語り:六角精児、吉田羊
まさか美内すずえ先生がテレビ番組に出演するなんて夢にも思わなかった/感謝
※「マンガ感想メモリスト1」カテゴリー内【美内すずえ】に追加します
【内容抜粋メモ】
都内某所 なぜかダンボールを抱えて住宅街を行く俳優・三上博史
実はこのダンボールの中に、今回会う人物のヒントがある
●演劇漫画の金字塔「ガラスの仮面」(今いったい何巻目なんだ?
主人公は、演劇の天才少女 北島マヤ
彼女が女優として成長して行く姿をドラマチックに描いたベストセラー漫画
最新49巻まで読破した三上 「ガラスの仮面」を読んで感じたことは?
三上:
スポ根ですからね 役者なんてそんなものです
大体監督はドSです で、役者がいじめられると
「やってらんねーわ」とか言いながら、みんなやるっていうドM
でも、マヤちゃんってそんなMな感じはしないですよね
もしかしたら、先生の中でMの要素があんまりないのかもしれない
●漫画家 美内すずえ
三上が会いたいのは「ガラスの仮面」の作者美内すずえ
作品はこれまで何度もテレビドラマや舞台になり、多くの俳優たちの心を掴んできた
この実写版笑ったな 姫川亜弓の人間椅子とか
演劇世界を独自に掘り下げてきた美内に三上が聞きたい事は?
バリバリ現役で描いていて、本当に嬉しい限り
でも先生、私は「アマテラス」の続きがどうしても読みたい!!
三上:
自分を映す鏡みたいな人に出会ってみたいというのがあって
すごく客観的に僕のことを見てもらって
美内さんはきっとたぶん、すごく面白いことを話してくれそうな気がしたので
会いに行くぜ イエーイ!
向かったのは、美内が夫と共に営むカフェ(え、ここに行けば会える?
・カフェ デゥ クレプスキュール 吉祥寺店
吉祥寺かあ 漫画家は吉祥寺が好きなのか?!
次の「SWITCH インタビュー」は大島弓子さんもお願いします 出ないか
ドアを開けるとすぐにいて、爆笑しながら入る三上
三上:お会いしたくて、お会いしたくて ずっとこの日を待ってました よろしくお願いします
美内:何ですかこれ?
ダンボールの中は「ガラスの仮面」全49巻
三上:全部 読破しました
美内:重たかったでしょw
舞台の上で輝く俳優と、演劇を描いてきた漫画家 二人が見つめてきたものは何か?
●仮面をつける 仮面を描く
「ガラスの仮面」 49巻 現在、総発行部数 5000万部を超えるという
美内:すごいですね これだけ一気に読まれたんですか?
三上:堪能させて頂きました 本当にすごいですね 歴史が詰まっているというか
美内:
1976年の正月号から連載が始まった
24歳になって新連載をやろうということになった時に
すごく天才性を発揮するんだけれど、それ以外はコンプレックスの塊
みたいな子を描こうと思って、編集長といろいろ
「じゃあどんなのにしましょうね」とやってた時に
編集長が「演劇なんてどう」って言ってくれて
それはいいな それにしようと思って、そこからスタートなんです
主人公の北島マヤは、一見何の取り柄もない平凡な少女
ある時、往年の大女優・月影千草がその才能を見抜く
マヤは、たった一度だけ観た芝居を千草の前で完璧に演じてみせた
マヤは千草のもと、幻の名作「紅天女」を演じることを目指す
宿命のライバル 姫川亜弓 2人は様々な舞台で競い合う
嫉妬や妬み、次々に降りかかる試練 それでもマヤはくじけない
演劇に全てを賭け、激しく一途に生きる少女を描く大河ロマン
これは「ヘレン・ケラー」の時だっけ?
三上:
聞いてみたいのは 僕はあんまり疎いんですけど
一人で考えて、一人で作画する 完成させるということでいくと どの作業が一番好きですか?
美内:やっぱりアイデアを練ってる時が結構好きですね
三上:同時に絵とかも出てくる?
美内:
もちろん 一緒にコマ割りも
小説家の方が文章でストーリーを考えるように 絵で考えるんです、物語を
一番面白いのは、なかなかアイデアが出なくて
色々落書きしながら絵のことを考えたりするんですけど
ふと、漫画のストーリーに全然関係ないとんでもないワンシーンがボンと浮かんだりするんです
三上:これ、どこにはめるピースなのっていう?
美内:
そう、それがすごく面白いから この絵を使うために これに向かって物語を作ろう
そうするとこれを使えるわけです
例えばこんな一枚 マヤが舞台上で、なんと泥まんじゅうを食べている
この1枚を描くために作ったストーリーは
まず芸能界入りしたマヤがスキャンダルを起こして追放寸前となる
そんなマヤに共演者たちが嫌がらせをする
心身ともに疲れ果て、俳優をやめようと思っていたマヤだが
舞台で追い詰められ、役が乗り移ったかのごとく
泥まんじゅうを平然と食べ始めるのだ 「ガラスの仮面」 名場面の一つ
美内:
あのシーンが最初に浮かんで どうやったらこのシーンを描けるだろうと
芸能界を失墜させて、どんどん落とし込んで、ここに持ってきた
マヤが復活する時に、これが一番いいなと思って
芸能界に入るまでが結構長いんですけど
たったこの一枚を描きたいために延々と描いていたというような感じです
さらにこのシーン 舞台で人形を演じることになったマヤ 注目は稽古法
なんとマヤは体中に物干し竿を巻きつけている(ちょっと笑えるw
美内:
全部の動き、セリフ、表情を封じられた役をやらせたいと思った
何か連載していて、ここでこういうものを出したら読者がびっくりするだろう
こういうものを描けば興味を持ってくれるだろうか、という風に意識がシフトしていくので
三上:物干し竿にもっていくところが(爆笑
美内:
あれが漫画なんです
やっぱり漫画としての視覚効果を狙いたいので
実際にこんなことやったら大変なことになると思うんだけれども
それはそういう風に描いちゃう
●白目
特に、三上が気になったのは登場人物が時折白目になること
三上:
目の表情ひとつで本当に変わる だから白目になった時は緊迫感が漂う
マヤだけかと思ったら、みんなも白目(爆笑
美内:
白目になるのは、例えば役になりきった時、緊迫の瞬間、心が壊れたとき
あえて目の表情を描かないことで、登場人物の心情がより強調される
(これは「狼少女」の時か?
三上:
僕らが演じる時に、目に意思をなくすときがある
力が入らない時とか 呆然とした時とか、目に意識がいかなくなる時がある
そういう時の白目 白目の効果って、思いが強すぎる時に使われるじゃないですか
そういうのもありなんです だから手に取るように分かる 目は命です
それが寄り目だと強すぎちゃうので
ものすごい引きの時とか、全身が入ってるんだけど
目がガッといってるのか、落としてるのかとで全然違う
今聞いて思ったんですけど 、職人としてのプライドというか充実度というか
それはきっと多分 20代後半に多分あったんだろうなと
●「漫画の神様」からのダメ出し
美内:
それはバリバリありましたよ 漫画家になった段階から
どうやったら読者に喜んでもらえるかっていうのが常にあって
何が描いてて面白いなと思うのは、私赤ちゃんの頃から物語の世界が大好きだったんです
だから日本昔話を話しながらいとこが寝かしつけてくれたり
その話が始まると、桃太郎がその後どうなったのか気になって眠れない
文字を覚え始めた時から漫画に夢中になり そうやってずっと来てましたので
どうも胸の奥のほうに、勝手に自分で言ってるんですけど
「漫画の神様」が住んでいる
自分がこれが面白いだろうと思って
頭の中で色んなアイデアを考えるんだけど、 漫画の神様がダメ出しをするんです
え? これ面白くないんだ なんかワクワクしてこないんですよ
三上:
それはどの段階でも?
設計図の段階でも、ネームの段階でも、作画の段階でもあるんですか?
美内:
アイデアの段階ですね
アイデアが同じワンシーンを3つぐらいストーリーを作って編集さんに聞く
「どれが面白いですか?」「Aですね」「私はBがいいと思うんだけどな」
と葛藤が始まる 最終的にやっぱりどれをやってもワクワクしてこない
となるとこれは全部ボツになる もう一遍やり直しって感じで
ただダメ出ししてくれるこれは一体何なんだろうと思った時に
子どもの頃夢中になっていた、読者だった自分がここにいると思った
読者だった自分が「このアイデアじゃ面白くないよ」ってダメ出しをしている感じです
●幼少期
1951年 大阪生まれ
幼い頃から貸本屋に入り浸り、1日10冊以上読みふけるほど漫画が大好きだった
小学校5年生の時に描いた漫画が友人達に大いにウケ、漫画家を志すようになる
1967年 漫画家デビュー 「山の月と子だぬきと」
高校在学中16歳で投稿した作品が認められ 漫画家デビュー
その後ホラーやファンタジーなど様々な作品を描き始めた
「妖鬼妃伝」の単行本の表紙画初めて見た これは名作
●ホラー作品も多い美内 そこに作家としての原点がある
三上:美内さんって絶対ホラーだなと思った 根っこが 変な言い方ですけど
美内:
中学2年生の時かな 初めて漫画でノートにホラーを描いたんです
そしてクラスに読ませたら、これが大ウケだったんです
ものすごくその時「なんか怪奇漫画ってウケる」と思って
三上:
関西っていうのもあるのかな
サービス精神っていうか 人が反応してくれることが嬉しいいっていうか
美内:それは舞台役者も同じじゃないですか きっと 多分
三上:そこは言いたくないなw ほんとそうですよね やっぱり「生きがいの創造」
美内:いい言葉ですね
三上:やっぱり他者のためにためにじゃないけど、他者とともに
美内:そう 喜んでくれるのが嬉しい
三上:ホラーとかってインパクトがあるから、食いつきがいいですよね
美内:
ホラー描いて面白かったのは、どういう画面の見せ方をすると読者が怖がってくれるか
どうハラハラしてくれるかとか、描きながら学んだ気がします
三上:そこで白目が生まれるわけですか(爆笑 どうしても可笑しいんだねw
●「花とゆめ」新年第1号 1976年 「ガラスの仮面」連載開始
24歳の時 美内は一躍人気作家となる
以来40年以上 作品を描き続けている そのアイデアの源はどこにあるのか?
三上:発想ですよね お話っていうのは あまり絞り出すことはしない?
美内:
発想を絞り出すとろくなことにならない 全然面白くない
自分の胸の中の漫画の神様が「YES」と言ってくれない
絞り出さないほうがいいですね 自然にしているほうがずっといい
三上:儀式めいたことはあるんですか? 喫茶店行くとか
美内:喫茶店巡りはあります
●美内の発想法 喫茶店巡り
美内:
喫茶店を転々と移って行ったりとか
お気に入りの喫茶店があって
昔、朝の7時半オープンで、晩の11時半に終わるんですけど 7時頃から待ってるんですw
早く開けてくれ、みたいに いい迷惑
開いた途端にどーんと入って 一番自分の好きな席に座って
気がついた頃には「お客さんもう閉店なんですけど」って言われて「すみません」
三上:最初にドーンって置くのは何なんですか?
●執筆時のアイデアノート
美内:
アイデアノートなんですけど 見てもわからないと思う(それは見たい!
ネームというか それになる前のものですから
文章で わーっとなることもあるけれども
それをこうやって喫茶店で黙々と描いていて
これをどーんと置いて、鉛筆出したりとかしながらやっているので
最初はコーヒーだなと分かっているのでコーヒーがやってくる
そこは本当にいい喫茶店で
編集さんとの打ち合わせもそのまま「何時に来ます」「じゃあここに来てください」
話をして帰っていかせる で、まだ続きをやってる
ということを毎日やってたんです 絵に入る直前まで
その喫茶店は潰れました 私みたいな客がいるからw
三上:寂しいオチがついちゃった 家でやることはないんですか?
美内:
仕事場でやることももちろんあります 家に入る直前までは喫茶店が多いです
何か群衆の中の孤独っていうのが一番やりやすい(星野源くんみたい
三上:
僕は作業的には生み出す作業ではないけれども セリフを入れなければいけない
僕は某チェーン店に行くんですけど そこにずっといてブツブツブツブツ
一番入るんです なんでか分かんないですよね
やっぱりざわざわしていて、無視してくれて
美内:ある種の適度な緊張感もある
デビュー以来、順調にキャリアを積み 漫画一つ筋の生活を歩んできた美内
(以前も NHK に出たことがあるのか
●自分がいないという状態
美内:
私も16でデビューして、10歳の時に漫画家になろうと思って
ずっと漫画を描いてきましたから
なんかこう 漫画家の生きがいというよりも
生きるために描いている 描くために生きているみたいなところがあって
30代になるちょっと前ぐらいまでは、自分がいないという状態だったんですよ
普通だったら、例えば女の子だったら
「私はこんなブランドの服が好きだわ」とか「こういうバッグが好き」とか
「食べ物はこんなのが好き」とか、趣味とかあるじゃないですか 何もないんです
アシスタントが出してくれるものを食べている 片手で食べられればいい
別に着たいものもないし、好きなものも何もない
引っ越しをして「どんなインテリアにしますか?」
「まあ使いやすければいい」みたいな感じでいたので
自分というものが何も無い状態で ただ描く時に初めて生きられるみたいな
三上:30から変わってくるわけですか?
美内:ちょっとずつ変わってくるんですよね
三上:それは創造的なことですか?
美内:
やっぱり周りが変わってくるのと 結婚したのが一番 大きいかも分からないですね
何でこの人怒ってるんだろう 怒る理由は何なんだろう
それでだんだん現実に目を向け始めたということかもわからない
三上:
結婚は究極ですよね 向き合わざるを得ない
大抵の関係はちょっと逃げればいいけど 逃げられないものねw
僕は分かんないですけど そういうところで 考えさせられることは多い
美内:
夫婦喧嘩は派手だった
うちは主人がシャウトするんだけれども
私はなぜこの人はこんなに怒っているんだろう
よく分からないというような状態があったんですけど
(一般的な夫婦像の逆みたいな
三上:それは余計ムカつきますねw
美内:
そうですよね でも何年かしてから これ、すごく理不尽なことを言われてると思って
このままじゃダメだ このテンションに対して どう私は訴えればいいんだろう
この人、自分のテンション分かってないから この人と同じテンションでやろうと
ドドドとやり始めて・・・快感w あ、これって快感 自己解放!
(「セーラー服と機関銃」のモノマネ!w
主人は唖然としてたんですけど
応戦してくるんですけど その倍のエネルギーで応戦して
面白いなと思うのは、男の人って持続力がないんです
怒り続けて1時間、2時間、3時間も怒鳴っているエネルギーがない
女性はなんぼでも 1時間でも2時間でもやり続ける
だからだんだん分かってきた
主人が何か言いかけて、黙って行くという状況がちょっと続きました
なんかそういうことがあって 違う自分も発見したりとか
色々あったので それはそれで 生きてるって面白い 人間って面白い
●幻の名作「紅天女」
現在、最終章に突入したガラスの仮面(50巻で完結!?
美内はその執筆に励んでいる
マヤは、宿命のライバルとその主演の座を争う厳しい稽古を積んでいる
戦乱の世 梅の木の精と、ひとりの仏師の悲恋を描いた「紅天女」
主人公たちが役柄をいかにつかむのか 「ガラスの仮面」50巻をファンは待ち望んでいる
三上:完結させないと(あ、ゆっちゃった
美内:言われてしまった お待ちくださいw
三上:それは 自分の中で無理くりしたくないというか
美内:
やっぱりこだわりが大きいんですよね、すごく
今ここでちょっと変なことを描いちゃったら もう取り返しがつかないので
すごい慎重になっているということと
(そりゃそーだよね ここまで引っ張ってきたんだし
三上:でも「紅天女」もクリアしたんじゃないですか?
美内:
まだこれから色々あるんです
紅天女のセリフがあるんです
つまり人間がすごく愚かなことをするから、怒りで何とかしてやろうと
そういう女神の怒りみたいなものが言葉になっちゃった
主人公たちがそこを掴まないと、本当に紅天女はできない
それを稽古として描けない、今は っていうのでちょっと葛藤してます
●オペラ「紅天女」オーディション
実は、来年 この「紅天女」は、オペラとしても上映される
美内も脚本を始め、その制作に関わっている
(「ガラスの仮面」じゃなくて「紅天女」をオペラ化するんだ
●舞台を観るのも大好き
美内:
私は自分でお芝居したことはないんですけど、観客のプロだとは思ってるんです
本当に気に入った芝居は、初日から楽日まで全部チケットを買って
仕事を抜け出して観に行って
今まで本当に家が何軒も建つくらい劇場につぎ込んで観ていたので
一番嬉しいのは、役者さんって舞台の板の上で生きている姿を見せている
その生き様みたいなものを必死になって生きている
これだけ私は真剣にやってますっていうエネルギーがあって
それがその人の生命力みたいなものとして発散されているので
それをドーンと受けて、元気になって帰ってくる
三上:負けまくってますよ それが“循環”なので
美内:
だから元気になれるという感じがすごくある
エネルギーチャージするために舞台に行くというか
「ガラスの仮面」をこれだけ読んでいただいて
どういうシーンが気になったとか、気に入ったとかは?
三上:僕ね やりたい役があるんですよ 当ててw
美内:黒沼龍三さん?
三上:全然違う まだ僕のことが分かってないなw
美内:なんだろう まさか速水真澄?(まさかってw
三上:違う やっぱり分かんないものですかね 一発で分かるんじゃないかな 紫織(は?
三上が演じたいというのは鷹宮紫織
大手芸能事務所の社長・速水真澄の婚約者
しかし、ある時、紫織は速水が密かにマヤに想いを寄せていることに気づき
嫉妬に駆られ、次第に壊れていくのだった
こんな激しい顛末なんだ 知らなかった/驚
美内:なんとなく納得
三上:
後半に出てくる そんなに大きな役じゃないですよね
ただ濃度がすごく濃い 華がある
やっぱり役者って意地汚いので、自分の見せ場がないと嫌なんです
そういう意味では これやったら面白いな 紫織やりたいな
●脅迫メール
美内:
紫織はめちゃくちゃ人気がないんです
読者からの脅迫の手紙とかメールが来る
紫織がマヤに対して何か意地悪すると
メールの赤文字で「バカバカバカバカ×∞」「はい削除」
別の時に「あなたはもう 漫画家をやめなさい これ以上読者を困らせてはいけません」
「はい削除」(怖いファンだなあ・・・
三上:すごい難しいよね 生きがいの創造が どこに向けて描けばいいんだよって
美内:
読者は、自分たちの思い描いているストーリーの未来があって
それに反する事を作家がすると怒るんです
三上:そこでどうやって折り合いを?
美内:
それは「もっと先まで見てください」ていうことなんです
今のエピソードは、その先に起きるエピソードの伏線であったり
先のエピソードが効果的に見えるように、今これを描いているんです
というのがあるんだけど この段階でクレームがガンガンくるんです
三上:そこで潰れちゃう作家さんもいっぱいいるでしょう?
美内:
いるかもわかんないですけど 私は無視します
無視って何かっていうと それはある意味
「大丈夫 先まで読んでくれると分かるから」ていうのが内心あって
それは言えないんですけど
三上:
そういう意味では もちろん作る上では“想像力”って絶対 ものすごく大事だけれども
受け手にも想像力が必要ですね
美内:もちろんそうです 本当にそうです
美内:
色んなタイミングもあったと思うんですけど
役者を一生仕事にしていくっていう風に心を決めたんですか?
スタッフ:その話は、後半にとっておいてくださいw
三上:今しゃべる気満々だったのに!
美内:ごめんなさいね 話の流れで
*******SWITCH
美内が向かったのは NHK の収録スタジオ
三上:こんなとこですいません よく来られますかこういうところ?
美内:いや、そんなに来ないんですけど 前に来た時に写真をいっぱい撮ってw
NHK大河ドラマ「平清盛」(2012) 鳥羽上皇役
混沌とした時代に翻弄される姿を、時に儚く、時に壮絶に演じた まさに三上ならではの怪演
●自分のルーティンを止める
美内:
三上さんはとにかくたくさんいろんな役があったと思いますけれども
ご自分でこれは印象に残ってるとか これは役作りに苦労したとか
そういう役に対する想いみたいなのはありますか?
三上:
どっちかというと僕は自分に近づける役者ではない
どこで教わったメソッドでも何でもなくて
まずは新しい役を頂いて そっから始まるんです
来月撮りますよ 1ヶ月準備がありますよという時に
自分のルーティンを止めるんです
毎朝紅茶を飲むんだったら、コーヒーにかえるとか 自分がなんだか分からなくさせる
その間は好きな本も読まない、映画も観ない 全部遠ざけて
このクッキーポットみたいな体から 中のクッキーを出していくわけです
美内:似てるなー! 本当にそうなんです、私も だから何もない
三上:
結局この体を使わなければいけない これを残しつつ中身だけを出していって
その間に洗脳みたいに台本を読み続ける
実在の人物を演じるときは書簡集が面白い
読み続けて どんどん下からたまってくるんです
外側はちょっと違うんだけれども、表情が近くなったり
●同時並行で仕事ができない
三上:
普通は2、3日空いていれば、次の違う仕事を入れつつやっていくのが普通なんでしょうけど
僕はもうどっぷりなんで、きっちりさよならしてから また空けて、次に
美内:
それだけ思いを込めて役をやってると
仕事が全部終わっても余韻がなかなか抜けないですよね しばらく引きずるでしょう?
三上:
テレビドラマのロックスターをやってて
傍若無人な兄貴みたいなキャラクターで それをやってた時に
疲れてたんですよね 「おはよう」ってスタジオの扉を蹴って入ってたんです
それを自分で、今のは誰だ? そのぐらい乗っ取られちゃう
●幼少期
三上は、自営業の父、女優の母の元 東京に生まれた 将来の夢は 高給取りのサラリーマン
そんな現実的な子どもながら 繊細な一面もあった
美内:子どもの頃から旅が好きってどうしてですか?
三上:
それは、役者を始める前の話で
中学生の時 朝、地下街を通って駅に上がってくんですけど 宝塚の階段みたい
一人で上がってた時に 周りに人がバーッといるでしょう 同じ方向を向いて
バッと立ち止まったら、ザアーーーっと人が追い越して 同じ方向に向かって
おかしいぞ 振り返って 階段の途中で 「帰ろう」
(とても同感 いち抜けたって感覚
道を戻って、家に帰って 共働きなので家に誰もいないので、制服脱いで、メモに
「これは家出ではありませんので 旅なので 一週間後に帰ってきます 心配しないでください」
と書き置きをして 初めて中学2年の時 2月に雪の日本海を見に行って そこから旅が始まった
美内:行って 感動して帰ってきたということですか?
三上:
誰かと喋りたくなって帰ってくるんです
それまでの日常が嫌で出て行ってるのに 恋しくなって帰ってくる
で、またまみれると旅に出る ということを繰り返していますね
●「草迷宮」(1979)
15歳の時 映画「草迷宮」でデビュー
友人にオーディションを勧められたことがきっかけだった
なんだか妖しくて面白そう
監督は劇作家の寺山修司 この映画との出会いが三上の人生に大きな影響を与えたと言う
美内:15歳でデビューして その時の感覚ってどうでした?
三上:
中学校の春休みに『エクソシスト』(!)を観に行ったりとか
『ゴジラ』を観に行ったりとかするぐらいの子どもだったので
文化というものを何も知らないですよね
役者って何だってことも分かんないし
何をしていいかも分からないって時に 訓練をするわけですけど
寺山が本番になると
「向こうから3歩歩いて 右向いて 3歩歩いて 左向いて
こっちまで歩いて来ればいいから はい、よーい スタート」
それだけなんです 何も分かんない
で、出来上がった映画を観てみたら、探してるんだ そのぐらいレベルが低かった
だからよちよち歩きから始めた
それからアート映画みたいなのにいくつか出てるんです
20歳の時に母親が死ぬんですけど その時もう闘病してたので
「どうすんのこれから」
「役者どうしようかなーと思って でも役者で食えるとは思えないし 高給取りのサラリーマンになりたい」
「役者やるのは構わないけど 性格俳優にだけはなっちゃダメよ」て母親が言って死んでいくんです
亡くなってからすごく考えますよね どういうことなんだ
その後ろにはいろんな話があって 母親が売れない役者だったりとかする背景があるんですけど
その時に多分言ってることは、こうやってアート映画とか
すごく魅力的なものをやってるかもしれないけど、それは置いといて
「もっと多くの人に名前と顔を知ってもらいなさいよ その上で選んでいきなさいよ」
っていうことかなと思って
そこからがむしゃらに 不本意ながらやるわけです
自分のことはさておき、これは世の中の人が喜んでくれそうだなっていうことを
美内:
世の中の人が喜んでくれそうだなこの作品はっていうのは何かありますか、自分の中で?
三上:
当時はあまり思わなかったんですけど そういう気持ちでやったのは
映画『私をスキーに連れてって』
自分がやりたい役というよりは 皆さんが喜んでくれるのかな 爽やかぶってw
20代 人気映画やドラマの出演が続いた三上
しかしその中でも独特な存在感を放った
ドラマ「あなただけ見えない」(1992) 三重人格の男を演じる
人格の一つは女性 しかも凶悪な人物という設定
一つのイメージに安住することなく 三上は挑戦を続けた
美内:三重人格の役を昔やられてて
三上:
最初はね まぁ一応二枚目のカテゴリーで仕事をしてたつもりなので
台本見たら「明美よ」w 明美出てきちゃったなと思って
僕なりのアプローチで メイクもしたいですよね
これを普通に薬局に行ってメイク道具を買ってやったら面白くないじゃないですか
だからその辺のもので化粧する 絵の具で白くガーって塗って、紅をさして
一つずつ作っていくと 面白いんですよ
世の中的には、さっきの赤文字で「死ね死ね」って書いてくるような人たちが
「気持ち悪い」とか「大嫌い」とかトラウマになった人たちがいるっていう
若くして亡くなった天才詩人・中原中也を演じたドラマで
三上は俳優としてひとつの本質をつかむ
三上:
中原中也が20代後半ぐらいの時
それまでって、方法としては、家で台本を読んで覚える セリフは入った
じゃあここは、急須からカップにお茶を入れながら
1つずつ決めてたんです 全部シミュレーションして
この言葉の動作を釣り合わせてやってたんですけど
ある時、中原中也が親友に彼女を取られて泣き崩れた時に
その慟哭している中で「汚れちまった悲しみに」
っていう詩が2分ぐらい流れるカットなんです
「フリーで慟哭を表現してください
カメラは正面の縦、 横から二つ入れてあるから、どこに動いてもいい
あかりも全部作るから 好きにセットを使って 1日猶予をあげるから」って言われた
その時にどうしようと思って、一晩考えたんだけど 朝が来て
もう行かなきゃいけないって時まで答えが出なかったんです
セットも見ずにボーンと飛び込んでダーーーっとやって気付いたら
セットの中の樽をずっと叩いてました その時に役が生まれたんです
美内:すごいですね ぶっつけ本番で ノープラン
三上:
その時の感情の赴くままに 気が付いたら樽は投げてるわ すごい状態になって
そこからそういう感情的なマックスのシーンはフリーにしてもらうことにした
監督に「ここはこのアングルとか決めないで 僕は何が出てくるか分からないので
それに対応するようなことにしていただけますか」
だいたい一つか二つはそういうシーンを作ってもらってます
美内:だから 怪優というか怪演 何が出てくるか分からない
三上:僕も分かんないんです
美内:それ描きたかったなあー もう遅いですけど マヤのエピソードで
●40歳の時、舞台に立つ
映画やドラマで活躍してきた三上
しかし30代になると俳優を続けることに迷いが生じる
そんな時、三上の転機となったのは40歳の時、舞台に立ったことだった
魔術音楽劇「青ひげ公の城」(2003)
美内:舞台に出る前にちょっとした不安とか何もなかったですか?
三上:
寺山修司という人は、映画も作っているけれども
僕は映画として出会ったんですけれども、演劇もやってて
先輩達があまりにもカッコよかったんで 当時の天井桟敷とか
僕は子どもながらに「あそこになぜ僕は出ないんですか」って聞いたわけです
そしたら寺山さんが「お前は映像要員 舞台には向いていない」って言ったんです
なので僕は向いてないんだなと思ったから
それからずっといろんな仕事をしてきた中で舞台はやらないんだと思ってたんです
テレビ、映画をやってたんですけど
30代が来て疲れちゃって 限界を感じて 役者自体をやめますと
役者って一人でできる仕事じゃないですよね 路上で歌うわけにもいかないし
場があってこその仕事だから お座敷あっての芸者みたいなもので
これがどんどん先細っていくだけだと思ったので、ここで止めておいたほうがいい
って準備をしていた 建築の学校へ行こうかとか
その時、昔の仲間たちが寺山さんが亡くなってもう20年
「没後20年で昔の作品を再演するからそれにお前出ろ」と
いや実はね、こう言われたので僕は舞台は出ませんって言ったんですけど
「もう亡くなってるし 出ろ」と じゃあ最後に出ようかな それがちょうど40
ここに演じる場所があるじゃないか!と思ったんです
そこからもう映像はいいから演劇だけにしようと思って
例のごとくいつも僕は旅に出てるんですけど
アメリカを旅してた時に、すごく小さな田舎町であれが上映されてたんです
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(2004)
上演されていたのは、ロックミュージカル
性転換したロック歌手が愛を求めて歌い叫ぶ物語だった
作品に入れ込んだ三上は、日本で上演を実現 自ら主役を演じた
この経験が、さらに演じることへの思いを強くさせた
三上:
15ドルで僕見たんですけど うわーと思って
自分は音楽もやってるんだけれども 自分のテイストとすごく合ってたんです
この曲歌いたいなと思って、帰ってきてすぐ演劇関係に相談したら
すぐやろうということになって 日本で上演になった
美内:
15ドルである種、自分の名作になるものを手に入れた
出ずっぱりの喋りっぱなし 歌ってない時は喋ってる 演技してるって感じだから
これ体力よく持つなと思って
三上:
もうぎりぎりの状態でやってた
10cm以上のヒールを履いて、26曲ぐらい歌って、羽が生えたみたいに自由だった
何のストイックさもないぐらいに
美内:やっぱり合ってたんでしょうね 役と何か自分がピタッときたと言うか
三上:
最初はそんなに大きな劇場ではなかった 500ぐらいで
隅まで届けられるんですよ 最高の大きさですね
あそこのあの人に届け 全部に届けたいっていう すごい幸せな
美内:その意識自体も素晴らしいですね 「捧げたい」ですね
三上:その瞬間、届いたかどうかわからないけど 本当に喜びとなり生きがいとなる
美内:だって自分が生きてる証が返ってくるわけですからね
三上:そうなんですよ ここにいていいんだっていう
●俳優になって40年 心境に変化
時に自分を失くし、芝居にのめり込んで来た
しかし現在その心境に変化が起きているという
美内:
あのロックスターの出ずっぱりのあれと同じ人
このものすごい人格ギャップみたいなのがあって
三上さん自身が一体何重人格?!みたいな
三上:
そういうものも、ものすごく緻密にメディアへの露出を計算してきたつもりなんです
10代の頃、20代の頃はなるべくバラエティに出ないようにしたりとか
最も危険なのはクイズ番組だと思ってたんですけど
勝気なので、出たら本気でボタンを押しそうで
それを見せちゃうと、この人の印象がすごく強くなっちゃう
美内:
それよく分かる そうなんですよ
私もそうなんですけど あんまり自分が出るものには出たくない
私はいないものだと思ってくださいという
三上:
その物語を楽しんでもらいたいのに
じゃあ僕がアイドル歌手の誰かと結婚してる人間だったとしたらそれも入っちゃう
それさえも外したかったというのがあって、今までは来たんですけど
最近どうでもよくなってきちゃってw
もういいか こうして本当に素で喋って これが一番強いんだ
ある種の自信みたいなものはできたのかなと思うんです
ちゃんとヘドリックのあんな化け物みたいな役を全うできたりとかしたことによって
素でいる時間があっても、皆さんの前に出てるとしても
それはそれと理解してもらえるかなと思ったんです
美内:全部解き放たれたっていう感じですよね
三上:
ダダ漏れだなと思ってw
二十歳の時に母親も亡くし、寺山さんも亡くなった
そんなにいろんな話をしたかったけれども
「これから世の中に出てくる時に 世の中のイメージってものがあるだろう
お前笑うな、人前で」ってずっと寺山さんに言われてましたね
「やっぱり男はどっか陰がなきゃダメだ」とか
美内:今日いらした時、満面の笑みでしたもんねw
三上:
だからもうないんですよ
どうなのかなと思ったんですが 言いつけを守ってないなとか
それは謎めいていなさいよとか、お客さんの想像力を使う余地を
残しておきなさいよとか そういうことだと思うんですけど
ちょっと時代も変わってきたかなと
美内:確かにそうですね 今を生きる
三上:
だからそんなに無理はしてないですね、今は
すごい野放しなんです 見苦しいですか?
美内:いいえ全然
●映画『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』
そんな三上の最新主演映画
なんと隠しカメラの映像で物語が進行する
ラブホテルの一室に一癖も二癖もある人物たちが入り乱れる
40分ワンカットという実験的な手法や、個性的な俳優たちとの共演
三上は存分に演じ、映画を楽しんだ
美内:
ラブホテルの映画、面白かったです 本当に面白かった!
まずびっくりしたのはカメラワーク 同じところで40分ワンカット
なんか変な話ですけど、お客さんが覗き見をしている感じなんです
三上:
ただカメラをポンと置いて、サイズも変わらなければ、動きもしない中のワンカットドラマ
アップを作りたかったら、そこまで寄ってくしかない
引きでやりたかったら後ろに下がれば良い
っていうということは、監督自身が役者なんです
役者のズルさ、脆さ、 強さ、儚さ、正体を全部分かってる
だから本当に小さな映画なんですけど、小さいからこそ込められることがある 燃えることとか
今のご時世 すごい世知辛いので、大きくなればなるほど不自由になったりとか
「それじゃあ、おまんまの糧にならないじゃない」って言われると
「そうですね 僕そこに興味ないんで」て言えちゃうぐらいに思わないとw
美内:あれは本当に 演技が上手い!!
三上:(爆笑)そんなに喜ばせても何も出ないですよ
美内:
本当にこういう人いるのねって感じで あんまりコミカルだから
でも、いやいや途中でいないよねって思いながら でもリアリティがあるんです なぜか
良いご縁をいただいてありがとうございます 何か別のところでいろんな話をしたい
三上:番外編が 山ほどありそうw
まさか美内すずえ先生がテレビ番組に出演するなんて夢にも思わなかった/感謝
※「マンガ感想メモリスト1」カテゴリー内【美内すずえ】に追加します
【内容抜粋メモ】
都内某所 なぜかダンボールを抱えて住宅街を行く俳優・三上博史
実はこのダンボールの中に、今回会う人物のヒントがある
●演劇漫画の金字塔「ガラスの仮面」(今いったい何巻目なんだ?
主人公は、演劇の天才少女 北島マヤ
彼女が女優として成長して行く姿をドラマチックに描いたベストセラー漫画
最新49巻まで読破した三上 「ガラスの仮面」を読んで感じたことは?
三上:
スポ根ですからね 役者なんてそんなものです
大体監督はドSです で、役者がいじめられると
「やってらんねーわ」とか言いながら、みんなやるっていうドM
でも、マヤちゃんってそんなMな感じはしないですよね
もしかしたら、先生の中でMの要素があんまりないのかもしれない
●漫画家 美内すずえ
三上が会いたいのは「ガラスの仮面」の作者美内すずえ
作品はこれまで何度もテレビドラマや舞台になり、多くの俳優たちの心を掴んできた
この実写版笑ったな 姫川亜弓の人間椅子とか
演劇世界を独自に掘り下げてきた美内に三上が聞きたい事は?
バリバリ現役で描いていて、本当に嬉しい限り
でも先生、私は「アマテラス」の続きがどうしても読みたい!!
三上:
自分を映す鏡みたいな人に出会ってみたいというのがあって
すごく客観的に僕のことを見てもらって
美内さんはきっとたぶん、すごく面白いことを話してくれそうな気がしたので
会いに行くぜ イエーイ!
向かったのは、美内が夫と共に営むカフェ(え、ここに行けば会える?
・カフェ デゥ クレプスキュール 吉祥寺店
吉祥寺かあ 漫画家は吉祥寺が好きなのか?!
次の「SWITCH インタビュー」は大島弓子さんもお願いします 出ないか
ドアを開けるとすぐにいて、爆笑しながら入る三上
三上:お会いしたくて、お会いしたくて ずっとこの日を待ってました よろしくお願いします
美内:何ですかこれ?
ダンボールの中は「ガラスの仮面」全49巻
三上:全部 読破しました
美内:重たかったでしょw
舞台の上で輝く俳優と、演劇を描いてきた漫画家 二人が見つめてきたものは何か?
●仮面をつける 仮面を描く
「ガラスの仮面」 49巻 現在、総発行部数 5000万部を超えるという
美内:すごいですね これだけ一気に読まれたんですか?
三上:堪能させて頂きました 本当にすごいですね 歴史が詰まっているというか
美内:
1976年の正月号から連載が始まった
24歳になって新連載をやろうということになった時に
すごく天才性を発揮するんだけれど、それ以外はコンプレックスの塊
みたいな子を描こうと思って、編集長といろいろ
「じゃあどんなのにしましょうね」とやってた時に
編集長が「演劇なんてどう」って言ってくれて
それはいいな それにしようと思って、そこからスタートなんです
主人公の北島マヤは、一見何の取り柄もない平凡な少女
ある時、往年の大女優・月影千草がその才能を見抜く
マヤは、たった一度だけ観た芝居を千草の前で完璧に演じてみせた
マヤは千草のもと、幻の名作「紅天女」を演じることを目指す
宿命のライバル 姫川亜弓 2人は様々な舞台で競い合う
嫉妬や妬み、次々に降りかかる試練 それでもマヤはくじけない
演劇に全てを賭け、激しく一途に生きる少女を描く大河ロマン
これは「ヘレン・ケラー」の時だっけ?
三上:
聞いてみたいのは 僕はあんまり疎いんですけど
一人で考えて、一人で作画する 完成させるということでいくと どの作業が一番好きですか?
美内:やっぱりアイデアを練ってる時が結構好きですね
三上:同時に絵とかも出てくる?
美内:
もちろん 一緒にコマ割りも
小説家の方が文章でストーリーを考えるように 絵で考えるんです、物語を
一番面白いのは、なかなかアイデアが出なくて
色々落書きしながら絵のことを考えたりするんですけど
ふと、漫画のストーリーに全然関係ないとんでもないワンシーンがボンと浮かんだりするんです
三上:これ、どこにはめるピースなのっていう?
美内:
そう、それがすごく面白いから この絵を使うために これに向かって物語を作ろう
そうするとこれを使えるわけです
例えばこんな一枚 マヤが舞台上で、なんと泥まんじゅうを食べている
この1枚を描くために作ったストーリーは
まず芸能界入りしたマヤがスキャンダルを起こして追放寸前となる
そんなマヤに共演者たちが嫌がらせをする
心身ともに疲れ果て、俳優をやめようと思っていたマヤだが
舞台で追い詰められ、役が乗り移ったかのごとく
泥まんじゅうを平然と食べ始めるのだ 「ガラスの仮面」 名場面の一つ
美内:
あのシーンが最初に浮かんで どうやったらこのシーンを描けるだろうと
芸能界を失墜させて、どんどん落とし込んで、ここに持ってきた
マヤが復活する時に、これが一番いいなと思って
芸能界に入るまでが結構長いんですけど
たったこの一枚を描きたいために延々と描いていたというような感じです
さらにこのシーン 舞台で人形を演じることになったマヤ 注目は稽古法
なんとマヤは体中に物干し竿を巻きつけている(ちょっと笑えるw
美内:
全部の動き、セリフ、表情を封じられた役をやらせたいと思った
何か連載していて、ここでこういうものを出したら読者がびっくりするだろう
こういうものを描けば興味を持ってくれるだろうか、という風に意識がシフトしていくので
三上:物干し竿にもっていくところが(爆笑
美内:
あれが漫画なんです
やっぱり漫画としての視覚効果を狙いたいので
実際にこんなことやったら大変なことになると思うんだけれども
それはそういう風に描いちゃう
●白目
特に、三上が気になったのは登場人物が時折白目になること
三上:
目の表情ひとつで本当に変わる だから白目になった時は緊迫感が漂う
マヤだけかと思ったら、みんなも白目(爆笑
美内:
白目になるのは、例えば役になりきった時、緊迫の瞬間、心が壊れたとき
あえて目の表情を描かないことで、登場人物の心情がより強調される
(これは「狼少女」の時か?
三上:
僕らが演じる時に、目に意思をなくすときがある
力が入らない時とか 呆然とした時とか、目に意識がいかなくなる時がある
そういう時の白目 白目の効果って、思いが強すぎる時に使われるじゃないですか
そういうのもありなんです だから手に取るように分かる 目は命です
それが寄り目だと強すぎちゃうので
ものすごい引きの時とか、全身が入ってるんだけど
目がガッといってるのか、落としてるのかとで全然違う
今聞いて思ったんですけど 、職人としてのプライドというか充実度というか
それはきっと多分 20代後半に多分あったんだろうなと
●「漫画の神様」からのダメ出し
美内:
それはバリバリありましたよ 漫画家になった段階から
どうやったら読者に喜んでもらえるかっていうのが常にあって
何が描いてて面白いなと思うのは、私赤ちゃんの頃から物語の世界が大好きだったんです
だから日本昔話を話しながらいとこが寝かしつけてくれたり
その話が始まると、桃太郎がその後どうなったのか気になって眠れない
文字を覚え始めた時から漫画に夢中になり そうやってずっと来てましたので
どうも胸の奥のほうに、勝手に自分で言ってるんですけど
「漫画の神様」が住んでいる
自分がこれが面白いだろうと思って
頭の中で色んなアイデアを考えるんだけど、 漫画の神様がダメ出しをするんです
え? これ面白くないんだ なんかワクワクしてこないんですよ
三上:
それはどの段階でも?
設計図の段階でも、ネームの段階でも、作画の段階でもあるんですか?
美内:
アイデアの段階ですね
アイデアが同じワンシーンを3つぐらいストーリーを作って編集さんに聞く
「どれが面白いですか?」「Aですね」「私はBがいいと思うんだけどな」
と葛藤が始まる 最終的にやっぱりどれをやってもワクワクしてこない
となるとこれは全部ボツになる もう一遍やり直しって感じで
ただダメ出ししてくれるこれは一体何なんだろうと思った時に
子どもの頃夢中になっていた、読者だった自分がここにいると思った
読者だった自分が「このアイデアじゃ面白くないよ」ってダメ出しをしている感じです
●幼少期
1951年 大阪生まれ
幼い頃から貸本屋に入り浸り、1日10冊以上読みふけるほど漫画が大好きだった
小学校5年生の時に描いた漫画が友人達に大いにウケ、漫画家を志すようになる
1967年 漫画家デビュー 「山の月と子だぬきと」
高校在学中16歳で投稿した作品が認められ 漫画家デビュー
その後ホラーやファンタジーなど様々な作品を描き始めた
「妖鬼妃伝」の単行本の表紙画初めて見た これは名作
●ホラー作品も多い美内 そこに作家としての原点がある
三上:美内さんって絶対ホラーだなと思った 根っこが 変な言い方ですけど
美内:
中学2年生の時かな 初めて漫画でノートにホラーを描いたんです
そしてクラスに読ませたら、これが大ウケだったんです
ものすごくその時「なんか怪奇漫画ってウケる」と思って
三上:
関西っていうのもあるのかな
サービス精神っていうか 人が反応してくれることが嬉しいいっていうか
美内:それは舞台役者も同じじゃないですか きっと 多分
三上:そこは言いたくないなw ほんとそうですよね やっぱり「生きがいの創造」
美内:いい言葉ですね
三上:やっぱり他者のためにためにじゃないけど、他者とともに
美内:そう 喜んでくれるのが嬉しい
三上:ホラーとかってインパクトがあるから、食いつきがいいですよね
美内:
ホラー描いて面白かったのは、どういう画面の見せ方をすると読者が怖がってくれるか
どうハラハラしてくれるかとか、描きながら学んだ気がします
三上:そこで白目が生まれるわけですか(爆笑 どうしても可笑しいんだねw
●「花とゆめ」新年第1号 1976年 「ガラスの仮面」連載開始
24歳の時 美内は一躍人気作家となる
以来40年以上 作品を描き続けている そのアイデアの源はどこにあるのか?
三上:発想ですよね お話っていうのは あまり絞り出すことはしない?
美内:
発想を絞り出すとろくなことにならない 全然面白くない
自分の胸の中の漫画の神様が「YES」と言ってくれない
絞り出さないほうがいいですね 自然にしているほうがずっといい
三上:儀式めいたことはあるんですか? 喫茶店行くとか
美内:喫茶店巡りはあります
●美内の発想法 喫茶店巡り
美内:
喫茶店を転々と移って行ったりとか
お気に入りの喫茶店があって
昔、朝の7時半オープンで、晩の11時半に終わるんですけど 7時頃から待ってるんですw
早く開けてくれ、みたいに いい迷惑
開いた途端にどーんと入って 一番自分の好きな席に座って
気がついた頃には「お客さんもう閉店なんですけど」って言われて「すみません」
三上:最初にドーンって置くのは何なんですか?
●執筆時のアイデアノート
美内:
アイデアノートなんですけど 見てもわからないと思う(それは見たい!
ネームというか それになる前のものですから
文章で わーっとなることもあるけれども
それをこうやって喫茶店で黙々と描いていて
これをどーんと置いて、鉛筆出したりとかしながらやっているので
最初はコーヒーだなと分かっているのでコーヒーがやってくる
そこは本当にいい喫茶店で
編集さんとの打ち合わせもそのまま「何時に来ます」「じゃあここに来てください」
話をして帰っていかせる で、まだ続きをやってる
ということを毎日やってたんです 絵に入る直前まで
その喫茶店は潰れました 私みたいな客がいるからw
三上:寂しいオチがついちゃった 家でやることはないんですか?
美内:
仕事場でやることももちろんあります 家に入る直前までは喫茶店が多いです
何か群衆の中の孤独っていうのが一番やりやすい(星野源くんみたい
三上:
僕は作業的には生み出す作業ではないけれども セリフを入れなければいけない
僕は某チェーン店に行くんですけど そこにずっといてブツブツブツブツ
一番入るんです なんでか分かんないですよね
やっぱりざわざわしていて、無視してくれて
美内:ある種の適度な緊張感もある
デビュー以来、順調にキャリアを積み 漫画一つ筋の生活を歩んできた美内
(以前も NHK に出たことがあるのか
●自分がいないという状態
美内:
私も16でデビューして、10歳の時に漫画家になろうと思って
ずっと漫画を描いてきましたから
なんかこう 漫画家の生きがいというよりも
生きるために描いている 描くために生きているみたいなところがあって
30代になるちょっと前ぐらいまでは、自分がいないという状態だったんですよ
普通だったら、例えば女の子だったら
「私はこんなブランドの服が好きだわ」とか「こういうバッグが好き」とか
「食べ物はこんなのが好き」とか、趣味とかあるじゃないですか 何もないんです
アシスタントが出してくれるものを食べている 片手で食べられればいい
別に着たいものもないし、好きなものも何もない
引っ越しをして「どんなインテリアにしますか?」
「まあ使いやすければいい」みたいな感じでいたので
自分というものが何も無い状態で ただ描く時に初めて生きられるみたいな
三上:30から変わってくるわけですか?
美内:ちょっとずつ変わってくるんですよね
三上:それは創造的なことですか?
美内:
やっぱり周りが変わってくるのと 結婚したのが一番 大きいかも分からないですね
何でこの人怒ってるんだろう 怒る理由は何なんだろう
それでだんだん現実に目を向け始めたということかもわからない
三上:
結婚は究極ですよね 向き合わざるを得ない
大抵の関係はちょっと逃げればいいけど 逃げられないものねw
僕は分かんないですけど そういうところで 考えさせられることは多い
美内:
夫婦喧嘩は派手だった
うちは主人がシャウトするんだけれども
私はなぜこの人はこんなに怒っているんだろう
よく分からないというような状態があったんですけど
(一般的な夫婦像の逆みたいな
三上:それは余計ムカつきますねw
美内:
そうですよね でも何年かしてから これ、すごく理不尽なことを言われてると思って
このままじゃダメだ このテンションに対して どう私は訴えればいいんだろう
この人、自分のテンション分かってないから この人と同じテンションでやろうと
ドドドとやり始めて・・・快感w あ、これって快感 自己解放!
(「セーラー服と機関銃」のモノマネ!w
主人は唖然としてたんですけど
応戦してくるんですけど その倍のエネルギーで応戦して
面白いなと思うのは、男の人って持続力がないんです
怒り続けて1時間、2時間、3時間も怒鳴っているエネルギーがない
女性はなんぼでも 1時間でも2時間でもやり続ける
だからだんだん分かってきた
主人が何か言いかけて、黙って行くという状況がちょっと続きました
なんかそういうことがあって 違う自分も発見したりとか
色々あったので それはそれで 生きてるって面白い 人間って面白い
●幻の名作「紅天女」
現在、最終章に突入したガラスの仮面(50巻で完結!?
美内はその執筆に励んでいる
マヤは、宿命のライバルとその主演の座を争う厳しい稽古を積んでいる
戦乱の世 梅の木の精と、ひとりの仏師の悲恋を描いた「紅天女」
主人公たちが役柄をいかにつかむのか 「ガラスの仮面」50巻をファンは待ち望んでいる
三上:完結させないと(あ、ゆっちゃった
美内:言われてしまった お待ちくださいw
三上:それは 自分の中で無理くりしたくないというか
美内:
やっぱりこだわりが大きいんですよね、すごく
今ここでちょっと変なことを描いちゃったら もう取り返しがつかないので
すごい慎重になっているということと
(そりゃそーだよね ここまで引っ張ってきたんだし
三上:でも「紅天女」もクリアしたんじゃないですか?
美内:
まだこれから色々あるんです
紅天女のセリフがあるんです
つまり人間がすごく愚かなことをするから、怒りで何とかしてやろうと
そういう女神の怒りみたいなものが言葉になっちゃった
主人公たちがそこを掴まないと、本当に紅天女はできない
それを稽古として描けない、今は っていうのでちょっと葛藤してます
●オペラ「紅天女」オーディション
実は、来年 この「紅天女」は、オペラとしても上映される
美内も脚本を始め、その制作に関わっている
(「ガラスの仮面」じゃなくて「紅天女」をオペラ化するんだ
●舞台を観るのも大好き
美内:
私は自分でお芝居したことはないんですけど、観客のプロだとは思ってるんです
本当に気に入った芝居は、初日から楽日まで全部チケットを買って
仕事を抜け出して観に行って
今まで本当に家が何軒も建つくらい劇場につぎ込んで観ていたので
一番嬉しいのは、役者さんって舞台の板の上で生きている姿を見せている
その生き様みたいなものを必死になって生きている
これだけ私は真剣にやってますっていうエネルギーがあって
それがその人の生命力みたいなものとして発散されているので
それをドーンと受けて、元気になって帰ってくる
三上:負けまくってますよ それが“循環”なので
美内:
だから元気になれるという感じがすごくある
エネルギーチャージするために舞台に行くというか
「ガラスの仮面」をこれだけ読んでいただいて
どういうシーンが気になったとか、気に入ったとかは?
三上:僕ね やりたい役があるんですよ 当ててw
美内:黒沼龍三さん?
三上:全然違う まだ僕のことが分かってないなw
美内:なんだろう まさか速水真澄?(まさかってw
三上:違う やっぱり分かんないものですかね 一発で分かるんじゃないかな 紫織(は?
三上が演じたいというのは鷹宮紫織
大手芸能事務所の社長・速水真澄の婚約者
しかし、ある時、紫織は速水が密かにマヤに想いを寄せていることに気づき
嫉妬に駆られ、次第に壊れていくのだった
こんな激しい顛末なんだ 知らなかった/驚
美内:なんとなく納得
三上:
後半に出てくる そんなに大きな役じゃないですよね
ただ濃度がすごく濃い 華がある
やっぱり役者って意地汚いので、自分の見せ場がないと嫌なんです
そういう意味では これやったら面白いな 紫織やりたいな
●脅迫メール
美内:
紫織はめちゃくちゃ人気がないんです
読者からの脅迫の手紙とかメールが来る
紫織がマヤに対して何か意地悪すると
メールの赤文字で「バカバカバカバカ×∞」「はい削除」
別の時に「あなたはもう 漫画家をやめなさい これ以上読者を困らせてはいけません」
「はい削除」(怖いファンだなあ・・・
三上:すごい難しいよね 生きがいの創造が どこに向けて描けばいいんだよって
美内:
読者は、自分たちの思い描いているストーリーの未来があって
それに反する事を作家がすると怒るんです
三上:そこでどうやって折り合いを?
美内:
それは「もっと先まで見てください」ていうことなんです
今のエピソードは、その先に起きるエピソードの伏線であったり
先のエピソードが効果的に見えるように、今これを描いているんです
というのがあるんだけど この段階でクレームがガンガンくるんです
三上:そこで潰れちゃう作家さんもいっぱいいるでしょう?
美内:
いるかもわかんないですけど 私は無視します
無視って何かっていうと それはある意味
「大丈夫 先まで読んでくれると分かるから」ていうのが内心あって
それは言えないんですけど
三上:
そういう意味では もちろん作る上では“想像力”って絶対 ものすごく大事だけれども
受け手にも想像力が必要ですね
美内:もちろんそうです 本当にそうです
美内:
色んなタイミングもあったと思うんですけど
役者を一生仕事にしていくっていう風に心を決めたんですか?
スタッフ:その話は、後半にとっておいてくださいw
三上:今しゃべる気満々だったのに!
美内:ごめんなさいね 話の流れで
*******SWITCH
美内が向かったのは NHK の収録スタジオ
三上:こんなとこですいません よく来られますかこういうところ?
美内:いや、そんなに来ないんですけど 前に来た時に写真をいっぱい撮ってw
NHK大河ドラマ「平清盛」(2012) 鳥羽上皇役
混沌とした時代に翻弄される姿を、時に儚く、時に壮絶に演じた まさに三上ならではの怪演
●自分のルーティンを止める
美内:
三上さんはとにかくたくさんいろんな役があったと思いますけれども
ご自分でこれは印象に残ってるとか これは役作りに苦労したとか
そういう役に対する想いみたいなのはありますか?
三上:
どっちかというと僕は自分に近づける役者ではない
どこで教わったメソッドでも何でもなくて
まずは新しい役を頂いて そっから始まるんです
来月撮りますよ 1ヶ月準備がありますよという時に
自分のルーティンを止めるんです
毎朝紅茶を飲むんだったら、コーヒーにかえるとか 自分がなんだか分からなくさせる
その間は好きな本も読まない、映画も観ない 全部遠ざけて
このクッキーポットみたいな体から 中のクッキーを出していくわけです
美内:似てるなー! 本当にそうなんです、私も だから何もない
三上:
結局この体を使わなければいけない これを残しつつ中身だけを出していって
その間に洗脳みたいに台本を読み続ける
実在の人物を演じるときは書簡集が面白い
読み続けて どんどん下からたまってくるんです
外側はちょっと違うんだけれども、表情が近くなったり
●同時並行で仕事ができない
三上:
普通は2、3日空いていれば、次の違う仕事を入れつつやっていくのが普通なんでしょうけど
僕はもうどっぷりなんで、きっちりさよならしてから また空けて、次に
美内:
それだけ思いを込めて役をやってると
仕事が全部終わっても余韻がなかなか抜けないですよね しばらく引きずるでしょう?
三上:
テレビドラマのロックスターをやってて
傍若無人な兄貴みたいなキャラクターで それをやってた時に
疲れてたんですよね 「おはよう」ってスタジオの扉を蹴って入ってたんです
それを自分で、今のは誰だ? そのぐらい乗っ取られちゃう
●幼少期
三上は、自営業の父、女優の母の元 東京に生まれた 将来の夢は 高給取りのサラリーマン
そんな現実的な子どもながら 繊細な一面もあった
美内:子どもの頃から旅が好きってどうしてですか?
三上:
それは、役者を始める前の話で
中学生の時 朝、地下街を通って駅に上がってくんですけど 宝塚の階段みたい
一人で上がってた時に 周りに人がバーッといるでしょう 同じ方向を向いて
バッと立ち止まったら、ザアーーーっと人が追い越して 同じ方向に向かって
おかしいぞ 振り返って 階段の途中で 「帰ろう」
(とても同感 いち抜けたって感覚
道を戻って、家に帰って 共働きなので家に誰もいないので、制服脱いで、メモに
「これは家出ではありませんので 旅なので 一週間後に帰ってきます 心配しないでください」
と書き置きをして 初めて中学2年の時 2月に雪の日本海を見に行って そこから旅が始まった
美内:行って 感動して帰ってきたということですか?
三上:
誰かと喋りたくなって帰ってくるんです
それまでの日常が嫌で出て行ってるのに 恋しくなって帰ってくる
で、またまみれると旅に出る ということを繰り返していますね
●「草迷宮」(1979)
15歳の時 映画「草迷宮」でデビュー
友人にオーディションを勧められたことがきっかけだった
なんだか妖しくて面白そう
監督は劇作家の寺山修司 この映画との出会いが三上の人生に大きな影響を与えたと言う
美内:15歳でデビューして その時の感覚ってどうでした?
三上:
中学校の春休みに『エクソシスト』(!)を観に行ったりとか
『ゴジラ』を観に行ったりとかするぐらいの子どもだったので
文化というものを何も知らないですよね
役者って何だってことも分かんないし
何をしていいかも分からないって時に 訓練をするわけですけど
寺山が本番になると
「向こうから3歩歩いて 右向いて 3歩歩いて 左向いて
こっちまで歩いて来ればいいから はい、よーい スタート」
それだけなんです 何も分かんない
で、出来上がった映画を観てみたら、探してるんだ そのぐらいレベルが低かった
だからよちよち歩きから始めた
それからアート映画みたいなのにいくつか出てるんです
20歳の時に母親が死ぬんですけど その時もう闘病してたので
「どうすんのこれから」
「役者どうしようかなーと思って でも役者で食えるとは思えないし 高給取りのサラリーマンになりたい」
「役者やるのは構わないけど 性格俳優にだけはなっちゃダメよ」て母親が言って死んでいくんです
亡くなってからすごく考えますよね どういうことなんだ
その後ろにはいろんな話があって 母親が売れない役者だったりとかする背景があるんですけど
その時に多分言ってることは、こうやってアート映画とか
すごく魅力的なものをやってるかもしれないけど、それは置いといて
「もっと多くの人に名前と顔を知ってもらいなさいよ その上で選んでいきなさいよ」
っていうことかなと思って
そこからがむしゃらに 不本意ながらやるわけです
自分のことはさておき、これは世の中の人が喜んでくれそうだなっていうことを
美内:
世の中の人が喜んでくれそうだなこの作品はっていうのは何かありますか、自分の中で?
三上:
当時はあまり思わなかったんですけど そういう気持ちでやったのは
映画『私をスキーに連れてって』
自分がやりたい役というよりは 皆さんが喜んでくれるのかな 爽やかぶってw
20代 人気映画やドラマの出演が続いた三上
しかしその中でも独特な存在感を放った
ドラマ「あなただけ見えない」(1992) 三重人格の男を演じる
人格の一つは女性 しかも凶悪な人物という設定
一つのイメージに安住することなく 三上は挑戦を続けた
美内:三重人格の役を昔やられてて
三上:
最初はね まぁ一応二枚目のカテゴリーで仕事をしてたつもりなので
台本見たら「明美よ」w 明美出てきちゃったなと思って
僕なりのアプローチで メイクもしたいですよね
これを普通に薬局に行ってメイク道具を買ってやったら面白くないじゃないですか
だからその辺のもので化粧する 絵の具で白くガーって塗って、紅をさして
一つずつ作っていくと 面白いんですよ
世の中的には、さっきの赤文字で「死ね死ね」って書いてくるような人たちが
「気持ち悪い」とか「大嫌い」とかトラウマになった人たちがいるっていう
若くして亡くなった天才詩人・中原中也を演じたドラマで
三上は俳優としてひとつの本質をつかむ
三上:
中原中也が20代後半ぐらいの時
それまでって、方法としては、家で台本を読んで覚える セリフは入った
じゃあここは、急須からカップにお茶を入れながら
1つずつ決めてたんです 全部シミュレーションして
この言葉の動作を釣り合わせてやってたんですけど
ある時、中原中也が親友に彼女を取られて泣き崩れた時に
その慟哭している中で「汚れちまった悲しみに」
っていう詩が2分ぐらい流れるカットなんです
「フリーで慟哭を表現してください
カメラは正面の縦、 横から二つ入れてあるから、どこに動いてもいい
あかりも全部作るから 好きにセットを使って 1日猶予をあげるから」って言われた
その時にどうしようと思って、一晩考えたんだけど 朝が来て
もう行かなきゃいけないって時まで答えが出なかったんです
セットも見ずにボーンと飛び込んでダーーーっとやって気付いたら
セットの中の樽をずっと叩いてました その時に役が生まれたんです
美内:すごいですね ぶっつけ本番で ノープラン
三上:
その時の感情の赴くままに 気が付いたら樽は投げてるわ すごい状態になって
そこからそういう感情的なマックスのシーンはフリーにしてもらうことにした
監督に「ここはこのアングルとか決めないで 僕は何が出てくるか分からないので
それに対応するようなことにしていただけますか」
だいたい一つか二つはそういうシーンを作ってもらってます
美内:だから 怪優というか怪演 何が出てくるか分からない
三上:僕も分かんないんです
美内:それ描きたかったなあー もう遅いですけど マヤのエピソードで
●40歳の時、舞台に立つ
映画やドラマで活躍してきた三上
しかし30代になると俳優を続けることに迷いが生じる
そんな時、三上の転機となったのは40歳の時、舞台に立ったことだった
魔術音楽劇「青ひげ公の城」(2003)
美内:舞台に出る前にちょっとした不安とか何もなかったですか?
三上:
寺山修司という人は、映画も作っているけれども
僕は映画として出会ったんですけれども、演劇もやってて
先輩達があまりにもカッコよかったんで 当時の天井桟敷とか
僕は子どもながらに「あそこになぜ僕は出ないんですか」って聞いたわけです
そしたら寺山さんが「お前は映像要員 舞台には向いていない」って言ったんです
なので僕は向いてないんだなと思ったから
それからずっといろんな仕事をしてきた中で舞台はやらないんだと思ってたんです
テレビ、映画をやってたんですけど
30代が来て疲れちゃって 限界を感じて 役者自体をやめますと
役者って一人でできる仕事じゃないですよね 路上で歌うわけにもいかないし
場があってこその仕事だから お座敷あっての芸者みたいなもので
これがどんどん先細っていくだけだと思ったので、ここで止めておいたほうがいい
って準備をしていた 建築の学校へ行こうかとか
その時、昔の仲間たちが寺山さんが亡くなってもう20年
「没後20年で昔の作品を再演するからそれにお前出ろ」と
いや実はね、こう言われたので僕は舞台は出ませんって言ったんですけど
「もう亡くなってるし 出ろ」と じゃあ最後に出ようかな それがちょうど40
ここに演じる場所があるじゃないか!と思ったんです
そこからもう映像はいいから演劇だけにしようと思って
例のごとくいつも僕は旅に出てるんですけど
アメリカを旅してた時に、すごく小さな田舎町であれが上映されてたんです
「ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ」(2004)
上演されていたのは、ロックミュージカル
性転換したロック歌手が愛を求めて歌い叫ぶ物語だった
作品に入れ込んだ三上は、日本で上演を実現 自ら主役を演じた
この経験が、さらに演じることへの思いを強くさせた
三上:
15ドルで僕見たんですけど うわーと思って
自分は音楽もやってるんだけれども 自分のテイストとすごく合ってたんです
この曲歌いたいなと思って、帰ってきてすぐ演劇関係に相談したら
すぐやろうということになって 日本で上演になった
美内:
15ドルである種、自分の名作になるものを手に入れた
出ずっぱりの喋りっぱなし 歌ってない時は喋ってる 演技してるって感じだから
これ体力よく持つなと思って
三上:
もうぎりぎりの状態でやってた
10cm以上のヒールを履いて、26曲ぐらい歌って、羽が生えたみたいに自由だった
何のストイックさもないぐらいに
美内:やっぱり合ってたんでしょうね 役と何か自分がピタッときたと言うか
三上:
最初はそんなに大きな劇場ではなかった 500ぐらいで
隅まで届けられるんですよ 最高の大きさですね
あそこのあの人に届け 全部に届けたいっていう すごい幸せな
美内:その意識自体も素晴らしいですね 「捧げたい」ですね
三上:その瞬間、届いたかどうかわからないけど 本当に喜びとなり生きがいとなる
美内:だって自分が生きてる証が返ってくるわけですからね
三上:そうなんですよ ここにいていいんだっていう
●俳優になって40年 心境に変化
時に自分を失くし、芝居にのめり込んで来た
しかし現在その心境に変化が起きているという
美内:
あのロックスターの出ずっぱりのあれと同じ人
このものすごい人格ギャップみたいなのがあって
三上さん自身が一体何重人格?!みたいな
三上:
そういうものも、ものすごく緻密にメディアへの露出を計算してきたつもりなんです
10代の頃、20代の頃はなるべくバラエティに出ないようにしたりとか
最も危険なのはクイズ番組だと思ってたんですけど
勝気なので、出たら本気でボタンを押しそうで
それを見せちゃうと、この人の印象がすごく強くなっちゃう
美内:
それよく分かる そうなんですよ
私もそうなんですけど あんまり自分が出るものには出たくない
私はいないものだと思ってくださいという
三上:
その物語を楽しんでもらいたいのに
じゃあ僕がアイドル歌手の誰かと結婚してる人間だったとしたらそれも入っちゃう
それさえも外したかったというのがあって、今までは来たんですけど
最近どうでもよくなってきちゃってw
もういいか こうして本当に素で喋って これが一番強いんだ
ある種の自信みたいなものはできたのかなと思うんです
ちゃんとヘドリックのあんな化け物みたいな役を全うできたりとかしたことによって
素でいる時間があっても、皆さんの前に出てるとしても
それはそれと理解してもらえるかなと思ったんです
美内:全部解き放たれたっていう感じですよね
三上:
ダダ漏れだなと思ってw
二十歳の時に母親も亡くし、寺山さんも亡くなった
そんなにいろんな話をしたかったけれども
「これから世の中に出てくる時に 世の中のイメージってものがあるだろう
お前笑うな、人前で」ってずっと寺山さんに言われてましたね
「やっぱり男はどっか陰がなきゃダメだ」とか
美内:今日いらした時、満面の笑みでしたもんねw
三上:
だからもうないんですよ
どうなのかなと思ったんですが 言いつけを守ってないなとか
それは謎めいていなさいよとか、お客さんの想像力を使う余地を
残しておきなさいよとか そういうことだと思うんですけど
ちょっと時代も変わってきたかなと
美内:確かにそうですね 今を生きる
三上:
だからそんなに無理はしてないですね、今は
すごい野放しなんです 見苦しいですか?
美内:いいえ全然
●映画『LOVEHOTELに於ける情事とPLANの涯て』
そんな三上の最新主演映画
なんと隠しカメラの映像で物語が進行する
ラブホテルの一室に一癖も二癖もある人物たちが入り乱れる
40分ワンカットという実験的な手法や、個性的な俳優たちとの共演
三上は存分に演じ、映画を楽しんだ
美内:
ラブホテルの映画、面白かったです 本当に面白かった!
まずびっくりしたのはカメラワーク 同じところで40分ワンカット
なんか変な話ですけど、お客さんが覗き見をしている感じなんです
三上:
ただカメラをポンと置いて、サイズも変わらなければ、動きもしない中のワンカットドラマ
アップを作りたかったら、そこまで寄ってくしかない
引きでやりたかったら後ろに下がれば良い
っていうということは、監督自身が役者なんです
役者のズルさ、脆さ、 強さ、儚さ、正体を全部分かってる
だから本当に小さな映画なんですけど、小さいからこそ込められることがある 燃えることとか
今のご時世 すごい世知辛いので、大きくなればなるほど不自由になったりとか
「それじゃあ、おまんまの糧にならないじゃない」って言われると
「そうですね 僕そこに興味ないんで」て言えちゃうぐらいに思わないとw
美内:あれは本当に 演技が上手い!!
三上:(爆笑)そんなに喜ばせても何も出ないですよ
美内:
本当にこういう人いるのねって感じで あんまりコミカルだから
でも、いやいや途中でいないよねって思いながら でもリアリティがあるんです なぜか
良いご縁をいただいてありがとうございます 何か別のところでいろんな話をしたい
三上:番外編が 山ほどありそうw