名古屋市付近のチョコレート工場の企業城下町を嫌って東京に出て不動産会社の川崎の支店の店長を務める早瀬遼が、故郷の町の支店の店長の不始末の穴埋めのために期間未定で派遣されて地元で働く日々を通じて、実家の親族や同窓生たち、元カノ、そして東京の今カノとの関係を考え直して行く青春小説。
実家の家族の距離の置き方、淡泊さというか無関心さが、コミカルでもあり現実的でもあり、また今カノの沙知のはっきりさっぱりした性格設定が、湿っぽくじめじめしがちなテーマをさらりとした印象にしている感じがします。語り手の早瀬の力の抜け具合と合わせて前半はコミカルな読み味に徹しています。
ただ終盤になって、チョコレート工場が長いつきあいの地元企業の契約を切り、従業員のリストラや周辺住民への迷惑等を地元の人々が糾弾するシーンで、早瀬がチョコレート工場側に立ち、この町の発展はすべてチョコレート工場のおかげじゃないか、そういうことはどこの企業でもやってるじゃないか、不満があるからといって何でもチョコレート工場が悪いというのはおかしいじゃないかといいだし、地域を支配する企業がその圧倒的な力関係の下で下請けや従業員、周辺住民に押しつける不利益を無条件で正当化し従業員や住民が抗議することさえ不当なものとするのは、あんまりにも企業側の論理むき出しで興ざめでした。昨今、企業を守ることが雇用につながるとかの財界の論理に媚びて企業を優遇したがる政策が目に付きます。個人の所得税と消費税を増税してそれで(社会福祉の充実ではなく)法人税減税をやるとかいうことを平然といえる時代の風潮ともマッチするというところでしょうか。
飛鳥井千砂 双葉社 2010年7月25日発行
「小説推理」2009年3月号~10月号
実家の家族の距離の置き方、淡泊さというか無関心さが、コミカルでもあり現実的でもあり、また今カノの沙知のはっきりさっぱりした性格設定が、湿っぽくじめじめしがちなテーマをさらりとした印象にしている感じがします。語り手の早瀬の力の抜け具合と合わせて前半はコミカルな読み味に徹しています。
ただ終盤になって、チョコレート工場が長いつきあいの地元企業の契約を切り、従業員のリストラや周辺住民への迷惑等を地元の人々が糾弾するシーンで、早瀬がチョコレート工場側に立ち、この町の発展はすべてチョコレート工場のおかげじゃないか、そういうことはどこの企業でもやってるじゃないか、不満があるからといって何でもチョコレート工場が悪いというのはおかしいじゃないかといいだし、地域を支配する企業がその圧倒的な力関係の下で下請けや従業員、周辺住民に押しつける不利益を無条件で正当化し従業員や住民が抗議することさえ不当なものとするのは、あんまりにも企業側の論理むき出しで興ざめでした。昨今、企業を守ることが雇用につながるとかの財界の論理に媚びて企業を優遇したがる政策が目に付きます。個人の所得税と消費税を増税してそれで(社会福祉の充実ではなく)法人税減税をやるとかいうことを平然といえる時代の風潮ともマッチするというところでしょうか。
飛鳥井千砂 双葉社 2010年7月25日発行
「小説推理」2009年3月号~10月号