幼いときに父が死にスナック経営者の母に女手一つで育てられた中学2年生陸上部の隼太の、学校生活や母の再婚で同居することになった歯科医の優ちゃんとの関係を描いた青春小説。
何事もそつなくこなし、人望もそこそこある隼太の鬱屈した部分や苛立ち、友人やガールフレンドとの間合いの取り方などが、お気楽でもなく暗くもなくほどよい読み具合です。
しかし、この作品の人間関係の中心は、二重人格ともいえるふだんは朗らかで優しい優ちゃんが2人きりの夜に突然キレて隼太を殴りつけ、しかしその後正気に返って後悔しこのうちを出て行くというのを隼太が止めるという義理の父子の屈折した関係にあります。DV被害者の隼太が、もちろん優ちゃんがキレなくなる方策を考えながらですが、加害者の優ちゃんを許すのみならず母に話すというのを口止めし一緒にいたいと言い続ける様子、またDV加害者の優ちゃんのふだんの優しさの描写は、ちょっと異様です。隼太のような考えを持つDV被害者もいるかも知れませんが、それはかなり少数派だろうと思います。このような描き方は、DVをステレオタイプで捉えるのではなく、様々なあり様をイメージさせる、あるいは加害者とともにあることで克服するという方向にも読めるかも知れませんが、現実的にはDVを相対化し容認する、当事者でないまわりの者が介入せずに傍観し、結果としてDV被害者の孤立を招くような方向性を持っているようで、ちょっといやな感じがしました。

瀬尾まいこ 2010年2月10日発行 筑摩書房
何事もそつなくこなし、人望もそこそこある隼太の鬱屈した部分や苛立ち、友人やガールフレンドとの間合いの取り方などが、お気楽でもなく暗くもなくほどよい読み具合です。
しかし、この作品の人間関係の中心は、二重人格ともいえるふだんは朗らかで優しい優ちゃんが2人きりの夜に突然キレて隼太を殴りつけ、しかしその後正気に返って後悔しこのうちを出て行くというのを隼太が止めるという義理の父子の屈折した関係にあります。DV被害者の隼太が、もちろん優ちゃんがキレなくなる方策を考えながらですが、加害者の優ちゃんを許すのみならず母に話すというのを口止めし一緒にいたいと言い続ける様子、またDV加害者の優ちゃんのふだんの優しさの描写は、ちょっと異様です。隼太のような考えを持つDV被害者もいるかも知れませんが、それはかなり少数派だろうと思います。このような描き方は、DVをステレオタイプで捉えるのではなく、様々なあり様をイメージさせる、あるいは加害者とともにあることで克服するという方向にも読めるかも知れませんが、現実的にはDVを相対化し容認する、当事者でないまわりの者が介入せずに傍観し、結果としてDV被害者の孤立を招くような方向性を持っているようで、ちょっといやな感じがしました。

瀬尾まいこ 2010年2月10日発行 筑摩書房