい太陽光発電基盤が出来上がる。

合金に混ぜる量は、ごく僅かだ。1キロメートルの路床を製造するのに、カップ1杯ほどで十分。だから東京ー福岡間のリニア路床を敷くのにも、ドラム缶1つで足りた。

違う日、またJRリニアの役員が飛んできた。「外国の企業が科学者を集めて、ダーストニウムの分析を始めたそうです。特許も取っていないそうですが、大丈夫ですか」

マーヤは落ち着き払って、こう答えた。「どんな天才が研究しても、あの粉を製造できるまでには200年かかるでしょう」

じっさい、海外でダーストニウムが生産されることはなかった。そして科学者たちの間で、この物質は“神の粉”と呼ばれるようになった。

                             (続きは来週日曜日)

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