メランコリア

メランコリアの国にようこそ。
ここにあるのはわたしの心象スケッチです。

M.ミッチェル 『風と共に去りぬ』@100分 de 名著(1、2回)

2019-02-12 12:14:20 | 
学生の時に映画を観てから、ずっと大好きな作品
原作も当時夢中で読んだが、記憶は遠い彼方

今回改めて、映画のシーンとともに、翻訳者の視点で掘り下げていて
全4回ともとても面白く見た


【ブログ内関連記事】

心の中のベストフィルム~『風と共に去りぬ』(1939)

「星の王子さま」@100分 de 名著 for ティーンズ 第1回

「ソラリス」スタニスワフ・レム著@100分 de 名著

『歎異抄』 @100分 de 名著(全4回)





出演:
伊集院光
安部みちこ
翻訳家 鴻巣友季子:2015年に「風と共に去りぬ」の新訳を手がけた
朗読:龍真咲


第1回 一筋縄ではいかない物語
名作映画『風と共に去りぬ』
南部の大農園に生まれた ヒロイン スカーレット・オハラは、多くの観客の心をつかみました
描かれたのは「黒人奴隷制度」などを巡って、アメリカが北と南に分かれて戦った「南北戦争」の時代です




原作小説の刊行は1936年
著者マーガレット・ミッチェルが目指したのは、全く新しい南部像を作ることでした
アウトサイダーの目を通して南部社会アメリカを全体を批評的に描いたのがこの作品

映画を観ただけでは分からない原作のメッセージを改めて掘り起こします
数々の名作を翻訳してきた鴻巣さんが、現代にも通じる新たな視点から文学的魅力を読み解きます


基本情報




著者マーガレット・ミッチェルは、アメリカ南部の出身
30代半ばの 1936年に刊行して、すぐに大ベストセラーになり、ピュリッツァー賞を受賞
1939年 映画化されて大ヒット


ベストセラーとなった時代背景
この小説がベストセラーになった要因っていうのが、時代背景だと思うんですけれども
19世紀の終わりぐらいから「大不況」がずっと続いていて
だんだん社会不安とか、鬱屈、鬱憤が蓄積しているところに
KKKという差別的な集団の活動が再活発化したこともあって
この時代の読者というのは、南北時代、戦後の混乱期を書いた今作は他人事ではなかった

「KKK」
クー・クラックス・クラン 南北戦争後に生まれた「白人優先主義」秘密結社
20世紀初頭に再建され活発化

光:今の日本にもちょっと当てはまりそうな

これはいわゆる 過去を振り返るノスタルジー小説ではなく、私たちのことが書かれている小説です


物語の設定


(このヴィヴィアン・リーの写真大好き


物語の舞台は、アメリカ南部ジョージア州
南北戦争における南軍で大きな戦場となった州です

主人公は、スカーレット・オハラ
ヴィヴィアン・リーが演じたこのイメージが強烈だと思うんですけれども


原作のミッチェルが描いたスカーレットはだいぶ違う
この小説の冒頭は、こう始まります

“スカーレット・オハラは実のところ美人ではなかったが”

これが第一行目に書いてあるんですけれども、 みんな忘れてしまうんですね
この後に、結構細かい描写が続いています

背が低め、ちょっとつり目、エラが張っている、首は短い、バストは並外れて大きい
この描写をもとにモンタージュを作っていただいたので こんな感じと思われます


(そんなに大きく外れていないのでは?

正統派美人ではないけれども、ものすごく魅力的で
実際、16歳のスカーレットはモテモテなんです

光:
そこも多分ものすごく意味を持たせていると思うんですね
美人じゃない、と書き出してる人が、生き生きとして
モテモテだっていうのは、じゃあ何なの? ていうところに説得力が出てくる


原作では、他にも映画とかなり違うところがある
映画に登場するタラの豪邸は、ミッチェルのイメージとは違っていた


(この屋敷からリーが駆け出してくるシーンがとても好き

玄関の所に立派な支柱が立ってるような豪邸が映画で出てくる
ミッチェルが本当に描きたかったのは、まだ開拓も進んでいないジョージア北部の
田舎くさい、垢抜けない暮らしです


朗読は、宝塚でスカーレット役を演じたことがある龍真咲さんです






1861年 あのまばゆい4月の午後
タールトン家の双子ブレントとスチュアートを侍らせ
父が経営するプランテーション、タラ農園のポーチの
涼しい日陰に腰を下ろすスカーレットの姿は、美しい一幅の絵のようだった


裕福な家庭で何不自由なく育ってきたスカーレット・オハラ
狙った男性を虜にする術を心得ており、街中の男が彼女に夢中でした

しかし、スカーレットには本命がいました
芸術や文学を愛する貴公子アシュリー・ウィルクス


(私もアシュリー派

自信家のスカーレットは、彼と結ばれる事を疑っていませんでした
そんなスカーレットの耳にカールトン家の双子は信じられないニュースを届けます

「ウィルクス家の舞踏会で婚約発表があるらしい アシュリーとメラニーの婚約さ」
表情も変えず聞いていたスカーレットでしたが、内面では嵐が吹き荒れていました

アシュリーがメラニー・ハミルトンと結婚するですって?!
アシュリーが彼女を好きだなんて絶対に絶対にありえない
だいたいメラニーみたいな冴えないチンチクリンを好きになる男性なんているものですか

そうアシュリーがメラニーを好きなわけがない
だってあの人は、ええ間違いようがない 私に恋をしているんだもの
この私、すなわちスカーレット・オハラがアシュリーの想い人よ そうですとも

そして訪れた婚約パーティーの日
スカーレットは、自分から告白すればアシュリーの気が変わるはずと書斎で二人きりになります

「これまで秘密にしていたことよ 私あなたを愛しているわ」

ところが、アシュリーの答えは
「そんなことを言うものじゃないよ スカーレット 僕はメラニーと結婚するんだ」




メラニーのことを思うと、あの遠くを見るような穏やかな鳶色の瞳や
黒いレースのミトンをつけた楚々とした小さな手や
口もきかずおとなしくしている姿などがふいに浮かんできた

すると出し抜けに怒りが爆発した
「言ったらどうなのよ この臆病者! 私と結婚するのが怖いって」

スカーレットは、アシュリーを平手打ちにします
それでも怒りは収まらず、陶器を掴み、暖炉に投げつけると
ソファーの奥から一人の男が起き上がりました
スキャンダラスな社交界ののけ者レット・バトラーです






「何もそこまでしなくたって
 あんなやり取りを聞かされて、昼寝を邪魔されただけでも迷惑なのに
 命の危険にまでさらされるとは、あんまりな」

本物だ 幽霊じゃない しかし何ということ 今の会話を洗いざらい聞かれてしまった
スカーレットは、あらん限りの力をかき集めて体面を保とうとした

「そこにいらしたのならお知らせいただくべきでした」

真っ白な歯がキラリと光り、無遠慮な黒い瞳は彼女を笑っている

「私が休んでいる所に入ってきたのはそっちだものな やれやれ」

バトラーは肩をすくめて低く笑った


華麗に登場レッドバトラー

主要人物の表




刊行当時からバトラーは人気があったんですけれども
一方で人物造形が少し「ステレオタイプ」(類型的)という批判があった
それに対するミッチェルの切り返しが興味深いんですけれども

「はい、そうです 私のキャラクターは“ストックフィギュア”だし
 既存のキャラ「コンポジット(過去の名作キャラクターの合成物の意味)」です」

ミッチェルは、19世紀の名作からキャラクターを借りて合成して作っているんですと明言した
でも今見ると、結構モダンというか、新しい創造法だなと思うんですね

文芸評論家の千野帽子さんが、レット・バトラーの
キャラクターを使って遊んでみようと提案したことがあって
レット・バトラーの類型的な魅力は、アニメの人気キャラクターと共通するものがあると指摘した

文芸評論家の千野帽子さん提案 「レット・バトラーをアニメキャラとして消費せよ」を実践

Q:レットのセリフが似合うアニメキャラを脳内再生したら?
光:僕らの年代だったら、「巨人の星」の花形満

バッチリです 私の周りで多い声は、「ガラスの仮面」の速水真澄、「ルパン三世」の石川五ェ門

光:キザな二枚目の男前の感じ

ミッチェルの取り入れた文体っていうのは、結構スタイリッシュで
でも、キャラクター作りにはあえてちょっと既視感がある
そういうのを組み合わせることで新旧の化学反応
バランスがとれて、古びないでいるというところがあるのかなと思います


アシュリーとメラニーは結婚します
スカーレットはそれが気に入らないので、その結婚の前日に
あてつけということでメラニーの兄チャールズと電撃結婚します

そのアシュリーとチャールズは南北戦争に出征する
すぐにチャールズは野営戦で病死してしまいます
その後、妊娠が分かったスカーレットは出産
実は、この時点でもまだアシュリーを諦めていないんです


似た者同士が作る「同質社会」




アシュリーが最初にアタックした時に

「君と僕とではかけ離れすぎてるからうまくいかないんだよ
 僕がどうしてメラニーと結婚するかっていうと
 似た者同士だから、うまくいくから結婚するんだ」と言われる

「似た者同士」というフレーズは、この作品のキーワードになるものだと思います

「似た者同士」という言葉は、レットがスカーレットに愛を告げる時にも登場します

「愛しているよ スカーレット 私たちは似た者同士だからね
 お互い裏切り者だし、身勝手でどうしようもない奴だ
 自分の身さえ安泰安楽であれば、全世界が滅びても屁とも思わない」


当時の南部は「白人富裕層」という似た者同士が結束し
それ以外の人々を虐げる社会でもありました

同質であるがゆえの強さと調和は、一方で
それ以外の人々を犠牲にする「排他性と差別」を生み出します




トランプ「アメリカ合衆国を再び偉大にしよう!」湧く観衆




同質社会の危うさは、今、アメリカで再び姿を現しつつあります
南北戦争時代から続く傾向は絶えていなかったのです

レットとアシュリーは、南部社会の危うさを見抜いていました
アシュリーは、戦地からの手紙にこう書きます

「いつも心には敗戦の恐怖がある
“南部には、戦争するにも、武器は綿花と傲慢さしかない”とバトラーは断言した
 綿花が今や無価値であるなら、彼が傲慢と呼ぶもの以外は残されていない」


似た者同士の四人




この人物の関係でいくと、意外といろんな方向で似た者同士なんですよね
アシュリーとメラニー、スカーレットとバトラーのところは分かりやすい

レットとメラニーのところが分かりにくいが
これもおいおいお話しすることになると思います
ある要素を介して、非常に共通点を持つんです

似てないように思われるスカーレットとメラニーも
実は、物語が進んでいくと、メラニーにも結構黒い、
意地悪な「黒メラニー」が顔を出してきます

レットとアシュリーも相手のことを「似た者同士」と思っている
そういう台詞がバトラーからも出ますし、アシュリーのほうからも
「彼と自分は似てるんだ」というセリフが原作にはある

この中で、どうやっても繋がらないのはひとつだけ スカーレットとアシュリー
ここがあるがゆえに色々な事件を巻き起こしていく

基本的に南部社会というのは、同質のものを好む
同質の者同士が調和と絆を築く社会

しかし、スカーレットという人物は、絶対に同調圧力に屈しない
全体主義とか排他主義も常に冷めた目で見つめている
言ってみればアウトサイダーなんです
このアウトサイダーの目を通して、南部社会、ひいてはアメリカ全体を批評的に描いたのがこの作品


Q:夫亡き後のスカーレットは、どんな暮らしをしていましたか?

南部のしきたりで言えば、静かに喪服を着て暮らしていなければならないんですけれども
これがとにかく面白くない

ある日、慈善事業のパーティーに駆り出されていく
それに綺麗なドレスを着た娘たちがイケメンの将校とおしゃべりをしているからまた気に入らない
ムカムカしながらお手伝いをしている








本当にパーティーに来ちゃったわ それもアトランタ史上最大規模のパーティーに
喜び勇んで出席した慈善バザーのパーティーでしたが
夫をなくしたハミルトン夫人として楽しむことが許されず、スカーレットはふてくされていました

やがて寄付金集めのためにあるイベントが始まります

「ご希望の淑女と踊りたい殿方には入札をお願いする」
「非常識だわ まるで奴隷の競売よ」

次々と声が上がる中、急に目を釣り上げたのはレット・バトラーでした
「金貨で150ドル! ハミルトン夫人だ」








喪中の女性をダンスに誘うという非常識に場が凍りつきます

「夫人は承知なさらんでしょう」
「お受けします」

スカーレットの耳に誰かの声が飛び込んできた
初めはそれが自分自身の声とは気づかなかった

周囲のひんしゅくを買いながらも、ようやく堂々と踊れることになったスカーレットは
喜びを隠しながらレットに言います

「よくも喪中の私にこんな目立つ役をさせますね、バトラー船長」
「では辞退されればよかったのに」

「でも大義のためには仕方ありません
 私、あんな大金を金貨でと言われたら自分の事など考えていられません
 笑うのはおやめ下さい みんながこっちを見てます」

「どのみち見られますよ 大義がどうのこうのとつまらん話で
 私をごまかそうとしても無駄です」


光:
とても面白いシーンなのは、世間にとっては非常識極まりないけれども
スカーレットからすれば、まっすぐなことじゃないですか
一番したいこと 踊りたくてしょうがないから レットも見抜いてる感じでしたね

スカーレットとレットは異端者同士 アウトサイダー同士で
この小説というのは「ピカレスクロマン」「悪漢小説」




スカーレットってやっぱり生き抜くためには手段を選ばないところがありまして
レットも一緒ですね そういう意味で、この二人は最初から合っている
というのが垣間見えるシーンだと思います


Q:150ドルっていうのは大金なんですか、当時で言うと?

今の日本円で約40万円ぐらい
金貨っていうところもちょっと重要で
この頃の南部紙幣は、南部連合国が発行した紙幣で価格が下落しつつあった
戦争がだんだん進むにつれて価値を落としていった
でも金というのは価値がブレませんので、金貨でって言ったところでどよめくわけです


翻訳家として気になったシーン
結構地味で目立たないシーンですが、いざ自分で翻訳しようとしたら
何か言い難い引っかかりを感じるようになったんです

それはレットとメラニーが 初めて言葉を交わす場面

メラニーから夫が戦地にいることなどを聞くと、レットは言いました
「お察しいたします」

バトラーはことさら重々しく答えたが、メラニーのほうを向いて
気遣わしげな彼女の目の奥の奥まで探るような顔になるとにわかに表情が一変し
本人の意に反して、敬いと優しさがその顔に広がった
「なんて気丈な方なんだ、あなたは」


バトラーは、メラニーの目の奥の奥まで探る
初めて言葉を交わす淑女に対して、単に目を見たではなくて
「ボトム(底)」という単語が書かれている

何でそこまでいきなり覗かなくちゃいけないだろうというのが最初の引っかかり
この謎に関しては、今説明するとなかなか分かりにくいので
第4回でじっくり解いていきたいと思います

実際、このシーンの後、徐々にレットとメラニーは友情が育まれていく
私はこのレットとメラニーの友情が大好きなストーリーラインで
かけ離れて見える二人ですが、この二人が一番お互いのいいところを理解していて
最も信頼し合っているような関係になっていくんですね



第2回 アメリカの光と影




開戦から2年経ちました
戦況は、南部連合軍の敗色が濃厚
スカーレット達女性は、現実的な恐怖を感じ始めている

そこでクリスマス休暇をもらったアシュリーが一時帰宅で帰ってくる
メラニーはアトランタでスカーレットも同居中




なかなか二人きりにはなれないけれども、いよいよアシュリーが戦争に帰るという日に
メラニーは悲しみのあまり床に臥せってしまって見送りに来れない
それをいいことにもう一度アタックする


一週間の休暇中 常にメラニーや家族に囲まれて二人きりになることができず
スカーレットはやきもきしていた

再び戦地に向かう直前、ようやくチャンスを得たスカーレットは
溢れる想いを伝えようとしますが、アシュリーは言います

朗読:
「スカーレット 僕に代わってメラニーの面倒を見てくれないか」
メラニーの面倒を!? ひどくがっかりして気持ちが沈んだ
こちらは何か美しくドラマチックな約束をしようと身を乗り出しているというのに
これが別れ際の約束だなんて メラメラと怒りがこみ上げた

それでもアシュリーのために約束をしたスカーレット
しかし、メラニーから妊娠を告げられると激しく動揺する

なんてことなの! こうなったらアシュリーの子を宿した女性となんか
同じ屋根の下に一刻もいられない タラの我が家へ帰ろう スカーレットはそう思った

そこへアシュリーが行方不明となり、北軍の捕虜になったという情報が伝えられる
さらにタラにいる最愛の母エレンが腸チフスになり伏しているという知らせがくる

メラニーなんか捨ててタラに逃げたい
全くメラニーがいるばっかりに! 何度そう思ったかわからない
メラニーの中に赤ん坊さえなければ、一か八かタラへ向かうところだわ
ああ、お母様、お母様 死なないで!

メラニーのお産は大変なことになるとミード先生はおっしゃってたっけ
ああ神様 死んだら どうしよう メラニーが死んだら・・・

メラニーが死んだら? そうしたらアシュリーは私と・・・
いいえ、そんなことを考えてはいけない 恥ずかしいことだわ

でも、そうすればアシュリーは・・・
だからそんなこと考えちゃダメよ 罪深いことだわ
それにお母様の命を助けてくれたなら、きっと良い人間になりますって神様に誓ったんだもの







アトランタに北軍が迫る中、とうとうメラニーは産気付きます
医者に助けを求めますが、街に溢れる負傷者で手一杯だと断られました
スカーレットは、黒人の召使いと二人だけでメラニーの難産を乗り切ります 長男ボーを出産


揺れるスカーレットの思い
光:朗読のリズムも手伝ってなんですけれども、ちょっと可愛らしく見えてきた

ひとつの声を書いたら、そっちのほうにいくのではなく
いやいや違うとまた違う声が出てくる でまた3つめの声が出てくる

「多声的 ポリフォニック」な書き方と言うんですけれども
まさにミッチェルの創作手法って、いろんな声を放り込んでくるんですね

各登場人物が結構「多面性」を持っている
常にこっちに引っ張られたら、逆に引っ張られるということを必ずやるんですね


戦火のアトランタからタラへ
スカーレット達はタラへ逃げてゆく
その大変な逃げるときに現れるのがバトラーです




レットは燃え盛る街で馬車を盗み、スカーレット達を助けてタラへと向かいます
道中、ボロボロになった南軍兵士を見て、二人は南部の敗北を実感します
バトラー「よく見ておくんだ 南部が滅びた夜のことを孫達に話す時のために」

スカーレットは、レットがタラまで一緒だと思っていましたが
「俺は降りる」
「どこへ行くの?」
「軍隊に志願する」

突然、南部連合軍に志願すると言い出し、スカーレットたちを置き去りにするのです

「どうして私にこんな仕打ちができるの? なぜ置き去りにするの?」

「おいおい、よせよスカーレット 君は無力なんかじゃないだろう
 君ほど身勝手で強情っぱりな人間が無力であるはずがない
 万一、ヤンキー(北部軍)が君を捕まえちまったら 神よ彼らを助けたまえ」

レットはスカーレットに熱い口づけをして去っていきました




レットが南部連合軍に志願
Q:今更 連合軍に志願するのはなぜですか?

真相は分からないです 急に愛郷心のようなものが湧き上がってきたのかもしれないし
ただ、みんなここはちょっと唐突に感じると思うんですね

作者ミッチェルの側から考えると、レットにはスカーレットを捨ててもらう必要があった
というのが私の考えです
実は、レットに捨てられてから次章までのパートが最後の最後まで書けなかったらしいですね


ミッチェルの執筆法
最初から順番に書いていっていないんですね
おそらく、ある人物が亡くなるエンディングあたりから、さかのぼるようにして執筆した

このパートで重要なのは、スカーレットが庇護者を2段階で失うということ
まずはレット  これからタラに帰って、さらに大きな喪失が待っています
ですからここは、喪失へのプレリュード(前段階)になる そういう役割があると思います

光:
それは面白いですね どうしても去ってくれなければ困る
何かよく出来た名著って、どこか謎めいていていいじゃないですか
そう思えるぐらい、他のパーツが信頼できるって凄いことだと思うんです

他のパーツが非常にしっかりと組み合っているので
謎めいたところが、よりむしろ魅力に転じるという面はあります


アトランタを逃げ出したスカーレット
死に物狂いでたどり着いたタラは荒れ果てていました




「お母様、私よ!」

出迎えたのは、魂の抜け殻のようになった父親ジェラルド・オハラ
最愛の母は前日に病で亡くなっていた
残された妹や使用人たちも頼りなく、タラを支える重責がスカーレットにのしかかります

畑をあさり、見つけた野菜を貪り食べながらスカーレットはタラに誓います

「神に誓って 神に誓って ヤンキーなんかにイチコロにされるもんですか!
 この地獄を生き抜いて、何とか片が付いたら、もう二度とひもじい思いはしない
 タラのみんなも餓えさせない
 物を盗み、人を殺めることになろうと、神に誓って もう決してひもじい思いはしない!」





スカーレットの自立
ここで2人の庇護者を失うことでスカーレットはようやく
子ども時代、娘時代を抜け出して、自立の第一歩を歩みだすわけです
ですから、ここでまだレットがそばにいると、彼女の自立の決意が完結しませんよね
ですから、ミッチェルとしては、一旦レットに退場して頂いたのかなと思うわけです

タラに着いた翌年に、南部連合軍が投降して終戦
スカーレットは、自分の息子、父親、妹
そしてメラニー親子と一緒にタラで暮らすことになります




南北戦争後の困難と略奪
兵士たちが屋敷に入ってきて、略奪や襲撃に遭う
この時スカーレットは、侵入してきた兵士を一人撃ち殺してしまう
そこで病気や餓えで痩せ細ったメラニーが重いサーベルを抱えて駆けつけてくる
その撃ち殺した兵士のポケットから財布や貴重品を奪おうと言うのもメラニーなんです

朗読:
沈黙の中でメラニーとスカーレットの目が合った
いつも優しいメラニーの顔は、冷酷な誇りで輝き
その微笑みは称賛と裂しい歓喜にあふれており
それはスカーレット自身の胸に渦巻く激情に勝るとも劣らなかった
まあ驚いた メラニーも私と同類なのね!


黒メラニー
スカーレットというのは、エキセントリックで型破りな人物ですが、常識の一線を越えない
何度も「常識」という冷静な手に引き戻されるという表現があるんですけれども
実は、メラニーというのは、ただの聖女ではなくて
狂気との境を越えそうになるところもあり、怖いような覚悟を感じる時があるんです

滅多にそんな殊勝なことを考えないスカーレットも
もしかしたら、私の上をいく人間なんじゃないか
このシーンではメラニーに対してそういうことを考えたのではないかと思います


タラの屋敷には毎日、休息と食事を求める帰還兵たちがやってきました
ある日、近づいてきた一人の兵士を見たメラニーの顔色が急に変わり、走り出します
その兵士は、待ち焦がれたアシュリーでした

兵士が汚れたブロンドのヒゲに覆われた顔を上げ
もう疲れ果てて一歩も進めないというように屋敷を見上げながらピタリと立ち止まると
メアリーは訳の分からない事を叫びながら、汚れきった兵士の腕に身を投げ出し
すると兵士はメアリーの顔に頬を寄せた

アシュリーはしばらくタラに身を寄せることになり、慣れない野良仕事に辛い日々を送ります


300ドルの追徴課税
戦後の混乱に乗じてタラに不当な税金が追徴されます
スカーレットはアシュリーに相談しますが、遠い目で現実を嘆くばかりで頼りになりません
しかし、2人きりで話しているうちに気持ちが高まってきたスカーレット

「私を助ける方法は1つしかないわ」スカーレットはボソッと言った
「ここから連れ出して 幸せをつかむチャンスのあるどこかで新しくやり直すこと
 ここには私たちを引き留めるものなんて何もないでしょう」

「そうだな」 アシュリーは静かに答えた 「何もなくとも名誉の問題がある」

アシュリーに拒まれたスカーレットは泣き出します
初めて彼女の涙を見たアシュリーは、たまらず抱きしめてしまいました
「勇敢で可愛い人 泣かないで あなたが泣いちゃいけないよ」




アシュリーがそうして触れていると、腕の中のスカーレットに変化がおき
抱きしめているほっそりした体に何か狂おしい魔力が生じ
見上げてくる翠色の瞳には熱く柔らかな光が灯り始めた

突如として荒涼たる冬は終わりを告げた
アシュリーの元に春が戻ってきた
忘れかけていた緑葉がふれあいざわめく風薫る春
彼の肉体に若者の欲望が熱く燃えていた屈託のない日々

その後の苦い歳月は剥がれ落ち、彼はこちらに向けられた紅い唇が震えているのを見た
そしてその唇に口付けた


貴公子アシュリーの欲望
清廉潔白で気高い貴公子アシュリーなんですけれども
若い男性としての健全な欲望というのはあるわけで

本当にアシュリーはなかなか辛かったと思うのは
片方では肉食動物のような情熱的なスカーレットが隙あらば迫ってくる
家庭ではどうだったかというと、メラニーがすごく子ども好きで
子作りを迫っていたみたいなんです 露骨には書いてもいませんが

物語の終盤で分かることですが、もう一人子どもを産むと
病弱なメラニーの命が危ないので、医者から夫婦生活を禁じられていた
ということが明かされるんですね

アナ:アシュリーはここではっきり言わなきゃダメなんですよ 名誉とか言っちゃダメです!

逃げてるという言えば逃げてる
名誉とか言うから、またスカーレットは抽象概念が分からない人なので

光:
僕は映画で観ている時に思ったことは、ちょっとアシュリーいい格好しすぎじゃないと思った
あまりダークな部分が出てこないから、ここでアシュリーも人間だったというか

私はアシュリーは、その弱さ故にすごく好きです
大変なラブシーンがありましたよね
スカーレットは結局、アシュリーにフラれてしまう
もう私には何も残されていないと嘆くんです

そうするとアシュリーが「いや、あなたにはまだこのタラの赤土があるじゃないか」
と言って手に握らせるんです そうするとスカーレットがハっと我に返る

スカーレットっていうのは、本当に土とお金を握った時に正気づくんです
自分がどれだけこの赤土の大地を手放しではいけないかということを一瞬にして正気に返る


アメリカ人にとっての土地
この土地への思いは、序盤で出てくる父ジェラルドの言葉とも呼応していると思います

「土地こそがこの世でただ一つの価値を持つものだ
 なぜならこの世で確かに残るものは土地だけだからだ
 時には命までもかけるに値する唯一のものなのだ」


(それで無意味な戦争や紛争が絶えないのか?

アメリカという国は、多くの人たちがルーツをたどると「移民」
土地への愛着、繋がりっていうのをどこかで保っていないと根無し草的なものに陥ってしまう
作品のタイトル自体も、土地への強い思いというものに根ざしているじゃないかと思います

レットに置き去りにされた時に、スカーレットの心の中に浮かんだ言葉
「タラの屋敷は無事だろうか? それともジョージアを席巻した風と共に去ったのだろうか?」

屋敷や畑や人々は、風と共に去ってしまっても、土地だけは残るはずだ

オハラ家はアイルランド系移民
長い苦労の末に自分の土地を手に入れているので
執着、愛着は人一倍あるし、開拓した土が一番大事なんですね

(開拓という名のネイティヴアメリカンの大虐殺だけどね

「読書感想メモリスト3」カテゴリー内『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』(あすなろ書房)参照



南北戦争後の再建時代に学ぶ
もう一つ、「風と共に去りぬ」で描かれているのが戦後再建しようとする
支配者の都合でルールがコロコロ変わるというのが描かれています
そこは、改めて読んでほしい部分

南北戦争を経て「奴隷制」がなくなったことは絶対的に良いこと 正義なわけです
多くの人にとって「ユートピア」が訪れたということになりますが
その反面、行き過ぎると、やはり歪みが出て
統制や管理が行き過ぎると、抑圧される人々が出てくる

この作品に書かれているのは、例えば「政治汚職」の数々
負けた南部は管理、監視社会となり、政治汚職、不正選挙、略式裁判での処刑が横行する

ミッチェルはここで北部を糾弾するとか、南部が悪かったんだとか
そういうことを書きたいんじゃないと思います

少なくとも今の私たちが読むべきなのは、どんな共同体でも、人が集まるところには
こういう「ディストピア」的な社会機構に陥ってしまう危険性というものが
常にあるということを、私たちは今の目で批評的に読むべきだと思うんですね





M.ミッチェル 『風と共に去りぬ』@100分 de 名著(3、4回)


コメント

M.ミッチェル 『風と共に去りぬ』@100分 de 名著(3、4回)

2019-02-12 12:13:20 | 
M.ミッチェル 『風と共に去りぬ』@100分 de 名著(1、2回)

第3回 運命に立ち向かう女
人を裏切ること、色仕掛けも厭わないスカーレット
それでも読者に愛されるのは、著者ミッチェルの巧みな戦略があるからでした
第3回は、ミッチェルの斬新な文体で描かれた、
たくましく生き抜くスカーレットの魅力に迫ります

アナ:スカーレットのことはどう思われてますか?
光:魅力的な人ですね 近くにいたらどう思うかわからないけど 主人公としてはとても惹かれる

スカーレットは、性格はどっちかと言うとちょっと悪めで強め
作中の友達や年上の女性達には総スカンなのに、不思議と読者には嫌われない





南北戦争が終わりまして、スカーレットとその家族 アシュリー一家
この他にも使用人たちが一緒に暮らしていました
スカーレットは、この中でリーダー的な存在ですが、ある理由から苦しんでいるんです

北軍中心の軍政下に入っており、重い税金がタラにかけられて
払えないと、土地が競売にかけられて人手に渡ってしまう

なので必死で方策を考える そこで思い出すのが レット・バトラー


朗読:
あの人と結婚しよう そうすれば二度とお金のことで悩まずに済む
あの男が獄中にいるうちになんとか結婚できれば、その何百万ドルというお金が私のものになる
いざ彼が処刑されたら、お金は私一人のものになるんだわ

スカーレットはカーテンでドレスを作り、アトランタで投獄されているレットの面会に行きます
(このカーテンのアイデアもすごいと思った 素晴らしいドレスを作っちゃう/驚





優雅な暮らしをしているフリをして、レットを誘惑するスカーレットでしたが
荒れた手のひらを見たレットは彼女の嘘を見破りました

「優雅な暮らしをしているだと? この手は何だ? これは小作人の手だ 一体何を企んでる?」
「意地悪な言い方しないでレット」 スカーレットは甘い声を出した

「その通りよ いくらかお金が入り用なの 300ドルほど貸していただきたいのよ」
「ようやく本心を見せたな 愛を語りながら金の算段か 女の本性ってやつだな
 そんなに切羽詰まっているのか?」

結局レットからお金を借りることはできず、ふてくされてアトランタの街を歩いていると
妹スエレンの婚約者フランク・ケネディとばったり出会います
戦後開業した店が繁盛している様子でした




「規模は小さいんですが、頑張ってますよ」
「業績は?」
「おかげでなんとか 僕は商才があるようで」

スカーレットは、フランクのお金が妹のものになることが許せません

その時突如として、ある決意がスカーレットの心に芽生えた
フランクも、彼の店も、製材所もスエレンに渡してなるものか
スエレンには分不相応よ 私が手に入れてみせる
レットには期待を裏切られたけれど、神はこうしてフランクを与えたもうた
彼がスエレンの婚約者であろうと良心の呵責は全くなかった

アトランタのレットのもとへやってきた時点でモラルはすっかり崩壊しているから
妹の許嫁を略奪するくらい些細なことにしか思えない
今となっては思い悩むほどもないことだ


性悪ヒロインの嫌われない理由
スカーレットが嫌われない理由は色々あるかもしれませんが
私は一番は、マーガレット・ミッチェルの作った文体にあると思います

ミッチェルはこの小説の中で、大体スカーレットに共感しながら
突然「何言うてんねん!」っていうツッコミを入れるんですね

辛辣なコメントであったり、いかにスカーレットが意地悪であるかっていうのを
すっぱ抜くような描写をするんです
私はミッチェルの「ボケとツッコミ文体」と呼んでるんですけれども

今、朗読でご紹介したところで見てみますと
スカーレットの裏の声の所はボケ、語り手のところがツッコミ
乗せといて突っ込む「ノリツッコミ」のパターンの一つ


19世紀半ばまでの文学との違い
19世紀までの話法っていうのは、語り手がちょっと高い所にいて
神様の視点で、例えばこの場合では

“スカーレット・オハラは、顔では健気な顔をしていたけれども
 内心はしめしめと思っていたのである 貞淑なレディーとしていかがなものだろうか”

みたいな感じで、作者が説明してくれるわけです

ミッチェルが選んだ文体、話法というのは、スカーレットの中に自ら入り込んじゃって
彼女の思考をなぞるようにして物語る

読者としては、スカーレットと一体化して、ジェットコースターに乗ってるように
波乱万丈の物語を楽しめる一方、語り手のツッコミでちょっとカタルシスを得て溜飲が下がる

さらに、語り手からのツッコミだけではなくて
スカーレットの中で「一人漫才」みたいになっているシーンもある
これはこの作品の真骨頂だと思います

フランクから商売の自慢話を聞くシーン
スカーレットの表と裏の声が交互に登場します

「お店を開いていらっしゃるの? やっぱりできる方は違うわ」

「店を一つ持ってましてね 我ながら実に気の利いた店だと思いますよ」

うぬぼれ屋のバカ親父め と心の中で毒づいた

「あなたなら何を手がけても成功なさるでしょう、ケネディさん!
 それにしても一体どうやってお店なんて開けたのでしょう?」

フランクはゴホンと咳払いをすると、顎鬚を手でいじりながら
なんだかおどおどと緊張した笑みを浮かべた

「まあ話せば長くなるんですがね、スカーレットさん」

よかった これで家に着くまで話は持ちそうだわ
スカーレットは心の内でそう呟き、実際にはこう言った「まあ是非伺いたいわ!」


ボケとツッコミ文体の妙技
ちなみに、今回朗読していたいただいた龍真咲さんが出演なさった
宝塚版の「風と共に去りぬ」は、裏スカーレットと表スカーレットが
2人の役者さんが演るという演出があるんです




宝塚版のボケとツッコミ、ユーモアとアイロニー(皮肉)が
原作の真髄に迫っているという演出と思うくらい天下一だなと思って

光:
僕は落語的に感じる
相当能力がいるのは、例えば落語でいうと
右を向いてこの声出してる時は隠居
左を向いてこの声を出している時は女将さんてやるじゃないですか
これを書き分けるのは技術がいるし、読み分けるのもある程度の技術がいる

だからこの話法はすごく生き生きとした効果が出せる反面、少し危険なところもある
地の文にも、登場人物の声や視点が溶け込んでいるために
語り手の声なのか、登場人物の言ってることなのか混同する読者も出てしまう


最先端の文体がもたらす誤解
例えば、歴史も政治もよくわかってないスカーレットが
「この白人の成り上がりめ」とか「黒人の娘め」みたいな暴言を吐くシーンがあります

これは、ミッチェルさんがスカーレットの口真似をしているわけです
暴言を吐くヒロインというのを揶揄的に切り取って提示している
批評的に描き出してるんですけれども、ミッチェルさんが差別主義者である
というように受け取られることは、どうしても出てきてしまいます


起業家スカーレットの才能開花
スカーレットはフランクと結婚し、フランクにお金を出させて、タラ農園をなんとか救いました
さらに、レットから資金を借りて、今度は製材所を買い取ります それが大当たりした
彼女は本当にビジネスの才能がある いわゆる今で言うと起業家

何が強いかというと「数学脳」なんです 数学に強い
3桁以上の足し算も暗算で、その場で見積もりを出して顧客を獲得

ライバルの会社がいるところに「いや、うちだったらこれでいけますけど いかがですか?」
っていうこともやって、どんどん顧客を獲得していく

それを見たフランクが、自分より全然この人有能じゃない?と気づいて
こんなふうにこぼすようになる

“結婚前にはスカーレットと仕事の話をするのがあんなに好きだったのに
 その分、今では嫌気がさしていた(中略)”

女に頭脳があると知ってひどく幻滅するというのも男にありがちなことだった


光:
今っぽい描写だよな
今まさに問題になってるというか、みんなが気づき始めたところですよね

最近の言葉で「マンスプレイニング」男性が女性に上から目線でものを教えたがる好意




この言葉がちょっと流行っていますね 説教したがる男たち
フランクさんは、典型的な「マンスプレイニング」の方ですね

光:
ちょっと自分の中にある「マンスプレイニング」的な所が分かるのは
僕らゲーム大好きだから、ゲームに興味を持ってくれた女の子に教えたい
でもその子は飲み込みが早くて、自分より上手くなるとちょっとイヤ


その後、フランクとの間に娘エラを設けますが
産後すぐに仕事に戻ってバリバリ働きます

そんなある日、一人で馬車をかってスラム街を通った時に男たちに襲われました
これが大きな事件に繋がっていく

報復のためにアシュリーを隊長とするKKKは、スラム街に討ち入りを計画する
その情報が事前に漏れて、返り討ちにあったアシュリーたちを辛くもレットが救う


アシュリーがKKK?!




光:KKKのリーダーがアシュリーっていうのは、ちょっとすごいですね

KKKっていうのは、元々南北戦争後の再建時代に
旧南部軍士官を中心に結成されて、黒人の暴走を抑制するために始まったという組織
元南部軍将校であったアシュリーがこのKKKに加入したというのは
歴史的に見て不思議なことではないです

KKKを描いたことでミッチェルは、しばしば差別主義者だと批判されたこともあるが
本当に重要なので聞いていただきたいのは、作品中に何かを描くことと
それに賛同するということは全く別次元の問題だと思うんですね

KKKについても、作品を通して、スカーレットもレットも
こういうことをするのは逆効果だというのを繰り返して言ってます 批判している

討ち入りの場面は、本作の中で最もシリアスな題材を扱っているんですが
書くタッチとしては一番コミカルなんです 最もシリアスにしてコミカルなパート
すごくデリケートなパートです


クラン団の討ち入りと猿芝居
アシュリーやフランクたちクラン団によるスラム街襲撃は返り討ちにあう
現場で取り逃がしたアシュリー等を逮捕しようと
憲兵隊がメラニーやスカーレットが待つ家にやってきました
何も知らないとシラを切るメラニー






そこへベロベロに酔っ払って見えるアシュリーが、レットに介抱されながら帰ってきました
アシュリーたちを逮捕するという憲兵隊にメラニーは言います

「逮捕ですって? 何の罪で 酔っ払いの罪ですか?
 構いませんからうちの人を運び込んでちょうだい、バトラー船長
 そういうあなたも歩ければの話ですけれど」

スカーレットは、怖いわ、訳が分からないわでメラニーのほうをチラッと見てから
今度は倒れ込みそうなアシュリーを見て、ようやく事情が飲み込めてきた
分かった 今見ているこれはお芝居なんだわ 命がけで死に物狂いの芝居をうっているのよ

アシュリーたちを助けるために、レットは一晩中一緒に飲んでいたとアリバイを主張します
憲兵隊トムがどこにいたのかと尋ねると、レットは答えます

「ベル・ワトリングの、その、色宿
 まあ、町の男性陣が勢ぞろいでパーティーをやったんです」

「ベル・ワトリングの店ですって?!」
メラニーの声は上ずってひっくり返り、その悲痛な声音にみんなぎょっとして彼女を見た
メラニーは胸元を掴むと、アーチーが支えるまもなくパタリと気絶してしまった
そこからは上を下への大騒ぎになった

「すぐにも街中に知れ渡るぜ」レットが吐き捨てるように言った
「これで満足だろうな、トム 明日にはアトランタ中の女性がこの旦那と口を利かなくなる」

フランクは、討ち入りの際に頭を撃たれて死亡してしまいます


起伏をつけるためにKKKの討ち入りを採用
ミッチェルがこのバージョンを書く前に
フランクは穏やかに病死するっていうバージョンもあったが
読み返してみたら、なんだか中だるみがあるから
何かを入れたいんだけど、フランクの病死だとあまり起伏がつかない
最終的にこのクランのパートを入れた
結局、彼女はここで風刺、パロディのような形でKKKを取り入れるという手口を選んだのかなと思うんです

光:
コントとしての討ち入りにKKKを使っている
襲われたかみさんの敵討ちに行くぞ!てなっているのがうまくいかない
その上に最終的な落ち着き方が酔っ払いコントで終わるっていう
それはある意味、例えばKKKにすごい思い入れのある人は
カッコいいシーンを期待したとしてもカッコよくない 最終的にそれで敵討ちは済んでない

最高にカッコ悪い結末なわけです それが皮肉にもなってるし


メラニー 機転と演技力で憲兵隊に対応
アナ:私が読んだ時、ここで面白いなと思ったのは、やっぱりメラニーのほうが頭が切れる!
光:メラニーは肝が座っていますね

演技力が高い だってこれ全部「インプロビゼーション(即興)」ですよね
とにかく何か起きた時に頼れるのはメラニーなんです

アナ:
スカーレットがしっかりしている時は、メラニーはおっとりしている感じの時もありますよね

スカーレットとメラニーは、二人で一人のキャラクター「補完的関係」
どっちかがピンチになると、どっちかが強くなる、支えるというような補完的な関係にある


2人の対照関係は、実は名前にも暗示されている




スカーレットは緋色 赤のイメージ
メラニーは、語源をたどると、ギリシャ語で「黒い」「暗い」を表すメラニアと繋がる
メラニン色素なんて言いますけど
聖女のように描かれているメラニーが黒って意外ですよね

メラニーって確かに聖女なんですが、非常に多面的な複雑なキャラクターですので
時には、相手の一番痛いところをわざと突くような意地悪なところもあります
「黒メラニー」が彼女の中に棲んでるんです

そのメラニーを堪能できるシーンがあります
メラニーの家に昔なじみの女性達が集っていた時のこと
噂話の標的は、やりたい放題のスカーレットでした

アシュリーの妹インディアは、かつて恋人を取られたことがあり、スカーレットを嫌っていました
インディアは、フランクの死はスカーレットのせいであること
そして、レットと浮気をしていたはずだと吹聴します
それを聞いたメラニーは、頬を赤らめ怒りに震えます




「嫉妬に駆られて何を言うつもりです 恥を知りなさい」
「言ったことは撤回しません」インディアはもう一度言った

「だったらもううちでの同居は解消したほうがお互いのためでしょうね」
彼女にしては温かみのない言葉だった

スカーレットの製材所に息子のヒューが勤めているエルシング夫人にはこう言い放ちます

「あなたは根に持っているんでしょう 製材所を運営する才覚がないヒューを
 彼女が御者に降格したことを」

「メリー!」

夫人たちは戦いて一斉に呻いた

「お知らせしておきます どちら様もスカーレットのお宅に行かないという方は
 我が家への訪問も金輪際ご遠慮いただきます」


光:
このシーンはメラニーの強さもそうですが
メラニーのスカーレットに対する愛情
もっと言うと、スカーレットに対する愛情が頂点に達するとメラニーは怖くなる


メラニーの原動力はスカーレットへの愛情
とにかくスカーレットを守るためだったら命を投げ出すというようなところがありますね
メラニーはアシュリーの事をもちろんものすごく愛しているんですけれども
またそれとは違ったタイプの愛情でスカーレットを支え続ける
私はこれは、実は「恋愛小説」ではなくて「女性同士の複雑な友情」を主題にしてみると面白い作品だと思う

光:女っぽいか男っぽいかに分ける時に、おそらく二人とも“人間っぽい”っていう感じ

どちらも男女両面持ってるし、人間として魅力的だということだと思うんです



第4回 すれ違う愛
別れ際に気付いたメラニーとの友情 彼女の言葉でスカーレットは本当の愛に目覚めます
第4回は、スカーレットのたどり着いた結末から、自分の心に気づく難しさを読み解きます

前回までは、二度目の夫をなくして、再びスカーレットが独身になるところまで読みました
この段階でもスカーレットはまだ23歳! 若いですね

フランクの葬儀が営まれている時、突然弔問にやってきたレット・バトラーが
ついにスカーレットにプロポーズします

レットは最初からスカーレットに惚れ込んで、愛して、支えてきたわけですが
スカーレットが事業家として経済力を手に入れたので、もう頼ってきてくれないだろうと
これは結婚するしか彼女のそばにいる術はないだろうと いよいよ結婚に踏み切る





プロポーズをいつもの冗談だと思い、軽くやり過ごそうとしたスカーレットにレットは言いました
「これは誠心誠意の高潔なる求婚だ」

レットの本気に気づき、スカーレットは小娘のように顔を赤らめて答えます
「私、もう結婚するつもりはないの だってレット あなたのこと愛していないもの」

しかし、レットは言います
「だからといって何の不都合がある 前に2回の結婚計画でも愛が重要だった記憶はないが」(笑

実のところ、もう結婚したくないのは、アシュリーのためだった
アシュリーとタラ 私はこの二つのものに属している
そんな夢想をするうちに、本人の気づかないうちに顔つきが変わり
レットの見たことのない柔らかさが表情に表れていた

スカーレットの表情が変化した理由が分かったレットは、一瞬息を飲んでから悪態をつきます
「スカーレット・オハラ 君はばか者だな」 レットはスカーレットの顔を反らせて口づけた

「結婚すると言ってくれ イエスと言うんだ クソ、さもないと・・・」
考える間もなくかすれる声で「イエス」と答えていた


成熟しないスカーレットの性
仮にも2度結婚を経験しているわけじゃないですか
そういう大人の女性の成熟さとはちょっと思えないところがありまして

スカーレットは、実社会のサバイバーとかビジネスパーソンとしては
ものすごくたくましく成長していきます
一方、恋愛とかエロスの面に関しては、16歳の少女のような未熟さ

この小説は「世紀の恋愛小説」とか言われるわけです
だけど実は「世紀の恋愛オンチ」な話っていうのが、もしかしたら正しいかもしれなくて


裕福なレットとスカーレットは結婚しました
二人の間にはボニーという娘が生まれる


レットは娘ボニーを溺愛し子煩悩に
めちゃめちゃイクメンになります
レットは「あと何人できてもいいよ」というようなことを言っているんですが
スカーレットは、自分のすごい細いウエストを愛してますから
まず体型が崩れることが嫌なのと、アシュリーへの思いから子作りを拒否する
この期に及んでアシュリーへの操を立てるような形で、寝室を別にするという
「家庭内別居」の状態に入ります




すれ違うスカーレットとレット
さらに、そんな時にスカーレットはアシュリーと抱き合ってしまう

職場である製材所で抱擁






恋愛の抱擁というよりは、戦友同士としての抱擁と書かれています
が、こういう時に限って、アシュリーの妹インディアたちに目撃されてしまい
これがアトランタの街を巻き込んだ大騒動に発展します

スカーレットとアシュリーの抱擁は、インディアに目撃され
すぐにアトランタ中の噂となりました

「酔ってるのね」
「酔ってるさ 嫉妬! そうだ妬いている」



「お前は奴を夢見て俺を締め出してきた 今日はそうはさせん!」
レットは嫉妬で泥酔し、スカーレットを無理やり寝室に連れて行きました

そしてスカーレットは妊娠します
(ある意味、夫婦間のレイプだな 今考えると




「また生まれるの」 それを聞いたレットは冷ややかに言いました
「そうか それで父親は?」
「あなたの子どもなんて 別の人なら良かったわ!」
「流産を祈るさ」

怒りのあまりレットに飛びかかったスカーレットは階段を転げ落ち
レットの言葉通り流産してしまいます

ショックを受けたレットは酒浸りとなり、メラニーが慰めにくると
スカーレットにぶつけた言葉を後悔し、泣きじゃくりました




「私は犬畜生にも劣る人間だ どうしてあんなことをしたかあなたに分かるか?
 嫉妬に狂っていたからだ
 私は今も愛されていないし、愛されたことなどないんだ なぜなら彼女が愛しているのは・・・」

メラニーは血の気のない張り詰めた顔をしていたが
哀れみに満ちた眼差しは揺るぎなくレットの言葉を優しく打ち消していた

「はいはい、あなたの言うことなんて信じませんよ」
メラニーはあやすように言って、レットの髪の毛をまた撫で始めた


レットとメラニーの絆
レットは嫌われ者のアウトロー
かたやメラニーは社会の本流のど真ん中にいて、社交界をまとめているような貴婦人

だけど、その二人が最も強い絆で結ばれて信頼しあう
この関係を描くということは、南部の同質社会に抗う
一種のアンチテーゼが示されているのではないかと私は感じています

レットとメラニーが二人きりになるシーンは、この作品に2回あります
1つ目はスカーレットが流産した後 2度目は娘ボニーが亡くなった直後

落馬事故なんですけれども
ボニーってちょっとスカーレット人に似て勝気な女の子なんですね
だんだん障害物のハードルをあげていって
飛べないのに「もっと高くして」って言って
そこで飛んだら、飛び切れずに落馬して即死の状態

さすがに愛娘を失った時点でレットは錯乱状態に陥って
娘の亡骸を自分の寝室に置いたまま葬儀を行わせないように拒否する

そういう時に、スカーレットの召使いから説得を頼まれてメラニーがレットの部屋に入る
すぐにドアが開いて、その後ドアが閉まってから数十分間の描写がない
さらにメラニーはこの晩、ボニーの夜伽のためにバトラーの部屋に泊まる

病弱のメラニーは、医者から妊娠を禁じられていた
メラニーはそれまで体が弱いために夫婦生活を止められていた
この次の次の章でメラニーの妊娠が発覚する
どうして?!ってことになるじゃないですか

レットの子ども?と多くの読者が考えて、今の言葉で言う「炎上」になった
全米から「メラニーのお腹の子の父親はレットでは?」という手紙が殺到した

苦情というか、質問のお便りが殺到して
「ミッチェルさん答えてください この二人には何かあったんですか、なかったんですか?!」
とものすごい炎上してしまった

ミッチェルは直接的には答えていないですが
「メラニーなら寝室のドアを開けておいたんじゃないかしら」
ていう答えをしていますのでやましいことはないと


メラニーはなぜ妊娠したのか?
これはちょっと邪推ですけれども、いくら貴公子アシュリーといえども
人間らしいジェラシーがあったのではないかと思うんです

つまり、一晩レットの部屋に泊まってきた妻
何もないと信じたいけれども、やはりそこは人間なので
何かアシュリーの心の動きが引き金となったのではないかという推測は成り立つ

メラニーは妊娠2ヶ月で流産し、危篤状態になる


永遠の別れ 結ばれる友情




しきりとスカーレットの名を呼ぶメラニー
駆けつけたスカーレットと最後の言葉を交わします
メラニーは息子ボーを託した後に言いました

「アシュリーのことも・・・だってアシュリーとあなたは」
そう消え入るように言って静かになった

死にゆくメラニーを前に、自責の念が芽生えたスカーレット
メラニーはアシュリーの関係を知っていたのではと怯え、布団に突っ伏し嗚咽します

「アシュリーのこと」 メラニーがまたかすれ声で言ったので、スカーレットは覚悟を決めた

最後の審判が下る日、神様の顔を見て、その眼に判決を読み取ることがあっても
これより恐ろしくはないだろう
魂の縮み上がる思いで、スカーレットは顔を上げた
しかし目の前にあったのは、いつもの愛情深いメラニーの瞳でした

ありがとうございます神様 私はご好意に値しない人間なのに
メラニーに知らせないでいてくださり感謝します

「アシュリーがどうしたの、メリー?」
「彼のことも面倒見てくれる?」

「ええ、 もちろんよ」
「あの人は風邪をとてもひきやすいの それから事業のほうも面倒見てあげて 分かるでしょう?」
「ええ、分かるわ、心配しないで」

メラニーは力を振り絞って続けた
「アシュリーは実務に向かないの 助けてあげてね、スカーレット でも 彼に悟られてはダメよ」

「ええ、アシュリーのことも、彼の事業のことも面倒見るし、気づかれないようにする
 なんなら助言する程度にしておく」

これによって、アシュリー・ウィルクスを過酷な世の中から守る務めが
一人の女性からもう一人の女性に委ねられ
それを彼に悟られて男のプライドを傷つけないことが約束された



訳してて涙が止まらなかったです
ここで女性同士の友情という主題がぐっと浮上してくる


メラニーは本当に知らなかったか

アナ:1つしっくりこないのは、あの鋭いメラニーが気づいていなかっただろうか?

光:
僕の仮説は、アシュリーのことを好きなんじゃないかな
自分の一番好きな人が誰のことを好きでもいい

スカーレットは、何でも自分の都合のいいように解釈する人ですから
本当は知っていたかもしれないんじゃないの、と読者は思うかもしれませんけれども

もしこれがスカーレットの調子のいい勘違いなら、著者のツッコミが入るはず
だから、テキスト上はメラニーは知らなかったと解釈せざるを得ない
けれども人物造形の点からちょっと腑に落ちないわけです


ミッチェルはエンディングあたりからさかのぼるようにして執筆した
この疑問に答えるために、ミッチェルの執筆順序っていうのを見てみたい
おそらく今の臨終の場面を一番最初に書き始めたのではないかと言われています

亡くなるメラニーの像というのは、いわばミッチェルが理想としている真っ白な聖女
ところが、物語が遡るに従って、様々なことを逆回転で体験していくうちに
どんどん複雑化していったのではないかと私は見ている

メラニーは、アシュリーとスカーレットの関係を知っていたのかということの答えは
彼女は何も知らないと同時に、すべてを知っていた
黒のヒロインだった、というのが翻訳者としての私の見解です

アナ:
ここで伺いたいのが、第1回の時に、
レットが初対面でメラニーの目の奥の奥まで覗き込み、ハっとした理由
あそこにちょっと違和感があった あの推理は何だったんですか?

初対面に近いメラニーの目をいきなり奥の奥まで覗き込んでしまったっていうのは
レット・バトラーというよりは、むしろ、長い長い物語を書いてきた
作者ミッチェルだったのではないかという風に私は感じている

自分はなんて複雑なキャラクターを作ってしまったんだろうという風に
ハッとしたのはレットではなく、ミッチェル自身だったのではないか


物語はいよいよエンディング
メラニーとの別れで、スカーレットは大事なことに気づきます

メラニーの最期が近づく中、アシュリーは恐怖に怯えていました
「僕はどうしたらいいんだ 僕は彼女なしでは生きてはいけない」



(よく考えると、アシュリーはレットとメラニーの嫉妬で妊娠させたならば
 レットがスカーレットにしたことと同じだよね 妊娠させて流産させた
 それで体の弱いメラニーが死に瀕しているのに
 自分の心配だけしているアシュリーってどうなの?
 これを熱い恋愛小説としてドキドキしながら読んでいた昔の自分と
 今の自分の解釈がズレてきたことに、我ながら驚いている


打ちひしがれるアシュリーを見て、彼に愛されたことなどなかったと気づいたスカーレット
しかし、不思議と傷つきませんでした


アシュリーに愛されていないのに、私平気なんだ
傷つかないのは、私も彼を愛していないから
愛していないから、彼が何をしても、何を言っても傷つかないんだわ

そして最後に、メラニーが言ったことを思い出します
「バトラー船長のこと 優しくしてあげてね あの人は、あなたをとても愛しているのよ」

私も彼を愛してる スカーレットはそう思い
例によって子どもがプレゼントをもらうようにさしたる驚きもなく、その事実を受け入れた


本当に愛していたのはレットだったとようやく気づいたスカーレットは走って家に帰ります
しかし、そこにいたのは45歳の疲れ果てた男でした

私の愛は擦り切れてしまったんだ
 アシュリー・ウィルクスと、欲しいものには何でも
 ブルドッグみたいにかじりつく、君の気違いじみた強情ぶりを相手にするうちにね
 私はもうここを出ていくつもりなんだ」

スカーレットは愛を訴えますが、レットの決意は変わりませんでした
悲しみに打ちひしがれるスカーレット
それでも何とか立ち直るために、口癖を唱えるのです

「今は考えるのはよそう」 スカーレットはうなだれつつ、いつもの呪文を唱えた
「今は 考えないことにしよう そうだ 明日タラへ帰ろう」
そう口にすると、気持ちがわずかに上向いた

「とりあえず何でも明日タラで考えればいいのよ 明日になれば耐えられる
 明日になればレットを取り戻す方法だって思いつく
 だって明日は今日とは別の日だから」


幕を閉じる言葉

「Tomorrow is another day 明日は今日とは別の日だから」


名台詞ですよね これは本文中で何度も繰り返されるスカーレットの口癖なんです
絶体絶命のピンチに陥るたびに、これを唱えて、おまじないみたいな言葉
口癖ですから、普通の言葉で訳しました

光:
名言として残そうとするような重さのものでは絶対、性質上ないでしょう ということですもんね


以前、高校生に翻訳を教えるというクラスで
このセリフの翻訳に挑戦してもらったことがあるんですけれども
そこである生徒が訳したのは「とりあえず寝よう」って訳して
結構センスある名訳だねって、私達言ったんですけどw


アナ:
主要登場人物は4人でしたけれども、伊集院さんはこの中で言うと
映画で抱いてた印象と一番変わったのは誰でしたか?

光:
スカーレットとメラニーは、両方とも
スカーレットは型にはまらない人で、それは小説のほうがよく出ていて
メラニーはある意味、ちょっと恐れる


メラニーは一番怖いです、この中で
バトラーがメラニーの目を見た時に表情が変わったというのは、彼女のポテンシャル
メラニーの中に「宇宙」を見たからだと思う
とてもじゃないけど自分には理解しきれないかもしれないという


***

年末に久しぶりに「風と共に去りぬ」がテレビで放送されて予録した
この番組を見た後で、久々観返したら、だいぶ印象が変わるかな

でも、映画はやっぱりラヴストーリーとしてドキドキするよう描かれている
ハリウッド式の演出でも、それはそれで楽しめる

学生時代に読んだ長編小説は、感想メモがほとんど残ってないのが残念
またもう一度読みたいと思うけれども、なかなかしんどい

昔はどんな分厚い本でも読んでいたが、今ではとても無理
名作シリーズと称して「嵐が丘」「若草物語」いろいろ読んだことを思い出した

もし読むなら、今回のような新訳の単行本ではなく
昔自分が読んだような古書で読みたい
確か1冊か上下巻のハードカバーだった気がする 字が相当小さいんだろうな


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