伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

読んでやめる精神の薬

2014-04-08 20:22:02 | 実用書・ビジネス書
 抗うつ剤や睡眠剤、統合失調症の薬として処方されている薬についてその危険性を論じる本。
 薬の問題の前にうつ病や統合失調症の原因についての説明が興味を引きます。過剰なストレスや虚血に曝されたとき、人体はそれに対応するために筋肉や脳に多くの血液を供給するため心臓を速く強く動かし、それはアドレナリンやグルタミン酸、ノルアドレナリン、ドパミンの分泌により行われるのですが、興奮性神経伝達物質であるグルタミン酸やドパミンが必要以上に出るとその興奮毒性によって脳の神経細胞が傷つけられる、その防止のために抑制系の神経伝達物質のGABAが分泌される仕組みだが、経験したことがないような強いストレス、本人の対処できる程度を越えたストレスに曝されると十分なGABAが分泌できず、神経細胞が傷つくことがうつ病の原因と考えられると説明されています(12~20ページ)。統合失調症についても、ドパミンやセロトニン、グルタミン酸など興奮系の神経伝達物質とそれらと拮抗する作用のある抑制系の神経伝達物質のGABAやアセチルコリンなどの分泌を調整しているNMDA受容体の機能が低下する病気だという考え方が有力になっているのだそうです(129~130ページ)。
 抗うつ剤や統合失調症の薬はドパミンやセロトニンの量や効果を人為的に調整(増減)させるものが多いのですが、著者は、急性期にはこれらの薬で症状を抑える必要があるがその後はできるだけ薬を用いずに十分な休養を取って一時的に傷ついた神経細胞を回復させることの方がいいという考えのようです。
 抗うつ剤として広く用いられている選択的セロトニン再取り込み阻害剤(SSRI。著者は、試験管内ではセロトニン濃度のみを高める効果があるが人体ではセロトニンのみではなくドパミンも増やすので「選択的」ではなくセロトニン再取り込み阻害剤:SRIと呼ぶべきだと主張していますが)のパキシルの服用による譫妄に伴う攻撃性や衝動性(傷害・殺人、自殺等)の危険に相当なページを割いて説明がされています。日本では裁判所や行政が認める可能性は低そうですが、頭に置いておきたいところです。特に子どもに対しては大うつ病、不安障害、強迫性障害に用いたランダム化比較試験でパキシルの治療効果は証明されず、「効かない」のに害だけは確実にあると著者は声を大にして訴えています(97~100ページ)。
 統合失調症についても、統合失調症用薬剤クロルプロマジンが治療に導入され始める1955年以前は、初めて発症して入院した人の半数以上が抗精神病薬なしで1年以内の入院で自然治癒して退院していたし、クロルプロマジンとプラセボを比較したランダム化比較試験の追跡調査をみると薬剤を用いなかった方が予後がよかったとされています(131~132ページ)。
 薬に頼りがちな風潮に警鐘を鳴らす報告として、気に留めておきたい本だと思います。


浜六郎 金曜日 2014年1月20日発行
コメント
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