加藤楸邨の第7句集「起伏」から。「起伏」は1948年1月から1949年6月までの句を収める。楸邨44歳である。
私の好きな句は次の18句である。
★野の起伏ただ春寒き四十代
★元旦の機罐車とまり大きな黒
★寒に入る石を掴みて一樹根
★鮟鱇の骨まで凍ててぶちきらる
★蜘蛛の子の湧くがごとくに親を捨つ
★紙屑のごとくに死んで法師蝉
★朝の柿潮のごとく朱が満ち来
★壁越しに病問ひあふ秋の風
★あきらめて鰤のごとくに横たはる
★貨車押して片目は枯野見つつあり
★灯の街をより大いなる枯野が巻く
★今もなほ骨還りつく枯葎
★雪夜子は泣く父母よりはるかなものを呼び
★ひぐれの枯野もう誰の来るあてもなし
★こがらしやしかとくひあふ連結器
★野の中の何に口あき寒鴉
★何か待つごとく冬枯れ音もなし
★労働祭屋根の果には太き煙
「鮟鱇」の第4句、「朱が満ち来」る第7句は有名な句である。私には第12句の「骨還りつく」、第16句の「口あき寒鴉」も印象深い。