東京23区が当事者となる裁判で区側の指定代理人を担当する特別区人事・厚生事務組合法務部が、自治体が当事者となる裁判の事例や裁判での主張立証の工夫、苦労話などを紹介した本。
一つの事例が1ページから3ページで、事件の内容の紹介はかなり抽象的ですから、裁判所の判断をその決め手となった事実関係を把握してきちんと読むには物足りず、基本的には流し読み用の内容ですが、そのわりには法律用語が多用されているので裁判業界人以外は手にしにくい本です。
裁判所からの要求への対応や、自己の主張の裏付けとなる資料がないときの対応など、立場は逆とはいえ、同じく裁判を担当する者としては、気持ちはよくわかるという部分は多々あります。
しかし、苦労話と言うよりは、自治体側の勝訴事例の紹介がほとんどということもあって、自慢話の印象が強い本で、素直に読む気になる読者層はかなり狭い感じがします。
紹介されている裁判の事例は、ほとんどが自治体側の勝訴事例で、自治体の法務担当者側から見た事案の紹介のため相手方の主張が無理無体なもののように書かれているものが多いですが、そういう視点でなされた紹介でさえ自治体側の主張がかなり無理筋と思われるケースも少なからずあり、それでも裁判所があれこれ工夫というか無理をして自治体を勝たせている事例がいくつもみられ、暗澹たる気持ちになりました。
自慢話の一例で、預金の仮差押えの話が紹介され、2000万円の債権で債務者の預金を仮差押えする際に預金がいくらあるかわからないので債権のうち一部の500万円で仮差押えするかどうか迷って結局全額で仮差押えして保証金(担保)350万円を供託して100万円程度回収できる見込みとなったというのを「適切な仮差押え債権額を判断し、成功した」とし、「X区は、債権の仮差押申立とは別に、A銀行に対するYの債権の債権額をA銀行が明らかにするよう、裁判所に催告してもらう申立をしましたので、担保を立てた日から約2週間後にYの債権額がわかり」としている(339~340ページ)のには、読んでいて首を捻りました。「100万円程度回収できる見込みが立ちました」というのは仮差押えの競合があったのでなければ差し押さえられた預金が約100万円ということです。であれば、仮差押え債権額は500万円の方が保証金が少なくて済み、より「適切な仮差押え債権額」のはずです。もちろん、事前にはわかりませんから全額での仮差押えが間違いだという評価は普通しませんが、わざわざ迷った話を書いた上で、不必要だった全額での仮差押えを「適切な仮差し押さえ債権額を判断し」と書くのは、いかにも気楽で自己満足的な仕事だなと思います。銀行への「第三債務者の陳述催告申立」も、弁護士の感覚なら債権の仮差押え(あるいは本差押え)の場合、申し立てるのが当然で、もしやり忘れたら弁護過誤と言われかねないようなもので、そういうものを申し立てたのを何か手柄のように書くのは理解できません。
最後の紹介は気が抜けたのか、X(申請人)とY(被申請人)を反対にしています(350ページ下から14行目と下から4行目のXは、どちらもYのはず)
特別区人事・厚生事務組合法務部編 第一法規 2013年10月5日発行
一つの事例が1ページから3ページで、事件の内容の紹介はかなり抽象的ですから、裁判所の判断をその決め手となった事実関係を把握してきちんと読むには物足りず、基本的には流し読み用の内容ですが、そのわりには法律用語が多用されているので裁判業界人以外は手にしにくい本です。
裁判所からの要求への対応や、自己の主張の裏付けとなる資料がないときの対応など、立場は逆とはいえ、同じく裁判を担当する者としては、気持ちはよくわかるという部分は多々あります。
しかし、苦労話と言うよりは、自治体側の勝訴事例の紹介がほとんどということもあって、自慢話の印象が強い本で、素直に読む気になる読者層はかなり狭い感じがします。
紹介されている裁判の事例は、ほとんどが自治体側の勝訴事例で、自治体の法務担当者側から見た事案の紹介のため相手方の主張が無理無体なもののように書かれているものが多いですが、そういう視点でなされた紹介でさえ自治体側の主張がかなり無理筋と思われるケースも少なからずあり、それでも裁判所があれこれ工夫というか無理をして自治体を勝たせている事例がいくつもみられ、暗澹たる気持ちになりました。
自慢話の一例で、預金の仮差押えの話が紹介され、2000万円の債権で債務者の預金を仮差押えする際に預金がいくらあるかわからないので債権のうち一部の500万円で仮差押えするかどうか迷って結局全額で仮差押えして保証金(担保)350万円を供託して100万円程度回収できる見込みとなったというのを「適切な仮差押え債権額を判断し、成功した」とし、「X区は、債権の仮差押申立とは別に、A銀行に対するYの債権の債権額をA銀行が明らかにするよう、裁判所に催告してもらう申立をしましたので、担保を立てた日から約2週間後にYの債権額がわかり」としている(339~340ページ)のには、読んでいて首を捻りました。「100万円程度回収できる見込みが立ちました」というのは仮差押えの競合があったのでなければ差し押さえられた預金が約100万円ということです。であれば、仮差押え債権額は500万円の方が保証金が少なくて済み、より「適切な仮差押え債権額」のはずです。もちろん、事前にはわかりませんから全額での仮差押えが間違いだという評価は普通しませんが、わざわざ迷った話を書いた上で、不必要だった全額での仮差押えを「適切な仮差し押さえ債権額を判断し」と書くのは、いかにも気楽で自己満足的な仕事だなと思います。銀行への「第三債務者の陳述催告申立」も、弁護士の感覚なら債権の仮差押え(あるいは本差押え)の場合、申し立てるのが当然で、もしやり忘れたら弁護過誤と言われかねないようなもので、そういうものを申し立てたのを何か手柄のように書くのは理解できません。
最後の紹介は気が抜けたのか、X(申請人)とY(被申請人)を反対にしています(350ページ下から14行目と下から4行目のXは、どちらもYのはず)
特別区人事・厚生事務組合法務部編 第一法規 2013年10月5日発行