日本労働弁護団の中心メンバーによる労働法・労働事件の実務解説書シリーズの秘密保持義務、競業避止義務(労働者が勤務先のライバル会社に勤務したりライバル会社を経営したりしない義務)、公益通報(内部告発)、個人情報保護、高齢者雇用、企業年金関係の部分。
2008年に刊行された「問題解決労働法」シリーズの改訂版です。「問題解決労働法」では、「社会の変化と労働」というテーマで、要するに近年新たに問題となってきているものを寄せ集めた巻になります。
第2章の競業避止義務は、主として使用者が退職する労働者に退職時に競業避止義務を負う契約書(誓約書等)を書かせている場合に、どのような場合にどの範囲でそれが有効となる(労働者が競業避止義務を負う)かについて、裁判例のばらつき(ブレ)が大きく、弁護士としては、相談を受けた場合に判断がとても難しい問題(分野)です。この本では、裁判例を多く取り上げそのばらつき加減(わからなさ)をあるがままに論じていて、現状での労働者側の解説としては割とハイレベルなものになっていると思います(それでも結局裁判例の「傾向」はすっきり説明できないのですが)。その契約書等での競業避止条項の目的(企業の秘密や独自に開発したノウハウを守る目的か、秘密と称していても一般的な知識にとどまったり競争排除目的にすぎないか)を重視して後者の場合には競業避止義務を容易に認めない一連の裁判例の傾向(とその問題意識をあまり持たない一群の裁判例)という説明の視点があった方が、私はよりよかったと思いますが。
第5章の高齢者雇用(定年再雇用)では、関連の行政規制の説明が多く、裁判実務で問題となる高年法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)の経過規定で一定年齢(2017年4月現在では62歳)以上の労働者の契約更新の際に2013年3月末日までに再雇用制度を設けて労使協定を締結した使用者は労使協定で定めた再雇用基準(成績優秀とか、勤労意欲に富み周囲によい影響を与えているとか、使用者が更新拒否をしやすい内容であることが多い)により労働者を選別して更新拒絶できることに対して、労働者側でどう闘うかについての記述がまったくないのは、この本の性格からして大変残念です。
第6章の企業年金は、弁護士の多くにはなじみがなく、私もほとんど知らない領域なので、主として年金減額に対するものですが、裁判例を多く挙げて解説されていて、とても勉強になりました。
雑多なテーマの寄せ集めのため、通し読みにはあまり向いていないと思いますが、労働事件を多く扱う弁護士には読み甲斐と使いでのある1冊かなと思いました。
大塚達生、野村和造、福田護 旬報社 2016年11月7日発行
2008年に刊行された「問題解決労働法」シリーズの改訂版です。「問題解決労働法」では、「社会の変化と労働」というテーマで、要するに近年新たに問題となってきているものを寄せ集めた巻になります。
第2章の競業避止義務は、主として使用者が退職する労働者に退職時に競業避止義務を負う契約書(誓約書等)を書かせている場合に、どのような場合にどの範囲でそれが有効となる(労働者が競業避止義務を負う)かについて、裁判例のばらつき(ブレ)が大きく、弁護士としては、相談を受けた場合に判断がとても難しい問題(分野)です。この本では、裁判例を多く取り上げそのばらつき加減(わからなさ)をあるがままに論じていて、現状での労働者側の解説としては割とハイレベルなものになっていると思います(それでも結局裁判例の「傾向」はすっきり説明できないのですが)。その契約書等での競業避止条項の目的(企業の秘密や独自に開発したノウハウを守る目的か、秘密と称していても一般的な知識にとどまったり競争排除目的にすぎないか)を重視して後者の場合には競業避止義務を容易に認めない一連の裁判例の傾向(とその問題意識をあまり持たない一群の裁判例)という説明の視点があった方が、私はよりよかったと思いますが。
第5章の高齢者雇用(定年再雇用)では、関連の行政規制の説明が多く、裁判実務で問題となる高年法(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律)の経過規定で一定年齢(2017年4月現在では62歳)以上の労働者の契約更新の際に2013年3月末日までに再雇用制度を設けて労使協定を締結した使用者は労使協定で定めた再雇用基準(成績優秀とか、勤労意欲に富み周囲によい影響を与えているとか、使用者が更新拒否をしやすい内容であることが多い)により労働者を選別して更新拒絶できることに対して、労働者側でどう闘うかについての記述がまったくないのは、この本の性格からして大変残念です。
第6章の企業年金は、弁護士の多くにはなじみがなく、私もほとんど知らない領域なので、主として年金減額に対するものですが、裁判例を多く挙げて解説されていて、とても勉強になりました。
雑多なテーマの寄せ集めのため、通し読みにはあまり向いていないと思いますが、労働事件を多く扱う弁護士には読み甲斐と使いでのある1冊かなと思いました。
大塚達生、野村和造、福田護 旬報社 2016年11月7日発行