※昨年9月の「北海道ツーリング2014道北道東」のレポートです。かなりの大作なので、3回に分けて掲載します。もしよろしければ、前回の(上)からお読みいただければ幸いです。
<9月10日>
紋別セントラルの朝食バイキング(1000円)はおいしいものがたくさんあって、朝から食べ過ぎてしまった。特にジャガイモの「キタアカリ」とトウキビ(トウモロコシ)のせいろ蒸しは最高だ。
9時にホテルを出て、近くのカニのはさみの巨大モニュメントを見に行った。
「なんじゃ、コレ。」
たしかに、おもしろい。カニの町の象徴として作られたと思うが、よく思いついたものだ。
今日の天気は、予報では曇り時々雨。道南は大雨の予報になっていたが、道東は大丈夫そうだ。それでも、いつでもカッパが出せるようにして次の目的地サロマ湖に向かった。そこで思いついた今日のテーマは「道東の湖巡り」だ。
大農業地帯と思えるような見渡す限りの農地の間を南に進む。
左手にサロマ湖が見えるようになった。ほとんど海みたいなものだが、雰囲気はやっぱりオホーツク沿いの湖。やたら広いがひっそりしていてすごく穏やかだ。
道の駅「サロマ湖」で駐車場に入らず、坂を登ってホテルの駐車場にバイクを止めさせてもらった。わずかな高台だが、海のように見えていたサロマ湖がここからだとちゃんと湖に見える。ホテル関係者でも宿泊客でもないので、ちょっと眺めて写真を撮り、すぐに下の道の駅の駐車場に移動した。
トイレから戻ると、隣に止まった神戸ナンバーのブガッティ氏が、
「キムアネップから見るサロマ湖がすごくきれいですよ。」
と、教えてくれた。それなら、と言うことで、キムアネップに行ってみることにした。
相変わらず海と見間違えそうなサロマ湖畔のR238を走ると、「キムアネップ」の案内標識があった。標識に従って左折し、狭い道を東に向かった。
キムアネップ岬の駐車場に着くと、「サンゴ草の生息地」という看板が目についた。見てみると、赤い絨毯のような湿原が広がっていた。咲き終わり頃のハマナスの赤い花、プチ・トマトのようなハマナスの赤い実、そしてサンゴ草の赤。オホーツク沿岸の白色ばかりの世界を走っていた僕には、すごく鮮やかで新鮮に映った。
2つ目の湖は能取湖だ。ちょうどR238は能取湖の周遊道路のようになっていて、こうして走っているだけで訪れたことになる。
続いて3つ目の網走湖。これまでの2つの湖とは違い、海から離れている。まわりの緑に合わせて水の色も緑色だが、天気が悪いため、くすんだような緑色だった。今回は、前回見た美しい青い湖は見られなかった。それでも、網走市街からR39に入り、呼人浦辺りからの景色は美しい自然に包まれたとても素敵な景色だった。
素敵な景色と言えば、呼人浦のすぐ先にあるメルヘンの丘だ。僕のお気に入りポイントの一つで、道東に来たら絶対に外せないポイントになっている。広い畑に木が並んでいるだけの景色だが、なんともほんわりとした優しい景色がそこにあるような気がしてならない。
天気が悪く、空の色が白一色だった。それで、一列に並んだ木がくっきりとシルエットのように見え、とても幻想的な景色になっていた。
時刻は11時50分。メルヘンの丘の少し先にある道の駅「メルヘンの丘めまんべつ」でしじみラーメンを食べることにした。以前のツーリングで食べた網走湖のしじみは大きめでとてもおいしかった。
道の駅「メルヘンの丘めまんべつ」の駐車場にバイクを止め、中に入ると、なんと運の悪いことにラーメン・コーナーだけ臨時休業の札が掛かっていた。他に北海道らしい食べ物はないかとぶらぶらしていたが、「さくらぶた丼」くらいしか見当たらない。ぶた丼はあまり好きではないが、ほかの普通のメニューよりはいい。
さくらぶた丼でお腹はいっぱいになった。付いていたしじみの味噌汁がうまかった。
外に出ると、また雨が降り出していた。カッパを着てR39バイパスとR39で美幌に向かった。今日4つ目の湖はクッチャロ湖だ。クッチャロ湖は美幌峠から眺めるのが最も美しいと思う。美幌でR243に入り、峠へと向かう。内地の峠道と違い、緩やかな傾斜のほぼまっすぐな登り坂で、雄大な景色の中を自分の一番気持ちいい速さで走り続けられる道だ。9月に入って、観光客もめっきり減り、広大な景色がまるで自分のためにあるような気分になってくる。峠に近づくと、辺りは西洋の高原の雰囲気の景色に変わる。その雰囲気を楽しむためのパーキングがないことがとても残念だが、雰囲気を味わいながら走るのもいいものだ。
美幌峠の駐車場にバイクを止め、まずは揚げいもを購入。JAF会員は300円の揚げいもが250円になる。わずか50円だが、すごく得した気分になる。
坂道を少し歩くと、眼下にクッチャロ湖。見えた瞬間、やっぱり、
「わあ~。」
と、声が出てしまった。きれいすぎるのだ。湖を見下ろせる岩に腰掛け、揚げいもを食べながらクッチャロ湖を眺める。僕にとっては大好きなひとときだ。この3日間、大好きなことをいっぱいしている。
駐車場に戻ると、昨日のグロム125の大分氏が、僕のバイクの隣にバイクを止めて待っていた。僕と同じように美幌からこの峠に登ってきたそうだ。僕のバイクを見つけて、待っていてくれたのだった。彼にとっては、初めての北海道ツーリングだ。素敵な兵庫の友達とも出会い、いい思い出がどんどん増えていっているようだった。
「いっしょに写真、撮りませんか。」
彼の言葉に、いつも持ち歩いている小型の三脚を取り出し、それぞれのカメラでグロムとダエグをバックに写真を撮った。僕は何度も北海道ツーリングをしているが、ツーリング先で出会った人といっしょに写真を撮るのは何年ぶりだろう。これも、ソロツーリングだからこその経験かもしれない。夫婦で走っていると、あまり声をかけられることもないのだ。
宗谷岬で出会ったエストレアの奈良氏、グロムの大分氏、そして昨日の兵庫加東氏と、ソロで走っていると素敵なライダーたちとの出会いがあり、寂しい旅になりそうなどという不安はいつの間にか消えていた。
美幌峠を後にした僕は、今日最後の5つ目の湖の摩周湖を目指した。これまでのツーリングはお盆の時期だったのでいつも混雑を避けて裏摩周からの展望を楽しんでいた。今日は9月の平日。観光バスも少なそうなので正攻法で第1、第3展望台から眺めてみようと思った。
弟子屈市街から入る摩周に向かう道道52は初めて走る道だ。そういえば、今回のツーリングで初めて走る道を走るのは初めてだ。なんだかヘンな言い方だが、毎年北海道を走っていると主要道路や観光地の道路はほとんど走破してしまっている。だから、僕の「北海道ツーリング」は「思い出の道」を走るツーリングになっていた。道道52はしだいにぐんぐん登って行く坂道になっていった。摩周湖第1駐車場の看板を見つけた。かなり狭い駐車場だ。これでは観光シーズンに大混雑するのは当たり前。ここに観光バスが何台も入ってくるのだから、やっぱりこれまでお盆の時期に来たときに裏摩周へ行ったのは正解だったとつくどく感じた。
駐車料金100円を払って階段を上がると、ここでも、
「わあっ。」
と、声が出そうになった。雨は小康状態で傘は必要なかったが、天気は悪い。そのせいかかすかに周囲に霧がかかっていたが、密やかにたたずむ摩周湖のイメージそのものの風景になっていた。よく、霧で湖が見えないと言われているが、僕はこれで4連勝だ。4回来て、霧で湖が見えなかったことは一度もない。今日のような悪天候でもちゃんと見えたというのは、かなり運がいいと思う。
第3展望台に向かう途中、遠く左側に見える硫黄山の白い山肌が妙に美しかった。どこかでバイクを止めて写真を撮ろうとしたら、急に霧の中に突入した。これが有名な「霧の摩周湖」なのだと思っているうちに第3展望台にさしかかった。もちろんパスした。すぐ先が見えないのに摩周湖が見えるわけがない。
坂を下る途中に霧の晴れ間があったので、ちょっと路肩が広くなっていた所でバイクを止め、硫黄山の遠景の写真を撮った。
急カーブの連続する坂道を下り、R391に入った。すぐに川湯方面に左折すると、摩周湖から美しく見えた硫黄山に着く。近くで見ると大迫力だ。遠くから白く見えた山肌からは硫黄臭の水蒸気が立ちのぼっている。摩周湖の駐車場と共通チケットなので、半券を係のおじさんに渡してバイクを止めた。
いつの間にか、雨は上がっていた。水蒸気の近くまで歩くと、白い岩肌が部分的に黄色くなっていて、そこからもうもうと濃い硫黄のにおいのする水蒸気が吹き出ている。
「地球は生きている。」
まさにそれが実感できる場所だ。その先にも、無数に湯気が立ちのぼり、とても壮観な風景だ。
ここに来たら絶対に食べなくてはならないのがゆで卵だ。硫黄の湯気で茹でた卵の殻は黒っぽい色になり、食べると黄身が濃い味になっているような気がするのだ。もちろん今回も売店に行き、1袋5個入りを買った。400円は安いとは思うが、この5つをどこで食べようかとちょっとだけ悩んでしまった。とりあえず駐車場で1個を頬張った。やっぱりうまい。
今日の目的地は5つの湖と硫黄山ですべて終了だ。今夜の宿は、知床ウトロの民宿旅館「酋長の家」に決めている。道東に来た時は必ず泊まるお気に入りの宿だ。初めて訪れたのは30年くらい前のこと。数年に1度しか行くことはないが、女将さんはずっと僕たち夫婦のことを覚えてくれている。しかも、本物のアイヌの元酋長の奥さんで、毎回アイヌの話をいっぱいしてくれる。
時間に余裕があれば藻琴山展望台からもう一度クッチャロ湖を眺めてみたかったが、時計の針はもうすぐ4時をさしていた。このまま一気にウトロに向かうことにした。
小清水と斜里との間のR344の直線は圧巻だ。林の間を10㎞近くも一直線に伸びている。しかも、アップダウンを繰り返すからよけいにおもしろい。下り坂の終わり頃に加速して、そのまま一気に上る。そんなイメージの道だ。もちろん、そんなことはせずに、一定の速度で上ったり下ったりするが、それがおもしろくてたまらなかった。
R334は斜里から東へ知床半島方面へと向きを変える。半島の北側の根元辺りの国道は、いくつかの集落を畑と林でつないでいる。それを通り過ぎると、左手にオホーツク海が見えるようになる。昨日は白い波の荒々しいオホーツクしか見ていなかったが、今はおだやかな海になっていた。
17時30分頃、「酋長の家」に到着。出迎えてくれた宿の人たちの中に女将さんの姿はなかった。
まずは温泉。熱いが気持ちのいいお湯だ。そして、夕食では毛がになどの知床の海の幸を楽しみ、部屋に戻ってくつろいだ。そのうちにいつの間にか眠ってしまい、目を覚ました11時過ぎにもう一度温泉に入り、床に就いた。一日中バイクで走ると、本当によく眠れるものだ。
*本日の走行 313㎞
*本日のピースサイン 22発
<9月11日>
朝のニュースで、道内各地で記録的豪雨による大きな被害が出ていることを知った。特に白老や苫小牧の被害は大きかったようだ。帰りのフェリー乗り場までの道路は大丈夫なのか心配になった。幸いなことに、今朝のウトロは青空が広がっていた。それでも、天気予報では曇りのち雨。晴れているうちに知床峠に行かなくはいけないと思った。
「酋長の家」は、これまでに何度も訪れているが、女将さんの姿が見られなかったのは初めてのこと。出発前にご主人と話をしていると、奥さんが体調を崩されて入院しているとのことだった。お年を召されておられるだけに心配になった。元気になって、またアイヌの話を聞かせてほしいものだ。
9時にウトロを出て、知床横断道路で知床峠を目指した。やっぱり青空はいい。最高の雰囲気でワインディングを駆け上る。くっきりと見える羅臼岳が美しい。ただ、峠の方向に薄雲がかかっているのが気に掛かる。それでも、峠を登り切るまではいい天気の中で走り続けることができた。
峠の碑の前にバイクを止め、写真を撮った。しかし、峠から見る景色は、羅臼岳も国後も白く霞んでいた。碑の前に戻ると、品川ナンバーのBMWが入ってきた。言葉遣いがとても丁寧で、礼儀正しい人だ。しばらく品川氏とツーリング談義を交わした後、羅臼方面へと峠を下った。羅臼側の峠道はコーナーが続く下り坂。時折うっすらと霧がかかっていたので、慎重にバイクを走らせた。
それにしても寒い。陽が照っているのに寒い。きっと高度のせいだと思い、麓に降りれば寒くはないだろうと思っていたが、高度が下がってもやっぱり寒い。9月の道東は、もう秋なのだ。
羅臼では、まだ行ったことのなかった「北の国から」の純の番屋に行ってみることにした。そこは、小さな、それでいてちょっとおしゃれな食堂になっていた。建物の前で写真だけ撮って、R335で標津方面へとバイクを進めた。
野付半島に行ってみたかった。おそらく野付半島にしか見られない両側が海になっている道の風景を、また見たくなったのだ。
今日の目的は、地平線の見える3つの丘(開陽台、多和平、900草原牧場)を制覇することだ。その前に、大好きな知床峠と野付半島を見ておこうと、なんとも贅沢な計画を立てていた。
R335を走ると、ドライブイン風の「国後がもっとも近くに見える店」で休憩していたが、閉店していた。今まで、お盆の時期でもお客さんがいっぱい入って繁盛してたことは記憶にない。しかたがないので、トイレ休憩を取らずに野付半島に行くことにした。それにしても、やっぱり寒い。15㎞くらい海に突き出ている細い半島は、さえぎるものが何もないのでよけいに寒く感じる。ひたすら野付湾とオホーツク海の間をただただ走る。そうして、バイクで行ける先っぽのパーキングにバイクを止めた。トイレ休憩を取らずに走った上にこの寒さだ。バイクを止めるとすぐにトイレに・・・と思ったが、トイレらしい建物がない。あるのはタンク・ローリーのタンクだけ。まいったなあと思いながら大きなタンクに近づくと、扉が2つ付いている。
「ん?なんだ、これ。」
「トイレじゃん!」
駐車場に置かれてあったタンク・ローリーのタンクがトイレになっていた。2つの扉は、男子トイレと女子トイレの扉だった。用を足している時は、おもしろくてたまらなかった。タンクのトイレと岬の灯台の写真を撮って半島道路を引き返した。
標津からR244を7~8㎞ほど走ったところで左折し、道道975に入った。しばらくすると、森の中のアップダウンを繰り返す直線道路になる。これまで地平線までまっすぐ伸びる道を何度も走っているが、北海道の直線道路はどこも美しい。だから、北海道はただ走っているだけでも感動の連続になる。
一つ目の地平線の見える丘は開陽台だ。もっともメジャーな「地球が丸く見える丘」なのだが、季節外れのためか観光バスは1台もいなかった。ライダーに人気の丘だが、バイクも6~7台だけだった。そのほとんどが、僕と同じカワサキのバイクだ。なんだかうれしくなる。隣に止まっていたW400氏と雨情報を交換し、三脚を持って丘の上に登った。
ちょうどお昼だったので、ここで昼食にしようと思ったが、喫茶コーナーしかなかった。そこで、ホットドッグ1本といももち1つを食べたが、お腹いっぱいにはならなかった。どこかで何か食べればいいと思い、雲のかかった地平線の写真を撮って丘を下った。
開陽台を出て、再び麓の道道を走ると、景色は森から一変して大農業地帯になった。前後左右どこを見ても畑、畑、畑。その中に直線の道が直角に交わいながらいくつもいくつもある。同じような道ばかりなので、間違えないように地図で道道150、道道885を確かめながらR243との交差点を目指した。ところが、道道885が工事のため通行止めになっていた。迂回路が示されていたが、道道505を南に10㎞、道道13で東に8㎞となっていた。迂回コースの距離も半端ではない。その迂回路を走っていると、「斜里まで40㎞」の標識があった。
「この先ずっと行くと斜里・・・。まずいかも。」
そう思っているとちゃんと「摩周・中標津線」という標識もあった。よかったと思ったものの、また斜里方面の標識。
「ひょっとして、逆に向かって走っているのでは。」
と、不安がよぎった。地図では間違ってはいないはずだが、斜里に向かっているとしたら大変なことになる。今朝出発したのが斜里町ウトロなのだから「ふりだしに戻る」になってしまう。
「このまま斜里に出たら、シャリにならないなあ。」
と、ヘルメットの中でつぶやいた自分に笑ってしまった。
たぶんこの道、と地図を見ながらいくつかのまっすぐに伸びる道を走ると、無事にR243に出ることができた。地図を読むことには多少の自信はあるが、この時ばかりは不安が頭をもたげていた。
胸をなで下ろし、R243を西に向かった。そして、次の目的地の「多和平」へ行く道道1040へとバイクを進めた。
多和平への道は道道を外れても案内標識がしっかりしていて、とても分かりやすい。
これで、地平線の見える丘の2つ目をゲット。羊の写真と、地平線の写真を撮って駐車場に戻ると、GB500TTに乗るおじさんがいた。この人も言葉遣いが丁寧で礼儀正しい人だった。なんでも、28年前に買ったGBを大事に大事に乗り続けているそうだ。
相変わらず寒い。防寒のためカッパを着て多和平を出た。青空がいつの間にか曇り空になり、日が当たらなくなって寒さが増してきたのだ。
再びR243に戻り、弟子屈市街に入った。次の目的地「900草原牧場」は、地図で見ても分かりづらい。一度行ったことはあるが、どこをどう走ったのか、よく覚えていない。案の定、摩周駅周辺の道路をうろうろするはめになった。それでも、うろうろしているうちにR53に出て、小さな「900草原」の看板も見つけた。見つけたものの、やっぱりよく分からず、今回もまたどこをどう走ったのか分からないまま狭い道を通ってなんとか900草原牧場に着くことができた。
これで今日の目的地の3つの丘を制覇したことになる。最後の「丘から見た地平線」の写真を撮り、売店に入った。すると、エゾシカバーガーの文字が目に飛び込んできた。お昼ご飯の続きということで、それを食べることにした。うまいバーガーだったが、特にエゾシカの味というのは感じられなかった。おいしくてめずらしい食べ物を食べたということで満足し、売店を出た。まずいことに、雨がパラつき出していた。
ここに来るまで、このペースだと今日の宿は「オンネトー国設キャンプ場」かなあと思っていたが、ちょっとあやしくなってきた。そう思っているうちに、雨は本降りになった。
900草原を出て阿寒に向かうR241を走っているうちにますます雨足は激しくなり、急カーブの続く峠道で、今回のツーリングで初めて「怖い」と思った。まだ午後4時なのに辺りはすっかり暗くなり、路面は雨水が川のように流れていた。カーブはきついし、前を走るティーダのペースは速い。ティーダのテールランプだけが頼りなので離されるわけにはいかない。ついていくのが精一杯だった。それなのに、僕とティーダを平気で抜いていったタンデムのBMWがいた。この雨の中でもその気になれば速いペースで走れるものだと思ったが、恐がりの僕はバイクの性能よりも怖さの方が上回っていた。もちろん、BMWに合わせてペースを上げるようなことはしなかった。そして、この時点でキャンプをするのもあきらめた。
「峠を下った阿寒湖温泉にでも泊まるか。」
やっとのことで阿寒湖温泉に着いたが、観光案内所とか旅館案内所のようなものが見当たらない。900草原を探していた時の摩周駅周辺と同じように、今度は温泉街をうろうろした。土砂降りの雨のなかでのうろうろなので、早く宿を決めたかった。そこで思いついたのが、「山水荘」だ。これまで2度ほど飛び込みで泊まったことがある小さな旅館だ。うろうろしている時に、山水荘は見つけてある。ただ、空いているかどうか。
宿の前にバイクを止め、玄関の扉を開けて不安ながら部屋が空いているかどうか聞いてみた。
「いらっしゃい。はいはい。大雨で高速が通行止めになってキャンセルがあったから空いてますよ。」
とのことだった。そのときのうれしかったこと。山水荘は、今までの2回の宿泊で、部屋は古いがお湯はいいし、食事も値段の割にはなかなかいいし、案外いい印象のある旅館だ。
まずは阿寒湖温泉のお湯に浸かり、冷えた体を温めた。いい気持ちだ。
素朴でおいしい晩ご飯を食べ、部屋に戻ってNHKのニュースを見た。
「なんだ、これ。」
苫小牧市街の映像に驚いた。町の人が膝まで水に浸かりながら歩いている。しかも、帰りに通る予定の苫小牧港に向かう道路の映像だ。朝のニュースで豪雨のニュースは見たが、まさかここまで大変なことになっているとは・・・。しばらくして、閉鎖されていた高速道路が開通したとのテロップが入った。スマホを見ると、「大丈夫?」のメールが3通。安心メールを返し、妻には、
「阿寒と苫小牧は、うち(豊田)から四国くらいの距離だから、心配しないで。」
と、電話も入れた。
それからは、部屋でごろごろして過ごした。もちろん、寝る前にもう一度気持ちのいい温泉に入った。
*本日の走行 284㎞
*本日のピースサイン 26発
<9月10日>
紋別セントラルの朝食バイキング(1000円)はおいしいものがたくさんあって、朝から食べ過ぎてしまった。特にジャガイモの「キタアカリ」とトウキビ(トウモロコシ)のせいろ蒸しは最高だ。
9時にホテルを出て、近くのカニのはさみの巨大モニュメントを見に行った。
「なんじゃ、コレ。」
たしかに、おもしろい。カニの町の象徴として作られたと思うが、よく思いついたものだ。
今日の天気は、予報では曇り時々雨。道南は大雨の予報になっていたが、道東は大丈夫そうだ。それでも、いつでもカッパが出せるようにして次の目的地サロマ湖に向かった。そこで思いついた今日のテーマは「道東の湖巡り」だ。
大農業地帯と思えるような見渡す限りの農地の間を南に進む。
左手にサロマ湖が見えるようになった。ほとんど海みたいなものだが、雰囲気はやっぱりオホーツク沿いの湖。やたら広いがひっそりしていてすごく穏やかだ。
道の駅「サロマ湖」で駐車場に入らず、坂を登ってホテルの駐車場にバイクを止めさせてもらった。わずかな高台だが、海のように見えていたサロマ湖がここからだとちゃんと湖に見える。ホテル関係者でも宿泊客でもないので、ちょっと眺めて写真を撮り、すぐに下の道の駅の駐車場に移動した。
トイレから戻ると、隣に止まった神戸ナンバーのブガッティ氏が、
「キムアネップから見るサロマ湖がすごくきれいですよ。」
と、教えてくれた。それなら、と言うことで、キムアネップに行ってみることにした。
相変わらず海と見間違えそうなサロマ湖畔のR238を走ると、「キムアネップ」の案内標識があった。標識に従って左折し、狭い道を東に向かった。
キムアネップ岬の駐車場に着くと、「サンゴ草の生息地」という看板が目についた。見てみると、赤い絨毯のような湿原が広がっていた。咲き終わり頃のハマナスの赤い花、プチ・トマトのようなハマナスの赤い実、そしてサンゴ草の赤。オホーツク沿岸の白色ばかりの世界を走っていた僕には、すごく鮮やかで新鮮に映った。
2つ目の湖は能取湖だ。ちょうどR238は能取湖の周遊道路のようになっていて、こうして走っているだけで訪れたことになる。
続いて3つ目の網走湖。これまでの2つの湖とは違い、海から離れている。まわりの緑に合わせて水の色も緑色だが、天気が悪いため、くすんだような緑色だった。今回は、前回見た美しい青い湖は見られなかった。それでも、網走市街からR39に入り、呼人浦辺りからの景色は美しい自然に包まれたとても素敵な景色だった。
素敵な景色と言えば、呼人浦のすぐ先にあるメルヘンの丘だ。僕のお気に入りポイントの一つで、道東に来たら絶対に外せないポイントになっている。広い畑に木が並んでいるだけの景色だが、なんともほんわりとした優しい景色がそこにあるような気がしてならない。
天気が悪く、空の色が白一色だった。それで、一列に並んだ木がくっきりとシルエットのように見え、とても幻想的な景色になっていた。
時刻は11時50分。メルヘンの丘の少し先にある道の駅「メルヘンの丘めまんべつ」でしじみラーメンを食べることにした。以前のツーリングで食べた網走湖のしじみは大きめでとてもおいしかった。
道の駅「メルヘンの丘めまんべつ」の駐車場にバイクを止め、中に入ると、なんと運の悪いことにラーメン・コーナーだけ臨時休業の札が掛かっていた。他に北海道らしい食べ物はないかとぶらぶらしていたが、「さくらぶた丼」くらいしか見当たらない。ぶた丼はあまり好きではないが、ほかの普通のメニューよりはいい。
さくらぶた丼でお腹はいっぱいになった。付いていたしじみの味噌汁がうまかった。
外に出ると、また雨が降り出していた。カッパを着てR39バイパスとR39で美幌に向かった。今日4つ目の湖はクッチャロ湖だ。クッチャロ湖は美幌峠から眺めるのが最も美しいと思う。美幌でR243に入り、峠へと向かう。内地の峠道と違い、緩やかな傾斜のほぼまっすぐな登り坂で、雄大な景色の中を自分の一番気持ちいい速さで走り続けられる道だ。9月に入って、観光客もめっきり減り、広大な景色がまるで自分のためにあるような気分になってくる。峠に近づくと、辺りは西洋の高原の雰囲気の景色に変わる。その雰囲気を楽しむためのパーキングがないことがとても残念だが、雰囲気を味わいながら走るのもいいものだ。
美幌峠の駐車場にバイクを止め、まずは揚げいもを購入。JAF会員は300円の揚げいもが250円になる。わずか50円だが、すごく得した気分になる。
坂道を少し歩くと、眼下にクッチャロ湖。見えた瞬間、やっぱり、
「わあ~。」
と、声が出てしまった。きれいすぎるのだ。湖を見下ろせる岩に腰掛け、揚げいもを食べながらクッチャロ湖を眺める。僕にとっては大好きなひとときだ。この3日間、大好きなことをいっぱいしている。
駐車場に戻ると、昨日のグロム125の大分氏が、僕のバイクの隣にバイクを止めて待っていた。僕と同じように美幌からこの峠に登ってきたそうだ。僕のバイクを見つけて、待っていてくれたのだった。彼にとっては、初めての北海道ツーリングだ。素敵な兵庫の友達とも出会い、いい思い出がどんどん増えていっているようだった。
「いっしょに写真、撮りませんか。」
彼の言葉に、いつも持ち歩いている小型の三脚を取り出し、それぞれのカメラでグロムとダエグをバックに写真を撮った。僕は何度も北海道ツーリングをしているが、ツーリング先で出会った人といっしょに写真を撮るのは何年ぶりだろう。これも、ソロツーリングだからこその経験かもしれない。夫婦で走っていると、あまり声をかけられることもないのだ。
宗谷岬で出会ったエストレアの奈良氏、グロムの大分氏、そして昨日の兵庫加東氏と、ソロで走っていると素敵なライダーたちとの出会いがあり、寂しい旅になりそうなどという不安はいつの間にか消えていた。
美幌峠を後にした僕は、今日最後の5つ目の湖の摩周湖を目指した。これまでのツーリングはお盆の時期だったのでいつも混雑を避けて裏摩周からの展望を楽しんでいた。今日は9月の平日。観光バスも少なそうなので正攻法で第1、第3展望台から眺めてみようと思った。
弟子屈市街から入る摩周に向かう道道52は初めて走る道だ。そういえば、今回のツーリングで初めて走る道を走るのは初めてだ。なんだかヘンな言い方だが、毎年北海道を走っていると主要道路や観光地の道路はほとんど走破してしまっている。だから、僕の「北海道ツーリング」は「思い出の道」を走るツーリングになっていた。道道52はしだいにぐんぐん登って行く坂道になっていった。摩周湖第1駐車場の看板を見つけた。かなり狭い駐車場だ。これでは観光シーズンに大混雑するのは当たり前。ここに観光バスが何台も入ってくるのだから、やっぱりこれまでお盆の時期に来たときに裏摩周へ行ったのは正解だったとつくどく感じた。
駐車料金100円を払って階段を上がると、ここでも、
「わあっ。」
と、声が出そうになった。雨は小康状態で傘は必要なかったが、天気は悪い。そのせいかかすかに周囲に霧がかかっていたが、密やかにたたずむ摩周湖のイメージそのものの風景になっていた。よく、霧で湖が見えないと言われているが、僕はこれで4連勝だ。4回来て、霧で湖が見えなかったことは一度もない。今日のような悪天候でもちゃんと見えたというのは、かなり運がいいと思う。
第3展望台に向かう途中、遠く左側に見える硫黄山の白い山肌が妙に美しかった。どこかでバイクを止めて写真を撮ろうとしたら、急に霧の中に突入した。これが有名な「霧の摩周湖」なのだと思っているうちに第3展望台にさしかかった。もちろんパスした。すぐ先が見えないのに摩周湖が見えるわけがない。
坂を下る途中に霧の晴れ間があったので、ちょっと路肩が広くなっていた所でバイクを止め、硫黄山の遠景の写真を撮った。
急カーブの連続する坂道を下り、R391に入った。すぐに川湯方面に左折すると、摩周湖から美しく見えた硫黄山に着く。近くで見ると大迫力だ。遠くから白く見えた山肌からは硫黄臭の水蒸気が立ちのぼっている。摩周湖の駐車場と共通チケットなので、半券を係のおじさんに渡してバイクを止めた。
いつの間にか、雨は上がっていた。水蒸気の近くまで歩くと、白い岩肌が部分的に黄色くなっていて、そこからもうもうと濃い硫黄のにおいのする水蒸気が吹き出ている。
「地球は生きている。」
まさにそれが実感できる場所だ。その先にも、無数に湯気が立ちのぼり、とても壮観な風景だ。
ここに来たら絶対に食べなくてはならないのがゆで卵だ。硫黄の湯気で茹でた卵の殻は黒っぽい色になり、食べると黄身が濃い味になっているような気がするのだ。もちろん今回も売店に行き、1袋5個入りを買った。400円は安いとは思うが、この5つをどこで食べようかとちょっとだけ悩んでしまった。とりあえず駐車場で1個を頬張った。やっぱりうまい。
今日の目的地は5つの湖と硫黄山ですべて終了だ。今夜の宿は、知床ウトロの民宿旅館「酋長の家」に決めている。道東に来た時は必ず泊まるお気に入りの宿だ。初めて訪れたのは30年くらい前のこと。数年に1度しか行くことはないが、女将さんはずっと僕たち夫婦のことを覚えてくれている。しかも、本物のアイヌの元酋長の奥さんで、毎回アイヌの話をいっぱいしてくれる。
時間に余裕があれば藻琴山展望台からもう一度クッチャロ湖を眺めてみたかったが、時計の針はもうすぐ4時をさしていた。このまま一気にウトロに向かうことにした。
小清水と斜里との間のR344の直線は圧巻だ。林の間を10㎞近くも一直線に伸びている。しかも、アップダウンを繰り返すからよけいにおもしろい。下り坂の終わり頃に加速して、そのまま一気に上る。そんなイメージの道だ。もちろん、そんなことはせずに、一定の速度で上ったり下ったりするが、それがおもしろくてたまらなかった。
R334は斜里から東へ知床半島方面へと向きを変える。半島の北側の根元辺りの国道は、いくつかの集落を畑と林でつないでいる。それを通り過ぎると、左手にオホーツク海が見えるようになる。昨日は白い波の荒々しいオホーツクしか見ていなかったが、今はおだやかな海になっていた。
17時30分頃、「酋長の家」に到着。出迎えてくれた宿の人たちの中に女将さんの姿はなかった。
まずは温泉。熱いが気持ちのいいお湯だ。そして、夕食では毛がになどの知床の海の幸を楽しみ、部屋に戻ってくつろいだ。そのうちにいつの間にか眠ってしまい、目を覚ました11時過ぎにもう一度温泉に入り、床に就いた。一日中バイクで走ると、本当によく眠れるものだ。
*本日の走行 313㎞
*本日のピースサイン 22発
<9月11日>
朝のニュースで、道内各地で記録的豪雨による大きな被害が出ていることを知った。特に白老や苫小牧の被害は大きかったようだ。帰りのフェリー乗り場までの道路は大丈夫なのか心配になった。幸いなことに、今朝のウトロは青空が広がっていた。それでも、天気予報では曇りのち雨。晴れているうちに知床峠に行かなくはいけないと思った。
「酋長の家」は、これまでに何度も訪れているが、女将さんの姿が見られなかったのは初めてのこと。出発前にご主人と話をしていると、奥さんが体調を崩されて入院しているとのことだった。お年を召されておられるだけに心配になった。元気になって、またアイヌの話を聞かせてほしいものだ。
9時にウトロを出て、知床横断道路で知床峠を目指した。やっぱり青空はいい。最高の雰囲気でワインディングを駆け上る。くっきりと見える羅臼岳が美しい。ただ、峠の方向に薄雲がかかっているのが気に掛かる。それでも、峠を登り切るまではいい天気の中で走り続けることができた。
峠の碑の前にバイクを止め、写真を撮った。しかし、峠から見る景色は、羅臼岳も国後も白く霞んでいた。碑の前に戻ると、品川ナンバーのBMWが入ってきた。言葉遣いがとても丁寧で、礼儀正しい人だ。しばらく品川氏とツーリング談義を交わした後、羅臼方面へと峠を下った。羅臼側の峠道はコーナーが続く下り坂。時折うっすらと霧がかかっていたので、慎重にバイクを走らせた。
それにしても寒い。陽が照っているのに寒い。きっと高度のせいだと思い、麓に降りれば寒くはないだろうと思っていたが、高度が下がってもやっぱり寒い。9月の道東は、もう秋なのだ。
羅臼では、まだ行ったことのなかった「北の国から」の純の番屋に行ってみることにした。そこは、小さな、それでいてちょっとおしゃれな食堂になっていた。建物の前で写真だけ撮って、R335で標津方面へとバイクを進めた。
野付半島に行ってみたかった。おそらく野付半島にしか見られない両側が海になっている道の風景を、また見たくなったのだ。
今日の目的は、地平線の見える3つの丘(開陽台、多和平、900草原牧場)を制覇することだ。その前に、大好きな知床峠と野付半島を見ておこうと、なんとも贅沢な計画を立てていた。
R335を走ると、ドライブイン風の「国後がもっとも近くに見える店」で休憩していたが、閉店していた。今まで、お盆の時期でもお客さんがいっぱい入って繁盛してたことは記憶にない。しかたがないので、トイレ休憩を取らずに野付半島に行くことにした。それにしても、やっぱり寒い。15㎞くらい海に突き出ている細い半島は、さえぎるものが何もないのでよけいに寒く感じる。ひたすら野付湾とオホーツク海の間をただただ走る。そうして、バイクで行ける先っぽのパーキングにバイクを止めた。トイレ休憩を取らずに走った上にこの寒さだ。バイクを止めるとすぐにトイレに・・・と思ったが、トイレらしい建物がない。あるのはタンク・ローリーのタンクだけ。まいったなあと思いながら大きなタンクに近づくと、扉が2つ付いている。
「ん?なんだ、これ。」
「トイレじゃん!」
駐車場に置かれてあったタンク・ローリーのタンクがトイレになっていた。2つの扉は、男子トイレと女子トイレの扉だった。用を足している時は、おもしろくてたまらなかった。タンクのトイレと岬の灯台の写真を撮って半島道路を引き返した。
標津からR244を7~8㎞ほど走ったところで左折し、道道975に入った。しばらくすると、森の中のアップダウンを繰り返す直線道路になる。これまで地平線までまっすぐ伸びる道を何度も走っているが、北海道の直線道路はどこも美しい。だから、北海道はただ走っているだけでも感動の連続になる。
一つ目の地平線の見える丘は開陽台だ。もっともメジャーな「地球が丸く見える丘」なのだが、季節外れのためか観光バスは1台もいなかった。ライダーに人気の丘だが、バイクも6~7台だけだった。そのほとんどが、僕と同じカワサキのバイクだ。なんだかうれしくなる。隣に止まっていたW400氏と雨情報を交換し、三脚を持って丘の上に登った。
ちょうどお昼だったので、ここで昼食にしようと思ったが、喫茶コーナーしかなかった。そこで、ホットドッグ1本といももち1つを食べたが、お腹いっぱいにはならなかった。どこかで何か食べればいいと思い、雲のかかった地平線の写真を撮って丘を下った。
開陽台を出て、再び麓の道道を走ると、景色は森から一変して大農業地帯になった。前後左右どこを見ても畑、畑、畑。その中に直線の道が直角に交わいながらいくつもいくつもある。同じような道ばかりなので、間違えないように地図で道道150、道道885を確かめながらR243との交差点を目指した。ところが、道道885が工事のため通行止めになっていた。迂回路が示されていたが、道道505を南に10㎞、道道13で東に8㎞となっていた。迂回コースの距離も半端ではない。その迂回路を走っていると、「斜里まで40㎞」の標識があった。
「この先ずっと行くと斜里・・・。まずいかも。」
そう思っているとちゃんと「摩周・中標津線」という標識もあった。よかったと思ったものの、また斜里方面の標識。
「ひょっとして、逆に向かって走っているのでは。」
と、不安がよぎった。地図では間違ってはいないはずだが、斜里に向かっているとしたら大変なことになる。今朝出発したのが斜里町ウトロなのだから「ふりだしに戻る」になってしまう。
「このまま斜里に出たら、シャリにならないなあ。」
と、ヘルメットの中でつぶやいた自分に笑ってしまった。
たぶんこの道、と地図を見ながらいくつかのまっすぐに伸びる道を走ると、無事にR243に出ることができた。地図を読むことには多少の自信はあるが、この時ばかりは不安が頭をもたげていた。
胸をなで下ろし、R243を西に向かった。そして、次の目的地の「多和平」へ行く道道1040へとバイクを進めた。
多和平への道は道道を外れても案内標識がしっかりしていて、とても分かりやすい。
これで、地平線の見える丘の2つ目をゲット。羊の写真と、地平線の写真を撮って駐車場に戻ると、GB500TTに乗るおじさんがいた。この人も言葉遣いが丁寧で礼儀正しい人だった。なんでも、28年前に買ったGBを大事に大事に乗り続けているそうだ。
相変わらず寒い。防寒のためカッパを着て多和平を出た。青空がいつの間にか曇り空になり、日が当たらなくなって寒さが増してきたのだ。
再びR243に戻り、弟子屈市街に入った。次の目的地「900草原牧場」は、地図で見ても分かりづらい。一度行ったことはあるが、どこをどう走ったのか、よく覚えていない。案の定、摩周駅周辺の道路をうろうろするはめになった。それでも、うろうろしているうちにR53に出て、小さな「900草原」の看板も見つけた。見つけたものの、やっぱりよく分からず、今回もまたどこをどう走ったのか分からないまま狭い道を通ってなんとか900草原牧場に着くことができた。
これで今日の目的地の3つの丘を制覇したことになる。最後の「丘から見た地平線」の写真を撮り、売店に入った。すると、エゾシカバーガーの文字が目に飛び込んできた。お昼ご飯の続きということで、それを食べることにした。うまいバーガーだったが、特にエゾシカの味というのは感じられなかった。おいしくてめずらしい食べ物を食べたということで満足し、売店を出た。まずいことに、雨がパラつき出していた。
ここに来るまで、このペースだと今日の宿は「オンネトー国設キャンプ場」かなあと思っていたが、ちょっとあやしくなってきた。そう思っているうちに、雨は本降りになった。
900草原を出て阿寒に向かうR241を走っているうちにますます雨足は激しくなり、急カーブの続く峠道で、今回のツーリングで初めて「怖い」と思った。まだ午後4時なのに辺りはすっかり暗くなり、路面は雨水が川のように流れていた。カーブはきついし、前を走るティーダのペースは速い。ティーダのテールランプだけが頼りなので離されるわけにはいかない。ついていくのが精一杯だった。それなのに、僕とティーダを平気で抜いていったタンデムのBMWがいた。この雨の中でもその気になれば速いペースで走れるものだと思ったが、恐がりの僕はバイクの性能よりも怖さの方が上回っていた。もちろん、BMWに合わせてペースを上げるようなことはしなかった。そして、この時点でキャンプをするのもあきらめた。
「峠を下った阿寒湖温泉にでも泊まるか。」
やっとのことで阿寒湖温泉に着いたが、観光案内所とか旅館案内所のようなものが見当たらない。900草原を探していた時の摩周駅周辺と同じように、今度は温泉街をうろうろした。土砂降りの雨のなかでのうろうろなので、早く宿を決めたかった。そこで思いついたのが、「山水荘」だ。これまで2度ほど飛び込みで泊まったことがある小さな旅館だ。うろうろしている時に、山水荘は見つけてある。ただ、空いているかどうか。
宿の前にバイクを止め、玄関の扉を開けて不安ながら部屋が空いているかどうか聞いてみた。
「いらっしゃい。はいはい。大雨で高速が通行止めになってキャンセルがあったから空いてますよ。」
とのことだった。そのときのうれしかったこと。山水荘は、今までの2回の宿泊で、部屋は古いがお湯はいいし、食事も値段の割にはなかなかいいし、案外いい印象のある旅館だ。
まずは阿寒湖温泉のお湯に浸かり、冷えた体を温めた。いい気持ちだ。
素朴でおいしい晩ご飯を食べ、部屋に戻ってNHKのニュースを見た。
「なんだ、これ。」
苫小牧市街の映像に驚いた。町の人が膝まで水に浸かりながら歩いている。しかも、帰りに通る予定の苫小牧港に向かう道路の映像だ。朝のニュースで豪雨のニュースは見たが、まさかここまで大変なことになっているとは・・・。しばらくして、閉鎖されていた高速道路が開通したとのテロップが入った。スマホを見ると、「大丈夫?」のメールが3通。安心メールを返し、妻には、
「阿寒と苫小牧は、うち(豊田)から四国くらいの距離だから、心配しないで。」
と、電話も入れた。
それからは、部屋でごろごろして過ごした。もちろん、寝る前にもう一度気持ちのいい温泉に入った。
*本日の走行 284㎞
*本日のピースサイン 26発