金沢に住んでいた時のことである。
ゴールデンウイークに、兄の結婚式で種子島へ帰省するため、金沢駅から特急列車に乗った。
大阪まで行き、そこから種子島まで飛行機で行くのだ。
車内は自由席で、空席がたくさんあった。
若い女性が乗り込んできたが、
「ここ空いていますか」
と言って、私の隣に座った。
私は本を読んでいたが、
「空席はたくさんあるのに、わざわざ私の隣に座ったということは、話がしたいのではないだろうか」
と思い、本を閉じて
「どちらまで行くんですか」
と話しかけた。
彼女は、待っていましたとばかりに話し出した。
彼女は、金沢の和菓子屋の娘で、この春、市内の進学校を卒業したばかりだった。
金沢大学と京都外国語大学に合格したが、後者を選んだと言った。
連休で帰省して、京都へ帰るところだったのだ。
高校時代や、始まったばかりの大学生活について話をした。
そして、将来は語学を生かして、マスコミで仕事がしたいと言った。
私が、兄の結婚式で種子島へ帰省する、と言うと
「次はあなたの番ですね」
と笑いながら、年上の私をからかうように言った。
おしゃべりは、彼女が降りる京都駅まで続いた。
私は、聡明で明るく、社交的で物おじせず、キラキラした目で夢を語る彼女なら、将来はきっと、テレビ局、新聞社、出版界などのマスコミで活躍する女性になるだろう、と思いながら彼女と別れたのだった。