伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

「グレート・ギャツビー」を追え

2021-06-03 21:31:31 | 小説
 プリンストン大学の図書館から盗み出されたF・スコット・フィッツジェラルドの直筆原稿5編をめぐり、取り戻そうと画策する保険会社のエージェント、その手先となって動く売れない作家、容疑をかけられる書店主、原稿を追う強奪犯、捜査を続けるFBIが絡むサスペンス小説。
 原稿を追うグループの中心に保険金(2500万ドル)を払いたくない保険会社のエージェントを置いたあたり、「原告側弁護人 (The Rainmaker) 」で保険会社の悪辣さを声高に告発したグリシャムが、保険会社に妥協し配慮し機嫌を取ったとみるか、基本的なスタンスは同じとみるか、評価が分かれそうです。
 村上春樹訳を売りにした日本版です(グリシャムよりも村上春樹の名前の方が字が大きい!)が、グリシャム定番の白石朗訳になれた身にも特に違和感なく読めました。逆にいえば、村上春樹訳の特色というのも見えにくい感じがしました。「しかしその時代にあっては離婚は話のほかだった」(266ページ)というのがちょっと引っかかったくらいでした(「話のほか」という文例が、outrage の訳として村上春樹訳「心臓を貫かれて」405ページ、be out of the question の訳として村上春樹訳「心臓を貫かれて」280ページくらいしかネットの訳語辞典で出てきませんでした)。
 ややシニカルさはあるものの角の取れた温かみのある手堅い進行の作品です。そういうグリシャムに興味が持てれば、悪くないと思います。


原題:CAMINO ISLAND
ジョン・グリシャム 訳:村上春樹
中央公論新社 2020年10月10日発行(原書は2017年)
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