伊東良徳の超乱読読書日記

雑食・雑読宣言:専門書からHな小説まで、手当たり次第。目標は年間300冊。2022年から3年連続目標達成!

RED

2016-08-05 23:08:22 | 小説
 2歳半になる娘の妊娠中からセックスレスで姑との同居に息苦しさを感じる専業主婦の村主塔子が、友人の結婚披露宴で再会した10年前の不倫相手鞍田の誘いに乗り鞍田が関係する会社に勤めるようになり同僚のSEに強引に口説かれて気を持ち、当然の展開として鞍田と肉体関係を持ち、といった展開の官能小説。
 姑との同居、セックスレスで自分は塔子に口での奉仕をさせて1人満足し塔子の求めにも応じない夫、娘の体調不良や送り迎えへの対応もせず塔子を叱咤する夫、誰にも気遣われず大事にされないことへの不満といった塔子の不満は、通常であればそれが塔子の不倫の動機、背景事情とみられるでしょう。しかし、この作品を読んでいて、私が、この主人公にまるで共感できなかったのは、塔子の中にそういった不満が積もってそれがはけ口を求めてというよりも、塔子が目の前の男と浮気をしたい羽目を外したいという気持ちが先行しその言い訳を探すうちにそういった不満が形をなしてくるように見えるところに原因があります。現状に100%満足している人間はまずいないわけですから、現実にはどれほど人間的にできた夫であっても、この人物は浮気の原因として何らかの夫への不満を見つけ出すのではないかと思えてしまいます。
 ジコチュウでマザコンの夫が割を食うのは、まぁ致し方ないとしても、この作品でさらに疑問に感じるのは、レイプの描き方です。10年前の不倫相手と再会し酒場のトイレに押し込まれて「やめて」「本当に、やだ」といったら腕を捻られて後ろから押し入られ、「ひど、い」「もう帰る」といいながら、鞍田が「…そんなに嫌なら、やめるか」というのに対して「…気持ちいいから、やめないで」って(35~38ページ)。そういうデート・レイプのような展開の後、その鞍田が関係する会社への就職を誘われて、ほいほいと話に乗った塔子は、自意識過剰でジコチュウな同僚小鷹に職場での1次会の後強引に居酒屋に連れて行かれて突然キスをされると「だんだん頭がぼうっとしてきて、自分でもどうしていいか分からないくらい、生まれて初めてキスを気持ちいいと感じていた」(146ページ)となり、それまで嫌っていた小鷹がその後会社では素っ気ない対応をするのが気に入らず塔子の方が小鷹を追いかけるという展開。これ、典型的に、「嫌よ、嫌よも好きのうち」っていう表現だと思います。夫とのセックスレスに対して塔子が欲求不満に陥り、夫に求めても応じてもらえず不満に思うシーンも含めて、女にも性欲はあるんだという自己主張、そういう思いを持つ女もいるし、またそういうときもあるという主張、なのかも知れません。しかし、現実にこういった表現がもたらす影響としては、勘違いセクハラ男を増長させ増殖させるリスクの方が遥かに大きいように思えます。作者がこれまでにレイプ問題を深刻なものとアピールしてきた作品の存在を考えると、この作品のような描き方は、日経新聞での渡辺淳一のような描き手を欲しがった媒体側への迎合に過ぎるように思えるのですが。
 長期連載ということもあり、最初の方と終盤では人物像や設定にズレを感じます。それで前半に塔子に感じた人物としての嫌らしさ、底の浅さ、身勝手さが薄れ、終盤では何となく受け容れてしまうというところは、それが作者の狙いなのかもしれませんが。


島本理生 中央公論新社 2014年9月25日発行 (「読売プレミアム」2013年5月8日~2014年8月15日連載)
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