■『真夏の航海』Summer Crossing
トルーマン・カポーティ/著 安西水丸/訳 武田ランダムハウスジャパン
まさに夏の1冊。
ブロードウェイと五番街の交叉地点にあるフラット・アイアン・ビルの写真をあしらった表紙と、
刹那的でシンプルなタイトル、そして大好きな「遠い声、遠い部屋」を書いたカポーティの小説ということで借りてみた。
あとがきで知ったが処女作である本書を、著者自身は生前、出版を拒んでいたらしい。
華々しいデビュー、スキャンダラスな私生活、そしてアルコールと薬物中毒で苦しんだ晩年。
トルーマンの弁護士だったアラン・U・シュワルツ氏はあとがきで、本書が出版された経緯を語っている。
同氏は、著者の死後「トルーマン・カポーティ・リタラリ・トラスト」の理事として、その著作物の管理をしている。
1950年頃アパートにあるものを全部処分してくれと著者から頼まれた守衛がとっておいて、
守衛の死後、親戚がオークションに出したいと連絡してきてアランが引き継ぎ、悩んだ末に出版を決心。
絶筆となった小説「叶えられた祈り」が結局未完のまま出版された代わりに、
出版を望んでいなかったこの小説を出版した、とある。
▼あらすじ
社交界デビューを控えた17歳の名家の令嬢グレディは、パリにクルージングに行く両親に同行せず、
ニューヨークのアパートに残ると言い出して心配させる。
グレディは時々利用している駐車場で働くクライドに夢中になっていて、この夏は2人で過ごしたいと計画していた。
幼なじみのピーターは、グレディと将来共にすることを考え、「これって一種の近親相姦かな?」と冗談を言う。
自分のことをほとんど話さないクライドだったが、ユダヤ系だということ、発育障害の妹アンのことなど次第に明かされてゆく。
クライドは軍隊にいた頃、レベッカと婚約していたことを告げ、グレディはショックを受けるが、
2人はドライブの途中で半ば衝動的に結婚する。互いの生活圏、価値観の違いに不安を抱えながら・・・
忘れてしまっていた恋愛の刺激的な香り、ゆく先が見えない不安感、
相手に心奪われ、合わせているうちに、自分のセンスや生き方まで見失ってしまう感覚が瑞々しくよみがえってくる。
あらすじだけ書くとなんてことない夏の青春物語のように見えるけど、登場人物たちを浮き上がらせ、
感情の動きをつぶさに伝える文章にはほんとうに惹き付けられる。
暴走するヒロインは、母親の押しつける価値観にまるでそぐわない性格で、不穏な結末を予想させたが、
やや唐突な終わり方に、まだ物語はもっともっと続いてゆくのでは?と思わせた。
母ルーシーが娘に「アップル」とか「グレディ」と名付けた時に「ジャズと20年代はルーシーの頭をどうかしちゃったのね」と言われるなど、時代背景として所々ジャズが絡んでいるのが面白い。
宗教の違い、上流階級と労働者階級の違い、人種、生まれた土地や街独特の慣習etc...
アメリカに根強く残るそういった日常に横たわる差別も鋭く描かれている。
ほかにも魅力的なタイトルのまだ読んでない小説がたくさんあるから、ぜひ読んでみたい。
夏の夜から秋の夜長にかけて読むには最適な物語がつまってることだろう。
トルーマン・カポーティ/著 安西水丸/訳 武田ランダムハウスジャパン
まさに夏の1冊。
ブロードウェイと五番街の交叉地点にあるフラット・アイアン・ビルの写真をあしらった表紙と、
刹那的でシンプルなタイトル、そして大好きな「遠い声、遠い部屋」を書いたカポーティの小説ということで借りてみた。
あとがきで知ったが処女作である本書を、著者自身は生前、出版を拒んでいたらしい。
華々しいデビュー、スキャンダラスな私生活、そしてアルコールと薬物中毒で苦しんだ晩年。
トルーマンの弁護士だったアラン・U・シュワルツ氏はあとがきで、本書が出版された経緯を語っている。
同氏は、著者の死後「トルーマン・カポーティ・リタラリ・トラスト」の理事として、その著作物の管理をしている。
1950年頃アパートにあるものを全部処分してくれと著者から頼まれた守衛がとっておいて、
守衛の死後、親戚がオークションに出したいと連絡してきてアランが引き継ぎ、悩んだ末に出版を決心。
絶筆となった小説「叶えられた祈り」が結局未完のまま出版された代わりに、
出版を望んでいなかったこの小説を出版した、とある。
▼あらすじ
社交界デビューを控えた17歳の名家の令嬢グレディは、パリにクルージングに行く両親に同行せず、
ニューヨークのアパートに残ると言い出して心配させる。
グレディは時々利用している駐車場で働くクライドに夢中になっていて、この夏は2人で過ごしたいと計画していた。
幼なじみのピーターは、グレディと将来共にすることを考え、「これって一種の近親相姦かな?」と冗談を言う。
自分のことをほとんど話さないクライドだったが、ユダヤ系だということ、発育障害の妹アンのことなど次第に明かされてゆく。
クライドは軍隊にいた頃、レベッカと婚約していたことを告げ、グレディはショックを受けるが、
2人はドライブの途中で半ば衝動的に結婚する。互いの生活圏、価値観の違いに不安を抱えながら・・・
忘れてしまっていた恋愛の刺激的な香り、ゆく先が見えない不安感、
相手に心奪われ、合わせているうちに、自分のセンスや生き方まで見失ってしまう感覚が瑞々しくよみがえってくる。
あらすじだけ書くとなんてことない夏の青春物語のように見えるけど、登場人物たちを浮き上がらせ、
感情の動きをつぶさに伝える文章にはほんとうに惹き付けられる。
暴走するヒロインは、母親の押しつける価値観にまるでそぐわない性格で、不穏な結末を予想させたが、
やや唐突な終わり方に、まだ物語はもっともっと続いてゆくのでは?と思わせた。
母ルーシーが娘に「アップル」とか「グレディ」と名付けた時に「ジャズと20年代はルーシーの頭をどうかしちゃったのね」と言われるなど、時代背景として所々ジャズが絡んでいるのが面白い。
宗教の違い、上流階級と労働者階級の違い、人種、生まれた土地や街独特の慣習etc...
アメリカに根強く残るそういった日常に横たわる差別も鋭く描かれている。
ほかにも魅力的なタイトルのまだ読んでない小説がたくさんあるから、ぜひ読んでみたい。
夏の夜から秋の夜長にかけて読むには最適な物語がつまってることだろう。