伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

脳外科医マーシュの告白

2017-04-13 20:19:23 | ノンフィクション
 イギリスを代表する脳神経外科医の著者が、脳神経外科医となった経緯、若い頃の手術と反省、失敗した手術の記憶、患者との事前面会・説明の重苦しさと手術中の興奮・喜び、脳神経外科医の苦渋とやりがい、イギリスの医療制度への苦言等を語った本。
 手術中のわずかなミス(血管や神経の損傷等)、頭蓋を開いて見ないとわからない腫瘍の血管等への癒着の程度等の予測を誤ったために生じる手術をするという判断のミス、さらには運・不運が、患者の命を奪うこととなり、また患者が生き永らえても深刻な障害(意識を失う、言葉を失う等)を負うことになる、脳神経外科医という仕事の過酷さと、それと裏腹の仕事の尊さ、やりがい、達成感を生き生きと/生々しく描いています。著者が脳神経外科医になりたいという希望と決意を語るのを聞いたベテランの脳神経外科医が2人とも最初に聞いたことが「奥さんはこのことをどう考えているか」だったというくだり(107~108ページ)も、脳神経外科医の日々の過酷さを象徴しています。
 人生の重大事を扱いその仕事の結果で他人の人生を大きく左右することになり、どんなに腕が良くて精いっぱいやっても救えない事例があり、また明らかに能力の差があって下手な者の仕事を見ていられぬ思いをし、といって人間だから腕が良くてもしくじることが皆無とは言えず、うまくいったケースでは他人を幸せにできた喜びを感じ、うまくいかなかったケースに自責の念を持ち説明に苦しい思いをする…のは、弁護士の仕事にも通じます。読んでいて開頭手術や各種の脳・神経系の病気の情報・ディテールに新鮮な驚きを覚えるとともに、著者の心情面には、共通する思いを持つところが多くありました。


原題:DO NO HARM : STORIES OF LIFE , DEATH AND BRAIN SURGERY
ヘンリー・マーシュ 訳:栗木さつき
NHK出版 2016年6月25日発行 (原書は2014年)
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