伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

プラージュ

2017-04-03 21:38:08 | 小説
 覚せい剤使用で有罪判決を受け執行猶予中の元旅行代理店営業担当者が事件を機に失職して収入を失い火事で焼け出されたために、前科者にも貸してくれるシェアハウス「プラージュ」に移り住み、部屋にはドアもそしてもちろん鍵もないその奇妙なシェアハウスの1階でカフェを営むオーナーの朝田潤子やそれぞれに訳ありの住人たちと過ごす日々を描いた小説。
 多くの作品で、残忍でグロテスクな犯罪を描きおよそ共感する余地のない身勝手な犯罪者への憎しみを煽りその犯罪者が逮捕されたり殺されるカタルシスを読ませている作者には珍しく、前科者に徹底的に冷酷な日本社会の問題をテーマとし、罪を償った者に対しては受け入れる姿勢を示すべきだと論じ、前科者の事情や成長、個性と長所を描き出しています。率直に言って、この人にもこういういいお話が書けるんだと驚きました。
 作品のテーマとなっている社会派的なメッセージを度外視しても、失業した元旅行代理店営業担当者貴生の青春恋愛小説としても、「記者」の成長物語としても、ふつうに楽しめる作品です。
 出版時期は2015年9月15日で、作者が「自虐史観」批判を展開する右翼の伝道師へと踏み出した「武士道ジェネレーション」(2015年7月30日発行)よりも後ではありますが、この作品は雑誌「パピルス」2014年6月号(2014年4月28日発売)~2015年2月号(2014年12月28日発売)に連載されたために執筆が「武士道ジェネレーション」(初出が「別冊文藝春秋」2015年6月号:2015年5月8日発売+書き下ろし)以前なのでしょう。この作者の右翼的プロパガンダのない、残念ながら「最後の」作品ということになりそうです。


誉田哲也 幻冬舎 2015年9月15日発行
コメント
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