写真家志望だった主人公山裏俊彦がバツイチの小料理屋の女将みすみを見初めてともに暮らすうちに、小説家志望に切り替え「快挙」という小説を書いて雑誌社の新人賞に応募していきなり最終選考まで残るがギリギリで落選し、阪神大震災を契機に神戸のみすみの実家に移り住みラジオ番組の台本を書きつつ、編集者から期待されて小説を書き続けるが編集者の交代などの事情で日の目を見ず、東京に戻り週刊誌の原稿とりまとめなどをして暮らして行くうちに、それぞれの病気や浮気など夫婦関係でも紆余曲折を経ていくという展開の小説。
主人公の小説家を目指しつつ身過ぎ世過ぎをする部分では、「闇の決算書」なるいかにも週刊新潮の「黒い報告書」を示唆する実際の事件を題材にしながら当事者の男女関係とかを勝手に想像して書き飛ばす無責任な「実話小説」もどきの執筆を担当したなど、実在の作家をモデルにしているような印象を受けます。作者自身の経験ではないようですが、この主人公は実在の作家をモデルにしているのでしょうか。実在のモデルがいるのでなければ、こういう書き方はやめて欲しいなと、私は思います。
この小説の読みどころは、小説家としてのストーリーよりも、夫婦関係の紆余曲折、気持ちの綾の部分だろうと思います。「そして何より、彼女の感度は抜群だった。指でさんざんいき、舌で際限なくいき、挿入するとたびたび白目を剥いて意識を失くした」(16ページ)という小料理屋の経営の才がある姉さん女房というのは、ある種の男性には理想的かも。若い頃の私はそういう人に憧れたと思います。それはさておき、主人公夫婦が紆余曲折を経て40代になり、手をつないで歩ける流れにどこかホッとします。今ひとつ爽やかでもほのぼのでもない感じではありますが、不倫や破綻ばかりが小説じゃない、しみじみする夫婦の話があっていいじゃないかという思いに答える作品なのかなと感じました。

白石一文 新潮社 2013年4月25日発行
主人公の小説家を目指しつつ身過ぎ世過ぎをする部分では、「闇の決算書」なるいかにも週刊新潮の「黒い報告書」を示唆する実際の事件を題材にしながら当事者の男女関係とかを勝手に想像して書き飛ばす無責任な「実話小説」もどきの執筆を担当したなど、実在の作家をモデルにしているような印象を受けます。作者自身の経験ではないようですが、この主人公は実在の作家をモデルにしているのでしょうか。実在のモデルがいるのでなければ、こういう書き方はやめて欲しいなと、私は思います。
この小説の読みどころは、小説家としてのストーリーよりも、夫婦関係の紆余曲折、気持ちの綾の部分だろうと思います。「そして何より、彼女の感度は抜群だった。指でさんざんいき、舌で際限なくいき、挿入するとたびたび白目を剥いて意識を失くした」(16ページ)という小料理屋の経営の才がある姉さん女房というのは、ある種の男性には理想的かも。若い頃の私はそういう人に憧れたと思います。それはさておき、主人公夫婦が紆余曲折を経て40代になり、手をつないで歩ける流れにどこかホッとします。今ひとつ爽やかでもほのぼのでもない感じではありますが、不倫や破綻ばかりが小説じゃない、しみじみする夫婦の話があっていいじゃないかという思いに答える作品なのかなと感じました。

白石一文 新潮社 2013年4月25日発行