伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

プロファイラー 深層心理の闇を追って

2012-11-01 00:25:53 | ノンフィクション
 アメリカで被害者・遺族の依頼で未解決の性犯罪のプロファイリングを行う組織のCEOである著者が、自身が犯罪プロファイリングを始めたきっかけになった事件と他の未解決の性犯罪7件について自己の分析結果を示して犯罪プロファイリングについて語った本。
 この本で取り上げられている事件はすべて未解決で、警察は著者の意見を採用していない、つまり著者が行ったプロファイリングが正解かどうかは決着がついていないことに注意して読む必要があります。著者紹介でテレビ番組で犯罪プロファイリングのコメンテーターとして10年間で1000件以上の犯罪分析を行ってきたとされているのに採りあげる事例が正しかったかどうかわからない例だけというのはちょっと不思議。結果がわからない故に批判的中立的に読みやすいともいえますが。
 犯罪プロファイリングについては、結果として外れた事例がどれだけあるのか(さらに言えば当たる確率はどれくらいなのか)、そういうケースはどこで間違ったのかを検証することが重要だと私は考えています。1000件以上もやっているというならそういうことも書いてくれるとうれしいのですが。
 著者は「はじめに」で「正しい答えを見つけ出すには、直感やすぐれた推測以上のものが必要になる。現場と証拠を、感情にとらわれることなく科学的に調査し、いかなる偏見ももたないことが要求される」と書いています(5ページ)。そのことは実に正しいと思います。しかし、著者が犯罪プロファイリングを始めるきっかけとなり自宅の下宿人だった男を20年以上も犯人だと疑い続けている事件で著者がその人物を犯人と考えたきっかけは下宿直後から変な人だと思っていて不気味だったからですし、図書館で本を読んで「性的暴行を行う男のほとんどが精神病質者だと知った」「すべての連続殺人犯は精神病質者であることも学んだ」(32~33ページ)という著者が「いかなる偏見ももたない」で犯罪を分析していると信じるのはちょっと無理があるように思います。
 また著者が個別事件で述べていることは、「深層心理」に関する科学的検討というよりは常識的な判断の積み重ねですから、日本語サブタイトルの「深層心理の闇を追って」は的外れでしょう。その分、著者が述べていることは、著者が言及していない証拠がどれだけあるかによります(警察が著者の意見を採用していない理由にはそういう事情がある可能性もあります)が、著者が述べている証拠関係だけを前提にする限り、荒唐無稽ではないといえますし、同時にその程度ですから警察官の直感による方向付けをそれほど非難できるものでもないように思えます。
 私自身が、「犯罪プロファイリング」には見込み捜査の一種でそれを科学的な装いをすることで冤罪の温床となりかねないという先入観を持っていますので、うさんくさい目で見ているわけですが、読み物としてはおもしろいものの、私のそういう見方を修正してくれる本ではなかったと思います。


原題:THE PROFILER ; My Life Hunting Serial Killers & Psychopaths
パット・ブラウン 訳:村田綾子
講談社 2012年5月24日発行 (原書は2010年)
コメント
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