セックスと愛をめぐる男と女の思考と行動の違いを、脳の仕組みの違いやホルモンの影響など生まれつきの違いを強調して論じる本。
1980年代前半まで、男女平等の理念とも絡みながら、人の行動は生後の環境に起因する部分が大きいことを主張し、精神と行動面での男女の性差は個人差よりも小さいと主張するなどして、生まれながらの性差の呪縛を解き放とうとする主張と研究、あるいは男と女という2つの性の間に多数の中間的な性があるとして男女の性差を相対化する主張と研究が、優位を占めていたのに対し、その後脳の構造の違いを強調し、男女は肉体面/生殖機能のみならず精神と行動面でも生まれながらに大きく違うことを強調する主張と研究が増えました。この本も、後者の色彩を強く帯びた本です。まえがきでは「この本は最新の科学研究をもとに書かれている。言い伝えや星占い、ロマンティックな思い込みや行き過ぎた男女平等論を排して、なぜ私たちはこんなふうに行動したり、考えたりしてしまうのかを、確かな根拠をもとに論じている。」(8ページ)と述べられています。しかし、私には、その根拠となる実験や研究が示されていない記述が多く、書かれている場合でもサンプル数がかなり少ない実験が挙げられていることが多いように思えます。たかだか数十人レベルの実験で、男女の違いと断定するのは、私にはかなりの蛮勇に思えるのですが。
まえがきの一番最初の「つかみ」は、「40才の男は4分に1回セックスのことを考える。18才なら11秒に1回である」「これは男性という生き物の本能を、端的に表している例だろう。しかも科学的データで実証されていることだ。」(2ページ)というジョークかと思う記載です。個人的な感想は、著者の記述の主観性を批判することを考えると、相手と同レベルの議論になりますので置くとして、この「科学的データ」はこの本を最後まで読んでも、私には見つけ出すことができませんでした(あとで144~145ページでは「40才の男性は4分に1回セックスのことを考えているという調査結果もあるほどだ」という表現が登場し、「科学的データで実証されている」がいつのまにかそういう調査結果「も」あるに後退し、しかもその調査について、紹介した1行以外の情報は全くなく、調査の条件やサンプル数など何一つ紹介されません)。「女性がセックスで得られる快感は、相手の銀行預金額などの条件に比例する」「この調査では、オーガズム頻度がパートナーの収入もしくは財産と比例していた」(66~67ページ)って。私には、科学的な議論には見えませんけど。
むしろ男と女についての俗っぽい先入観を強化し、その価値観を前提としたジョークめいた娯楽を提供する本と位置づけて読んだ方がいいのではないかと思いました。
原題:WHY MEN WANT SEX & WOMEN NEED LOVE
アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ 訳:藤井留美
主婦の友社文庫 2013年5月10日発行 (単行本は2010年8月、原書は2010年1月:本の中に原書の発行年の記載がありません。出版社の意識の問題ですが、ちょっとビックリしました。しかたなく Amazon で調べました)
1980年代前半まで、男女平等の理念とも絡みながら、人の行動は生後の環境に起因する部分が大きいことを主張し、精神と行動面での男女の性差は個人差よりも小さいと主張するなどして、生まれながらの性差の呪縛を解き放とうとする主張と研究、あるいは男と女という2つの性の間に多数の中間的な性があるとして男女の性差を相対化する主張と研究が、優位を占めていたのに対し、その後脳の構造の違いを強調し、男女は肉体面/生殖機能のみならず精神と行動面でも生まれながらに大きく違うことを強調する主張と研究が増えました。この本も、後者の色彩を強く帯びた本です。まえがきでは「この本は最新の科学研究をもとに書かれている。言い伝えや星占い、ロマンティックな思い込みや行き過ぎた男女平等論を排して、なぜ私たちはこんなふうに行動したり、考えたりしてしまうのかを、確かな根拠をもとに論じている。」(8ページ)と述べられています。しかし、私には、その根拠となる実験や研究が示されていない記述が多く、書かれている場合でもサンプル数がかなり少ない実験が挙げられていることが多いように思えます。たかだか数十人レベルの実験で、男女の違いと断定するのは、私にはかなりの蛮勇に思えるのですが。
まえがきの一番最初の「つかみ」は、「40才の男は4分に1回セックスのことを考える。18才なら11秒に1回である」「これは男性という生き物の本能を、端的に表している例だろう。しかも科学的データで実証されていることだ。」(2ページ)というジョークかと思う記載です。個人的な感想は、著者の記述の主観性を批判することを考えると、相手と同レベルの議論になりますので置くとして、この「科学的データ」はこの本を最後まで読んでも、私には見つけ出すことができませんでした(あとで144~145ページでは「40才の男性は4分に1回セックスのことを考えているという調査結果もあるほどだ」という表現が登場し、「科学的データで実証されている」がいつのまにかそういう調査結果「も」あるに後退し、しかもその調査について、紹介した1行以外の情報は全くなく、調査の条件やサンプル数など何一つ紹介されません)。「女性がセックスで得られる快感は、相手の銀行預金額などの条件に比例する」「この調査では、オーガズム頻度がパートナーの収入もしくは財産と比例していた」(66~67ページ)って。私には、科学的な議論には見えませんけど。
むしろ男と女についての俗っぽい先入観を強化し、その価値観を前提としたジョークめいた娯楽を提供する本と位置づけて読んだ方がいいのではないかと思いました。
原題:WHY MEN WANT SEX & WOMEN NEED LOVE
アラン・ピーズ、バーバラ・ピーズ 訳:藤井留美
主婦の友社文庫 2013年5月10日発行 (単行本は2010年8月、原書は2010年1月:本の中に原書の発行年の記載がありません。出版社の意識の問題ですが、ちょっとビックリしました。しかたなく Amazon で調べました)