岩波書店の「世界」は創刊75年ということで、巻頭に谷川俊太郎が「少年と世界」という詩を寄せていた。
少年と世界
谷川俊太郎
少年は世間より先に
世界に目覚めた
今日にり先に
永遠を知ったつもりでいた
自作の短波ラジオから
海を越えて遥かな声が聞こえ
机の上の地球儀の世界は
プラネタリウムの宇宙に直結していた
見知らぬ地平に憧れと畏れを抱き
目をつむって音楽に溺れ
言葉の網の目にからまれながら
無意味の深みに生きて
落語に笑いながら泣きながら
少年はリンネを無視して
名もない野の花々の種子を
言葉の土壌に撒き続ける
生の賑やかな混沌のうちに
終末の静けさがひそんでいる
いつか老いて神を名付けるのを拒み
彼は落ち葉の寝床にやすらぐだろう
「世界」は岩波書店の「世界」であり、少年にとっての外界としての「世界」の両方の意義であることは間違いないだろう。
「世界」を読むことで、地球規模の世界の出来事が少年に届いた。それは私も体験したことであった。
それ以上はこの詩についていうことはない。わかりやすい、そして私の胸に響く詩である。私にとっては最後の「いつか老いて神を名付けるのを拒み/彼は落ち葉の寝床にやすらぐだろう」は、今の感慨でもある。
久しぶりに詩を読んだ。