伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

「がん」では死なない「がん患者」 栄養障害が寿命を縮める

2016-08-08 00:55:33 | 自然科学・工学系
 癌を始め、さまざまな病気からの回復のために栄養管理が大切であり、病院が適切な栄養を与えることで感染症の防止や手術後の予後の改善ができることを論じた本。
 タイトルの「癌」の場合、癌細胞は糖を大量に消費する上に筋肉のタンパク質を分解し脂肪細胞から脂肪を血中に放出させるサイトカインを放出するために、癌患者は筋肉が細り体脂肪も減ってあっという間にやせていくが、医者は栄養を入れると癌が大きくなるなどといって栄養補給に積極的でない、その結果、患者は栄養障害になり歩行や自力排泄、食事ができなくなり、免疫機能が衰えて感染症にかかる、癌患者の8割以上は癌そのものではなく感染症で死亡しているというのが、著者の主張です(12~15ページ、34~37ページ)。
 なるほど、ではどのように栄養を摂ればいい、何を食べればいいのかと思うと、そこは著者らが工夫した栄養剤の投与(ただし、可能なら経口、できるだけ経腸)ということで、患者側からは医療機関任せになってしまうのが残念です。
 他方で、癌の最終段階では細胞が栄養や水分を受けられなくなり、栄養や水分を投与しても細胞が使うことができず、そのまま腹水や胸水、全身のむくみになって患者はかえって辛くなってしまうため、投与量を減らすギアチェンジが必要になるそうです(86~87ページ)。専門領域になるとなかなか判断が難しそうです。
 この本では、癌の話は、ある種「つかみ」でもあり、癌以外のさまざまな病気の治療、回復、退院後の生活に、入院中の栄養管理が大きく影響することが論じられています。人間の自然治癒力、免疫機能を考えれば、当然とも思えますが、医者がそのことを認識するようになったのは最近のことで、十分な栄養管理が行われていない病院も多いようです。
 著者は、患者と顔を合わせたらまず握手をして挨拶を交わすようにしている、握手をするだけで相手の握力や体温、皮膚や脂肪の状態、爪の状態、場合によっては心の状態までわかるといっています(94~95ページ)。専門家はあらゆるところから情報を得て判断の基礎にしているというわけです。これは、弁護士業務でも当てはまりますので、よくわかります。弁護士の場合、相談者の手を握りはしませんが、相談者と会話をすることでさまざまな情報を引き出し、その表情や声の調子、会話の「間」なども意識しながら相談者の話の行間を推測してさらに質問をして事実関係を見極めていくという作業をしています。そういう観点からも、メールで済まそうとせずに、現実に関係書類を持って面談した方が、遥かに深く効果的な相談ができるもので、顔を合わせてのコミュニケーションの大切さは、人間のことを扱う業務では共通しているなぁと実感します。


東口髙志 光文社新書 2016年5月20日発行
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