なあむ

やどかり和尚の考えたこと

自殺問題と寺院

2011年03月08日 23時13分07秒 | 布教活動

昨年もこの国の自殺者数が三万人を超え、十三年連続という寒々しい記録となりました。さらに自殺未遂者はその数倍、自殺を考えたことのある人は十倍いるともいわれます。 

 また、遺された家族にとっての苦しみは、自殺者と同じか、あるいはそれ以上である場合もあるでしょう。

 この問題を、個人や家族の問題ととらえてしまってはならない、この国がかかえる社会全体の歪みの問題ととらえるべき、というのが多くの専門家の見方です。だとすれば、この国の一人ひとりが、自殺問題を自分のこととして考えていくことが求められます。

 特に「生死」に関わる僧侶においては、決して「他人事」と無関心を装うことは許されないでしょう。自殺者がお檀家や周囲の人であればなおのこと、それを食い止められなかった無力感や、自責の念に苛まれる思いがあって然るべきと思われます。また、遺族に対する対応においても、僧侶ならではの心配りが求められます。そんな中、僧侶の各方面からいろいろな活動が始まっています。

 ひとつは、「自殺防止ネットワーク 風」です。現在全国各地及びハワイも含めて五十ヶ寺が相談所として電話番号を公表し、相談を受けています。私の寺もその一つとして活動を続けています。

 電話相談ですから、全国各地どんな遠方からでも相談はできそうですが、相談者の雰囲気で感じることは、近くにそういう場所があるということが安心の一つになっているように感じることです。電話をかけるまでには至らないまでも、「最後はここに電話すればいいんだ」というように、最後の望みを確保しておくことが自殺の防止につながっているように思うのです。

 もう一つは、関東を中心に活動している「自殺対策に取り組む僧侶の会」です。こちらは手紙での相談に答えるという活動と、遺族の方々への慰霊法要や集いを行っている組織です。また、曹洞宗青年会でも自殺相談に答える研修などを積極的に行っています。

 他にも、組織的活動ではないにしろ、お檀家や地域の人々の側にいて、相談相手となって共に生きる活動を行っている寺院住職は各地にいらっしゃると思います。そういう動きがもっともっと盛んになり、全国各地の寺院が命の問題に苦悩する人々に門戸を開き、「困った時はお寺に行って相談すればいい」というような寺院本来の役割の認識が広まることを願います。

寺院の存在意義や公益性が問われている昨今、自殺防止の活動は、今最も求められ、また寺院がそれに応え得る活動ではないでしょうか。 

  (禅の友「風鐸」三月号依頼原稿)