フルタイムで働いても、あるいは働く能力と意欲がある人でも生活苦に陥るワーキングプアが増え、現在そうでない人もその境界があいまいになって、普通に働いていれば生活苦に陥る心配はないと確信できなくなり、不安が拡がっているという現状と、日本の社会保障制度が、ワーキングプアが存在せず大半の人が結婚して離婚しないことを前提として構想されているために、非正規労働者や存続が危うい自営業者のセーフティネットとして機能していないことを論じ、社会保障の構造改革を提唱する本。
前半9割が、日本の社会保障制度等がすべて正社員男性と専業主婦コンビまたは正社員男性と正社員女性コンビか家族総出の家業としての自営業者を想定して、そこから事故で外れる者を救うというしくみになっているために、非正規労働者と専業主婦とか非正規労働者同士のカップルとか零細自営業者と事業に関わらない妻というようなケースに対応できる制度がなくこれらの人々の低収入を補う制度がないこと、例えば年金は正社員(厚生年金加入)の妻である専業主婦は保険料を支払わなくていいのに非正規労働者(国民年金加入)の妻である専業主婦はより低収入なのに保険料支払義務がある、育児休業を取って生活できるのは夫も妻も正社員の場合だけというようなことの説明に割かれています。最後に「書き下ろし」って書いてありますが、それにしては同じ説明の繰り返しがあまりにも多い感じがします。
最後の1割が改革の提言で、全額税方式による収入調査なし(つまり所得制限なし)の最低収入保障制度を基本とし、その上乗せとしてマイレージ方式による年金制度(保険料納付は自由で払った分だけマイルがたまりそれに応じて支給される年金額が決まる)、子育て期と若年者への特別サポート(給付金等)を組み合わせるものです。
改革の提言は、最低収入保障が実現可能であれば理論的には魅力的なものだと思います。ただ指摘するまでもなく、その財源をどうするのか、税負担とするとどのような税制を前提とするのかが難しく著者の提案もありません(そこは、専門家・官僚が考えろということでしょうけど)。
メインテーマの話ではありませんが、子育て世帯の貧困率が、日本では(先進国では日本だけが)税・社会保障なしの数字よりも税・社会保障ありの数字の方が高い、つまり日本の社会保障制度は子育て世帯の貧困率を高めているという指摘(151~153ページ)はかなりショッキングでした。グラフにある数字自体はそれほど悪いわけではなくまた税・社会保障による貧困率の増加はわずかではありますが、それでも社会保障が逆方向に働いてしまう、ある意味ない方がマシという事態は考えさせられます。
法科大学院を卒業しても一生司法試験に合格できない人々が年平均3000人出るがその人々がどういう仕事に就けるのかは全く想定されていないし、合格者増で今後「フリーター弁護士」が増大する(74~75ページ)、専門職で競争が起きれば実力を磨くために質が高まるというのは嘘で、既得権があるところで競争が起きれば、逆に親のコネや学閥などに選抜基準が移行してかえってコネを求める不毛な競争に移行する、「その実態は、あまりに生々しいのでここではとても書けない」(76ページ)などの指摘は、同業者としては、納得してしまいます。

山田昌弘 文藝春秋 2009年6月15日発行
前半9割が、日本の社会保障制度等がすべて正社員男性と専業主婦コンビまたは正社員男性と正社員女性コンビか家族総出の家業としての自営業者を想定して、そこから事故で外れる者を救うというしくみになっているために、非正規労働者と専業主婦とか非正規労働者同士のカップルとか零細自営業者と事業に関わらない妻というようなケースに対応できる制度がなくこれらの人々の低収入を補う制度がないこと、例えば年金は正社員(厚生年金加入)の妻である専業主婦は保険料を支払わなくていいのに非正規労働者(国民年金加入)の妻である専業主婦はより低収入なのに保険料支払義務がある、育児休業を取って生活できるのは夫も妻も正社員の場合だけというようなことの説明に割かれています。最後に「書き下ろし」って書いてありますが、それにしては同じ説明の繰り返しがあまりにも多い感じがします。
最後の1割が改革の提言で、全額税方式による収入調査なし(つまり所得制限なし)の最低収入保障制度を基本とし、その上乗せとしてマイレージ方式による年金制度(保険料納付は自由で払った分だけマイルがたまりそれに応じて支給される年金額が決まる)、子育て期と若年者への特別サポート(給付金等)を組み合わせるものです。
改革の提言は、最低収入保障が実現可能であれば理論的には魅力的なものだと思います。ただ指摘するまでもなく、その財源をどうするのか、税負担とするとどのような税制を前提とするのかが難しく著者の提案もありません(そこは、専門家・官僚が考えろということでしょうけど)。
メインテーマの話ではありませんが、子育て世帯の貧困率が、日本では(先進国では日本だけが)税・社会保障なしの数字よりも税・社会保障ありの数字の方が高い、つまり日本の社会保障制度は子育て世帯の貧困率を高めているという指摘(151~153ページ)はかなりショッキングでした。グラフにある数字自体はそれほど悪いわけではなくまた税・社会保障による貧困率の増加はわずかではありますが、それでも社会保障が逆方向に働いてしまう、ある意味ない方がマシという事態は考えさせられます。
法科大学院を卒業しても一生司法試験に合格できない人々が年平均3000人出るがその人々がどういう仕事に就けるのかは全く想定されていないし、合格者増で今後「フリーター弁護士」が増大する(74~75ページ)、専門職で競争が起きれば実力を磨くために質が高まるというのは嘘で、既得権があるところで競争が起きれば、逆に親のコネや学閥などに選抜基準が移行してかえってコネを求める不毛な競争に移行する、「その実態は、あまりに生々しいのでここではとても書けない」(76ページ)などの指摘は、同業者としては、納得してしまいます。

山田昌弘 文藝春秋 2009年6月15日発行