伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

女性不況サバイバル

2023-10-03 21:13:36 | ノンフィクション
 コロナ禍の下で、元々低賃金・不安定雇用を強いられてきた女性労働者が、夫セーフティネット(働けなくなっても賃金が下がっても男性に扶養してもらえるだろうという偏見から対策がサボられる)、ケア軽視(ケア労働は家庭で女性がただでやっているような労働だから高い賃金を払うなどの必要はない)、「自由な働き方」(フリーランスは自己責任だから労働者並みに保護する必要はない)、「労働移動」(失業しても転職して別のところで収入を得ればいいから手厚く保護する必要はない)、世帯主主義(コロナ禍の下での給付金等は、「迅速な支給」のために世帯主に支給する)、強制帰国(技能実習生は妊娠したら雇止めとなっても技能実習ができないから在留資格が更新されず強制帰国となって雇用終了)という6つの仕掛けによって、さらに苦境に追い込まれたことを批判的に紹介するとともに、それと闘って成果を上げた事例を紹介する本。
 昨今の日本政府の政策や企業の姿勢への批判、それと闘うことを諦めるな、闘って勝っているケースがあるというメッセージはいいと思います。
 ただ労働者側の弁護士としては、実際にはもう少し労働者側が闘えているところがあると感じています。第1章で中心的に論じられているシフト制の労働では、近時の裁判例でも、私の実感でも、契約書上労働時間が明記されず時給だけしか定められていない場合でも、現実のシフト指定(週の労働日の日数、1日の労働時間)が数か月程度概ね一定であれば、その後に使用者側の都合でシフトを減らされたら、減らした指定が無効でその分の賃金を払えと裁判所は判断すると思います。使用者の好き嫌いでのシフト削減なら賃金全額、コロナ禍での業務縮小が合理的と考えられる場合でも労働基準法第26条の休業手当6割分は十分にいけると思います。それは裁判ではということではありますが、裁判をすればそうなるのだからという交渉も可能でしょう。
 フリーランスについても、契約書上は自営業者への業務委託でも労働の実態によっては労働者と判断されることがあります。有期契約労働者の雇止めに対しても、近年使用者側の巻き返しが強く裁判所も揺れ動いていますが、過去に数回更新しているケースでは民間なら十分闘えるケースが多くあります(公務員:会計年度任用職員と、派遣労働者については、裁判所が頑なに救済を拒否しているのでかなり厳しいですが)。
 そういったところで、労働者側の弁護士の目からは、この本のニュアンス以上に労働者側が闘って勝利できる場面も多いと感じていますので、諦めないで欲しいなぁと思います。


竹信三恵子 岩波新書 2023年7月20日発行

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