学生の時に映画を観てから、ずっと大好きな作品
原作も当時夢中で読んだが、記憶は遠い彼方
今回改めて、映画のシーンとともに、翻訳者の視点で掘り下げていて
全4回ともとても面白く見た
【ブログ内関連記事】
・心の中のベストフィルム~『風と共に去りぬ』(1939)
・「星の王子さま」@100分 de 名著 for ティーンズ 第1回
・「ソラリス」スタニスワフ・レム著@100分 de 名著
・『歎異抄』 @100分 de 名著(全4回)
出演:
伊集院光
安部みちこ
翻訳家 鴻巣友季子:2015年に「風と共に去りぬ」の新訳を手がけた
朗読:龍真咲
■第1回 一筋縄ではいかない物語
名作映画『風と共に去りぬ』
南部の大農園に生まれた ヒロイン スカーレット・オハラは、多くの観客の心をつかみました
描かれたのは「黒人奴隷制度」などを巡って、アメリカが北と南に分かれて戦った「南北戦争」の時代です
原作小説の刊行は1936年
著者マーガレット・ミッチェルが目指したのは、全く新しい南部像を作ることでした
アウトサイダーの目を通して南部社会アメリカを全体を批評的に描いたのがこの作品
映画を観ただけでは分からない原作のメッセージを改めて掘り起こします
数々の名作を翻訳してきた鴻巣さんが、現代にも通じる新たな視点から文学的魅力を読み解きます
基本情報
著者マーガレット・ミッチェルは、アメリカ南部の出身
30代半ばの 1936年に刊行して、すぐに大ベストセラーになり、ピュリッツァー賞を受賞
1939年 映画化されて大ヒット
ベストセラーとなった時代背景
この小説がベストセラーになった要因っていうのが、時代背景だと思うんですけれども
19世紀の終わりぐらいから「大不況」がずっと続いていて
だんだん社会不安とか、鬱屈、鬱憤が蓄積しているところに
KKKという差別的な集団の活動が再活発化したこともあって
この時代の読者というのは、南北時代、戦後の混乱期を書いた今作は他人事ではなかった
「KKK」
クー・クラックス・クラン 南北戦争後に生まれた「白人優先主義」秘密結社
20世紀初頭に再建され活発化
光:今の日本にもちょっと当てはまりそうな
これはいわゆる 過去を振り返るノスタルジー小説ではなく、私たちのことが書かれている小説です
物語の設定
(このヴィヴィアン・リーの写真大好き
物語の舞台は、アメリカ南部ジョージア州
南北戦争における南軍で大きな戦場となった州です
主人公は、スカーレット・オハラ
ヴィヴィアン・リーが演じたこのイメージが強烈だと思うんですけれども
原作のミッチェルが描いたスカーレットはだいぶ違う
この小説の冒頭は、こう始まります
“スカーレット・オハラは実のところ美人ではなかったが”
これが第一行目に書いてあるんですけれども、 みんな忘れてしまうんですね
この後に、結構細かい描写が続いています
背が低め、ちょっとつり目、エラが張っている、首は短い、バストは並外れて大きい
この描写をもとにモンタージュを作っていただいたので こんな感じと思われます
(そんなに大きく外れていないのでは?
正統派美人ではないけれども、ものすごく魅力的で
実際、16歳のスカーレットはモテモテなんです
光:
そこも多分ものすごく意味を持たせていると思うんですね
美人じゃない、と書き出してる人が、生き生きとして
モテモテだっていうのは、じゃあ何なの? ていうところに説得力が出てくる
原作では、他にも映画とかなり違うところがある
映画に登場するタラの豪邸は、ミッチェルのイメージとは違っていた
(この屋敷からリーが駆け出してくるシーンがとても好き
玄関の所に立派な支柱が立ってるような豪邸が映画で出てくる
ミッチェルが本当に描きたかったのは、まだ開拓も進んでいないジョージア北部の
田舎くさい、垢抜けない暮らしです
朗読は、宝塚でスカーレット役を演じたことがある龍真咲さんです
1861年 あのまばゆい4月の午後
タールトン家の双子ブレントとスチュアートを侍らせ
父が経営するプランテーション、タラ農園のポーチの
涼しい日陰に腰を下ろすスカーレットの姿は、美しい一幅の絵のようだった
裕福な家庭で何不自由なく育ってきたスカーレット・オハラ
狙った男性を虜にする術を心得ており、街中の男が彼女に夢中でした
しかし、スカーレットには本命がいました
芸術や文学を愛する貴公子アシュリー・ウィルクス
(私もアシュリー派
自信家のスカーレットは、彼と結ばれる事を疑っていませんでした
そんなスカーレットの耳にカールトン家の双子は信じられないニュースを届けます
「ウィルクス家の舞踏会で婚約発表があるらしい アシュリーとメラニーの婚約さ」
表情も変えず聞いていたスカーレットでしたが、内面では嵐が吹き荒れていました
アシュリーがメラニー・ハミルトンと結婚するですって?!
アシュリーが彼女を好きだなんて絶対に絶対にありえない
だいたいメラニーみたいな冴えないチンチクリンを好きになる男性なんているものですか
そうアシュリーがメラニーを好きなわけがない
だってあの人は、ええ間違いようがない 私に恋をしているんだもの
この私、すなわちスカーレット・オハラがアシュリーの想い人よ そうですとも
そして訪れた婚約パーティーの日
スカーレットは、自分から告白すればアシュリーの気が変わるはずと書斎で二人きりになります
「これまで秘密にしていたことよ 私あなたを愛しているわ」
ところが、アシュリーの答えは
「そんなことを言うものじゃないよ スカーレット 僕はメラニーと結婚するんだ」
メラニーのことを思うと、あの遠くを見るような穏やかな鳶色の瞳や
黒いレースのミトンをつけた楚々とした小さな手や
口もきかずおとなしくしている姿などがふいに浮かんできた
すると出し抜けに怒りが爆発した
「言ったらどうなのよ この臆病者! 私と結婚するのが怖いって」
スカーレットは、アシュリーを平手打ちにします
それでも怒りは収まらず、陶器を掴み、暖炉に投げつけると
ソファーの奥から一人の男が起き上がりました
スキャンダラスな社交界ののけ者レット・バトラーです
「何もそこまでしなくたって
あんなやり取りを聞かされて、昼寝を邪魔されただけでも迷惑なのに
命の危険にまでさらされるとは、あんまりな」
本物だ 幽霊じゃない しかし何ということ 今の会話を洗いざらい聞かれてしまった
スカーレットは、あらん限りの力をかき集めて体面を保とうとした
「そこにいらしたのならお知らせいただくべきでした」
真っ白な歯がキラリと光り、無遠慮な黒い瞳は彼女を笑っている
「私が休んでいる所に入ってきたのはそっちだものな やれやれ」
バトラーは肩をすくめて低く笑った
華麗に登場レッドバトラー
主要人物の表
刊行当時からバトラーは人気があったんですけれども
一方で人物造形が少し「ステレオタイプ」(類型的)という批判があった
それに対するミッチェルの切り返しが興味深いんですけれども
「はい、そうです 私のキャラクターは“ストックフィギュア”だし
既存のキャラ「コンポジット(過去の名作キャラクターの合成物の意味)」です」
ミッチェルは、19世紀の名作からキャラクターを借りて合成して作っているんですと明言した
でも今見ると、結構モダンというか、新しい創造法だなと思うんですね
文芸評論家の千野帽子さんが、レット・バトラーの
キャラクターを使って遊んでみようと提案したことがあって
レット・バトラーの類型的な魅力は、アニメの人気キャラクターと共通するものがあると指摘した
文芸評論家の千野帽子さん提案 「レット・バトラーをアニメキャラとして消費せよ」を実践
Q:レットのセリフが似合うアニメキャラを脳内再生したら?
光:僕らの年代だったら、「巨人の星」の花形満
バッチリです 私の周りで多い声は、「ガラスの仮面」の速水真澄、「ルパン三世」の石川五ェ門
光:キザな二枚目の男前の感じ
ミッチェルの取り入れた文体っていうのは、結構スタイリッシュで
でも、キャラクター作りにはあえてちょっと既視感がある
そういうのを組み合わせることで新旧の化学反応
バランスがとれて、古びないでいるというところがあるのかなと思います
アシュリーとメラニーは結婚します
スカーレットはそれが気に入らないので、その結婚の前日に
あてつけということでメラニーの兄チャールズと電撃結婚します
そのアシュリーとチャールズは南北戦争に出征する
すぐにチャールズは野営戦で病死してしまいます
その後、妊娠が分かったスカーレットは出産
実は、この時点でもまだアシュリーを諦めていないんです
似た者同士が作る「同質社会」
アシュリーが最初にアタックした時に
「君と僕とではかけ離れすぎてるからうまくいかないんだよ
僕がどうしてメラニーと結婚するかっていうと
似た者同士だから、うまくいくから結婚するんだ」と言われる
「似た者同士」というフレーズは、この作品のキーワードになるものだと思います
「似た者同士」という言葉は、レットがスカーレットに愛を告げる時にも登場します
「愛しているよ スカーレット 私たちは似た者同士だからね
お互い裏切り者だし、身勝手でどうしようもない奴だ
自分の身さえ安泰安楽であれば、全世界が滅びても屁とも思わない」
当時の南部は「白人富裕層」という似た者同士が結束し
それ以外の人々を虐げる社会でもありました
同質であるがゆえの強さと調和は、一方で
それ以外の人々を犠牲にする「排他性と差別」を生み出します
トランプ「アメリカ合衆国を再び偉大にしよう!」湧く観衆
同質社会の危うさは、今、アメリカで再び姿を現しつつあります
南北戦争時代から続く傾向は絶えていなかったのです
レットとアシュリーは、南部社会の危うさを見抜いていました
アシュリーは、戦地からの手紙にこう書きます
「いつも心には敗戦の恐怖がある
“南部には、戦争するにも、武器は綿花と傲慢さしかない”とバトラーは断言した
綿花が今や無価値であるなら、彼が傲慢と呼ぶもの以外は残されていない」
似た者同士の四人
この人物の関係でいくと、意外といろんな方向で似た者同士なんですよね
アシュリーとメラニー、スカーレットとバトラーのところは分かりやすい
レットとメラニーのところが分かりにくいが
これもおいおいお話しすることになると思います
ある要素を介して、非常に共通点を持つんです
似てないように思われるスカーレットとメラニーも
実は、物語が進んでいくと、メラニーにも結構黒い、
意地悪な「黒メラニー」が顔を出してきます
レットとアシュリーも相手のことを「似た者同士」と思っている
そういう台詞がバトラーからも出ますし、アシュリーのほうからも
「彼と自分は似てるんだ」というセリフが原作にはある
この中で、どうやっても繋がらないのはひとつだけ スカーレットとアシュリー
ここがあるがゆえに色々な事件を巻き起こしていく
基本的に南部社会というのは、同質のものを好む
同質の者同士が調和と絆を築く社会
しかし、スカーレットという人物は、絶対に同調圧力に屈しない
全体主義とか排他主義も常に冷めた目で見つめている
言ってみればアウトサイダーなんです
このアウトサイダーの目を通して、南部社会、ひいてはアメリカ全体を批評的に描いたのがこの作品
Q:夫亡き後のスカーレットは、どんな暮らしをしていましたか?
南部のしきたりで言えば、静かに喪服を着て暮らしていなければならないんですけれども
これがとにかく面白くない
ある日、慈善事業のパーティーに駆り出されていく
それに綺麗なドレスを着た娘たちがイケメンの将校とおしゃべりをしているからまた気に入らない
ムカムカしながらお手伝いをしている
本当にパーティーに来ちゃったわ それもアトランタ史上最大規模のパーティーに
喜び勇んで出席した慈善バザーのパーティーでしたが
夫をなくしたハミルトン夫人として楽しむことが許されず、スカーレットはふてくされていました
やがて寄付金集めのためにあるイベントが始まります
「ご希望の淑女と踊りたい殿方には入札をお願いする」
「非常識だわ まるで奴隷の競売よ」
次々と声が上がる中、急に目を釣り上げたのはレット・バトラーでした
「金貨で150ドル! ハミルトン夫人だ」
喪中の女性をダンスに誘うという非常識に場が凍りつきます
「夫人は承知なさらんでしょう」
「お受けします」
スカーレットの耳に誰かの声が飛び込んできた
初めはそれが自分自身の声とは気づかなかった
周囲のひんしゅくを買いながらも、ようやく堂々と踊れることになったスカーレットは
喜びを隠しながらレットに言います
「よくも喪中の私にこんな目立つ役をさせますね、バトラー船長」
「では辞退されればよかったのに」
「でも大義のためには仕方ありません
私、あんな大金を金貨でと言われたら自分の事など考えていられません
笑うのはおやめ下さい みんながこっちを見てます」
「どのみち見られますよ 大義がどうのこうのとつまらん話で
私をごまかそうとしても無駄です」
光:
とても面白いシーンなのは、世間にとっては非常識極まりないけれども
スカーレットからすれば、まっすぐなことじゃないですか
一番したいこと 踊りたくてしょうがないから レットも見抜いてる感じでしたね
スカーレットとレットは異端者同士 アウトサイダー同士で
この小説というのは「ピカレスクロマン」「悪漢小説」
スカーレットってやっぱり生き抜くためには手段を選ばないところがありまして
レットも一緒ですね そういう意味で、この二人は最初から合っている
というのが垣間見えるシーンだと思います
Q:150ドルっていうのは大金なんですか、当時で言うと?
今の日本円で約40万円ぐらい
金貨っていうところもちょっと重要で
この頃の南部紙幣は、南部連合国が発行した紙幣で価格が下落しつつあった
戦争がだんだん進むにつれて価値を落としていった
でも金というのは価値がブレませんので、金貨でって言ったところでどよめくわけです
翻訳家として気になったシーン
結構地味で目立たないシーンですが、いざ自分で翻訳しようとしたら
何か言い難い引っかかりを感じるようになったんです
それはレットとメラニーが 初めて言葉を交わす場面
メラニーから夫が戦地にいることなどを聞くと、レットは言いました
「お察しいたします」
バトラーはことさら重々しく答えたが、メラニーのほうを向いて
気遣わしげな彼女の目の奥の奥まで探るような顔になるとにわかに表情が一変し
本人の意に反して、敬いと優しさがその顔に広がった
「なんて気丈な方なんだ、あなたは」
バトラーは、メラニーの目の奥の奥まで探る
初めて言葉を交わす淑女に対して、単に目を見たではなくて
「ボトム(底)」という単語が書かれている
何でそこまでいきなり覗かなくちゃいけないだろうというのが最初の引っかかり
この謎に関しては、今説明するとなかなか分かりにくいので
第4回でじっくり解いていきたいと思います
実際、このシーンの後、徐々にレットとメラニーは友情が育まれていく
私はこのレットとメラニーの友情が大好きなストーリーラインで
かけ離れて見える二人ですが、この二人が一番お互いのいいところを理解していて
最も信頼し合っているような関係になっていくんですね
■第2回 アメリカの光と影
開戦から2年経ちました
戦況は、南部連合軍の敗色が濃厚
スカーレット達女性は、現実的な恐怖を感じ始めている
そこでクリスマス休暇をもらったアシュリーが一時帰宅で帰ってくる
メラニーはアトランタでスカーレットも同居中
なかなか二人きりにはなれないけれども、いよいよアシュリーが戦争に帰るという日に
メラニーは悲しみのあまり床に臥せってしまって見送りに来れない
それをいいことにもう一度アタックする
一週間の休暇中 常にメラニーや家族に囲まれて二人きりになることができず
スカーレットはやきもきしていた
再び戦地に向かう直前、ようやくチャンスを得たスカーレットは
溢れる想いを伝えようとしますが、アシュリーは言います
朗読:
「スカーレット 僕に代わってメラニーの面倒を見てくれないか」
メラニーの面倒を!? ひどくがっかりして気持ちが沈んだ
こちらは何か美しくドラマチックな約束をしようと身を乗り出しているというのに
これが別れ際の約束だなんて メラメラと怒りがこみ上げた
それでもアシュリーのために約束をしたスカーレット
しかし、メラニーから妊娠を告げられると激しく動揺する
なんてことなの! こうなったらアシュリーの子を宿した女性となんか
同じ屋根の下に一刻もいられない タラの我が家へ帰ろう スカーレットはそう思った
そこへアシュリーが行方不明となり、北軍の捕虜になったという情報が伝えられる
さらにタラにいる最愛の母エレンが腸チフスになり伏しているという知らせがくる
メラニーなんか捨ててタラに逃げたい
全くメラニーがいるばっかりに! 何度そう思ったかわからない
メラニーの中に赤ん坊さえなければ、一か八かタラへ向かうところだわ
ああ、お母様、お母様 死なないで!
メラニーのお産は大変なことになるとミード先生はおっしゃってたっけ
ああ神様 死んだら どうしよう メラニーが死んだら・・・
メラニーが死んだら? そうしたらアシュリーは私と・・・
いいえ、そんなことを考えてはいけない 恥ずかしいことだわ
でも、そうすればアシュリーは・・・
だからそんなこと考えちゃダメよ 罪深いことだわ
それにお母様の命を助けてくれたなら、きっと良い人間になりますって神様に誓ったんだもの
アトランタに北軍が迫る中、とうとうメラニーは産気付きます
医者に助けを求めますが、街に溢れる負傷者で手一杯だと断られました
スカーレットは、黒人の召使いと二人だけでメラニーの難産を乗り切ります 長男ボーを出産
揺れるスカーレットの思い
光:朗読のリズムも手伝ってなんですけれども、ちょっと可愛らしく見えてきた
ひとつの声を書いたら、そっちのほうにいくのではなく
いやいや違うとまた違う声が出てくる でまた3つめの声が出てくる
「多声的 ポリフォニック」な書き方と言うんですけれども
まさにミッチェルの創作手法って、いろんな声を放り込んでくるんですね
各登場人物が結構「多面性」を持っている
常にこっちに引っ張られたら、逆に引っ張られるということを必ずやるんですね
戦火のアトランタからタラへ
スカーレット達はタラへ逃げてゆく
その大変な逃げるときに現れるのがバトラーです
レットは燃え盛る街で馬車を盗み、スカーレット達を助けてタラへと向かいます
道中、ボロボロになった南軍兵士を見て、二人は南部の敗北を実感します
バトラー「よく見ておくんだ 南部が滅びた夜のことを孫達に話す時のために」
スカーレットは、レットがタラまで一緒だと思っていましたが
「俺は降りる」
「どこへ行くの?」
「軍隊に志願する」
突然、南部連合軍に志願すると言い出し、スカーレットたちを置き去りにするのです
「どうして私にこんな仕打ちができるの? なぜ置き去りにするの?」
「おいおい、よせよスカーレット 君は無力なんかじゃないだろう
君ほど身勝手で強情っぱりな人間が無力であるはずがない
万一、ヤンキー(北部軍)が君を捕まえちまったら 神よ彼らを助けたまえ」
レットはスカーレットに熱い口づけをして去っていきました
レットが南部連合軍に志願
Q:今更 連合軍に志願するのはなぜですか?
真相は分からないです 急に愛郷心のようなものが湧き上がってきたのかもしれないし
ただ、みんなここはちょっと唐突に感じると思うんですね
作者ミッチェルの側から考えると、レットにはスカーレットを捨ててもらう必要があった
というのが私の考えです
実は、レットに捨てられてから次章までのパートが最後の最後まで書けなかったらしいですね
ミッチェルの執筆法
最初から順番に書いていっていないんですね
おそらく、ある人物が亡くなるエンディングあたりから、さかのぼるようにして執筆した
このパートで重要なのは、スカーレットが庇護者を2段階で失うということ
まずはレット これからタラに帰って、さらに大きな喪失が待っています
ですからここは、喪失へのプレリュード(前段階)になる そういう役割があると思います
光:
それは面白いですね どうしても去ってくれなければ困る
何かよく出来た名著って、どこか謎めいていていいじゃないですか
そう思えるぐらい、他のパーツが信頼できるって凄いことだと思うんです
他のパーツが非常にしっかりと組み合っているので
謎めいたところが、よりむしろ魅力に転じるという面はあります
アトランタを逃げ出したスカーレット
死に物狂いでたどり着いたタラは荒れ果てていました
「お母様、私よ!」
出迎えたのは、魂の抜け殻のようになった父親ジェラルド・オハラ
最愛の母は前日に病で亡くなっていた
残された妹や使用人たちも頼りなく、タラを支える重責がスカーレットにのしかかります
畑をあさり、見つけた野菜を貪り食べながらスカーレットはタラに誓います
「神に誓って 神に誓って ヤンキーなんかにイチコロにされるもんですか!
この地獄を生き抜いて、何とか片が付いたら、もう二度とひもじい思いはしない
タラのみんなも餓えさせない
物を盗み、人を殺めることになろうと、神に誓って もう決してひもじい思いはしない!」
スカーレットの自立
ここで2人の庇護者を失うことでスカーレットはようやく
子ども時代、娘時代を抜け出して、自立の第一歩を歩みだすわけです
ですから、ここでまだレットがそばにいると、彼女の自立の決意が完結しませんよね
ですから、ミッチェルとしては、一旦レットに退場して頂いたのかなと思うわけです
タラに着いた翌年に、南部連合軍が投降して終戦
スカーレットは、自分の息子、父親、妹
そしてメラニー親子と一緒にタラで暮らすことになります
南北戦争後の困難と略奪
兵士たちが屋敷に入ってきて、略奪や襲撃に遭う
この時スカーレットは、侵入してきた兵士を一人撃ち殺してしまう
そこで病気や餓えで痩せ細ったメラニーが重いサーベルを抱えて駆けつけてくる
その撃ち殺した兵士のポケットから財布や貴重品を奪おうと言うのもメラニーなんです
朗読:
沈黙の中でメラニーとスカーレットの目が合った
いつも優しいメラニーの顔は、冷酷な誇りで輝き
その微笑みは称賛と裂しい歓喜にあふれており
それはスカーレット自身の胸に渦巻く激情に勝るとも劣らなかった
まあ驚いた メラニーも私と同類なのね!
黒メラニー
スカーレットというのは、エキセントリックで型破りな人物ですが、常識の一線を越えない
何度も「常識」という冷静な手に引き戻されるという表現があるんですけれども
実は、メラニーというのは、ただの聖女ではなくて
狂気との境を越えそうになるところもあり、怖いような覚悟を感じる時があるんです
滅多にそんな殊勝なことを考えないスカーレットも
もしかしたら、私の上をいく人間なんじゃないか
このシーンではメラニーに対してそういうことを考えたのではないかと思います
タラの屋敷には毎日、休息と食事を求める帰還兵たちがやってきました
ある日、近づいてきた一人の兵士を見たメラニーの顔色が急に変わり、走り出します
その兵士は、待ち焦がれたアシュリーでした
兵士が汚れたブロンドのヒゲに覆われた顔を上げ
もう疲れ果てて一歩も進めないというように屋敷を見上げながらピタリと立ち止まると
メアリーは訳の分からない事を叫びながら、汚れきった兵士の腕に身を投げ出し
すると兵士はメアリーの顔に頬を寄せた
アシュリーはしばらくタラに身を寄せることになり、慣れない野良仕事に辛い日々を送ります
300ドルの追徴課税
戦後の混乱に乗じてタラに不当な税金が追徴されます
スカーレットはアシュリーに相談しますが、遠い目で現実を嘆くばかりで頼りになりません
しかし、2人きりで話しているうちに気持ちが高まってきたスカーレット
「私を助ける方法は1つしかないわ」スカーレットはボソッと言った
「ここから連れ出して 幸せをつかむチャンスのあるどこかで新しくやり直すこと
ここには私たちを引き留めるものなんて何もないでしょう」
「そうだな」 アシュリーは静かに答えた 「何もなくとも名誉の問題がある」
アシュリーに拒まれたスカーレットは泣き出します
初めて彼女の涙を見たアシュリーは、たまらず抱きしめてしまいました
「勇敢で可愛い人 泣かないで あなたが泣いちゃいけないよ」
アシュリーがそうして触れていると、腕の中のスカーレットに変化がおき
抱きしめているほっそりした体に何か狂おしい魔力が生じ
見上げてくる翠色の瞳には熱く柔らかな光が灯り始めた
突如として荒涼たる冬は終わりを告げた
アシュリーの元に春が戻ってきた
忘れかけていた緑葉がふれあいざわめく風薫る春
彼の肉体に若者の欲望が熱く燃えていた屈託のない日々
その後の苦い歳月は剥がれ落ち、彼はこちらに向けられた紅い唇が震えているのを見た
そしてその唇に口付けた
貴公子アシュリーの欲望
清廉潔白で気高い貴公子アシュリーなんですけれども
若い男性としての健全な欲望というのはあるわけで
本当にアシュリーはなかなか辛かったと思うのは
片方では肉食動物のような情熱的なスカーレットが隙あらば迫ってくる
家庭ではどうだったかというと、メラニーがすごく子ども好きで
子作りを迫っていたみたいなんです 露骨には書いてもいませんが
物語の終盤で分かることですが、もう一人子どもを産むと
病弱なメラニーの命が危ないので、医者から夫婦生活を禁じられていた
ということが明かされるんですね
アナ:アシュリーはここではっきり言わなきゃダメなんですよ 名誉とか言っちゃダメです!
逃げてるという言えば逃げてる
名誉とか言うから、またスカーレットは抽象概念が分からない人なので
光:
僕は映画で観ている時に思ったことは、ちょっとアシュリーいい格好しすぎじゃないと思った
あまりダークな部分が出てこないから、ここでアシュリーも人間だったというか
私はアシュリーは、その弱さ故にすごく好きです
大変なラブシーンがありましたよね
スカーレットは結局、アシュリーにフラれてしまう
もう私には何も残されていないと嘆くんです
そうするとアシュリーが「いや、あなたにはまだこのタラの赤土があるじゃないか」
と言って手に握らせるんです そうするとスカーレットがハっと我に返る
スカーレットっていうのは、本当に土とお金を握った時に正気づくんです
自分がどれだけこの赤土の大地を手放しではいけないかということを一瞬にして正気に返る
・アメリカ人にとっての土地
この土地への思いは、序盤で出てくる父ジェラルドの言葉とも呼応していると思います
「土地こそがこの世でただ一つの価値を持つものだ
なぜならこの世で確かに残るものは土地だけだからだ
時には命までもかけるに値する唯一のものなのだ」
(それで無意味な戦争や紛争が絶えないのか?
アメリカという国は、多くの人たちがルーツをたどると「移民」
土地への愛着、繋がりっていうのをどこかで保っていないと根無し草的なものに陥ってしまう
作品のタイトル自体も、土地への強い思いというものに根ざしているじゃないかと思います
レットに置き去りにされた時に、スカーレットの心の中に浮かんだ言葉
「タラの屋敷は無事だろうか? それともジョージアを席巻した風と共に去ったのだろうか?」
屋敷や畑や人々は、風と共に去ってしまっても、土地だけは残るはずだ
オハラ家はアイルランド系移民
長い苦労の末に自分の土地を手に入れているので
執着、愛着は人一倍あるし、開拓した土が一番大事なんですね
(開拓という名のネイティヴアメリカンの大虐殺だけどね
※「読書感想メモリスト3」カテゴリー内『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』(あすなろ書房)参照
南北戦争後の再建時代に学ぶ
もう一つ、「風と共に去りぬ」で描かれているのが戦後再建しようとする
支配者の都合でルールがコロコロ変わるというのが描かれています
そこは、改めて読んでほしい部分
南北戦争を経て「奴隷制」がなくなったことは絶対的に良いこと 正義なわけです
多くの人にとって「ユートピア」が訪れたということになりますが
その反面、行き過ぎると、やはり歪みが出て
統制や管理が行き過ぎると、抑圧される人々が出てくる
この作品に書かれているのは、例えば「政治汚職」の数々
負けた南部は管理、監視社会となり、政治汚職、不正選挙、略式裁判での処刑が横行する
ミッチェルはここで北部を糾弾するとか、南部が悪かったんだとか
そういうことを書きたいんじゃないと思います
少なくとも今の私たちが読むべきなのは、どんな共同体でも、人が集まるところには
こういう「ディストピア」的な社会機構に陥ってしまう危険性というものが
常にあるということを、私たちは今の目で批評的に読むべきだと思うんですね
・M.ミッチェル 『風と共に去りぬ』@100分 de 名著(3、4回)
原作も当時夢中で読んだが、記憶は遠い彼方
今回改めて、映画のシーンとともに、翻訳者の視点で掘り下げていて
全4回ともとても面白く見た
【ブログ内関連記事】
・心の中のベストフィルム~『風と共に去りぬ』(1939)
・「星の王子さま」@100分 de 名著 for ティーンズ 第1回
・「ソラリス」スタニスワフ・レム著@100分 de 名著
・『歎異抄』 @100分 de 名著(全4回)
出演:
伊集院光
安部みちこ
翻訳家 鴻巣友季子:2015年に「風と共に去りぬ」の新訳を手がけた
朗読:龍真咲
■第1回 一筋縄ではいかない物語
名作映画『風と共に去りぬ』
南部の大農園に生まれた ヒロイン スカーレット・オハラは、多くの観客の心をつかみました
描かれたのは「黒人奴隷制度」などを巡って、アメリカが北と南に分かれて戦った「南北戦争」の時代です
原作小説の刊行は1936年
著者マーガレット・ミッチェルが目指したのは、全く新しい南部像を作ることでした
アウトサイダーの目を通して南部社会アメリカを全体を批評的に描いたのがこの作品
映画を観ただけでは分からない原作のメッセージを改めて掘り起こします
数々の名作を翻訳してきた鴻巣さんが、現代にも通じる新たな視点から文学的魅力を読み解きます
基本情報
著者マーガレット・ミッチェルは、アメリカ南部の出身
30代半ばの 1936年に刊行して、すぐに大ベストセラーになり、ピュリッツァー賞を受賞
1939年 映画化されて大ヒット
ベストセラーとなった時代背景
この小説がベストセラーになった要因っていうのが、時代背景だと思うんですけれども
19世紀の終わりぐらいから「大不況」がずっと続いていて
だんだん社会不安とか、鬱屈、鬱憤が蓄積しているところに
KKKという差別的な集団の活動が再活発化したこともあって
この時代の読者というのは、南北時代、戦後の混乱期を書いた今作は他人事ではなかった
「KKK」
クー・クラックス・クラン 南北戦争後に生まれた「白人優先主義」秘密結社
20世紀初頭に再建され活発化
光:今の日本にもちょっと当てはまりそうな
これはいわゆる 過去を振り返るノスタルジー小説ではなく、私たちのことが書かれている小説です
物語の設定
(このヴィヴィアン・リーの写真大好き
物語の舞台は、アメリカ南部ジョージア州
南北戦争における南軍で大きな戦場となった州です
主人公は、スカーレット・オハラ
ヴィヴィアン・リーが演じたこのイメージが強烈だと思うんですけれども
原作のミッチェルが描いたスカーレットはだいぶ違う
この小説の冒頭は、こう始まります
“スカーレット・オハラは実のところ美人ではなかったが”
これが第一行目に書いてあるんですけれども、 みんな忘れてしまうんですね
この後に、結構細かい描写が続いています
背が低め、ちょっとつり目、エラが張っている、首は短い、バストは並外れて大きい
この描写をもとにモンタージュを作っていただいたので こんな感じと思われます
(そんなに大きく外れていないのでは?
正統派美人ではないけれども、ものすごく魅力的で
実際、16歳のスカーレットはモテモテなんです
光:
そこも多分ものすごく意味を持たせていると思うんですね
美人じゃない、と書き出してる人が、生き生きとして
モテモテだっていうのは、じゃあ何なの? ていうところに説得力が出てくる
原作では、他にも映画とかなり違うところがある
映画に登場するタラの豪邸は、ミッチェルのイメージとは違っていた
(この屋敷からリーが駆け出してくるシーンがとても好き
玄関の所に立派な支柱が立ってるような豪邸が映画で出てくる
ミッチェルが本当に描きたかったのは、まだ開拓も進んでいないジョージア北部の
田舎くさい、垢抜けない暮らしです
朗読は、宝塚でスカーレット役を演じたことがある龍真咲さんです
1861年 あのまばゆい4月の午後
タールトン家の双子ブレントとスチュアートを侍らせ
父が経営するプランテーション、タラ農園のポーチの
涼しい日陰に腰を下ろすスカーレットの姿は、美しい一幅の絵のようだった
裕福な家庭で何不自由なく育ってきたスカーレット・オハラ
狙った男性を虜にする術を心得ており、街中の男が彼女に夢中でした
しかし、スカーレットには本命がいました
芸術や文学を愛する貴公子アシュリー・ウィルクス
(私もアシュリー派
自信家のスカーレットは、彼と結ばれる事を疑っていませんでした
そんなスカーレットの耳にカールトン家の双子は信じられないニュースを届けます
「ウィルクス家の舞踏会で婚約発表があるらしい アシュリーとメラニーの婚約さ」
表情も変えず聞いていたスカーレットでしたが、内面では嵐が吹き荒れていました
アシュリーがメラニー・ハミルトンと結婚するですって?!
アシュリーが彼女を好きだなんて絶対に絶対にありえない
だいたいメラニーみたいな冴えないチンチクリンを好きになる男性なんているものですか
そうアシュリーがメラニーを好きなわけがない
だってあの人は、ええ間違いようがない 私に恋をしているんだもの
この私、すなわちスカーレット・オハラがアシュリーの想い人よ そうですとも
そして訪れた婚約パーティーの日
スカーレットは、自分から告白すればアシュリーの気が変わるはずと書斎で二人きりになります
「これまで秘密にしていたことよ 私あなたを愛しているわ」
ところが、アシュリーの答えは
「そんなことを言うものじゃないよ スカーレット 僕はメラニーと結婚するんだ」
メラニーのことを思うと、あの遠くを見るような穏やかな鳶色の瞳や
黒いレースのミトンをつけた楚々とした小さな手や
口もきかずおとなしくしている姿などがふいに浮かんできた
すると出し抜けに怒りが爆発した
「言ったらどうなのよ この臆病者! 私と結婚するのが怖いって」
スカーレットは、アシュリーを平手打ちにします
それでも怒りは収まらず、陶器を掴み、暖炉に投げつけると
ソファーの奥から一人の男が起き上がりました
スキャンダラスな社交界ののけ者レット・バトラーです
「何もそこまでしなくたって
あんなやり取りを聞かされて、昼寝を邪魔されただけでも迷惑なのに
命の危険にまでさらされるとは、あんまりな」
本物だ 幽霊じゃない しかし何ということ 今の会話を洗いざらい聞かれてしまった
スカーレットは、あらん限りの力をかき集めて体面を保とうとした
「そこにいらしたのならお知らせいただくべきでした」
真っ白な歯がキラリと光り、無遠慮な黒い瞳は彼女を笑っている
「私が休んでいる所に入ってきたのはそっちだものな やれやれ」
バトラーは肩をすくめて低く笑った
華麗に登場レッドバトラー
主要人物の表
刊行当時からバトラーは人気があったんですけれども
一方で人物造形が少し「ステレオタイプ」(類型的)という批判があった
それに対するミッチェルの切り返しが興味深いんですけれども
「はい、そうです 私のキャラクターは“ストックフィギュア”だし
既存のキャラ「コンポジット(過去の名作キャラクターの合成物の意味)」です」
ミッチェルは、19世紀の名作からキャラクターを借りて合成して作っているんですと明言した
でも今見ると、結構モダンというか、新しい創造法だなと思うんですね
文芸評論家の千野帽子さんが、レット・バトラーの
キャラクターを使って遊んでみようと提案したことがあって
レット・バトラーの類型的な魅力は、アニメの人気キャラクターと共通するものがあると指摘した
文芸評論家の千野帽子さん提案 「レット・バトラーをアニメキャラとして消費せよ」を実践
Q:レットのセリフが似合うアニメキャラを脳内再生したら?
光:僕らの年代だったら、「巨人の星」の花形満
バッチリです 私の周りで多い声は、「ガラスの仮面」の速水真澄、「ルパン三世」の石川五ェ門
光:キザな二枚目の男前の感じ
ミッチェルの取り入れた文体っていうのは、結構スタイリッシュで
でも、キャラクター作りにはあえてちょっと既視感がある
そういうのを組み合わせることで新旧の化学反応
バランスがとれて、古びないでいるというところがあるのかなと思います
アシュリーとメラニーは結婚します
スカーレットはそれが気に入らないので、その結婚の前日に
あてつけということでメラニーの兄チャールズと電撃結婚します
そのアシュリーとチャールズは南北戦争に出征する
すぐにチャールズは野営戦で病死してしまいます
その後、妊娠が分かったスカーレットは出産
実は、この時点でもまだアシュリーを諦めていないんです
似た者同士が作る「同質社会」
アシュリーが最初にアタックした時に
「君と僕とではかけ離れすぎてるからうまくいかないんだよ
僕がどうしてメラニーと結婚するかっていうと
似た者同士だから、うまくいくから結婚するんだ」と言われる
「似た者同士」というフレーズは、この作品のキーワードになるものだと思います
「似た者同士」という言葉は、レットがスカーレットに愛を告げる時にも登場します
「愛しているよ スカーレット 私たちは似た者同士だからね
お互い裏切り者だし、身勝手でどうしようもない奴だ
自分の身さえ安泰安楽であれば、全世界が滅びても屁とも思わない」
当時の南部は「白人富裕層」という似た者同士が結束し
それ以外の人々を虐げる社会でもありました
同質であるがゆえの強さと調和は、一方で
それ以外の人々を犠牲にする「排他性と差別」を生み出します
トランプ「アメリカ合衆国を再び偉大にしよう!」湧く観衆
同質社会の危うさは、今、アメリカで再び姿を現しつつあります
南北戦争時代から続く傾向は絶えていなかったのです
レットとアシュリーは、南部社会の危うさを見抜いていました
アシュリーは、戦地からの手紙にこう書きます
「いつも心には敗戦の恐怖がある
“南部には、戦争するにも、武器は綿花と傲慢さしかない”とバトラーは断言した
綿花が今や無価値であるなら、彼が傲慢と呼ぶもの以外は残されていない」
似た者同士の四人
この人物の関係でいくと、意外といろんな方向で似た者同士なんですよね
アシュリーとメラニー、スカーレットとバトラーのところは分かりやすい
レットとメラニーのところが分かりにくいが
これもおいおいお話しすることになると思います
ある要素を介して、非常に共通点を持つんです
似てないように思われるスカーレットとメラニーも
実は、物語が進んでいくと、メラニーにも結構黒い、
意地悪な「黒メラニー」が顔を出してきます
レットとアシュリーも相手のことを「似た者同士」と思っている
そういう台詞がバトラーからも出ますし、アシュリーのほうからも
「彼と自分は似てるんだ」というセリフが原作にはある
この中で、どうやっても繋がらないのはひとつだけ スカーレットとアシュリー
ここがあるがゆえに色々な事件を巻き起こしていく
基本的に南部社会というのは、同質のものを好む
同質の者同士が調和と絆を築く社会
しかし、スカーレットという人物は、絶対に同調圧力に屈しない
全体主義とか排他主義も常に冷めた目で見つめている
言ってみればアウトサイダーなんです
このアウトサイダーの目を通して、南部社会、ひいてはアメリカ全体を批評的に描いたのがこの作品
Q:夫亡き後のスカーレットは、どんな暮らしをしていましたか?
南部のしきたりで言えば、静かに喪服を着て暮らしていなければならないんですけれども
これがとにかく面白くない
ある日、慈善事業のパーティーに駆り出されていく
それに綺麗なドレスを着た娘たちがイケメンの将校とおしゃべりをしているからまた気に入らない
ムカムカしながらお手伝いをしている
本当にパーティーに来ちゃったわ それもアトランタ史上最大規模のパーティーに
喜び勇んで出席した慈善バザーのパーティーでしたが
夫をなくしたハミルトン夫人として楽しむことが許されず、スカーレットはふてくされていました
やがて寄付金集めのためにあるイベントが始まります
「ご希望の淑女と踊りたい殿方には入札をお願いする」
「非常識だわ まるで奴隷の競売よ」
次々と声が上がる中、急に目を釣り上げたのはレット・バトラーでした
「金貨で150ドル! ハミルトン夫人だ」
喪中の女性をダンスに誘うという非常識に場が凍りつきます
「夫人は承知なさらんでしょう」
「お受けします」
スカーレットの耳に誰かの声が飛び込んできた
初めはそれが自分自身の声とは気づかなかった
周囲のひんしゅくを買いながらも、ようやく堂々と踊れることになったスカーレットは
喜びを隠しながらレットに言います
「よくも喪中の私にこんな目立つ役をさせますね、バトラー船長」
「では辞退されればよかったのに」
「でも大義のためには仕方ありません
私、あんな大金を金貨でと言われたら自分の事など考えていられません
笑うのはおやめ下さい みんながこっちを見てます」
「どのみち見られますよ 大義がどうのこうのとつまらん話で
私をごまかそうとしても無駄です」
光:
とても面白いシーンなのは、世間にとっては非常識極まりないけれども
スカーレットからすれば、まっすぐなことじゃないですか
一番したいこと 踊りたくてしょうがないから レットも見抜いてる感じでしたね
スカーレットとレットは異端者同士 アウトサイダー同士で
この小説というのは「ピカレスクロマン」「悪漢小説」
スカーレットってやっぱり生き抜くためには手段を選ばないところがありまして
レットも一緒ですね そういう意味で、この二人は最初から合っている
というのが垣間見えるシーンだと思います
Q:150ドルっていうのは大金なんですか、当時で言うと?
今の日本円で約40万円ぐらい
金貨っていうところもちょっと重要で
この頃の南部紙幣は、南部連合国が発行した紙幣で価格が下落しつつあった
戦争がだんだん進むにつれて価値を落としていった
でも金というのは価値がブレませんので、金貨でって言ったところでどよめくわけです
翻訳家として気になったシーン
結構地味で目立たないシーンですが、いざ自分で翻訳しようとしたら
何か言い難い引っかかりを感じるようになったんです
それはレットとメラニーが 初めて言葉を交わす場面
メラニーから夫が戦地にいることなどを聞くと、レットは言いました
「お察しいたします」
バトラーはことさら重々しく答えたが、メラニーのほうを向いて
気遣わしげな彼女の目の奥の奥まで探るような顔になるとにわかに表情が一変し
本人の意に反して、敬いと優しさがその顔に広がった
「なんて気丈な方なんだ、あなたは」
バトラーは、メラニーの目の奥の奥まで探る
初めて言葉を交わす淑女に対して、単に目を見たではなくて
「ボトム(底)」という単語が書かれている
何でそこまでいきなり覗かなくちゃいけないだろうというのが最初の引っかかり
この謎に関しては、今説明するとなかなか分かりにくいので
第4回でじっくり解いていきたいと思います
実際、このシーンの後、徐々にレットとメラニーは友情が育まれていく
私はこのレットとメラニーの友情が大好きなストーリーラインで
かけ離れて見える二人ですが、この二人が一番お互いのいいところを理解していて
最も信頼し合っているような関係になっていくんですね
■第2回 アメリカの光と影
開戦から2年経ちました
戦況は、南部連合軍の敗色が濃厚
スカーレット達女性は、現実的な恐怖を感じ始めている
そこでクリスマス休暇をもらったアシュリーが一時帰宅で帰ってくる
メラニーはアトランタでスカーレットも同居中
なかなか二人きりにはなれないけれども、いよいよアシュリーが戦争に帰るという日に
メラニーは悲しみのあまり床に臥せってしまって見送りに来れない
それをいいことにもう一度アタックする
一週間の休暇中 常にメラニーや家族に囲まれて二人きりになることができず
スカーレットはやきもきしていた
再び戦地に向かう直前、ようやくチャンスを得たスカーレットは
溢れる想いを伝えようとしますが、アシュリーは言います
朗読:
「スカーレット 僕に代わってメラニーの面倒を見てくれないか」
メラニーの面倒を!? ひどくがっかりして気持ちが沈んだ
こちらは何か美しくドラマチックな約束をしようと身を乗り出しているというのに
これが別れ際の約束だなんて メラメラと怒りがこみ上げた
それでもアシュリーのために約束をしたスカーレット
しかし、メラニーから妊娠を告げられると激しく動揺する
なんてことなの! こうなったらアシュリーの子を宿した女性となんか
同じ屋根の下に一刻もいられない タラの我が家へ帰ろう スカーレットはそう思った
そこへアシュリーが行方不明となり、北軍の捕虜になったという情報が伝えられる
さらにタラにいる最愛の母エレンが腸チフスになり伏しているという知らせがくる
メラニーなんか捨ててタラに逃げたい
全くメラニーがいるばっかりに! 何度そう思ったかわからない
メラニーの中に赤ん坊さえなければ、一か八かタラへ向かうところだわ
ああ、お母様、お母様 死なないで!
メラニーのお産は大変なことになるとミード先生はおっしゃってたっけ
ああ神様 死んだら どうしよう メラニーが死んだら・・・
メラニーが死んだら? そうしたらアシュリーは私と・・・
いいえ、そんなことを考えてはいけない 恥ずかしいことだわ
でも、そうすればアシュリーは・・・
だからそんなこと考えちゃダメよ 罪深いことだわ
それにお母様の命を助けてくれたなら、きっと良い人間になりますって神様に誓ったんだもの
アトランタに北軍が迫る中、とうとうメラニーは産気付きます
医者に助けを求めますが、街に溢れる負傷者で手一杯だと断られました
スカーレットは、黒人の召使いと二人だけでメラニーの難産を乗り切ります 長男ボーを出産
揺れるスカーレットの思い
光:朗読のリズムも手伝ってなんですけれども、ちょっと可愛らしく見えてきた
ひとつの声を書いたら、そっちのほうにいくのではなく
いやいや違うとまた違う声が出てくる でまた3つめの声が出てくる
「多声的 ポリフォニック」な書き方と言うんですけれども
まさにミッチェルの創作手法って、いろんな声を放り込んでくるんですね
各登場人物が結構「多面性」を持っている
常にこっちに引っ張られたら、逆に引っ張られるということを必ずやるんですね
戦火のアトランタからタラへ
スカーレット達はタラへ逃げてゆく
その大変な逃げるときに現れるのがバトラーです
レットは燃え盛る街で馬車を盗み、スカーレット達を助けてタラへと向かいます
道中、ボロボロになった南軍兵士を見て、二人は南部の敗北を実感します
バトラー「よく見ておくんだ 南部が滅びた夜のことを孫達に話す時のために」
スカーレットは、レットがタラまで一緒だと思っていましたが
「俺は降りる」
「どこへ行くの?」
「軍隊に志願する」
突然、南部連合軍に志願すると言い出し、スカーレットたちを置き去りにするのです
「どうして私にこんな仕打ちができるの? なぜ置き去りにするの?」
「おいおい、よせよスカーレット 君は無力なんかじゃないだろう
君ほど身勝手で強情っぱりな人間が無力であるはずがない
万一、ヤンキー(北部軍)が君を捕まえちまったら 神よ彼らを助けたまえ」
レットはスカーレットに熱い口づけをして去っていきました
レットが南部連合軍に志願
Q:今更 連合軍に志願するのはなぜですか?
真相は分からないです 急に愛郷心のようなものが湧き上がってきたのかもしれないし
ただ、みんなここはちょっと唐突に感じると思うんですね
作者ミッチェルの側から考えると、レットにはスカーレットを捨ててもらう必要があった
というのが私の考えです
実は、レットに捨てられてから次章までのパートが最後の最後まで書けなかったらしいですね
ミッチェルの執筆法
最初から順番に書いていっていないんですね
おそらく、ある人物が亡くなるエンディングあたりから、さかのぼるようにして執筆した
このパートで重要なのは、スカーレットが庇護者を2段階で失うということ
まずはレット これからタラに帰って、さらに大きな喪失が待っています
ですからここは、喪失へのプレリュード(前段階)になる そういう役割があると思います
光:
それは面白いですね どうしても去ってくれなければ困る
何かよく出来た名著って、どこか謎めいていていいじゃないですか
そう思えるぐらい、他のパーツが信頼できるって凄いことだと思うんです
他のパーツが非常にしっかりと組み合っているので
謎めいたところが、よりむしろ魅力に転じるという面はあります
アトランタを逃げ出したスカーレット
死に物狂いでたどり着いたタラは荒れ果てていました
「お母様、私よ!」
出迎えたのは、魂の抜け殻のようになった父親ジェラルド・オハラ
最愛の母は前日に病で亡くなっていた
残された妹や使用人たちも頼りなく、タラを支える重責がスカーレットにのしかかります
畑をあさり、見つけた野菜を貪り食べながらスカーレットはタラに誓います
「神に誓って 神に誓って ヤンキーなんかにイチコロにされるもんですか!
この地獄を生き抜いて、何とか片が付いたら、もう二度とひもじい思いはしない
タラのみんなも餓えさせない
物を盗み、人を殺めることになろうと、神に誓って もう決してひもじい思いはしない!」
スカーレットの自立
ここで2人の庇護者を失うことでスカーレットはようやく
子ども時代、娘時代を抜け出して、自立の第一歩を歩みだすわけです
ですから、ここでまだレットがそばにいると、彼女の自立の決意が完結しませんよね
ですから、ミッチェルとしては、一旦レットに退場して頂いたのかなと思うわけです
タラに着いた翌年に、南部連合軍が投降して終戦
スカーレットは、自分の息子、父親、妹
そしてメラニー親子と一緒にタラで暮らすことになります
南北戦争後の困難と略奪
兵士たちが屋敷に入ってきて、略奪や襲撃に遭う
この時スカーレットは、侵入してきた兵士を一人撃ち殺してしまう
そこで病気や餓えで痩せ細ったメラニーが重いサーベルを抱えて駆けつけてくる
その撃ち殺した兵士のポケットから財布や貴重品を奪おうと言うのもメラニーなんです
朗読:
沈黙の中でメラニーとスカーレットの目が合った
いつも優しいメラニーの顔は、冷酷な誇りで輝き
その微笑みは称賛と裂しい歓喜にあふれており
それはスカーレット自身の胸に渦巻く激情に勝るとも劣らなかった
まあ驚いた メラニーも私と同類なのね!
黒メラニー
スカーレットというのは、エキセントリックで型破りな人物ですが、常識の一線を越えない
何度も「常識」という冷静な手に引き戻されるという表現があるんですけれども
実は、メラニーというのは、ただの聖女ではなくて
狂気との境を越えそうになるところもあり、怖いような覚悟を感じる時があるんです
滅多にそんな殊勝なことを考えないスカーレットも
もしかしたら、私の上をいく人間なんじゃないか
このシーンではメラニーに対してそういうことを考えたのではないかと思います
タラの屋敷には毎日、休息と食事を求める帰還兵たちがやってきました
ある日、近づいてきた一人の兵士を見たメラニーの顔色が急に変わり、走り出します
その兵士は、待ち焦がれたアシュリーでした
兵士が汚れたブロンドのヒゲに覆われた顔を上げ
もう疲れ果てて一歩も進めないというように屋敷を見上げながらピタリと立ち止まると
メアリーは訳の分からない事を叫びながら、汚れきった兵士の腕に身を投げ出し
すると兵士はメアリーの顔に頬を寄せた
アシュリーはしばらくタラに身を寄せることになり、慣れない野良仕事に辛い日々を送ります
300ドルの追徴課税
戦後の混乱に乗じてタラに不当な税金が追徴されます
スカーレットはアシュリーに相談しますが、遠い目で現実を嘆くばかりで頼りになりません
しかし、2人きりで話しているうちに気持ちが高まってきたスカーレット
「私を助ける方法は1つしかないわ」スカーレットはボソッと言った
「ここから連れ出して 幸せをつかむチャンスのあるどこかで新しくやり直すこと
ここには私たちを引き留めるものなんて何もないでしょう」
「そうだな」 アシュリーは静かに答えた 「何もなくとも名誉の問題がある」
アシュリーに拒まれたスカーレットは泣き出します
初めて彼女の涙を見たアシュリーは、たまらず抱きしめてしまいました
「勇敢で可愛い人 泣かないで あなたが泣いちゃいけないよ」
アシュリーがそうして触れていると、腕の中のスカーレットに変化がおき
抱きしめているほっそりした体に何か狂おしい魔力が生じ
見上げてくる翠色の瞳には熱く柔らかな光が灯り始めた
突如として荒涼たる冬は終わりを告げた
アシュリーの元に春が戻ってきた
忘れかけていた緑葉がふれあいざわめく風薫る春
彼の肉体に若者の欲望が熱く燃えていた屈託のない日々
その後の苦い歳月は剥がれ落ち、彼はこちらに向けられた紅い唇が震えているのを見た
そしてその唇に口付けた
貴公子アシュリーの欲望
清廉潔白で気高い貴公子アシュリーなんですけれども
若い男性としての健全な欲望というのはあるわけで
本当にアシュリーはなかなか辛かったと思うのは
片方では肉食動物のような情熱的なスカーレットが隙あらば迫ってくる
家庭ではどうだったかというと、メラニーがすごく子ども好きで
子作りを迫っていたみたいなんです 露骨には書いてもいませんが
物語の終盤で分かることですが、もう一人子どもを産むと
病弱なメラニーの命が危ないので、医者から夫婦生活を禁じられていた
ということが明かされるんですね
アナ:アシュリーはここではっきり言わなきゃダメなんですよ 名誉とか言っちゃダメです!
逃げてるという言えば逃げてる
名誉とか言うから、またスカーレットは抽象概念が分からない人なので
光:
僕は映画で観ている時に思ったことは、ちょっとアシュリーいい格好しすぎじゃないと思った
あまりダークな部分が出てこないから、ここでアシュリーも人間だったというか
私はアシュリーは、その弱さ故にすごく好きです
大変なラブシーンがありましたよね
スカーレットは結局、アシュリーにフラれてしまう
もう私には何も残されていないと嘆くんです
そうするとアシュリーが「いや、あなたにはまだこのタラの赤土があるじゃないか」
と言って手に握らせるんです そうするとスカーレットがハっと我に返る
スカーレットっていうのは、本当に土とお金を握った時に正気づくんです
自分がどれだけこの赤土の大地を手放しではいけないかということを一瞬にして正気に返る
・アメリカ人にとっての土地
この土地への思いは、序盤で出てくる父ジェラルドの言葉とも呼応していると思います
「土地こそがこの世でただ一つの価値を持つものだ
なぜならこの世で確かに残るものは土地だけだからだ
時には命までもかけるに値する唯一のものなのだ」
(それで無意味な戦争や紛争が絶えないのか?
アメリカという国は、多くの人たちがルーツをたどると「移民」
土地への愛着、繋がりっていうのをどこかで保っていないと根無し草的なものに陥ってしまう
作品のタイトル自体も、土地への強い思いというものに根ざしているじゃないかと思います
レットに置き去りにされた時に、スカーレットの心の中に浮かんだ言葉
「タラの屋敷は無事だろうか? それともジョージアを席巻した風と共に去ったのだろうか?」
屋敷や畑や人々は、風と共に去ってしまっても、土地だけは残るはずだ
オハラ家はアイルランド系移民
長い苦労の末に自分の土地を手に入れているので
執着、愛着は人一倍あるし、開拓した土が一番大事なんですね
(開拓という名のネイティヴアメリカンの大虐殺だけどね
※「読書感想メモリスト3」カテゴリー内『学校では教えてくれない本当のアメリカの歴史』(あすなろ書房)参照
南北戦争後の再建時代に学ぶ
もう一つ、「風と共に去りぬ」で描かれているのが戦後再建しようとする
支配者の都合でルールがコロコロ変わるというのが描かれています
そこは、改めて読んでほしい部分
南北戦争を経て「奴隷制」がなくなったことは絶対的に良いこと 正義なわけです
多くの人にとって「ユートピア」が訪れたということになりますが
その反面、行き過ぎると、やはり歪みが出て
統制や管理が行き過ぎると、抑圧される人々が出てくる
この作品に書かれているのは、例えば「政治汚職」の数々
負けた南部は管理、監視社会となり、政治汚職、不正選挙、略式裁判での処刑が横行する
ミッチェルはここで北部を糾弾するとか、南部が悪かったんだとか
そういうことを書きたいんじゃないと思います
少なくとも今の私たちが読むべきなのは、どんな共同体でも、人が集まるところには
こういう「ディストピア」的な社会機構に陥ってしまう危険性というものが
常にあるということを、私たちは今の目で批評的に読むべきだと思うんですね
・M.ミッチェル 『風と共に去りぬ』@100分 de 名著(3、4回)