運慶展でドキッとした像があった。運慶と子息の湛慶によるといわれる「聖観音菩薩立像」(1201年、瀧山(たきさん)寺)を見たときである。像全体の色彩と、手の造形のあまりの艶めかしさに驚いた。解説によれば彩色は後の時代のものらしいが、おそらくは像が出来た当時もこのように艶めかしい彩色が施されていたと思う。
図録には正面・左横・背面の全身像、正面と左側面からの顔のアップ、左肩の背面からのアップの六様の写真が掲載されている。しかし手の先をアップした頭は掲載されていない。仏像に艶めかしさを感じる私が不謹慎なのかもしれないが、実際のそう感じた。
掌の皺一本一本、指先の小さな筋肉の起伏、微かだが血管の青筋も見える。それだけではなく艶めかしさは左背面からの腰の線、そして左腋のふくよかな肉付きからも感じられる。
首の皺から上の頭部、ならびに足先は観音像・仏像らしい造形だが、肩から足首まではとても人間的な造形に思えた。また衣文それも背面の衣文が艶めかしさを増幅させている。
由来によれば、頼朝の三回忌に頼朝の等身大のものとして造像されたという。胎内に頼朝の鬢と歯がおさめられたと記されており、実際にエックス線撮影で納入品があることがわかっているとのことである。
この聖観音像の指の造形に驚いて、次に展示されていた運慶作の無着菩薩立像、世親菩薩立像(1212年頃、興福寺)も指先に注目してみた。
図の右側が無着菩薩、左側が世親菩薩である。いづれも190センチを超える大きな像である。それために角が取れた柔和そうな顔の造形の割には意志の強そうな面立ちと相まって、見る人に圧し掛かるような威圧感すら感じる。
こちらの像でも正面・左右の全身像や頭部のアップの図は幾様もあるが、指先に着目した図は残念ながらなかった。無着菩薩の指の方が顕著であるが、手の甲におおきく浮き出た静脈、爪、指先の皺がリアルであり、あまりにも生々しい。来ているものの衣文と袖口の柔らかさを感じる造形にも驚かされた。
次に取り上げるのが有名な「重源上人座像」(13世紀、東大寺)。東大寺の大仏殿の復興の勧進で有名な重源である。これは「運慶ないし運慶一門の直系筋」作と解説に記されている。
こちらも指先に注目してみた。背筋が丸くかなり前かがみである。にもかかわらず強い意志と高齢にもかかわらず覇気を感じる像である。歳相当の指先の表現も見事だが、生気溢れる仕草に見える。
こちらも手の甲の静脈が老人特有に浮き出ていて生々しい。数珠を数えるような左での親指が動きをよく捉えていると感じた。山岳修行にもいそしみ、そして勧進としての旺盛な行動力を支えた強靭な意志を見る者に放っている。対照的な衣文の柔らかさもまた見どころに思えた。