伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年に続き2023年も目標達成!

古代アメリカ文明 マヤ・アステカ・ナスカ・インカの実像

2024-02-11 20:05:14 | 人文・社会科学系
 中央アメリカのマヤ文明(紀元前1100年頃から16世紀)、アステカ王国(15~16世紀)、南アメリカのナスカ(地上絵は紀元前400年頃から)、インカ(14~16世紀)の諸文明について、それぞれを専門とする学者が近年の研究成果に基づいて紹介し意見を述べた本。
 あとがきで「本書は、メソアメリカのマヤとアステカ、アンデスのナスカとインカを一緒に解説して、実像に迫る日本初の新書である」と書かれています(312ページ)。学者さんの分担執筆ということもあり、それぞれの研究と関心に応じて書かれていて、入門的な通史の記述がされているわけでもなく、新発見に満ちてはいますが、この1冊で全体像をという本ではありません。
 これらの文明は、いわゆる四大河文明(エジプト=ナイル、メソポタミア=チグリス・ユーフラテス、インダス、黄河)とは異なり、乾燥した大河流域ではなく、大型家畜なく基本人力の、鉄器の利用もなく、アンデスでは文字もなく、高度な文明が誕生し、世界にトウモロコシ、ジャガイモなどをもたらしてその後の世界に食文化革命を起こしたもので、著者らはこれらの文明の人類史上の重要性を強調し、偏った世界史観の是正を求めています(あと、もっぱら征服者の文献に基づいた偏見やマスメディアのオカルト的な扱いへの苦言も)。
 四大河文明との違いを論じている場面で、例えばマヤ文明で「巨大な公共祭祀建築の建設・維持は、支配層の強制力によってのみなされたのではない」「王や貴族の指揮下、農民たちが農閑期に『お祭り』のような行事として、楽しみながら建設に携わったのだろう」(81ページ)と書かれていて、本当であれば興味深いところですが、そう判断する根拠の記載がないのが残念です。またアステカについて、征服者の資料に記載された生け贄の人数には誇張が含まれていたことが現在ではわかっているとして生け贄を過度に強調し続けることを戒めています(104~105ページなど)が、では最新の研究ではどうかということが書かれていないというのも残念です。
 マヤ文明のところで、遺跡が密林に分布している上あまりにも巨大すぎて地上を歩いても遺跡と判断できずライダー(航空レーザー測量)を導入して初めて遺跡が発見できた(67~72ページ)とか、ナスカの地上絵も近年新しいものが多数発見されている上ナスカ台地(約400平方キロメートル:東京23区の約3分の2って)全域を高解像度の航空写真を撮影したらあまりにも膨大で人間が見て判定作業ができないのでAIに地上絵を学習させて候補探しをして新たな地上絵を発見した(182~187ページ)など、遺跡・考古資料が新しく発見されている途上で、新たな知見、新たな評価がこれからまだまだありそうというところが、私には一番勉強になりました。


青山和夫編 井上幸孝、坂井正人、大平秀一著 講談社現代新書 2023年12月20日発行


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