伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

天使と悪魔 上中下

2009-05-12 21:37:56 | 小説
 ヨーロッパ原子核研究機構(CERN)の研究者が密かに生成した反物質4分の1グラムのサンプルを盗み出して、新ローマ教皇選出の儀式「コンクラーベ」の最中のバチカンに持ち込み、新教皇候補者の枢機卿4人を拉致して1時間に1人ずつ殺害して最後にバチカン自体を吹き飛ばす犯行予告をした秘密結社「イルミナティ」を名乗る犯人を、宗教象徴学者ロバート・ラングドンが追いつめるミステリー。
 映画化を機に読みました。映画の「天使と悪魔」は「ダ・ヴィンチ・コード」シリーズ第2弾とされていますが、原作では「天使と悪魔」がラングドンシリーズ第1作で、「ダ・ヴィンチ・コード」が第2作だそうです。
 冒頭からマッハ15の飛行機や「反物質」4分の1グラムのサンプルとそれを対消滅させずに保持する反物質トラップといったCERNの「最先端科学」にぶっ飛びますが、そこを無事に読み終えて、ラングドンと、反物質サンプルを生成して殺された科学者の養女ヴィットリアがバチカンに着いた後は、一気に読ませる感じです。予告された枢機卿の連続殺害の場所を、イルミナティの故事と象徴を分析して推測しながら現場に駆けつけてゆくラングドンの推理に引き込まれます。連続殺人の後に待ちかまえるバチカンの爆破と犯人の正体も、ハラハラさせます。
 バッテリー切れまでのカウントダウンで反物質が対消滅による大爆発するまでの時間がゆっくり進みすぎるというかわずか数分にこれだけのことができるかは無理がある感じですが。また、ダメージを受けても不死身のように活躍するラングドンと、敵方の暗殺者も、強すぎですし。リアリティを求める小説じゃないとは思いますが。
 バチカンの書庫のガリレオ文書で書棚いっぱいの裁判文書を見てラングドンが「法律家は何世紀たってもあまり進化していないってことだろうな」と言ったのに対して、ヴィットリアが「鮫もそうよ」(中巻32ページ)と応えるのは、やっぱりアメリカでは弁護士=鮫のイメージなんですよねと、弁護士としてはいじけてしまいました。


原題:ANGELS AND DEMONS
ダン・ブラウン 訳:越前敏弥
角川文庫 2006年6月10日発行 (単行本は2003年、原書は2000年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

世界の果てまで

2009-05-10 21:52:52 | 小説
 日中戦争中の上海を舞台に、人間嫌いのイギリス人富豪が死期を前にして全財産を阿片に換えてビリヤードの名人の美女4人を競わせて1位の者に全財産を与え、2位の者は苦力の娼婦とし、3位の者は四肢を切断して見せ物とし、4位の者はその場で射殺するというビリヤード競技を実施し、日本軍と中国共産党とロマノフ王家から期待を背負った3人の女性が派遣されイギリス人富豪の娘が父への反感から参加するという枠組みで、関係者の愛憎を描いた小説。
 戦時中にしてしまえば何でもありと考えているのかも知れませんが、それにしても設定がいかにも荒唐無稽で、そこがどうにもお話に乗り切れません。女が一人で生きて行くには娼婦になるしかないという条件を強調することで、薄幸の美女たちの運命やいかにというドラマにしやすい舞台作りを考えているのがいかにも目につきます。主人公の女性の立場での語りなのに、その女性の性的な運命に向くスケベオヤジ的な視点で話が展開する感じがします。戦争中の話だというのに、生活には困っていないか、困っていたはずがうまく乗り切れて余裕のある美女たちが子どもの頃から手慰みに覚えたビリヤードの腕を持ち、ちょっとしたことから命を賭けたビリヤードゲームをやるハメになり、しかしその運命を簡単に受け入れるというストーリー展開も現実感に欠けます。
 無理無理創り上げた舞台の中での極限状況での人間間の愛憎の部分が読みどころというところでしょうか。


鎌田敏夫 角川春樹事務所 2008年12月28日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

王国の鍵1 アーサーの月曜日

2009-05-09 01:31:58 | 物語・ファンタジー・SF
 創造主の遺言によって異世界「ハウス」の正当な後継者に指名された喘息持ちの少年アーサー・ペンハリガンが、創造主の遺言を無視してハウスの支配権を奪った7人の管財人から王国の鍵を取り戻すため冒険を続けるファンタジー。
 創造主が創造した、人間の住む宇宙「第二世界」を記録し続ける異世界「ハウス」の管財人たちが、創造主の死後、その遺言を無視し引き裂いて拘束し、ハウスを支配して、第二世界を記録するにとどまらず第二世界に影響を与えようとし、拘束を脱した遺言の一部が管財人からハウスの支配を取り戻すために喘息の発作で死が迫っていたアーサーを後継者に指名するとともにハウス下層の管財人「マンデー」を騙して7組の鍵のうち1組の片割れをアーサーに手渡し、その鍵の力と遺言の指示に従ってアーサーが冒険を重ねるという筋立てです。
 1巻で示唆された枠組みでは、王国はハウス下層、ハウス中層、ハウス上層、地底界、大迷路、至高の園、果ての海の7つの領域からなり、7人の管財人マンデー、チューズデー・・・・・がそれぞれに支配しているということで、2巻以降1巻で1つずつ制覇し7巻で最後の対決に至るという構図が見えます。そのあたりのお約束がはっきりしたRPGのようなファンタジーです。
 創造主、その死後の世の乱れと、いかにもキリスト教色の濃い枠組みですが、創造主の怒りを買って地底深くの時計に鎖でつながれて12時間おきに目玉をくりぬかれ続けるという罰を受ける(しかもそれ以前は肝臓を抉られていた)「古き者」なんてもろにギリシャ神話(プロメテウス)から借りてきています。
 アーサーと同様に異世界を認識できる人間リーフとエドの謎とか、笛吹に異世界に連れてこられた人間の孤児スージーなど、面白くなりそうな要素はありますが、1巻を読む限りは添え物的で、2巻以降の展開に期待というところでしょうか。RPG好きの読者にはいいかも知れませんが、同じようなパターンがこの後6回繰り返されると思うと、ちょっと食指が動かないなぁというのが私の正直な気持ちです。


原題:THE KEYS TO THE KINGDOM : MISTER MONDAY
ガース・ニクス 訳:原田勝
主婦の友社 2009年4月30日発行 (原書は2003年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ワールド・オブ・ライズ

2009-05-06 23:32:11 | 小説
 中東を舞台にアルカイダの組織への潜入と攪乱の謀略を進めるCIAのケース・オフィサーのロジャー・フェリスとその上司エド・ホフマン、ヨルダン諜報部GIDの長官ハニ・サラームの駆け引きを描いた小説。レオナルド・ディカプリオ主演で映画化された「ワールド・オブ・ライズ」の原作です。
 映画ではサラッとしか出て来ないロジャー・フェリスの妻グレチェンは司法省のエリート弁護士でグラマーな美女で性的に貪欲というキャラなんですが、ロジャー・フェリスがグレチェンの前に出るとその魅力に圧倒されながら一緒にはやっていけないと思う葛藤と、現実の離婚に向けての脅迫の駆け引きなどが描かれていて楽しめます。
 フェリスが好きになる、パレスチナ難民キャンプで働くブロンド美女のアリス(映画では「アイシャ」という東洋系の黒髪になってましたが)もCIA嫌いでイスラム原理主義者グループとも親交を深め、ハニ・サラームにも時々手伝いをするというミステリアスで深みのある存在として描かれています。
 フェリスも、現地の協力者を見殺しにするホフマンの冷酷さに不満を持ちつつも、陰謀を発案・実行し、ハニに出し抜かれた後もすぐに立ち直ってさらなる謀略を実行するなど、したたかな一面を見せています。ハニ・サラームはCIAをも手玉に取る冷静で紳士的でありながら狡猾な力量を見せつけていますし、ホフマンもハニに出し抜かれながらもその手柄を自分のものにするしたたかさを持っています。
 ハニだけでなく、フェリス、ホフマン、そしてアリスまでが大人の駆け引きを繰り広げる展開が、読みどころです。
 ただ、その分、そのフェリスが、アリスへの愛にまっしぐらに進みCIAをやめるラストが、ストーリー展開から浮いている感じがします。


原題:BODY OF LIES
デイヴィッド・イグネイシアス 訳:有沢善樹
小学館文庫 2008年11月12日発行 (原書は2007年)
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

今夜ウォッカが滴る肉体

2009-05-01 01:40:03 | 小説
 突然何もしたくなくなったというだけで大学を辞める決意をして両親から勘当された、基本的に自分のことしか考えていない主人公が、役者になった親友とその妹の美少女が目の前に現れ主人公の誕生日を祝い親友が心理的に追い込まれてピンチに陥り妹も兄を救ってくれといっているのに、結局は親友に救いの手を差しのべることもなく放置しておきながら妹からは非難されることもなく妹と結ばれることを示唆して終わるやや不条理系のジコチュウ自己満足的な小説。
 事実の描写が観念的・抽象的で、主人公の思考の自己満足というか無責任ぶりと生活感のなさが相まって、どうにも現実感を持ちにくい文章です。それで自分のことしか考えていない主人公に都合のいい展開が続きます。
 この主人公におよそ共感できない私には、読んでいてバカバカしいとしか思えませんでした。


望月佑 講談社 2009年3月26日発行
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする