先週は、浅草三社祭で賑わい、昨日の21日は、二十四節気の「小満」でした。
早や 陽気が良くなって、万物の成長する気が次第に長じて天地に満ち始める
ことから小満といわれています。 しかし、この2~3日の暑さ、30℃を超えて
真夏日! テレビでは、盛んに 熱中症注意を呼びかけています。
プラネタリー・ディフェンス・コンフェレンス(PDC)という国際会議が、この5/15~
19の日程で、東京お台場の日本科学未来館で開催されました。天体の地球衝突について
国際的な議論が行なわれました。 この国際会議は、2004年に始まり、今回が5回目で、
初めてアジア(日本)で開催されたのです。 24か国から約200人の専門家が参加し、
「仮想小惑星『2017 PDC』の地球衝突シナリオ」が提起されて、どのように対処すべきかを
論じるのが目的だそうです。
国際会議もよう (日本科学未来館にて)
(読売オンラインより)
主催:IAA (International Academy of Astronautics)
共催:JAXA 宇宙科学研究所(JAXA/ISAS)、
国立天文台(NAOJ)、
日本スペースガード協会(JSGA)、
日本惑星協会(TPSJ)
協力:星空公団、日本大学阿部研究室
また、5/20には、関連企画として、「地球を守れ!~天体の地球衝突にどう対応す
るか~」について、同館のイノベーションホールで3時間にわたり 5つのテーマでプレゼン
テーションがありました。 この模様は、ネットで同時中継(ライブ)がありましたので、
すべて聴講しました。久しぶりにセミナーに参加した気分になりました。
これら、会議もようやプレゼンテーションについては、後述したいと思います。
なお、今回の共催者の「日本スペースガード協会」は、高校の3年後輩の磯部琇三さんが、
1996年に立ち上げられ、亡くなるまでの10年間、初代理事長として活躍されていました
国立天文台助教授時代にも、いろいろと天文に関するお話を伺ったことがありました。
さて、前置きが長くなりましたが、日頃、あまり耳にすることもない話題ですので、どの
ような事柄なのか、それがなぜ問題なのか? などについて、素人ながら、そのサワリを
まとめてみました。
この国際会議は、天体の地球衝突について国際的な議論を行う場で、「プラネタリー・
ディフェンス・コンフェレンス(PDC)」とよばれています。 太陽系の小惑星が地球に
衝突する可能性はゼロではなく、これを観測して、いち早く捉えて防御策を講じようという
のがその目的なんです。
ウイキペディアには、「スペースガード(Space Guard)とは、地球に衝突する恐れのあ
る天体や宇宙活動の結果として 宇宙空間を彷徨うスペースデブリ(宇宙の塵)を観測し、
かつまた、追跡を行うことである。 そして、それらの天体の地球衝突の回避を目指した警
報の発令や、今後の宇宙活動の障害となるスペースデブリの位置を正確に予測することで、
それらの危機を未然に回避するための観測計画」とあります。
そもそも、約6550万年前に突如として恐竜などが絶滅してしまった原因は、小惑星が地球
に衝突し 直接的なエネルギーによる破壊の他、発生した火災と衝突時に巻き上げられた塵
埃が太陽の光を遮り、全地球規模の気温低下を引き起こしたとの隕石説が有力とされていま
す。ユカタン半島で発見されたクレーターは、その隕石落下跡と考えられているのだそうで
す。およそ全ての生物種の70%が絶滅したと考えられているといいます。
また、天体の地球衝突として新しい記憶に,2013 年のロシアのチェリャビンスク隕石が
あります。この隕石落下により、100 km以上にわたる範囲で窓ガラスが壊れ、1,500人ほどが
負傷したという被害があったそうです。 この時の隕石の大きさは、NASAの推定では直径が
17 m、他の推定では直径が20 m程度と、いずれも小惑星としては非常に小さいものであった
のです。
小惑星(Asteroid)というのは、太陽系小天体の一つで、直径が数10mのもあれば、数km
の大きなものもあるそうで、恐竜絶滅の原因とされた小惑星の直径は10~15kmと想定されて
います。 で、小惑星の数は、2012年で、軌道が確定して小惑星番号が付けられたものが
329,243個、この他に登録されている小惑星は 138,053個あり、直径が1km以下の未発見のも
のが数十万個もあると推測されている・・といいますから、すごい数ですね。そして、ほと
んどの小惑星は、木星軌道と火星軌道の間にあって、太陽からの距離が約2 ~4天文単位
(後述します)の範囲、小惑星帯(asteroid belt)に集まっているといいます。
これらの小惑星の中で、潜在的に危険な小惑星(Potentially Hazardous Asteroid=PHA)
として、地球近傍小惑星の中でも、特に地球に衝突する可能性が大きく、かつ衝突時に地球
に与える影響が大きいと考えられる少なくとも直径が100m以上の小惑星が分類されているの
です。 また、一般に、地球近傍の小惑星全体をNEA(Near Earth Asteroid)とも呼んでい
て、今回の会議ではNEO(Near Earth Object)と呼ばれていました。
で、このPHAについて、ウイキペディアの表から、その主なものを抜粋して以下の表にまと
めてみました。
この中に、はやぶさで探索した「イトカワ」やはやぶさ2の探索対象の「リュウグウ」が
あります。 このほか、直径が7kmのものや、静止軌道(赤道上の高度約35786km)内に入り
込む小惑星、はたまた衝突確率が最も高い(といっても0.04%)直径が1100mのものもある
とか・・。 しかし、衝突が起きるとしても、2880年3月16日だと予測されているのですね。
な~んだ! という感じかもしれませんが、もし、これが本当に衝突したとすれば、その
被害は甚大でかっての絶滅にまで及ぶかも・・。
そして、衝突の可能性のある小惑星が観測されたならば、これをどのように回避するか?
の問題があり、後にも述べますが、発見が何十年、あるいは100年オーダー前でないと、
対策がとれない・・そんな代物のことを論じているのですね。
20日のセミナーでも、説明されていましたが、スペースガード問題は、次の5つの項目に
ついて具体的な検討・活動が不可欠だと述べられていました。すなわち、
①発見・軌道推定、 ②追跡、 ③特徴・性質分析、 ④防御、 ⑤教育・訓練
で、まずは発見から始まりますが、これらを観測し続けながら種々の検討分析を行い、必要
に応じて政府並びに関係機関等との協力・協調が求められていました。
今回の国際会議に入る前に、いろいろ、問題の所在、概念など説明しなければならない
事項が多すぎて、なかなか本丸に入れないもどかしさがありますが、国際会議も大体この
ような中身を具体的に検討・議論されているようです。
理解の一助のため、以下にいくつかの用語、単位などを列記します。(いずれもウイキ
ペディアより抜粋)
EMoid
PHA(潜在的に危険な小惑星)に分類される小惑星は、地球軌道との最小交差距離(Earth Minimum Orbit Intersection Distance EMoid)が0.05AU(約748万km)以下で、なお
かつ絶対等級(惑星の絶対等級でH)が22.0より少ない数値の小惑星の事である。 直径が
140m以上の小惑星。
天文単位(AU)
天文単位は、地球と太陽との平均距離に由来している。 太陽系内の惑星などの天体間の
距離を表すために広く用いられており、太陽系内の天体の運動を表す天体暦においては、
その基礎となる天文単位系で長さの単位となる重要なものである。
1auは、1.49598×1011m(約1億5000万km)=太陽と地球の平均距離
太陽系内の惑星や彗星などの天体間の距離は天文単位を用いることで、概して扱いやすい
大きさの値で表すことができる。例えば、火星が最も地球に接近するときの両者の距離は
0.37 au ほどであり、土星までは太陽からおよそ 9.5 auなどという。
絶対等級
星(恒星)の明るさを表す数値(mで表す)である。星は距離が違うだけでなく,明るさ
も違っており、これを同列で比較するため、ある距離(10パーセク=32.6光年)に仮にその
星を置いた場合の明るさを絶対等級として表示する。数字の小さい方が明るい。 1等星は
6等星の100倍の明るさがある。また、彗星や小惑星などは、太陽からの光を反射して輝いて
いるので、明るさは太陽からの距離に依存しているため、太陽と地球の両方から1天文単位
の位置に置いときの明るさを絶対等級(H)と呼んでいる。 主な小惑星の表では、このHが
使われています。
ヤルコフスキー効果( Yarkovsky effect)は、天体からの熱放射の不均一が生じること
により、天体にモーメントが生じ、小天体の軌道が影響を受ける効果である。
トリノスケール (Torino Scale) は、地球近傍天体(NEO=Near Earth Object)が地球に衝突
する確率、及び衝突した際の予測被害状況を表す尺度で、色と数値で表される。マサチュー
セッツ工科大学のBinzel教授により提案され、1996年イタリアのトリノで開催された国際天
文連盟の会議で採択されたため、このように定義されたとのこと。
トリノスケール
トリノスケールは、リスクの低い順から白、緑、黄、オレンジ、赤と色で表される。
白色は危険性なしの領域。0は、殆ど衝突の確率がないか、あったとしても隕石など小さな
もので途中で燃え尽きてしまうようなレベル。緑は普通で、天体は発見されたが危険度は低
い。 黄色は、天文学者が注意するレベル。 オレンジは、脅威のレベルで、具体的な検討、
対策などを議論するレベル。 赤は間違いなく衝突する大変な状況で、8は数千年に一度、
9は1~10万年で起こる、10は10万年以下に起こり全地球的に壊滅的被害が想定される・・
そんなレベルに区分されています。
本題に入る前準備が、ずいぶん長くかかりましたが、これらの基礎知識を持って、今回の
国際会議のテーマである「衝突回避の演習」の一部を見てみましょう。
与えられた設問です。
《新たな小惑星が見つかった。国際天文学連合は「2017PDC」と命名し、軌道計算か
ら、地球に衝突する可能性がある「潜在的に危険」と分類された。NASA(米航空宇宙局)
とESA(欧州宇宙機関)は、10年後の2027年に衝突の可能性があると推定。直径は100
~250メートルとみられる。 当初4万分の1だった衝突確率は、各国の観測機関の追跡
観測の結果、2カ月あまりで1%近くに上昇した。衝突危険エリアは北太平洋から東京、
韓国、中国、ロシア、英国北部にまで広がる。人類はどう対処するのか?》
まずは、探査機で小惑星を詳細に観測し、軌道を特定し、修正してゆく。そして「イトカ
ワ」で、採取したように天体の物質、性質を分析把握し、衝突回避策の検討データを取集する。
次に衝突回避策には、小惑星の特質に沿って様々な方法の検討が行われますが、最も安全で
確実だとされる、「万有引力」を利用する方法があります。目的の小惑星の近傍に探査機の
ような人工物を配置して、それとの引力作用により、小惑星の軌道を変えて、衝突を回避す
るやり方です。しかし、この方法で効果あらしめるためには、探査機のような人工物の質量
がかなり重くなければならず、効果的な重さのものを打ち上げられるか 実現方法の検討が
必要となります。そして、少しずつ軌道を変化させながら、地球に衝突するまでの時間内に
完了させられるかどうか?
あるいは、ヤルコフスキー効果を狙ったやり方の実現方法の検討もあります。 しかし、
この場合、希望する方向に軌道修正をさせるためにどのような場所に、どのような物体を
突入させるかなどの難しさがあります。 また、物質を小惑星に衝突させて破壊してしまう
やり方も検討されるでしょう。しかし、直径が100m以上もあるような天体に、衝突させて、
うまくその小惑星が粉々に破壊され、小さな隕石群になれば成功ですが、そうでない場合に
は、相変わらず大きな部分が残り、さらに、軌道が変化してしまうなど かえって危険を
はらんでしまうケースも考えなければならないでしょう。
最後に、核を打ち込んで小惑星を破壊させるやり方も選択される可能性があります。この
場合も、破壊した後がどのようになるかが事前に想定しにくい難点があります。バラバラに
なった破片群が地球上に降りかかり太陽光の遮断による気候変動の影響や核そのものの影響
も問題が残ります。 これらの回避策を、検討したうえで、新しい技術の必要有無や開発
方向への誘導が重要となるでしょう。
また、不幸にして何らかの衝突があるとした場合の地上における対策が必要となります。
まず、情報の正確な把握・伝達と国際協調、必要機関への連絡体制など冷静な処置と対策が
とれるような体制をどのように構築しておくか、詳細な検討が求められるでしょう。衝突時
の衝撃の問題、津波発生、爆風、火災などの想定と対策、そして、避難ができるのかどうか、
食料や生活のための物資は十分得られるだろうか?
さらに、原子力発電所やその他の重要設備の保護は大丈夫か? そうでないならどのよう
に対処すればよいか・・などなど、とてつもない大きな課題が突如立ちはだかることになる
のですね。
会議の模様は詳細には、まだ報告されていませんので一部の情報から想定した内容を書き
ましたが、20日に行われたネットライブ中継のセミナーは、ほぼすべて聴講しました。
プログラムは以下の通りです。
地球を守れ!~天体の地球衝突にどう対応するか~
13:30 - オープニング : プラネタリー・ディフェンスのやさしいお話
吉川真(JAXA 宇宙航空研究開発機構)
14:00 - 太陽系小天体の謎~予想通りにならないから面白い~
渡部潤一(NAOJ 国立天文台)
14:30 - 小惑星から地球を守る ※ 1
ブルース・ベッツ(Bruce Betts、米国惑星協会)
15:00 - 休憩
15:10 - 小惑星を発見しよう!
浅見敦夫(日本スペースガード協会)
15:50 - アステロイド・デイ~発想から世界的な動きへ~ ※ 2
グリゴリ・リヒター(Grigorij Richters、
アステロイド・デイ 共同創設者)
16:20 - クロージング・トーク(渡部・吉川)
16:30 閉会
今回初めて、この問題に少しばかり深入りしてみましたが、用語自体も理解できないよう
な内容が多く、とても分かりやすくレポートするなど、私には荷が重すぎました。なので、
これを読む人にとりましては、はなはだ迷惑なことと身が縮む思いですが、まことにご容赦
のほど切にお願い申し上げます。
明日に迫った問題も、なかなか処すことができない昨今のあわただしい時代に、遥か何年
も先の問題を論じていても、いざ鎌倉のそれが大きいと想像できるため、架空のお遊び?の
ようにはとても感じられないのです。
お疲れさまでした!