蓼科浪漫倶楽部

八ヶ岳の麓に広がる蓼科高原に、熱き思いあふれる浪漫知素人たちが集い、畑を耕し、自然と遊び、人生を謳歌する物語です。

緑の香り  (bon)

2016-01-08 | 日々雑感、散策、旅行

 緑の香り・・などというと、どこか詩的なイメージのお話のようですが、実は、リアルな話題なんです。
会報、新年号別冊に記載された講演録「緑の香りの生態学」(2015.6.13講演、京都大学生態学研究センター長 
林純示教授)を読んでみて、極めて身近な植物の現象について述べられていて、大変興味深いお話でしたので、
かいつまんで要点などをブログ記事アップしました。

 草刈りをした時など、「緑の香り」と総称される青臭い匂いが周囲に充満している・・そんな経験はよくある
ことですが、これは、傷ついた葉からこの「緑の香り」が発せられていて、「オキシリビン経路」という
代謝経路で作られた香りで、青葉アルデヒド、青葉アルコール、青葉アセテートなどの揮発性分子が瞬時に
生成されているからなのだそうです。
 植物は光合成によって大気中の二酸化炭素から炭素を固定していますが、この中、10~36%は揮発性化合物として
体外に放出してしまうそうです。しかし、この植物の香りには大気寿命があって、数分から数時間でオゾン等に
よって分解されてしまうのだそうです。

 で、このような”香り”はいったい何のために放出しているのか? について、いろんな分析が述べられて
いるのです。

香りで病気から身を守る  植物に病原菌が侵入する時、小さい傷がつき、その周辺に揮発性分子が高濃度で生成され、その香りで病原菌の生育を抑制するというのです。これは人体での自然免疫系に似ている
という。 害虫から身を守る  香りを発することで、ボディーガードを呼んで害虫を追い払ってもらう
のだそうです。 つまり、ボディーガードとして、寄生蜂、捕食性昆虫、昆虫寄生性線虫などをこの香りで
呼び寄せて、植物を食い荒らす幼虫に寄生して やっつけてくれるというのです。 例えば、寄生蜂は、
体長約2㎜程度で、寿命10日くらいだそうですが、これが、植物が幼虫に食われると、その葉っぱから出る
香りを頼りに呼び寄せられ、その幼虫に寄生し寄生蜂の卵が成長し寄生した害虫(幼虫)から出る時、その幼虫は
死滅するのです。 わずか2㎜の寄生蜂が50m離れたところから香りを察知するそうですが、これは、
人(身長170cm)が、マラソンの距離42.195km離れたところの香りを察知するのと比率的には同じくらいだ
というのですね。 害虫の種類に応じて香りを変える  実験で、食害にあっていないキャベツ(健全株)と
コナガ(害虫)に食われたキャベツ(コナガ被害株)を箱に入れて、コナガコマユバチを放ったところ、
コナガ被害株の方により多く(26対5)が集まりました。 機械で傷をつけた株とコナガ被害株の場合では、
18対4でコナガ被害株の方に、また、アオムシ被害株とコナガ被害株とでは、21対7でコナガ被害株の方に多く
集まったのです。 つまり、コナガコマユバチは、コナガ被害株を香りで区別していることが分かるのです。 
仲間の危機を香りで知って自己防衛する  これは、ある植物が害虫に食われている時、周囲の未被害の植物が
食害株からの香りを察知し、前もって防衛をするというものです。こんなこともするのですね。これを、
「植物間コミュニケーション」というそうです。 マメ、トウモロコシ、ムギ、ヤナギ、トマトなどの植物で
報告されているという。 除虫菊でこの実験をしたところ、機械傷株の香りを受容した健全株の殺虫成分
ピレスリン(蚊取り線香の材料)の量が増えたそうです。害虫対策が高まったということです。 植物は
「生態系エンジニア」である  ある生物の活動が、周囲の生態系に影響を及ぼす時 その生物を「生態系
エンジニア」(生態系の構築者)と呼ぶそうです。 すなわち、植物は「匂いで作られた目に見えない空間構造」を
周囲にいくつも構築し、害虫に食われた際には寄生蜂を呼び寄せることで生態系内の植物網(食う・食われる
の関係)に大きく影響を及ぼしているからです。

        寄生蜂例(コマユバチ)
          (名城大農学部山岸氏論文より)

 

 このような現象が、これまで連綿と営まれてきていることすら知りませんでしたが、自然界の謎は計り知れない
世界ですね。 この講演最後に、「現在、この香りの成分を用いた農薬開発を進めています。化学農薬でないので、
環境負荷が低いと期待しています。」と結ばれています。
世の中、いろんなことが研究されているのですね。 

 

 

 

 

 

 

 

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