データ分析によって野球の戦術や選手評価を行うための指標について論じる本。
映画「マネーボール」(映画の感想はこちら)で紹介されたオークランド・アスレチックスが従来の基準では評価が高くないがデータ分析上は意外に評価が高い選手を積極的に低年俸で獲得して選手の年俸を抑えながら常勝チームとなった手法(セイバーメトリクス)の日本版と紹介されています。
送りバントの有効性については、各状況での得点期待値(その状態からイニング終了までに取れる得点の平均値)からは送りバントによってどの状況でも得点期待値が減少する(例えば2004年~2013年の10年間の日本のプロ野球全試合の無死1塁の得点期待値は0.821点、1死2塁の得点期待値は0.687点など)から送りバントは戦術として有効とは言えないが、得点確率(その状態からイニング終了までに1点以上取れる確率)を見ると無死1・2塁から1死2・3塁と無死2塁から1死3塁のときは得点確率が上がるからこういう局面で1点取れれば逃げ切れるというような場合は合理的などと説明しています(1~10ページ)。また1番打者から始まる攻撃よりも2番打者から始まる攻撃の方が得点期待値が高い(19~20ページ)とも。データで説明されると説得力がありますが、しかし、それくらいのことは、ふつうに野球を知っている人なら経験的/直感的に知っていることじゃないかと思います。他方で、無死1塁から1死2塁への変化も、平均的にはアウトを1つ確実に増やすことの意味は薄いと思いますが、ピッチャーの性格・度胸、牽制のうまいへた、セカンド・ショートの守備力と守備位置変化により具体的な相手との関係では有効なケースもあるだろうと思います。
選手の評価では、さまざまな指標を提唱していますが、それでも結局バレンティンや田中将大はどういう指標を使ってもトップに輝くわけで、少なくとも打者・ピッチャーの評価ではアッと驚くような拾いものの選手が出てくる場面はありません。オークランド・アスレチックスのケースをまえがきで売りにするのなら、そういう例をこそ挙げるべきだと思うのですが。守備力や貢献度では、意外性を出していますが、これは異なる領域の評価(点)を総合する時の重み付けのしかたでそのような評価になっていると感じられ、「従来の評価」が間違っていたといえるのか、「セイバーメトリクス」の重み付けが偏っているのか、読者にはわからないところです。打線の評価でも、全員イチローなら得点期待値はいくらとか全員バレンティンならどうかというレベルのことしかできず、もっと具体的現実的なさまざまな選手9人を並べた打線でどうなるか、ましてやそこで打順を変えたらどうかなどは、まだまだまったく手が届かないようです。
現在よく使われる打率、打点、ホームラン、防御率などの指標以外にさまざまな指標があり得るし、データの処理によって今までとは違う見方や評価が可能になるかもしれないという示唆は得られますが、同時にセイバーメトリクス自体がまだ発展途上・試行錯誤中の手法で十分魅力的ともいえないなぁということも感じてしまいます。
鳥越規央、データスタジアム野球事業部 岩波科学ライブラリー 2014年3月12日発行
映画「マネーボール」(映画の感想はこちら)で紹介されたオークランド・アスレチックスが従来の基準では評価が高くないがデータ分析上は意外に評価が高い選手を積極的に低年俸で獲得して選手の年俸を抑えながら常勝チームとなった手法(セイバーメトリクス)の日本版と紹介されています。
送りバントの有効性については、各状況での得点期待値(その状態からイニング終了までに取れる得点の平均値)からは送りバントによってどの状況でも得点期待値が減少する(例えば2004年~2013年の10年間の日本のプロ野球全試合の無死1塁の得点期待値は0.821点、1死2塁の得点期待値は0.687点など)から送りバントは戦術として有効とは言えないが、得点確率(その状態からイニング終了までに1点以上取れる確率)を見ると無死1・2塁から1死2・3塁と無死2塁から1死3塁のときは得点確率が上がるからこういう局面で1点取れれば逃げ切れるというような場合は合理的などと説明しています(1~10ページ)。また1番打者から始まる攻撃よりも2番打者から始まる攻撃の方が得点期待値が高い(19~20ページ)とも。データで説明されると説得力がありますが、しかし、それくらいのことは、ふつうに野球を知っている人なら経験的/直感的に知っていることじゃないかと思います。他方で、無死1塁から1死2塁への変化も、平均的にはアウトを1つ確実に増やすことの意味は薄いと思いますが、ピッチャーの性格・度胸、牽制のうまいへた、セカンド・ショートの守備力と守備位置変化により具体的な相手との関係では有効なケースもあるだろうと思います。
選手の評価では、さまざまな指標を提唱していますが、それでも結局バレンティンや田中将大はどういう指標を使ってもトップに輝くわけで、少なくとも打者・ピッチャーの評価ではアッと驚くような拾いものの選手が出てくる場面はありません。オークランド・アスレチックスのケースをまえがきで売りにするのなら、そういう例をこそ挙げるべきだと思うのですが。守備力や貢献度では、意外性を出していますが、これは異なる領域の評価(点)を総合する時の重み付けのしかたでそのような評価になっていると感じられ、「従来の評価」が間違っていたといえるのか、「セイバーメトリクス」の重み付けが偏っているのか、読者にはわからないところです。打線の評価でも、全員イチローなら得点期待値はいくらとか全員バレンティンならどうかというレベルのことしかできず、もっと具体的現実的なさまざまな選手9人を並べた打線でどうなるか、ましてやそこで打順を変えたらどうかなどは、まだまだまったく手が届かないようです。
現在よく使われる打率、打点、ホームラン、防御率などの指標以外にさまざまな指標があり得るし、データの処理によって今までとは違う見方や評価が可能になるかもしれないという示唆は得られますが、同時にセイバーメトリクス自体がまだ発展途上・試行錯誤中の手法で十分魅力的ともいえないなぁということも感じてしまいます。
鳥越規央、データスタジアム野球事業部 岩波科学ライブラリー 2014年3月12日発行