伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

蛇行する月

2014-06-08 21:42:52 | 小説
 釧路湿原高校図書部員で、高3の夏に国語教師谷川を好きだという須賀順子に雨の日にずぶ濡れになって自宅を訪れるアタックを勧めた戸田清美、一緒になって告白方法を提案した藤原桃子、須賀順子とともに駆け落ちした和菓子職人の妻福吉弥生、元図書部員で須賀順子のアタックを傍観し後に谷川と結婚する小沢美菜恵、須賀順子の母須賀静江、元図書部員で一番のしっかり者だった角田直子のその後を描く短編連作小説。
 1作目の「1984 清美」は、信心に生きる母と浪人生の妹を養いながら釧路のホテルで安月給で酔客に尻を撫でられながら酌をして宴会営業をさせられる清美の情けなさ・絶望感を描いています。2作目からは、1作目の途中に高校時代のエピソードで登場した須賀順子のその後をストーリーの軸にして、それぞれの人生の途中で須賀順子のその後を挿入して描くという色彩を強めています。全体として、周囲の6人の人生の一場面で登場した須賀順子を並べることで須賀順子の生き様・人生観・幸福感を描いているという形になっています。
 須賀順子自身は、国語教師谷川に振られた後、東京の和菓子屋に就職して妻帯者の和菓子職人と駆け落ちして放浪し、結局は東京の下町の寂れた商店街の片隅で夫婦で食堂を開いて、周囲は貧しさに驚くが本人は満足していると描かれます。須賀順子自身と、1作目の戸田清美、2作目の藤原桃子、そして5作目の須賀静江では、貧しさに耐えて生き抜く姿が描かれ、格差社会の底辺付近であえぐ労働者の生活をにじませ、筆力を感じました。3作目、4作目、6作目は少し余裕がある人の目から語られ、そこから見る須賀順子という落差が狙いかなとも思いますが、やはり迫力は落ちる感じがしました。
 最初の方の貧しさの中で生きる労働者を描く力と、須賀順子の生き方を見て貧しさと幸せについて考えさせられるところに、読んだ後も惹かれるものが残りました。


桜木紫乃 双葉社 2013年10月20日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする