食べ物の名前には、材料、料理法、調味料で表したものがある。
サバの味噌煮。
材料はサバであり、これを味噌味(あじ)で煮たものである、と、まことに明瞭でわかりやすい。
サンマの塩焼き、しかり。
だが、食べ物の名前は、このようにわかりやすいものばかりではない。
しらたきというのがある。こんにゃくの細いやつである。
こんにゃくは、色は黒っぽく、形は何の変哲もない板状で、使われる料理といえば煮物かおでんがほとんどである。
おしゃれな食べ物とは言いがたく、田舎者という感は免れない。
こんにゃくの一部がこれを嫌い、色を白くし、姿を細くして、きれいな滝に見立てて白滝と名乗ったのである。
○○のみぞれ鍋やみぞれ和えという料理がある。
みぞれとは、大根おろしのことである。
大根は、庶民的な食べ物で皆に愛されるが、大根役者、大根足というように、小馬鹿にされるところがある。
さらに「おろし」だから、大根より下に見られている。
大根の一部がこれを嫌がり、
「ほら、空から降ってくる霙(みぞれ)のようにきれいでしょ」
と、みぞれを名乗ったのだ。
だが、しらたきもみぞれも、いかに姿を変え名前を変えようと、しょせん元はこんにゃくであり、大根であって、お里は知れているのである。