<10月11日>
いつものように豊田市街地の混雑を避け、豊田松平ICから豊田藤岡ICまでの2区間だけ 高速を使い、R419を走って豊田小原から岐阜との県境を越えて瑞浪に入った。天気もよく、青空と初秋の薄緑の山々、そして山あいのワインディング。ツーリングには今が一番いい季節かもしれない。
恵那市山岡の道の駅「おばあちゃん市・山岡」は、ひっそりとしたダム湖にある道の駅だが、季節がいいせいか、駐車場からクルマがあふれるくらいの盛況ぶりだった。今回のツーリングは、道の駅5つをぐるっと回って来ようというコースで、その途中で温泉に入るという計画だ。山岡の道の駅の目玉、巨大水車をバックに写真を撮っ て、次の目的地に急いだ。
2つめの道の駅は、土岐の「土岐美濃焼街道」だ。県道33を少し戻り、恐ろしいほど高い小里大橋を渡って県道66をしばらく走ればすぐに着く。距離にして10㎞にも満たないほど近くにある。この区間も丘陵地を走るいい感じの道だ。信号で止まると、いっしょに走っている妻も「気持ちいい」を連発している。
道の駅「土岐美濃焼街道」には、宇宙ステーションのような建物に、美濃焼が「これでもか っ」と思えるほどたくさん並べられている。焼き物の好きな妻にとっては時間をかけて見てみたい場所だが、日帰りツーリングということで我慢させてしまった。それから、全国の道の駅の名物コーナーもある。つい、青森の炊き込みごはんの素を買ってしまった。見るからにおいしそうに見えたし、3合分で515円なら安い気がしたからだ。料理するのは妻だから、僕は買うだけ。
土岐の道の駅を出て、県道66を東に走った。岐阜県の県道66は僕のお気に入りの道の一つで、信州ビーナスラインに匹敵するくらい気持ちよく走ることのできる高原道路だ。美しい山並みに、時折見られるのどかな山村の集落。初秋にぴったりの風景だ。
再び瑞浪市に入り、県道66の東の突き当たりに道の駅「そばの郷らっせいみさと」があるが、つい最近行ったばかりなので今回はパスした。
R418のワインディングで恵那市旧山岡町に入る。今回の目的の一つが、「温泉に入る」ということで、旧山岡町の花白温泉をターゲットにしていた。7月に来た時には改装中で休業し ていたのだ。オープンしているかどうかは知らなかったが、とにかく行ってみることにした。
花白温泉は、明智鉄道(旧JR明智線)の花白駅のすぐ脇にある日帰り温泉施設だ。お昼を 過ぎていたので、温泉に入る前に昼食をとることにした。
温泉の駐車場にバイクを止め、リアシートにくくりつけておいた小さなテーブルと椅子を出し、駅の横の線路脇に置いた。豊田松平ICに入る前にコンビニで買ったおにぎりとゆで卵をタンクバッグから取り出すと、ちょっとしたピクニック気分になる。線路越しに見える風景はま さに日本の原風景。畑の端には板張りの古ぼけた小さな小屋。
「子どもの頃、どこの畑にもあったよね。」
と、妻が言った。今でこそ日本有数の工業都市になった豊田も、僕の子どもの頃はここ花白と同じような風景が広がっていたことを思い出し、なつかしさに浸ってしまった。
おにぎりを頬張っていると、遠くから電車の音。僕たちのすぐ脇をたった1両の電車が通った。ディーゼルだがら、電車とは言えないが、子どもの頃、僕の家の近くを走っていた名鉄三河線も1両だけで走っていることもあった。
食事の後は温泉だ。500円ずつの1000円を払って、花白温泉に入った。なんとなくジャスミン系の匂いがした。、ややぬるめのお湯は僕にとっては適温で、ずっと入っていたいほどいい気持ちになった。ご飯を食べ て、のどかななつかしい風景を見て、温泉に入って、「極楽極楽」と言ってしまいそうなほどいい気分だ。
あまりの気持ちよさに、少し長居をしてしまった。花白温泉を出て、恵那岩村からR257に入った。ここも山あいのワインディングで気持ちのいい道だ。途中の恵那市旧上矢作町に道の駅「上矢作ラ・フォーレ福寿の里」があるが、ここもつい最近来たばかりだったのでパスし、旧上矢作町の中心街から再びR418で東に向かった。
旧上矢作市街地の国道は、ほとんど路地と言っていいほど古い家と家の狭い間を通る道だった。豊田がまだ挙母(ころも)と呼ばれていた頃の町並みだ。R418は、そのまま山の中へと入っていくが、道幅は1車線半くらいのくねくねした道になった。前を行くプリウスはかなりハイペースで走っているのでよかったが、遅い車の後ろについたら大変なことになりそうだ。それでも、対向車が来るたびに隅によって止まるので、仕方なく僕たちもその後ろで待っていなければならなくなる。しばらくして、プリウスのおじさんは路肩が広くなった所で先に行かせてくれた。その横を通り抜ける時、手で「ありがとう」の合図を送り、その後は止まることなく走り続けることができた。本当に「これが国道?」と思えるような道が20㎞近くも続いていた。そして、その途中に長野県境があった。
超狭い国道を抜け、R153の交差点を左に曲がるとすぐに道の駅「信州平谷」がある。R153はシルバーウィークに走ったが、「信州平谷」は通過している。そこで、今回は3つ目の道の駅として入ることにした。
道の駅「信州平谷」には魅力的な日帰り温泉施設もあるが、僕のお気に入りはトイレだ。石 垣風の壁の独立した建物になんとなく惹かれるものを感じる。だから、したくなくても用を足す。
時計を見るともう3時半。5時を過ぎれば暗くなりはじめるこの時期に、3時半に長野県にいるのはちょっとマズイ気がしてきた。
道の駅を出ると、走り慣れたR153を少しペースを上げて走った。根羽村を過ぎると愛知県境だ。景色は山また山の信州の景色のまま豊田市に入る。豊田市と言っても、県境の旧稲武町は奥三河の北設楽郡だった高原の町で、ほぼ全域が国定公園になっている。R153の平谷から稲武にかけてはほとんどが高原道路の様相で、ツーリングにはうってつけの道だ。だんだん夕日が眩しくなってくる。
稲武市街地の手前の交差点で左折し、R257を7㎞ほど走ると設楽町名倉に着く。川沿いのやや薄暗い自然に覆われた国道だ。愛知県最高峰の茶臼山入口付近に道の駅「アグリステーショインなぐら」がある。小さな道の駅だがライダーだけは多かった。豊田、三河、岡崎、 豊橋、浜松、松本といった周辺各地のナンバーが勢揃い。それだけでも十分おもしろかった。
設楽町名倉を出て、再びR153に戻り、最後5つ目の道の駅「どんぐりの里いなぶ」に立ち寄った。ここも前回のツーリングで通ったが、あまりにも混雑していたので通過した道の駅だ。僕たちがバイクを止めると、アメリカンタイプのバイクが2台やってきて、すぐ隣にバイクを止めた。なにわナンバーと神戸ナンバーの若いカップルだった。女性がにこやかな顔で関西のイントネーションで「こんにちは」とあいさつしてくれた。僕は、だいたい自分からあいさつするよう心がけているが、ここでは先を越されてしまった。ライダー同士は、仲間意識があるのか、よく声をかけ合う。これも、バイク・ツーリングならではの魅力の一つになっている。
缶コーヒーを飲み、マルボロを1本。いよいよ西日を浴びながら家路を急ぐ。
休日の夕方は、豊田方面に向かうクルマは多い。たまにしかない信号で止まると、ずらっとクルマが並ぶ。こういう時は狭い豊田足助市街地で大渋滞になる。そこで、僕だけのワープ道路を使うことにした。迂回路は何本もあるが、僕は旧足助町に入ってすぐの交差点を柿野温泉方面に曲がり、県道357~33を経て旧藤岡町に抜けるコースを走ることにしている。この山あいの緑に覆われた、小川のせせらぎが聞こえてきそうなワインディングコースを通るときは、だいたい僕たちだけの道になる。だから、これまで誰にも教えていない。
旧藤岡町に入ってからもすいすい走ることができ、往路と同じように豊田藤岡ICから豊田松平ICまで豊田市街地ワープで帰ってきた。辺りはすっかり薄暗くなっていた。オドメーターを見ると、なんと224㎞も走っていた。のんびりツーリングが好きな僕たちにしてはちょっと距離が長かったが、初秋の美濃、南信、奥三河の道に大満足の1日になった。