★守宮出て全身をもて考へる 加藤楸邨
★硝子戸の夜ごとの守宮とほき恋 鍵和田袖子
守宮(やもり)は形は蜥蜴に似ている。夏の夜に壁などにくっついている。。指に吸盤がついていて指を広げるようにして強力に張り付いている。瀬が黒く腹が赤いのは「ゐもり」「いもり」である。
第1句、「考える」ということはまさに全身で考えることである。守宮が全身の力を使って風に張り付いて何かを「考えて」いるかのように思えるときがある。「何を考えているか」「考えた結果」に感動するのではない。「全身・全霊を使って考え」ようとすることに感動するのである。守宮だけではない、小さな子どもの考えようとする姿勢に多くの人が感動するように。
考える、ということと守宮の姿態を結び付けた思考の回路、発見がこの句の眼目だと思う。
第2句、これはまた同じ守宮の粘着から「遠き恋」を連想した。あまりの艶めかしさに驚いた。対極にあるような句であるが、守宮が全身の力をもってその存在を示すように壁に張り付いた姿勢からの連想は同一である。
いづれも忘れられない句になりそうである。